【完結】幸せ探し

sivaress

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前編

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*いきなり胸糞悪くなる不快な描写、表現等あります。
苦手な方は全力で回避願います。
読まれる方は自己責任でお願いします。
*妊娠に関する配慮が必要な表現があります。


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 もうどれほどの時間馬車に揺られているのか…。

 
 途中にある町か何処かで宿を取るか野宿でもするのだろうか…。
 行き先がこの国の東の端っこだとしか聞いていないから何日掛かるかも分からない。

 ただ一つ分かっているのは私が婚家を追い出されたという事だけ…。
 

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 ─ 回想 ─


「愛してる。」

 昨日までそう言ってくれていた夫だった人は義父と義母の後ろに居て顔も見えなかった。

 玄関の扉を開け、

「とっとと出てお行き!!」

 突き飛ばされて転んだ後、夫だった人の名を甘えるように呼ぶ新しい妻の声が聞こえ、

「ほんとにごめん…で、でも呼ばれてるから…。」

 それが夫だった人からの最後の言葉だった。

 謝罪どころかさよならの言葉さえ無く、最後にどんな顔をしていたのかも見る事ができなかった私には、夫だった人が最後にどう思っていたのかすら分からない。

 だけど、昨日も言っていた

「愛してる。」

 という言葉も嘘だったのだと思う。

 だって、新しい妻である幼馴染みの女性は生まれてまだ一才にもなっていない赤ん坊を抱いていたのだから…。

 しかも、私との婚姻届は出されておらず、その幼馴染みの女性との婚姻届が出されていた。

 その事に今まで気付きもしなかった私はなんて間抜け何だろう。

 私は自分でも知らない間に不倫していた事になる……のか?

 不安に思ったが、まさかそこまでは……という思いもあった。

 あまり裕福ではない中、親が持たせてくれたほんの僅かな持参金を婚家に渡していたのを思い出し、返してくれるように言った。

「不貞を働くような泥棒猫に返さなきゃならない金なんて、びた一文無いよ!!」

 と、取り付く島もなく叩き出された。
 (のが回想冒頭だったりする……。)


△▽▽△▽△▽△▽△▽△


 大きな音を立てて閉ざされた扉をただ呆然と見ていた。

 何が何だかわからない。
 一体どういう事!?
 だって昨日まで、「愛してる。」って言ってたじゃない!

 義両親と夫の三人が朝から出掛けていて戻って来るなり「出て行け。」の一点張り。

 しかも赤ん坊を抱いた女性が夫の隣に居て、勝ち誇ったように私を嘲笑っている。

 何で?如何して?
 けど、私にはどうする事もできない。
 彼女は夫の子を産み、私は夫の子を授かる事も産む事もできなかったのだから。

 いや、それ以前の話だったのだが……。

 私はのそのそと立ち上がり、手と服に付いた土を叩き落とした。

「痛っ!?」

 痛みを感じた所を見ると擦り傷ができ血が滲んでいる。
 どうやら転んだ時に擦り剥いたらしい。

 傷口を洗い流したいが扉は固く閉ざされたまま開く事は無い。

 仕方ない。諦めて服に付いた土をパタパタとはたき落としていると「おい!」と後ろから声がするので振り向くと義父が立っていたので軽く頭を下げた時。

 チャリンッ!

 何かが足元に落ちた音がする。
 何だろう?と見てみると一枚の銅貨だった。

「そのまま叩き出したとなったら外聞が悪い。ありがたくそれを持ってさっさと立ち去れ!」

 吐き捨てるように言うと義父は勝手口のある方へと消えて行った。

 いつも義母の尻に敷かれている義父のだろう。
 一応、手切れ金を渡したとして婚家(ではなかった)の体裁は整うということなのだろう。
 
 それでも、身一つで叩き出されるよりはマシだった。

 情け無い思いでそれを拾う。
 物凄く惨めだった。
 何の為に今まで姑の嫁いびりに耐えていたのだろうか?

