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二者択一
しおりを挟む「ん~...、おいしい...」
半分ずつ味わうことが出来て、幸せを噛み締める。
夏の暑さも忘れてしまうくらい美味しい。
1人だったら絶対に食べる機会はなかっただろうな、と箱に印字された高級スイーツ店の名前を見てしみじみ思った。
「あ、こら!何勝手にクーラーつけてんだよ!」
「こんなん熱中症になるわ」
徐々に涼しくなっていく部屋の中で彼に背後から抱き締められると、触れた部分から熱が伝わり温かくなる。
「政宗」
「ん?食べ終わったからって言って、分けてあげないよ?」
「そうじゃなくて。俺にするか若王子にするか、もう決めたの?」
グサリ、と彼の言葉が突き刺さった。
そうだ。
こんな呑気にアイスを食べている場合ではない。
私は二者択一を迫られているのだから。
若王子に好きかと問われ、肯定したことを告げたら...彼は一体どう思うんだろう。
「政宗...俺を選んで...」
すり、と背中に顔を寄せ低く囁けば、抱き締める彼の手に力が篭もる。
「お願い」
今にも消えてしまいそうな、何かに縋り付くような切ない声音に胸が締め付けられた。
そっと神崎の拘束を解き、顔を覗き込む。
こんな神崎、初めて見た。
いつもクラスのみんなに囲まれて、他の人が羨むもの全てを手にしていて、勉強も運動もできて...自信に満ち溢れた男の不安そうな顔。
「神崎...」
「あ、......っ」
顎を掴みそのまま自ら口を塞いだ。
彼の大きな目が見開き、身体が石のように固まる。
宙を彷徨っていた神崎の手が、ようやく私の頭を撫でた。
気持ちいい...。
「、驚いた...政宗からキスされるなんて思ってもいなかったから」
「ごめん、なんか可愛くて」
彼の首に顔を埋め、そっと抱き着けば「わ...」と声を漏らす。
そんなところも可愛く思えて、思わず笑みが溢れた。
「若王子くんに好きかと聞かれた時...私は肯定した」
「...」
「もちろん、君のことも同じくらい好きなんだ。だからこそ...」
神崎の心臓が早く脈打つのと対照に、私の心臓は規則正しくゆっくりと脈打つ。
「どちらかを選ぶなんて私には出来ないんだよ」
「どっちかにしてって言ったら」
「私はどちらとも関係を絶つ。地元に帰って、教師をしようかなってさ...ここ数日でそんなことまで考えちゃったよ」
あはは、と笑う私を強く抱き締めた神崎は、それ以上何も言わなかった。
「安心して、神崎が卒業するのはちゃんと見届けるから...ね?」
本来であれば大きいはずの身体が、何故だか異様に小さく見える。
艶やかな黒髪に指を通すと、神崎の香りが鼻腔を掠め少しだけ、胸が苦しくなった。
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