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33.何故?
ハロルドが魔獣に背を向け庇うように私の体を抱き込んだ。
「ハロルド、ダメ!!」
喉を引き絞られるように叫んだ悲鳴に近い私の声と同時に風が巻き上がり、ハロルドの体が横に吹っ飛ばされ、庇うように抱き込まれていたニアも一緒に飛ばされた。
「ゥグッ!!」
「…ッつぅ!!」
何とか頭を上げ、地面に肘を突き体を起こしてハロルドを見たが身動き一つしない。
最悪な状況を想像して血の気が引く。
「まさか…そんな…。ハ、ハロ…ハロルド…?」
呼びかけるも反応が返ってこない。そして呼吸をしているのかわからない。
考えたくもない嫌な事を頭から追い出し、脈があるか確かめる。
『良かった。脈はある。』
ホッとしたのも束の間、魔獣の気配にその存在を思い出し振り返った。
自分から二メートルほど離れた位置で魔獣は動きを止め、ハロルドを一瞥するとニアに目を向けニタリと嗤う。
叫び出しそうになるのを必死で抑えた。
猛禽類でもそうだが相手の恐怖心を嗅ぎ取って襲い掛かる習性があるからだ。
そして、魔獣の目を睨み付け決して目を逸らさなかった。
目を逸らせば襲い掛かって来る。
と、魔獣が鼻をヒクつかせ何か感知したような感じだった。
けれど、変わらず私に狙いを定めたように近付いて来る。
「ッ……!!」
一瞬の出来事だった。
腰に噛み付かれたと思ったけれど痛みは無く、魔獣が私から距離を取るように跳んだ。
何が起こったのかわからない。
バクバクと鳴る心臓を落ち着かせる為に大きく息を吸い込んで吐き出すと状況を確認する。
剣帯を噛み千切られた?
いや、そうではなく剣帯に付けていた小物入れを奪われたのだとわかった。
何故?
ふと、皮袋の事を思い出した。
封印が解かれた皮袋を拾った後小物入れに入れていた。
その残り香を嗅ぎ取ったから小物入れを奪ったのだろうか?
小物入れを前足で押さえて食い千切り、首を左右に振って中身をぶちまけていたが、目的の物が入っていないのがわかると、怒りに燃えた目で私を見ている。
《コムスメ、アレヲドコヘヤッタ》
頭の中に直接響く魔獣の声に怖気が走る。
魔獣は私を睨み付けていた目を細め、飛び掛かる為に予備動作に入り低い姿勢をとった。
「…う…。」
頭を打ったのか気を失っていたハロルドが気付いて体を起こそうとしていた。
ほんの一瞬、私は魔獣から視線を逸らして彼の方を見てしまった。
再び魔獣に視線を戻した私の目には高く跳んだ魔獣の姿が…。
自分に飛び掛かって来る魔獣の動きがとてもゆっくりに感じた。
私だけが知っていたライアンの照れたような笑顔が目に浮かぶ。
「どうしてこんな時にまで……。」
自分の浅ましいまでの未練たらしさと不甲斐なさに悲しくて涙が溢れた。
でも……
それでも彼のあの笑顔をもう一度見たかった。
「度し難いわね…ほんとに…。」
目前に迫る魔獣の体がランタンの灯りを遮り、視界が暗くなって……終わりを覚悟した私は目を瞑った。
「ニア━━━━ッ!!」
誰かが私の名を叫んだ気がした。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
ニアとハロルドと別れ、森の出口を目指していた最後の撤退組であるシトリン達が、低木が生い茂る所を歩いていると、いきなりその茂みから一人の騎士が顔を出した。
「…カール…?」
重傷者を抱えていた騎士が名を呼ぶと、彼を見上げた。
「…リーブか!? っヒッ!!」
再び茂みの中に消えた直後彼の絶叫が響き渡った。
「カール!!」
そう叫び、済まないと言い残してリーブは茂みの奥へと走り出した。
「あっ…おい!!」
そして、今度はリーブの悲鳴が聞こえた。
「「「!?」」」
だがその声もすぐに途絶え、物音一つ聞こえない。
魔獣に襲われたのか?
