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Act.27
しおりを挟むアリアが俺を呼んだ────
俺は一体……。
そうだ、クロウドに魔法ではなく神の力、即ち神通力を使われた事によって、現世から消されたのだ。
だが、消されたというのに思考も記憶さえ残っている。
俺自身に使われたのが、神通力だと理解できているのだから。
全ては長い夢だったのだろう。
クロウドが発動した神通力に対抗するために、俺はこの身体に無詠唱で防御結界を張った。
だが、今回は対魔法ではなかったので、防御結界は上手く決まらなかった。
そしてあの時、現世の俺は消されてしまい、存在を無に返された。
それなのに意識がある。
ならば、今ここに居る俺は誰なんだ……?
「……きて……」
女の子の声が聞こえてくる中、俺は記憶の整理を粗方済ませた。
そして、今の呼びかけられる光景が、アリアに解呪をした後に目を覚ました時にも似ている。
俺は記憶を持ったまま、数日前の世界に戻ったのだろうか。
いや違う。俺は長い夢を見ていたのだろう。
それで、なかなか起きない俺の事を、アリアが心配して何度も呼びかけて、起こそうとしているのか。
それなら、合点がいく。
そろそろ起きて、アリアを安心させてあげる事にするか。
そして、俺は瞼をゆっくりと開いた。
違和感が俺の視界を支配する。
巨大な城にしては、視界に入ってくる景色が違う。
俺の城は小屋のような木造建築ではないのだが……。
「アリア……」
俺はそう言いながら横を向く。
すると、更なる違和感が俺の視界に一気に押し寄せてきた。
俺は驚いて、思わず声を発する。
「これは……?」
俺が寝ているベッドの横に少女が立っていた。
だが、アリアではなく全くの別人だ。
薄目で見たら、どことなく雰囲気が似ているような気がしたのだが……やはり別人だ。
綺麗な金髪なのだが、アリアは明るい金色なのに対して、少女は暗めの金髪だ。
それに碧眼でもなかった。
「目が覚めた?」
少女はそう言い、俺の方を見つめる。
茶色の瞳は透き通ったように澄んでいて、初めてアリアに出会った時の事を彷彿させた。
今は、そんな事を言っている場合ではないか。
「あ、ああ……。ところで君は?」
俺は上体を起こして、ベッドから降りると、少女を見つめて問う。
「私はミーシャ……って、人に名前を聞く時は、まずは自分から名乗りなさいよ!」
ミーシャはそう言った。
「すまない、俺はサクヤだ」
「へえー。サクヤね。覚えておくわ」
ミーシャはそう言って、俺をじっと見つめる。
「ミーシャ、そんなに見つめられると照れるのだが……」
「見つめてない。それより、何でサクヤはあんな所に倒れていたの?」
ミーシャは俺に尋ねる。
倒れていたという事は、ミーシャが俺をここへ連れてきてくれたのだろうか。
「あんな所? 生憎だが、俺はここへどうやって来たのかさえ、分からないのだ」
俺はそう答えた。
そして、クロウドのふざけた神通力のおかげだと、心の中で付け足した。
「分からないって……。じゃあ、ここが何処なのかも知らないの?」
「ああ、教えてくれミーシャ」
ミーシャの問いに、俺がそう答えると、彼女は呆れた表情をした。
「……信じられない。滅多に人が現れない世界の僻地、セリュール山脈に倒れている事自体が変だと思ったんだけど……」
ミーシャは、そう言ってベッドに座って、頭を抱えている。
俺も頭を抱えてしまいたいところだ。
ミーシャが言った、セリュール山脈などという場所を俺は知らない。
知る知らない以前の問題だ。そんな場所、地図にさえ載ってない。
それに、世界の僻地と言えば、俺が住んでいたザームカイトなのだから。
「ミーシャ、一つ聞いてもいいか?」
「いいけど……何?」
「ザームカイトって場所を知っているか?」
俺はミーシャに問いかけた。
俺は先程ミーシャの言った、セリュール山脈を知らない。
ならば、ミーシャはどうなのだ?
