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36.ライアンside
─ ライアンside ─
ニアの父と実父から縛った上で謹慎という名の軟禁。
一刻も早くニアを助けに行きたいのにあのジジイ共!!
拘束を解こうとするものの自力では適わない。
と、其処へタリスが来てくれた。
彼が拘束を解いてくれたお陰で彼女を助けに行く事ができる。
大急ぎで装備を整え森の中を直走る。
かなり奥の方まで来たが二人とも見つけられなかった。
まさかとは思うが、まだあの時キメラに攻撃された場所に居るのか?
兎に角、あの場所まで行くしかないと思った。
すると、遠くの方にランタンの灯りらしき光が木々の間から見える。
だが、その場所に近付くにつれ、ピンと張り詰めた空気がその鋭さを増していく。
少し離れた位置から気配を殺して進んだ俺の目に入ったのはニアに迫る魔獣の姿だった。
ニアに向かって獲物に襲い掛かる為に跳躍する魔獣を見たらもう止まれなかった。
「ニア━ッ!!」
鞘から大剣を抜くと大きく振りかぶり袈裟懸けに振り下ろした。
《ゴガッ……!!》
奇妙な声をあげて魔獣の体は真っ二つになり転がった。
クレイモアを振り払い鞘に収めるとニアの方に歩み寄る俺の耳に届いた「何故?」という小さな呟きに苦い思いが胸に広がる。
半身を起こしたハロルドが庇うように彼女の前に出ると片手を横に広げるのを止めようとしたのか、彼女が彼の袖を掴んだ。
そんな二人の姿が、俺の目には寄り添う恋人同士のように映りそれ以上進むのが躊躇われた。
「立ち上がれそうにないので座ったままで失礼する。助けていただき忝い。」
「助けていただきありがとうございます。」
そう言って頭を下げるハロルドを見てニアも礼を言い頭を下げる。
俺の胸にモヤモヤとした物が溜まっていく。
「自分の婚約者を助けるのは当たり前の事、礼には及ばない。」
不快な思いを隠してそう言ったら“婚約者”という言葉に二人が反応したのを見て不快感が更に増す。
本当は彼女を抱き締めて安心させてやりたかったし、無事を喜び合いたかった。
だが、二人を見て疎外感を感じてそうする事ができなかった。
何故か二人の間に割って入るのがいけないような気がしたのだ。
そして、怪我の手当てをする時もニアの方からしようとしたらハロルドの方を優先にしてくれと言われ、彼女との距離がまざまざと感じられた。
ラフレシアの件を上手く処理できなかった事が悔やまれ、ニアを傷付けてしまった事実が心に重くのし掛かる。
それでも彼女との婚約を破棄されるのも解消するのも嫌だった。
だからラフレシアが居ない今、何とか彼女との距離を縮め、関係を修復したいと考えていた。
そんな想いが通じたのか、ハロルドの手当てが終わった後、安堵したのか緊張から解放された彼女は何処か無防備に見えた。
貴族子女としての仮面を付ける事を忘れ、殆ど素の状態であるにも拘わらずその事にすら気付いていないようだった。
これはチャンスなのでは?
ハロルドも眠ってしまった今、この場に居るのは二人だけ、邪魔をする者は居ない。
此処へ来た時に抱き締められなかった事もあり、少し強引だとは思ったが手当に託けて彼女の手を取り引き寄せた。
彼女をうつ伏せにして怪我の状態を見ようとしたが、傷口から出た血が乾いて所々シャツや下着が張り付いている。
このままでは手当てもできない為、脱がせようとしたら恥ずかしがり、「自分で脱ぐ。」と言い張るのが可愛かった。
感情を表に出さない貴族としての彼女ではなく、素の状態の彼女に関係を修復する事ができるのではないかと期待してしまう。
そして腕に彼女の素肌の感触を感じた時、堪えきれずに首筋に顔を埋め、その匂いを存分に吸い込んだ。
冷たく遇われるかと思ったが恥ずかしがってジタバタしている。
それに気を良くした俺はそのままの姿勢で早く下着も脱ぐように迫ると擽ったいのか首を必死で伸ばしている。
やっと抱き締め、腕の中の彼女の体の柔らかさと温もりを感じ、甘い気分に浸っているのに離す訳分などない。
が、手当てをしなければならないと膝を抱えて座る彼女の背から張り付いた衣服をそっと剥がしていく。
剥がし終わって傷口を洗い流した。
思ったよりも深い爪痕に傷跡が残る事を告げた。
傷痕が残れば彼女は傷物扱いされ、真面な縁談など来ないとわかってて言った。
婚約解消などせず、俺と結婚すればいいとの思いを込めて。
なのに彼女の口から出たのは
「別に残ったっていい。婚約を解消した後は誰とも結婚するつもりなんて無いから。」
だった。
その言葉を言った彼女の顔が諦めをまとった悲しくて儚げな…このまま消えてしまいそうな…そんな笑顔だった。
彼女に掛ける言葉が見つからなかった。
手当てが終わった後、礼を言って彼女が俺から離れようとするから腰に腕を回して体を引き寄せた。
拒絶されるかと思ったが溜息を吐いたものの抱き締めても抵抗しないから受け入れてくれたのだと浮かれた俺は馬鹿だ。
素の状態だったのも抵抗しなかったのも体調が悪かった所為だと後になってわかった。
キメラに襲われた事と、ハロルドを護らねばならない状況に極度の緊張を強いられていた彼女だったが、キメラが斃され、彼女やハロルドを護る者の登場で、極限まで張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れ、押し止めていた精神的負荷が一気に掛かったのだろう。
時間の経過と共に彼女の体調はどんどん悪化していき、俺がその事に気付いた時にはかなり高い熱が出て呼吸も荒かった。
寒いと言ってガタガタ震える彼女に俺の上着を着せ、横抱きしたまま膝の上に乗せて抱き締めた。
解熱剤は前以て飲ませていたから大丈夫だとは思ったが魔獣にやられた傷なので予断は許さない状況である事に変わりない。
何より高熱に苦しむ彼女を見ているのが辛かった。代われる物なら代わってやりたい。
どれくらいの時間そうしていたのかわからないが、かなり時間が経って少し熱が下がったのか呼吸が落ち着きだしたのを見て地面に寝かせその隣で横になった。
汗で額に張り付いた髪を退けてやり、頬や頭をそっと撫でる。
「ニア…君だけを愛してる…。」
額に頬に、そして唇に口付けた。
帰還した後、恐らく婚約は解消させられるだろう。
そうなった後、俺はどうすれば……。
彼女の居ない人生など考えたくもなかった。
~~~~~~~~~~
【完結】まで投稿予約済みです。
(本日中に完結)
*いつもお読みいただいたありがとうございます。
*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます!
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