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オーバエージ

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休息の時間

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風呂の更衣室に散らばった下着の奥の浴室で女性が何やらぶつぶつとつぶやいていた。
この宿には個室ごとに風呂はなく、しかたがないので共同浴場の女湯で我慢をした。
「大統領からの支援物資要求なら1億ドル、建設費に湯水のごとく使う方針なら1.6億、戦争なら…ふふ、3億ドル!夢が膨らむわぁ!」減ったタバコをライター代わりに、新しいタバコに火をつける。
「しばらくはバカンスで息抜きできるわね」
フゥーッと出した煙は、すぐに真上の清浄機に消えていった。
そろそろ体も十分温まったので、浴室を出ようとしたその時。
がらりと扉を開け男がよろめきながら入ってきたではないか。
手には薄汚れた袋を持っている。
「ぎゃあ」女は再び湯に浸かってどなりまわした。
「あんたねぇ!女の暖簾も更衣室の下着も見なかったの?」
「あ…あぁ?そうだったけすみません、もう視界がクラクラしてて…」
湯気で視界不明瞭であっても、その男についてる無数の切り傷、縫ったあと等の跡が無数にあるのを見て
「あなた…何者?」と問いかける。
が、すでに男は消えていた。浴室の女はイライラしながらタバコの火をお湯に突き刺して消した



テッドは風呂も終え、銃の掃除をしてから早々と眠りについた。仕様の枕は横に置き、首にひもを巻き付けてから
古びれた袋をまくら替わりにするのが日課だった。さすがに安い宿だけあってベッドが固かったが、そんなことも
忘れるくらいのスピードで入眠するのであった。手には愛用のスミス&ウェッソンM66改造型を持ちながら。

頭にICチップを入れられる夢は散々見てきた。麻酔でちっとも痛くはないのだが、やけに眩しいライト。のぞく医師。
テッドはそんなICチップを3枚も入れられたのである。忘れたくても忘れられない、異質な空間、その光景…。



犬は主人の足音で主人かどうか判別できるという。
ネコパンチは自分のスーツにドライヤーをかけながら聞く、ヨーコの足音にうんざりしていた。
ドアが開く。
「おいネコ!風呂入ったか?そこで傷だらけの男を見ただろう!」
ネコパンチはため息を漏らしながら言った。
「ネコは風呂が嫌いだにゃ~」
「この役立たず!」
言い合いに飽き飽きしている猫族の子はそのまま会話を受け流してパンツにドライヤーをかける。
ヨーコは窓を覗き込んだ。雪はつもり、止む気配もない。
「あの男…きっと修羅場をくぐってきたに違いない」ポツリと言うとベッドに入り、3秒で寝息を立てた。
「そんな事なら僕も風呂入っとけばよかったにゃあ」服を掛けるとネコパンチもベットに潜り込み、1秒で寝息を立てた。
ほどなく宿屋の女将がやってきて、部屋の明かりを消してくれたのだった。
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