勇者の生還

けい

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魔王と勇者の攻防

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森の空気が凍りついた。

リオ・オルガレスはゆっくりと剣を構える。
対する魔王デスティニオ・ブラッドロも、片手を軽く上げただけだった。

武器は持たない。

それでも、その周囲の空気が歪む。

「来い、勇者」

その一言だった。

次の瞬間――

地面が爆ぜた。

リオが一瞬で距離を詰める。
銀の閃光のような斬撃が、魔王の首を狙った。

だが。

キィン――!!

鋭い音が森に響く。

魔王は、指先で剣を止めていた。

「……ほう」

デスティニオの口元がわずかに上がる。

「速いな」

だがリオは驚かない。

剣を滑らせるように回転させ、そのまま横薙ぎへと変える。

再び鋭い衝突音。

今度は魔力の壁が斬撃を受け止めた。

「甘い」

デスティニオが手を振る。

その瞬間、黒い衝撃波が放たれた。

ドンッ!!

リオは後方へ跳び、木の幹を蹴って衝撃を逃がす。

着地と同時に、再び突進。

「はあああっ!」

連続する剣撃。

上、下、横――

人間離れした速度で放たれる斬撃が、魔王を包み込む。

森の木々が次々と裂けていく。

しかし。

魔王はその中心で、静かに立っていた。

「見事だ」

魔力で斬撃を弾きながら、淡々と呟く。

「今までの勇者とは、格が違う」

その言葉の直後。

ドンッ――!!

地面が沈むほどの魔力が解き放たれた。

黒い霧のような力が、魔王の周囲に広がる。

リオの体が、わずかに止まった。

「……!」

重い。

空気そのものが、体を押しつぶすようだった。

「どうした、勇者」

魔王はゆっくりと歩く。

「もう終わりか?」

リオは歯を食いしばる。

「まだだ……!」

再び踏み込む。

だが――

ガンッ!!

魔王の拳が、剣を弾き飛ばした。

衝撃でリオの体が後方へ吹き飛ぶ。

地面を転がり、木にぶつかって止まる。

静寂。

ゆっくりと、リオは立ち上がった。

しかし、その呼吸はさっきより重い。

対して魔王は、ほとんど息すら乱れていなかった。

「やはり強いな」

デスティニオは静かに言う。

「だが――」

その瞳が鋭く光る。

「時間が経てば経つほど、お前は不利になる」

リオは剣を握り直した。

手が、わずかに震えている。

それでも勇者は前を向く。

「それでも」

小さく息を吐く。

「俺は、退くわけにはいかない」

森の風が止んだ。

次の一撃が、さらに激しくなることを予感させていた。
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