 (元)夫に「愛してる。それにこんな事いつまでも続かないさ。だからこらえてくれ。」

 そう言われてずっと堪えていた。

 愛されてなんかいなかったのに。

 馬鹿みたい…いいえ、どうしようも無い馬鹿だったのね。
 折角、両親が持参金を持たせて送り出してくれたのに……。
 両親に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 銅貨を握った手に手を重ね、胸に押し当て俯いた。
 涙が次々溢れ地面に染みができる。

 そのままとぼとぼと私は歩き出した。

 町まではかなり距離があるが歩けない距離ではない。
 途中にある小川で擦り剥いた所を洗い流し、スカートのポケットからハンカチを取り出して拭くとこれからの事を考えた。


 △▽△▽△△▽△▽△▽△


 何とか日没までに町に着いた私は今夜泊まる宿を探した。
 けど、ある事を思い付いて目的の店を探す。
 幸いまだ商い中だったので助かった。

 目的の店…古着屋で着ていた服を店にある男物の服と交換できないか交渉した。

 店主は初めは渋っていたが、根負けしたのか交渉に応じてくれた。
 というか、こんな時間に店に訪れた事情にピンと来たのかもしれない。

 薬指に嵌められた結婚指輪…亭主か義両親に婚家を追い出されたのだろう…と。

 店で一番安い男物の少しくすんだ白い長袖シャツやこげ茶色のズボンと交換してくれた上に布袋をおまけに付けてくれた。

 私が着ていた服は、今日初めて袖を通したばかりの物だったのは運が良かった。

 そして、厚かましいとは思ったが鋏を借りると、背中の中程まで有った髪を肩ぐらいの所でバッサリと切り、切った髪は布袋に押し込んだ。

 明日にでも鬘屋に売りに行こう。

 鋏を返し、店主に深く頭を下げて礼を言うと店を後にした。

 店を出た後、持っていた髪紐で髪を後ろで一つに束ねて宿を探す。

 何軒か回って、通りに面した宿の中で一番安かった所で泊まった。
 (通りよりも奥にある宿は女一人で泊まるには危ないからだ。)


 △▽△▽△△▽△▽△▽△


 翌日、切った髪を売る為に鬘屋へと向かう。
 店の場所は宿を探すついでに調べた。

 思ったよりも高く買って貰えた為、指輪を売るのは後日に回し、紐を通して首からぶら下げた。
 
 結婚指輪 ──

 私が指に嵌めていた物は、結婚式の時に指輪交換をした物ではない。

 私の指輪は結婚式の後、初夜の為に湯浴みをしている間に無くなった。
 
 紐のように細い金と銀をり合わせたリングで中央に好みの貴石や半貴石を入れる事ができる。

「まるで俺達みたいだろ?」

 彼の言ったその言葉で決めた結婚指輪。
 金髪の彼と銀髪の私、お互いの瞳の色の石を入れた。幸せだった。
 幸せになれると思っていた。

 
 後日、無くなった筈の結婚指輪が彼の幼馴染みの薬指に有るのを知った。

 そして、さっきまで私の薬指に嵌まっていたのは金の一文字リング。
 結婚指輪が無くなった後に買い与えられた物だった。勿論、石は入っていない。

 今となっては売ってお金にできる唯一の物だった。
 だからなるべくしてなったのだと…そう思えた。


 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△


 婚家を追い出された私は、帰る所など無い。

 両親は生きているが、兄夫婦と同居しており、出戻りしたとしても厄介者でしかない私に居場所なんて無い。

 それに、一刻も早く町から出て行きたかった。
 この町は婚家から一番近い為、買い物に来た義両親や(元)夫とその幼馴染みにいつ出会すかわからないからだ。

 できれば今日中に町を出たいわね。

 急いで旅の支度をすると、次の町までの途中にある村までの乗合馬車が昼に出る事がわかり、出発時刻が迫っている為、馬車止まりまで急いだ。

 馬車止まりに着いた時、出発時刻直前で何とかギリギリ間に合い、乗る事ができた。

 馬車はゆっくりと進む。

 ゆっくりと遠離っていく景色をぼんやり眺め、二度と戻る事は無いであろう町に心の中で別れを告げた。
 
 
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*お付き合い(お読み)いただきありがとうございます。
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