apocalypsis

さくら

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date et dabitur vobis

quattuor

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「胡桃沢斉明は、何を予想したんや?」
 一瞬、戸惑いながらも斎は口を開く。
「……アザトース」
 サイラスは表情を崩すことなく変わらない視線を向けていた。
「さよか」
 その様子に、斎は胡桃沢の予想は外れているのかと懸念する。
「違うのか?」
 斎の口から思わず疑問が吐いて出た。
「さあ?」
 はぐらかしているのか、本当に知らないのか、判断のし難い表情と返事をする。
「俺は素直に答えているのに、不公平じゃないか?」
「さよか? 十七年前なんて生まれとらんし、答えようがないわ」
 そう答えながらも、自分自身の年齢も誕生日も知らない事を思い出し、少し自嘲気味な笑みを浮かべた。
「とにかく、俺が知っているのはそれだけだ」
 理不尽さを覚えながらも、早急に答えが知りたいと思い、話題を元へと戻す。サイラスは困ったような表情で考え込み始めた。
「それだけなんか……。どないしょ……」
 羽角が胡桃沢と連絡を取ったとき、十七年前と十三年前の事を話しているのだと考えていた。それは当然、斎にも伝わっていると判断をしていた。
「まあ、ええわ」
 一人で何かを納得したような様子に、斎は少し不安を覚える。教える価値が無いと判断をされたのかと考えが浮かぶ。
「成瀬天弥は一人だけや」
 あっさりと答えたサイラスに、斎は少し拍子抜けをする。
「ものごっつ別嬪の方が、本来の天弥やで」
 先程の天弥が言っていた事と一致する答えに、斎は考え込む。別人格というのなら理解は出来る。人には、自己同一性という個人の心の中に保持される概念がある。自分の身体は自分だけのものであり、記憶も全て自分だけのものである。天弥の場合、自我の同一性が損なわれているために起こると思われる、強い記憶喪失がある。本来なら一人が連続し、統合して保持しているはずの記憶や意識が統一されていない解離が高度に起こっている。
 だが、それは普段の天弥のみに起こっている事だったと思われる。本来の天弥であると思われる方は、普段の天弥のことも含め、記憶や意識は連続して保持しているようであった。
「なら、普段の天弥は何なんだ?」
 まったく別の存在とは、何を意味するのか思案する。もし、人の魂というものがあるとするならば、それが一つの身体の中に二つ存在するということなのか。それとも、人ならざるものが天弥の中に入り込み、存在しているということなのか。
「それは、質問になかったで」
「なら、追加だ」
 楽しそうな表情をしているサイラスへと言葉を向けた。
「先生、自分で一つやって言ったやん」
 どこまでも食えない相手に、斎は頭を痛める。天弥を失った今の状況でも、真実を知る事が叶わず苛立つ。
「で、どうやって天弥を取り戻すんや?」
 遊びに行く約束をする子供のように、期待に満ちた表情を浮かべながらサイラスは尋ねてきた。それを見て、少し含みがある笑みを浮かべた。
「それは、秘密だ」
 そう答えるとリビングのドアを開けた。
「秘密って、そんなら俺は何をしたらええんや?」
 廊下へと出て行った斎の後を慌てて追う。
「今まで通り、俺の監視をしていてくれ」
 靴を履き終わると、斎はサイラスへと視線を向けた。
「そんだけなんか?」
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