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過去
しおりを挟む「いい子で待ってて...じゃあ、行ってきます」
「い、行ってらっしゃい...」
完全に蕩けきってしまった脳内を何とか覚醒させる。
家を出た若王子を見送り寝室に戻れば、
学校に連絡を入れて熱が出た旨を伝えた。
用意して貰ったミネラルウォーターを飲み、再びベッドへ潜り込む。
高い天井、限りなく白に近い、殺風景な空間。
好きなように過ごせと言われたが、他人の家であることに変わりはない。
薄手の毛布を首元までかけ、目を閉じる。
あと何時間こうしていれば1人じゃなくなるだろう。
鳥のさえずりや、車が通る音に耳を傾けた。
前まで1人で平気だったのに、少しだけ強い人間になれた気がしたのに...今じゃ1人だと寂しいだなんて。
厄介な感情を、私の心の奥底から掘り起こしてしまったようだ。
「寂しい...」
ーーーーー
『離婚しただと...?ふざけるな、どうしてそんなことに』
『申し訳ございません、私が妻に無理をさせていたせいです』
新聞を読んでいた手を止め、血相を変えた父。
『でもお父さん、ここ数年は政宗さんも家事や育児を手伝っているって...彼女も言っていたわ。きっと政宗さんだけが原因じゃないのよ』
病気がちながらも、額を床に付けて謝る私の背中を摩る母。
『そんなはずない、どうせお前が全部悪いんだろ?お前みたいなつまらない人間に、あんな素敵な奥さんが出来るなんて奇跡なんだから』
『仰る通りです』
『価値のない人生で、唯一誇れる点だったのに...。お前が彼女をほったらかして浮気でもしたんじゃないのか?』
『いいえ、していません』
浮気なんてするはずが無い。
私は彼女を愛していたのだから。
『嘘をつくな。浮気、してたんだよな?浮気でもされない限り、彼女から離婚を切り出すなんて考えられん』
『お父さん...政宗さんはしてないって言ってるじゃないですか』
立ち上がった父を宥めるように割入った母が殴られる音。
その音に咄嗟に顔を上げては、昨日妻の両親から殴られた箇所を今度は自分の父に殴られた。
何度も、何度も。
畳や衣服に飛び散る血は、やけに色鮮やかで、その血を見てはこんな自分でも人間であること、生きていることを実感した。
父は、1度頭に血が上ると抑えが効かなくなる人で、幼少の頃から母が殴られているのを見て育った。
それを止めに入る私や弟を思う存分殴っては、自分がいかに母や子より優秀であるかを聞かされた。
母も最初は庇ってくれていたが、私や弟が殴られている姿を見ても、見て見ぬふりをするようになった。
そこで、ああ、両親からの愛情は無かったのだな、と幼いながらも悟ったのをよく覚えている。
春の息吹を感じさせる弟の高校入学手前 、弟は家を飛び出し音信不通。
私が大学への進学を機に上京する日の出来事であったが、弟はあんな家に居ることよりも、家族と絶縁してまで遠くへ逃げて幸せになりたかったのだ。
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