apocalypsis

suggestio veri, suggestio falsi

sex

　昼間、姉の神楽と母親に煙草を頼んだのだが、良い機会だから禁煙をしろと言われ、断られたばかりだった。
　この際、他の銘柄でも構わないと思ったのだが、小銭すら持っていない状況ではそれも叶わず、途方に暮れていた。一瞬、本気で天弥に煙草代を借りようかと考えたぐらいだった。
「あー、あと退院やけど、二、三日中に出来ると思うで」
　そう言いながら、サイラスはまた何かを斎に向かって放り投げた。
「それは助かる」
　斎は放り投げられたものを受け取った。手の中を見ると、使い捨てタイプの安価なガスライターがあった。
「感謝しとるんやったら、なんか美味いもんでも食いに連れてってや」
「考えとく」
　サイラスは肩をすくめる。
「考えとくんかい。なんやったら、ミントちゃんの限定フィギュアでもええで」
　それを聞き、食事に連れて行く方がまだマシだと考える。
「分かった。何か食いたいもの考えとけ……」
　不本意だが、世話になったことは確かだ。そう思い、渋々承知する。
「ほんま？　それやったら、鮨が食いたい！　あ、もちろん回らんやつな。後は和牛とかいうやつのスキヤキ！」
　即答するサイラスに、斎はため息を吐いた。
「安月給なんだから、高いものはやめてくれ……」
「えー？　先生、そこそこ金持ちやん。それぐらい奢ってくれてもええやろ」
　斎は思考を切り替えた。
「ちょっと待て、俺の事、何をどこまで調べてるんだ？」
　父親は大手都市銀行の役員なので、普通の平均的な家庭よりは確かに裕福である。だが、自分は教師になってまだ二年目だ。普通に考えれば、そんな発想は出てこないはずだ。
「先生が、学生時代にFXやデイトレで稼いどった事ぐらいなら知っとるで」
　サラッと答えるサイラスに、不安を覚える。
「卒業したら、北河絢子と結婚するために稼いどったんやろ？」
　斎は頭を抱え込む。この調子だと、かなりのところまで調べられていると思って間違いがないと確信する。なぜ、そこまで自分の事を調べるのかと、斎は不思議でならない。
　斎はサイラスを見る。そして、理由を問えば教えてくれるのかと悩む。
「なんや？」
　何かを言いたげな斎の視線に、サイラスは言葉をかける。
「なぜ、そこまで俺の事を調べるんだ？」
　もしかしたらと期待をし、疑問を投げた。
「前にも言ったやん。先生が天弥に影響を与えると思われとるからやって」
　以前と同じ答えが返ってくる。
「だから、その影響を与えるっていうのが、どういう事なのか説明しろ」
「それも知らんって言ったやろ」
　斎は苛立ちを覚える。前回は、奴らはそう思っているが、実際はどうだか分からないと答えた。なら、事実ではないかもしれないが、自分を調べる理由があるはずだ。
「調べる理由があるから、調べているんだろ？　なぜ、俺の事を調べるのか理由を教えろ」
　サイラスは少し考え込む。
「奴らは必死なんや。天弥の存在を知った時には、使いもんにならん状態やったし」
「使いものにならないとは？」
　天弥が何かの道具のようなその言い方に、怒りが込み上げてくる。
　サイラスは、斎の様子を見つめながら再び何かを考え込む。
「先生、天弥から何も聞いとらんの？」
　意外な質問に、斎の方が思わず戸惑う。
「何をだ？」