「聞いた事無いし……」
ミーシャの言葉に、俺は嫌な予感が胸を過ぎった。
冷静になるために一度深呼吸をして、俺は建物から出ようとする。
「待ってサクヤ!」
ミーシャはそう言い、俺を呼び止める。
「どうした?」
「そのまま外へ出たら凍死するよ」
ミーシャは俺に忠告した。
「大丈夫だ、問題ない」
俺は全身に、温度変化に対応できるような、防御魔法で結界を張る。
この世界でも、知っている魔法を使えた事に、俺は安心した。
そしてドアを開けると、凍てつくような寒さが室内へ流れて来た。
だが、景色は吹雪いている訳でもなく、凍りつくような銀世界でもない。
それどころか、日が差しているうえ、周囲に生えている植物も、綺麗な花を咲かせている。
それなのに、結界越しでも感じる少しの肌寒さ。
ミーシャは俺に凍死すると忠告していたが、それに関してはは全く問題無かった。
「えっ……? サクヤも神通力が使えたの……?」
ミーシャは俺に近づいて尋ねる。
「残念ながら、神通力という力は使えない。今使ったのは防御魔法だ」
「マホウ……? サクヤって何者なの!?」
「ただの人間だ」
ミーシャの質問に、俺はそう答えた。
すると、ミーシャは首をかしげる。
「ニンゲン……? 私そんな種族聞いた事ないんだけど!」
「そうか……」
俺は何を言われても、驚かないような気がしてきた。
ミーシャは人間を知らない。
神通力の事は知っているが、魔法の事を知らない。
世界の僻地はセリュール山脈だと言った。
そうなると、俺が辿り着いたのは異世界なのだろう。
それも、幸か不幸か……神のみぞ知る、特別な世界なのだろう。
それを裏付けるかのように、ミーシャは『サクヤも神通力が使えるの?』と聞いてきたのだから……。
俺はミーシャに、また一つ聞かなければならない事が増えてしまったようだ。
「ミーシャ、お前は何の神だ?」
もしこれが、アリアの前で言った言葉だったとしたら……。
神と無縁だからこそ、間違いなく俺が壊れてしまったと悲観するだろう。
目の前にいるミーシャなら、俺の求めている答えを教えてくれる筈だ。
「……破滅」
ミーシャは視線を逸らしながら、ボソッと小さな声で言う。
破滅神ミーシャ……か。
この世界に転移して、いきなり面白そうな出会いがあったものだ。
その時、俺はふいに自分の首元に触れる。
そして、もう一つの真実に気付いた。
なるほど……確かに俺はクロウドに消されたようだな。
ただ、消されたのはネックレスに埋め込まれた魔石の魔法が発動した事による三〇分前の俺。
だが、三〇分前の……過去の俺が消えたのに、現在の俺が生きている。
それだけ聞くと、パラドックスが生じるように思えるのだが。
もし、神通力が使われたのであれば、魔法とは異なる性質の時間遡行が行われる。
時間遡行の際に、神通力の影響で魔石が暴走し、三〇分前の過去の俺が現れた。
もちろん過去の俺というのは、魔石の魔力による虚像だ。
それが、魔法による時間遡行と神通力による時間遡行という二つの力が、重複する事によって、過去と現在の俺が入れ替わる結果となっていたのだろう。
本来であれば、俺が消滅魔法を受けた時に、あの魔石を身代わりで発動させるつもりだったのだが……。
あの時はクロウドの不意打ちに、俺は防御魔法を展開するので手一杯だった。
推測ではあるが、その時に暴走した魔石と防御魔法の魔力によって、神通力を喰らった俺の周囲に、時空の歪みが生じてしまった。
そして俺は、過去とも現在とも未来とも分からない、ここへと転移してしまったのだろう。
その代わりに、ネックレスによって創られたもう一人のサクヤが、俺の身代わりとなり消された。
神通力がいい方向へ、見事に影響してくれた事に感謝……だな。
俺は破滅の神と名乗ったミーシャの名を呼ぶため、口を開く。
「破滅神ミーシャ……」
「ミーシャでいい」
ミーシャは睨みながら俺に言い返した。
どうやらミーシャは、破滅神と呼ばれる事が嫌なようだった。
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