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赤面
しおりを挟む頬を染め、言いにくそうに口にした碓氷は小さく咳払いをした。
「碓氷先生...どうしよう...」
「何がですか...とにかく、顔でも洗ってきなさい」
「うん...」
言われるがままに職員トイレへ足を運び、洗面台に手を着く。
ふ、と顔を上げると碓氷が言っていることも納得だった。
「なんて顔してんだ」
冷たい水で顔を洗い、何とか晒せる顔面になっては職員室へと戻ったが...既に若王子は自席に座っている。
涼しい顔をしながら珈琲を飲み、優雅にネットサーフィンですか。
「碓氷先生、さっきの話ってなんでした?」
「あ、ああ...これ、去年の修学旅行のしおりです。姫神先生は去年も行ってると思うのであれですけど下見は、ここと、ここは省いて...これ通りでいいですよね?」
そんなに早く準備しなくても...、と思いつつ、碓氷の性格上のんびり後回しにしてはいられないのだろう。
しおりに目を通す私に先程の顔が頭を過ぎるのか、少々気まずそうにする碓氷は眼鏡を掛け直した。
「んー...ここもいらないな、適当に回って適当に宿に泊まればいいんですよね?2泊もする必要あるのかな...1泊2日に短縮するか...」
「え~、そんな~!せっかくだから2泊しましょうよ!と言うか、ここのテーマパークも省いちゃうんですか!?1番楽しみにしてたのに~」
横から割り入る石井に驚きつつ、テーマパークに赤線を引く。
男性3人、女性1人でテーマパークって...絶対はしゃげない、このメンツ。
「とは言え、私達も受験生を抱えている訳ですし、やることも多いので...1泊2日に変更します」
「は~...折角、姫神先生と旅行出来ると思ったのに...」
「姫神先生がそう言うなら...。若王子先生も1泊でいいですか?」
「ええ、いいですよ」
「良かった...」
小さな声で安堵の言葉を口にした碓氷は、私の手からしおりを取り上げ「再度調整してお声掛けします」と言い放ち、自席に着いてしまう。
「ちぇ~。若王子先生まで1泊でいいなんて...」
「貴女と2泊もしたくないですからね」
「ちょっと!それどう言うことですか!」
周りの男性教員は羨ましくて泣いているというのに、この男ときたら全くブレない。
「駄々を捏ねられると行く気が失せます、僕はお留守番してようかな」
「えっ」
若王子のその言葉に、一番最初に反応したのは私だった。
冗談で言った若王子本人が、きょとんとしたかと思えば、次第に目を細めて笑う。
「大丈夫ですよ、ちゃんと行きますから」
本当にどうしてしまったんだ。
考えるより言葉が先に出てしまうなんて...自分らしくもない。
斜め向かいに座る男に、どうもペースを乱されてしまい、頬を染めては顔を隠すようにそっぽを向いた。
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