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傷痕
しおりを挟む「で?修学旅行の下見無くなったんだ」
「そうだよ、代わりに碓氷くんと黒田先生が行くことになった」
「黒田...?あの人学校行事とか1番面倒がるだろ」
満月の下、ベランダの植物の手入れをする私に神崎が手を伸ばす。
頭を撫でる手が心地よくて思わず顔を上げては、彼の目を見つめた。
シャワーを浴びた後の水々しい髪や肌が月の光で輝き、目を見張る程の美しさに息を飲む。
「でも、黒田先生が行きたいって言ってたんだよ」
「へぇ...珍しい。でも嬉しいな、政宗がいないの寂しいから」
きゅん
「私も、なおくんと離れたくないから...良かった」
......い、言っちゃった!
もう恋人関係とは言え、こういうことを言うのは少し恥ずかしい。
ウザイって思われたりしないかな...?
歳の差もあるし、大人っぽいところを見せたいのに自分の思考と発言は真逆をいく。
「...ね、やっぱり今日もそっち行っていい?」
ベランダの手すりから身を乗り出した神崎は、月明かりの中、ふわりと笑った。
「い...今から?」
「うん...3人で暮らすことになったら、独り占め出来なくなっちゃうし、今だけって思うとさ」
確かに、こうやってベランダで神崎と話すのも、お互いの部屋で夜ご飯を食べるのも3人で暮らしたら無くなってしまうな。
抜いた雑草を指で弄びながら、小さく頷く。
「...いいよ」
「ありがと」
「えっ、ちょっと、なおくん!?」
手すりに脚をかけ、自分の部屋のベランダを勢い良く飛び越えた彼が私の目の前に現れる。
「この馬鹿、危ないだろ...!怪我してない!?大丈夫!?」
「ごめん。我慢出来なかったから...」
身体を抱き、髪に鼻を寄せた神崎が耳に唇を押し当てれば、全身が粟立つ。
「わ...なおく...っ」
濡れた髪が頬に触れ、冷たさに身体を震わせた。
「いい匂い...」
彼の低い声が脳内に響いて身体が熱を持つと、口からは熱い吐息が溢れる。
「手に入ったのに...全然足りない」
「え...っ?」
「まだ、全然...」
「んっ...ぁ...」
触れる程度の口付けを数回に分けて施され、薄らと目を開ければ、彼の綺麗な瞳が視界に写った。
睫毛の1本1本、キラキラと輝く瞳、滑らかな肌。
生ぬるい風に乗って香る、シャンプーの匂いに心拍数が上がる。
「なおくん...綺麗...」
「っ...」
彼の太腿に手を這わせた瞬間、綺麗な顔を顰めたため、やはり先程ベランダを飛び越えてきた時に怪我でもしたのかと思いパッと手を離す。
「ああ、別に...大丈夫だよ」
ズボンを下げて見せた所にはくっきりと残った爪痕があった。
赤紫色に色付いたそこを見ているだけで、こちらまで痛くなってくる。
「それって...」
「ん?」
金曜日に、つけちゃったやつだよな...?
「ごめん...こんな傷...っ」
目を伏せた私の頬に、彼の冷たい指が這う。
熱帯夜にも関わらず、彼の手はいつもと同じくらい冷たかった。
気持ちいいーーー。
「いいよ、政宗なら...。一生消えない痕も傷も...もっとつけていいよ...」
「でもそれは...っ」
「いや違うな。俺がつけて欲しいと思ってるんだ...」
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