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Act.26
しおりを挟む「失敗作だと?」
俺は、クロウドがアリアに対して言ったその言葉に、不快感しか無かったので言った。
「ああ、そうだ。分霊の子でありながら、親子共々分霊に従わない……大失敗だよ」
クロウドは、額に手を置きながら俺に言う。
「アルメスも同じだ。無力なくせに、強い正義感を持って分霊に抗った。あってはならない事だろう?」
クロウドは、嘆かわしいと言いたげな表情で俺に問う。
なるほど……。
生まれ持った強い正義感のおかげで、アルメスとアリアは分霊に身体を支配されなかったのだろう。
「解せぬ。その分霊……いや、クロウドの存在自体がこの世界の失敗作なのだ。だから、失敗作の分霊に身体を支配されている方が、余程あってはならない事ではないのか?」
俺はクロウドにそう言って嘲笑する。
悪魔に殺されたアルメスやアリアが、自らを支配しようとする分霊に抗い、そして運命を変えた事に俺は感動した。
今度は、俺が悪魔から運命を変える番だ。
俺がそう思った時、クロウドはアリアの目の前に移動した。
正確には転移魔法を無詠唱で発動して、アリアの目の前に転移した。
「油断した!!」
俺はそう言うのと同時に、アリアの方を向いた。
すぐにクロウドを引き離そうとしたのだが、奴の右手はアリアの首をしっかり掴んでいる。
「サクヤ……」
アリアは首を絞められたまま、俺の名前を呼ぶ。
呼吸さえ許されず、苦しみながらも俺に助けを求めている。
「なんと脆い身体だ。少し力を入れてしまえば、首の骨が折れてしまうのではないか? クハハハハハハハ────」
クロウドは高笑いをしながら、アリアの首を掴む右手に力を入れ始める。
「────!!」
アリアは声を出す事ができないまま、必死に抵抗しようとするが、力の差が大き過ぎて抑えられてしまう。
「アリア────!!」
俺は叫びながら、無詠唱で消滅魔法を構築して、アリアの首を掴むクロウドの右手を目掛けて発動した。
すると、クロウドの右手は一瞬にして、塵のように粉々になり消滅した。
意識が朦朧として、バランスを崩したアリアがそのまま倒れそうになる。
だが、俺が消滅魔法を発動するのと同時に、アリアを支えるために背後に回り込んでいたので、間一髪のところで彼女を抱き留める事に成功した。
「……ありがとう……サクヤ……」
アリアはそう言う。
かろうじて意識はあるようだが、アリアの首筋に残る、クロウドに掴まれた痣と爪の跡が、その力強さを物語っていた。
「肝心な時に守れなくてすまない……アリア……」
俺はアリアを抱きしめながら呟いた。
「私とした事が……。まさかお前に消滅魔法を食らわされるとは……思わなかったぞ?」
クロウドは、俺に目を据わらせて睨みながら言う。
「だが、次は無いぞ?」
クロウドは続けてそう言うと、消滅した筈の右手を再生させた。
「何故だ!? 何故右手を再生できたのだ?」
消滅魔法で失われた部分は、回復魔法や蘇生魔法を使ったとしても再生される事は無い。
だが、クロウドは俺の目の前で、消滅した筈の腕を再生させたのだ。
「再生できて当然だ。私の右腕を、お前が消滅魔法を放つ前の時間に戻したのだからな」
クロウドはそう言う。
放つ前の時間に戻しただと?
時間を戻す魔法は、自然の摂理を狂わせるので、魔力を恐ろしく消費するうえ、発動までに時間がかかる。
すぐに時間を戻すためには、俺が首に巻いているネックレスと同じ効果を持つ魔法具を、事前に持っておく必要がある。
だが、クロウドはそんな物を持ってはいなかった。
「お前が転生して、この時代に生まれるまでの空白の時間。約二千年もあったのだぞ? 私が何もしていなかった訳がないだろう」
クロウドは続けて言い、不敵な笑みを浮かべた。
それは遠回しに、消滅魔法への対策として、時間遡行に関する魔法を構築していたという意味だろう。
たが、それをクロウドがやってのける可能性は皆無に等しい。
自然の摂理を狂わせるような魔法は、難易度が非常に高いだけではなく、肉体的にも精神的にも負担が大きい。
それなのに、それに対する見返りが圧倒的に少な過ぎるのだ。
ネックレスを作った際に、俺はその事を痛感したのだから。
「お前の考える魔法は使っていないぞ。なぜなら私は、時の神と融合し、その力を自らの力として得たのだからな!!」
神という存在自体が、神話の中だけだと思っていたが……。
だが、消滅した事実を無かった事にされた事実がある以上、それを信じるしかない。
「時の神だと?」
何故神と呼ばれる存在が、よりによってこんな悪魔と融合したのか。
いくら神だろうと、それは気の迷いという言葉では片付けられない事態だ。
「そうだ。だからお前に倒される心配も無い。それに、お前は私に触れられる事さえもできなくなるのだ」
倒そうとすれば、その前に時間を戻せば、倒された事実が無かった事になる。
触れようとすれば、その前に時間を戻せば、触れた事実が無かった事になる。
クロウドは恐ろしく厄介な存在に化けてしまったようだ。
「時を自在に操れるという訳か……」
俺は小さく呟いた。
時を操れるという事は、俺が身に着けているネックレスの存在は、クロウドの前では無意味になるのか。
「神の力を披露できて実に気分が良い。このままお前を殺してしまってもいいのだが……」
クロウドは俺を見ながらニヤリと微笑む。
「せっかくだ。この神の力で、お前を現世に生まれた事を無かった事に……。前世のお前が生涯をかけて開発した、転生魔法の発動を取り消してあげよう──!!」
クロウドがそう叫んだ瞬間には、俺の視界が大きく歪み始め、視界が暗くなってゆく。
俺はまるで目に見えない何かに、暗闇の中へ引きずり込まれるような感覚に陥る。
「サクヤ────!!」
アリアの叫び声が聞こえる。
俺が声のする方向を向くと、歪んで暗くなってゆく景色の中、必死に手を伸ばすアリアの姿が見えた。
「アリ……ア……」
俺もアリアに向かって手を伸ばすが、暗闇の中で彼女の姿が徐々に遠ざかってゆく。
「お互いが想う人と引き剥がされる……。その絶望に満ちた表情、声、感情……。これこそ私が望む、お前たちのあるべき姿だ!! クハハハハハハハ────!!」
クロウドは、そう言い高笑いをする。
だが、俺もアリアも耳を傾けることなく、お互いの声だけを聞く事に集中する。
「サクヤ……私を一人にしないで……! 消えないで……!!」
アリアは叫ぶ。普段は物静かな雰囲気の少女だが、今は精一杯声を振り絞り、俺に届くようにと叫ぶ。
「大丈夫だアリア! 俺は絶対にアリアから離れないからな!!」
俺がアリアに向かって叫んだ瞬間、完全に景色が暗闇に染まった。
「サクヤ────────!!」
アリアの悲鳴にも聞こえる、愛しい人の名前を呼ぶ声が、俺の身体と学園中に響き渡った────
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