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既視感
しおりを挟むガックガクの身体を支えながら料理をしようとする姿に見兼ねた神崎は、「俺が作る」と意気込んでいるが...
「~♪」
不安だ。
呑気に鼻歌なんか歌ってる場合じゃないのでは?
彼は生粋のお坊ちゃまであり、家にはお抱えの運転手と、複数人のメイドがいると風の噂で聞いたことがある。
そんなお坊ちゃまが料理をするとは到底思えない。
背後から彼の手元を盗み見ると、指を切りそうな包丁使いでヒヤヒヤする。
「か、神崎?やっぱり私がやろうか?」
「いいから座ってろよ。立ってる姿だけで面白いんだから」
一言余計だ。
ああっ、そんなに塩コショウ振って...ああっ、しかも火が強い...。
「すぐできるから」
やっぱりどんなことがあっても私が作るんだったと、腹の底から後悔した。
数分後、彼は私の目の前にふわっふわのオムライスを差し出してくる。
「これ、先生の分」
目を擦って見たが、目の前にはあるのは何処からどう見ても綺麗なオムライス。
「まさか君がオムライスを作れるなんて...」
「馬鹿にしてんの?」
ダイニングチェアに腰掛けた彼と一緒に、いただきますと合掌する。
問題は味だ。
脳裏には彼が塩コショウをふんだんに使っていた姿が焼き付いている。
「まあまあだな」
塩辛そうにしてる素振りは見せない彼に釣られ、オムライスを口へ運んだ。
「...普通に美味い...」
「そう?なら、よかった」
「神崎はお坊ちゃまだから、料理なんて作ったことないと思ってたよ」
「そんなにお金持ちの家じゃないけどな。母親がうるさいんだよ...何でも1人でやれってさ」
何だか、意外だ。
話を聞けば、ただ甘やかされて育った訳ではなく、家事全般を幼少期の頃に叩き込まれたらしい。
お金に恵まれた家庭にも関わらず、そのお金は無い物とし、ごく一般の家庭と同様に神崎は育ったと言う。
なるほど...周りへの分け隔てない接し方や話すことも嫌味にならないのは、ご両親の教育のお陰なのか。
「神崎は実家から通ってるんだよね?結構遠いけど、毎日ドライバーさんが送迎してくれるの?」
「学校から徒歩5分の所で一人暮らししてるから、基本歩き」
「へ~!それは知らなかった...ん?」
あれ、一人暮らし...
この前の雨の日実家までわざわざ送り届けなかったか?
徒歩5分なら傘だけ渡して帰らせても良かったのでは...?
「ねえ、この前の雨の日さ...」
「ああ...最高だったね」
「違う、そうじゃない」
「そうだ、どうせなら俺の部屋に一緒に住む?朝もギリギリまで寝てられるよ」
こいつ本当人の話聞かないよな。
「もう俺たち、恋人同士だし...な?」
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