しかし魔獣は姿を現さない。
だが、ヒリつくような感覚が消えない。
『何処だ、何処にいる?』
周囲を見遣るも魔獣の姿も形も無い。
と、頭上から何かが滴り落ちる。
「何だ?…赤…い!?」
血だ!!
「ひっ!!」
「うわあぁぁぁっ!!」
叫ぶなり、抱えていた重傷者を突き放した部下は一目散に逃げた。
「ま、待ってくれ!お、お、置いて…… グゥッ!」
這って逃げようとした重傷者が目の前で魔獣に爪で頭を吹き飛ばされた。
それを見て俺は逃げた。
情け無いが逃げる事しかできなかった。
歩きやすい道は目立つから森の木々の中を逃げた。
だが、あと少しで日が沈む薄暗い中、魔獣を撒くために出鱈目に走った所為で方向がわからなくなり、途方に暮れかけた所で遠くに小さな光が見えてホッとした俺は、森の出口だと思い其処を目指して走った。
希望の光に見えたそれが魔獣の目だと気付かないまま…。
全身至る所傷だらけになりながら、何とか魔獣を斃し生還したが、生還した喜びよりも苦い思いでいっぱいだった。
そこで逸れた部下は翌日、森に入った救援隊に三分の一ほど欠けた頭部と上半身だけが発見されたという。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
誰かが私の名を叫ぶ声を聞いた気がした。
ライアンの笑顔を思い浮かべただけでなく、幻聴まで聞こえたのかと落ち込んだと同時に強い風が吹き上がる。
《ゴガッ……!!》
奇妙な声がした。
魔獣の攻撃を受けると思っていた私は、衝撃が来なかったので恐る恐る目を開けると、袈裟懸けに真っ二つにされた魔獣の屍体が転がっている。
ブンッと剣が風を切る音に次いで、チキッ!、パチッ!という剣を鞘に収めるような音がした方へと顔を向ける。
暗がりからランタンに照らされた場所に出て来た人を目にして
「何故…?」
と、心の中で呟いた。
つもりが声に出して呟いていた。
~~~~~~~~~
*いつもお読みいただきありがとうございます。
*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます。
「ハロルド、ダメ!!」
喉を引き絞られるように叫んだ悲鳴に近い私の声と同時に風が巻き上がり、ハロルドの体が横に吹っ飛ばされ、庇うように抱き込まれていたニアも一緒に飛ばされた。
「ゥグッ!!」
「…ッつぅ!!」
何とか頭を上げ、地面に肘を突き体を起こしてハロルドを見たが身動き一つしない。
最悪な状況を想像して血の気が引く。
「まさか…そんな…。ハ、ハロ…ハロルド…?」
呼びかけるも反応が返ってこない。そして呼吸をしているのかわからない。
考えたくもない嫌な事を頭から追い出し、脈があるか確かめる。
『良かった。脈はある。』
ホッとしたのも束の間、魔獣の気配にその存在を思い出し振り返った。
自分から二メートルほど離れた位置で魔獣は動きを止め、ハロルドを一瞥するとニアに目を向けニタリと嗤う。
叫び出しそうになるのを必死で抑えた。
猛禽類でもそうだが相手の恐怖心を嗅ぎ取って襲い掛かる習性があるからだ。
そして、魔獣の目を睨み付け決して目を逸らさなかった。
目を逸らせば襲い掛かって来る。
と、魔獣が鼻をヒクつかせ何か感知したような感じだった。
けれど、変わらず私に狙いを定めたように近付いて来る。
「ッ……!!」
一瞬の出来事だった。
腰に噛み付かれたと思ったけれど痛みは無く、魔獣が私から距離を取るように跳んだ。
何が起こったのかわからない。
バクバクと鳴る心臓を落ち着かせる為に大きく息を吸い込んで吐き出すと状況を確認する。
剣帯を噛み千切られた?
いや、そうではなく剣帯に付けていた小物入れを奪われたのだとわかった。
何故?
ふと、皮袋の事を思い出した。
封印が解かれた皮袋を拾った後小物入れに入れていた。
その残り香を嗅ぎ取ったから小物入れを奪ったのだろうか?
