名無しの夢日記 ss

水川楸《みなかわひさぎ》

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名無しの日記 その1

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 昼前の緩やかな休日。
 俺こと赤城慎也は、いつものように家で特にすることもなく本を読みふけっていた。
 普段休日は外出するのも億劫おっくうなので、大抵家にこもってゲームをするか本を読むか、あるいは昼寝の三択である。
 この場合、ゲームをするのがほとんどだが今日はそうもいかなかった。
 なぜなら今日は普段と違う事が今まさに起こっているから。
 「相変わらず凄い部屋ですね。本がびっしり······」
 そう、榛名真昼が家に上がりこんできたのである。



 時は少々遡り、朝の九時頃。スマホに一件の連絡があった。
 『今日って空いてますか?』
 真昼からの連絡なのは言うまでもないが、返信に悩む内容だった。
 と言うのも、外に出るのは死んでも嫌だ。と、俺の身体が叫ぶので、下手に暇だと言うと外出の誘いが来た際に断れない。
 とりあえず無難に用件を聞く事にした。
 『何か用事か?』
 『用事って程ではないんですが』
 『うん?』
 『家に行ってもいいですか?』
 『それまたどうして』
 『暇なのです』



 という訳で断る理由も特に無く、家に招く事にした。
 「麦茶持ってくるからその辺でくつろいでな」
 「ありがとうございます」
 寝ぼけ眼を擦り、後頭部を掻きながら階段を降りてリビングへ赴く。
 実は真昼が来るまで二度寝していた。
 家のチャイムで目が覚めたのだが、慌てて出向いたもんだから寝癖が凄かった。お陰で第一声が「寝てたんですか?」と鼻で笑われる始末。
 麦茶を入れる前にくしでとかしておくか。



 「ほれ、麦茶とお菓子······っておい」
 「はい?」
 「はい?じゃねえよ、なにベッド潜り込んでんだ」
 「寒かったので」
 「暖房つけなさいよ」
 呆れつつリモコンを取って暖房をつける。
 いや確かにくつろげとは言ったけどさぁ。だからって男子のベッドの上でくつろげますかね?普通なら絨毯じゅうたんの上でなんかこう、上品な座り方とかするものじゃないの?
 それにベッドに入りながらとりあえず本は読んでいるようだが、これはこれでどうも危うい。今にも意識がとんでもおかしくない、というか既に目が少ししゃばしゃばしてる。
 一応念のため釘刺しておくか。
 「まあ、そのまま読んでていいけど······寝るなよ?」
 「それは保証できませんね」
 「ほう、ところでクラッカーと平手打ちだったらどっちが好き?」
 「痛いのは嫌です」
 「よしクラッカーだな」
 「耳が痛くなるので嫌です」
 全くああ言えばこう言う······。まあいいか、普通に起こそ。クラッカー持ってないし。女子に平手打ちとか尚更なおさらできないし。
 「······え、あの、まさか本当に鳴らしませんよね?」
 「鳴らさねえよ、そもそもクラッカーなんて家にねえよ」
 ほっ······と安心する真昼を尻目に持っていたお盆をテーブルに置いた。
 「それ、何読んでんの?」
 「金田一京助きんだいちきょうすけです」
 「俺の知る限りだとその人は辞書しか手掛けてないと思うんだけど」
 休日に人の家上がって辞書読むってどんな感性してんだよ、というか辞書の割にめちゃくちゃ薄いし。
 「冗談ですよ、本当は東○○吾です」
 いやなんの冗談だよ。本当にこの人の思考は読めない。
 それにしても、東○○吾か。確か何冊かだけ持ってたな。
 「『手○』か?」
 「よく分かりましたね」
 「俺の棚にある東○○吾作品は数冊しかない筈だから、そりゃね」
 「まさか慎也君、このおびただしい数の本を把握してるんですか?」
 「把握とまでは行かないけど、夥しいって大袈裟じゃないか?」
 言っても二〇〇はいかないくらいじゃないか?まあ倉庫やら押し入れやらを漁ればもうちょい出てくるかもだけど。
 「私でも少しは自重してますよ」
 「知らんがな」
 俺も何か読むとするか。本当は原○やりたかったけど、いささかゲームをする雰囲気ではない。
 昨夜読み切れなかった本を手に取り、ベッドに寄りかかりながら、栞の挟まったページを開いた。



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