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7.忘れたい想い
王都のタウンハウスを出発して領都にある邸に着いたのは3日後の夕方近くだった。
王都を出る前に出していたライアン様への手紙。
その返事は予想通りに今日届いていた。
向こうはいつ来てくれてもいいという返事だったけれど、取り敢えず明日一日を休息に当て、明後日の朝に出発する予定になると認めた手紙を出した。
久しぶりに見る彼の文字。
思えば私が学園に入ってから毎月来ていたライアン様からの手紙が、二、三ヶ月に一回になり、半年に一回に。
今年になってからは一回だけだった……。
そして、今日届いていた返事。
私の学園生活に触れるでもなく、彼の近況報告すら無いまるで業務連絡の遣り取りみたいな内容だった。
噂を聞いた段階で気付かなかった私も私だが、幾ら心に決めていた相手との逢瀬に忙しいのだとしても、私との婚約をさっさと解消してくれていればこんな状況で話をしなくて済んだ物を……。
その事に私が腹立たしく思ったとしても当然だと思えた。
それにしても上の兄姉が片付かないと、下の弟妹が結婚できない。なんてルールの家じゃなくて良かったと#熟々__つくづく
__#思う。
でなければ、いつまで経っても結婚できそうにない私は、下の弟妹から恨まれた事だろう。
何にせよこの恋心をとっとと忘れてしまえれば…。
失恋の痛みに合同訓練が終わるまで堪えれば後は時間が解決してくれるだろう。
時が経つにつれ薄れて行くものだと。
と、その時扉をノックする音が聞こえた。
侍女だと思い、入室を許可したが扉を開けて見えた顔はお兄様だった。
「ニア、今話をして大丈夫か?」
「ええ。大丈夫よお兄様。」
そう答えると、部屋に入って来たお兄様が書類を私に差し出した。
何だろう?と思い、受け取った書類を見ると其処に書かれていたのは合同訓練の編成表だった。
真っ先に見たのは南部辺境伯領で一緒に訓練する東部辺境伯領メンバーの名前である。
東部辺境伯領からの参加者にラフレシア嬢の名前が無くてホッとした。
「あの女の名前が無くて安心したか?」
その言葉に思わず苦笑した。
「当然だろう。ニアとあいつの話し合いを邪魔されても困るからからな。予め東部辺境伯には頼んでおいた。」
東部辺境伯の嫡男であるディーン様とお兄様は騎士養成所での同期であり、親友でもあった。
そして此方の事情もある程度わかっていたらしい。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
南部辺境伯領に向かう日、「一緒に行ってやれなくてすまない。」とお兄様に言われた。
「大丈夫、気にしないで。」
そう答えた私を不安げに、申し訳なさそうに見るお兄様。
お兄様は次期辺境伯として、お父様が此方に到着するまで指揮を執らねばならない。
そしてこの婚約の話し合いの結果は、私に一任されている。
「どの様な結果になっても私が決めた事ならそれで良しとする。」と両親からの言質も取っている。
諦めが悪いんだと自分でも思う。
これだけ噂になっていて、婚約者としても蔑ろにされているのに……。
それでもまだ彼に振り向いて貰いたいと思っている。
諦めきれない。
まだ好きなの。
馬鹿よね。ほんと。
けど、もうこれで終わりにしたい。
終わらせなきゃ……。
他の人を愛している彼とこのまま婚約を継続させるなんて…結婚するなんて無理。
だから彼に決断して欲しい。
どちらを選ぶのか。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
先発組である一個中隊の騎士達と共に南部辺境伯領へと出発した。
北部辺境伯領から直接向かう場合、どんなに急いで馬を走らせたとしても、南部辺境伯領まで五日はかかる。
しかも今回は合同訓練とあって、東部辺境伯領に寄り訓練参加者達と合流してから南部辺境伯領へと向かうのだ。
もしかすると、ライアン様と話し合う前にラフレシア嬢と顔を合わせる事になるかもしれないと不安に思っていたがそんな事は無かった。
何だか肩透かしを食らったみたいな感じだったが、その事について深くは考えない事にした。
顔を合わせずに済むならそれに超したことは無いと。
東部辺境伯からは、「寄子の男爵令嬢がすまない。其方から頼まれた件に関しては承知した。今回のメンバーに彼の令嬢は入っていない。」というお言葉を頂いた。
(東部辺境伯の代わりに嫡男であるディーン様が会議に出席している。)
そしてその言葉通り、一緒に南部辺境伯領に向かっているメンバーの中にラフレシア嬢の姿は無かった。
だから安心していたのだ。
これでちゃんと話し合って婚約を解消できて、ライアン様にきちんと別れの挨拶をしてこの想いを終わらせる事ができるのだと。
~~~~~~~~
*物語の内容を変更したので、一話目の内容(プロローグ)も少し変えました。
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