小物入れを前足で押さえて食い千切り、首を左右に振って中身をぶちまけていたが、目的の物が入っていないのがわかると、怒りに燃えた目で私を見ている。
《コムスメ、アレヲドコヘヤッタ》
頭の中に直接響く魔獣の声に怖気が走る。
魔獣は私を睨み付けていた目を細め、飛び掛かる為に予備動作に入り低い姿勢をとった。
「…う…。」
頭を打ったのか気を失っていたハロルドが気付いて体を起こそうとしていた。
ほんの一瞬、私は魔獣から視線を逸らして彼の方を見てしまった。
再び魔獣に視線を戻した私の目には高く跳んだ魔獣の姿が…。
自分に飛び掛かって来る魔獣の動きがとてもゆっくりに感じた。
私だけが知っていたライアンの照れたような笑顔が目に浮かぶ。
「どうしてこんな時にまで……。」
自分の浅ましいまでの未練たらしさと不甲斐なさに悲しくて涙が溢れた。
でも……
それでも彼のあの笑顔をもう一度見たかった。
「度し難いわね…ほんとに…。」
目前に迫る魔獣の体がランタンの灯りを遮り、視界が暗くなって……終わりを覚悟した私は目を瞑った。
「ニア━━━━ッ!!」
誰かが私の名を叫んだ気がした。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
ニアとハロルドと別れ、森の出口を目指していた最後の撤退組であるシトリン達が、低木が生い茂る所を歩いていると、いきなりその茂みから一人の騎士が顔を出した。
「…カール…?」
重傷者を抱えていた騎士が名を呼ぶと、彼を見上げた。
「…リーブか!? っヒッ!!」
再び茂みの中に消えた直後彼の絶叫が響き渡った。
「カール!!」
そう叫び、済まないと言い残してリーブは茂みの奥へと走り出した。
「あっ…おい!!」
そして、今度はリーブの悲鳴が聞こえた。
「「「!?」」」
だがその声もすぐに途絶え、物音一つ聞こえない。
魔獣に襲われたのか?
しかし魔獣は姿を現さない。
だが、ヒリつくような感覚が消えない。
『何処だ、何処にいる?』
周囲を見遣るも魔獣の姿も形も無い。
と、頭上から何かが滴り落ちる。
「何だ?…赤…い!?」
血だ!!
「ひっ!!」
「うわあぁぁぁっ!!」
叫ぶなり、抱えていた重傷者を突き放した部下は一目散に逃げた。
「ま、待ってくれ!お、お、置いて…… グゥッ!」
這って逃げようとした重傷者が目の前で魔獣に爪で頭を吹き飛ばされた。
それを見て俺は逃げた。
情け無いが逃げる事しかできなかった。
歩きやすい道は目立つから森の木々の中を逃げた。
だが、あと少しで日が沈む薄暗い中、魔獣を撒くために出鱈目に走った所為で方向がわからなくなり、途方に暮れかけた所で遠くに小さな光が見えてホッとした俺は、森の出口だと思い其処を目指して走った。
希望の光に見えたそれが魔獣の目だと気付かないまま…。
全身至る所傷だらけになりながら、何とか魔獣を斃し生還したが、生還した喜びよりも苦い思いでいっぱいだった。
そこで逸れた部下は翌日、森に入った救援隊に三分の一ほど欠けた頭部と上半身だけが発見されたという。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
誰かが私の名を叫ぶ声を聞いた気がした。
ライアンの笑顔を思い浮かべただけでなく、幻聴まで聞こえたのかと落ち込んだと同時に強い風が吹き上がる。
《ゴガッ……!!》
奇妙な声がした。
魔獣の攻撃を受けると思っていた私は、衝撃が来なかったので恐る恐る目を開けると、袈裟懸けに真っ二つにされた魔獣の屍体が転がっている。
ブンッと剣が風を切る音に次いで、チキッ!、パチッ!という剣を鞘に収めるような音がした方へと顔を向ける。
暗がりからランタンに照らされた場所に出て来た人を目にして
「何故…?」
と、心の中で呟いた。
つもりが声に出して呟いていた。
~~~~~~~~~
*いつもお読みいただきありがとうございます。
*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます。
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