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9.話し合い②
婚約解消する事をお父様も承知していると聞いて呆然としたハロルドを部屋から追い出し、ライアン様への面会を求める手紙を書く事にした私は、便箋を用意して貰う為に侍女を呼んだ。
便箋を用意してくれた侍女に少し待っていて貰い、急いで一筆認めるとライアン様に渡して欲しいと頼むと、恭しく受け取り「承知しました。」と言って部屋から出て行った。
侍女が出て行った後ベッドに腰掛けライアン様の事を考えた。
大好きだったのに…。
私に向けられた笑顔も優しさも全て嘘だったのね。
年の離れた私に気を遣って話をしてくれるのが嬉しくもあり申し訳無くもあった。
けれど、口数の少ない私達でもそんな風に会話を持とうと相手を気遣う内にお互いの距離も縮まったと思っていたのは私だけなの?
何よりも偶に照れたように笑う所が大好きだった。
他の令嬢達の誰も見た事が無いと言われている彼の笑顔を見る事ができたのは私だけだと思っていたのに…。
「仲良さげに腕を組んで二人顔を合わせて微笑み合っていたらしいですわ。」
「愛おしそうにお相手の女性を見つめていた。とお聞きしましたわ。」
「お互いに耳元で囁き合ってそれはもう相思相愛といった感じで。」
噂好きの女生徒達の会話が思い出された。
ラフレシア嬢の妹が私の顔を見に来た次の日から、聞こえよがしに私の傍でそんな噂話をする生徒が増えたのだ。
只でさえ王都と辺境、会いたくても会えない距離。
手紙を書いても減っていく返事。
それでも彼を信じたくて耐えていた。
会える距離に来たら、そんな噂話なんて誰かの作り話だったと、ここに到着した私を出迎えてくれると、そう信じたかった。
それなのに今現在、邸に戻って来ているにも拘わらず、婚約者が居るのを知っていて顔も出さないような人だったとは。
罅が入り徐々に欠けていった彼への信頼の最後の一欠片が消えて行った。
余程二人の時間を邪魔されたくないのか。
ならば、そんな事を考慮する必要など無いだろう。
馬に蹴られたくはないが、ラフレシア嬢が来たのなら尚更婚約解消に向けた話をせねばなるまい。
他領の人間もこの邸の敷地内に多数居る。
婚約解消もせず、他人の耳目が有る中脳内お花畑状態でイチャつかれた日には私がどんな扱いを受けるか想像もつかないのか。
愛し合う二人はそれでいいのだろうが、醜聞に巻き込まれるのはご免だ。
だが何の返事も無いまま夕食の時間が来てしまった。
舌打ちをしたくなる。
夕食は食堂で取る事になるのだ。
つまり、ラフレシア嬢の同僚、同じ東部辺境伯領の女性騎士達がいる中での食事。
「楽しい夕食になりそうだ。」
そう言って立ち上がると食堂に向かったのだが、入った瞬間、水を打ったようにシーンと静まる。
気にしない振りをして空いている席に座ろうと移動すると、やはりと言うか東部辺境伯領の女性騎士達が此方を見ながらひそひそ話をしながらくすくす笑っている。
「?!」
いきなり腕を掴まれて驚いた。
掴んでいるその手から辿るように視線を上げると先輩の女性騎士だった。
「…リリカ先輩。」
二つ上、お姉様の友人リリカ・エドワーズ伯爵令嬢だった。
「負けたらデコピン。」
こんな嘲りに負けるなという意味を込めて軽口を叩くから思わず笑ってしまった。
伯爵令嬢だから普段(ドレス姿の時)はお淑やかだが、騎士としての時はわざと口が悪くなる。
それは他の女性騎士達も同じだった。斯く言う私もそうだ。
同じ北部辺境伯領から訓練に参加する仲間達が私の肩を軽く叩き、「大丈夫。」と言ってくれた。
リリカ先輩や同僚達の思い遣りに心が温かくなる。
彼女達はその後も私の婚約者の話題には触れずにいてくれた。
後日、その事に関してお礼を言ったら、
「当人同士ケリが付いていないのに外野が口を挟んで良い訳ないでしょ。けど、相談されたら別よ。」
と返された。
彼女達が居なかったら、あの日打ちのめされていた私は立ち上がれなかっただろう。
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