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三章、ノストラ

三話、現代のノストラダムス

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◆◆
 ————その日は、朝から何かがおかしかった。

「……」

 目を覚まして布団を押し退けて上体を起こす。

「おはようだよ、アラカくん
 朝食は出来てますよ」
「……おはよう、ございます……コードレス、さん」

 声をかけられた方へ顔を向けて挨拶をして……反対の方へ目を向ける。

「…………灰色の、空」
「ああ、雨が降りそうだね」

 曇り空。空一面に広がる不安の欠片

「はむ……」

 まだ眠気も覚めぬ間に用意されたトーストを食べる。

「夕飯、何がいいと、かありますか…?」
「そうですね……麻婆豆腐、とかですか? 豆腐がありましたので」
「分かりました」

 学校のいく用意をしながら、そんな会話をする。



「……アリヤ」
「お嬢様、学校行きましょう」

 通学路でアリヤと合流して、並んで歩く。
 いつもニコニコしているアリヤ。

「……」
「そう言えば今日、学校で工事があるみたいですよ。お嬢様は可愛いので人とは出来れば会わないでくださいね。会ったらお嬢様に恋することでしょうし……」

 その隣で、僕は少しだけ違和感を覚えていた。

「……」

 ————現代のノストラダムス現象。

 神秘の消失した時代のノストラダムス現象。
 祈りという逃げ道が消えたそれはかつてのそれより壮絶に、鮮烈なものを齎すだろう。

「……」

 ————狂気とは弱さが齎すもの。
 心の弱さが、現実に敗北したものが宿す存在。
 敗北の印、それこそが狂気。

「……」

 ————怪異にございます。
 僕を殺しに来た怪異。
 力を失った僕を殺そうとする、それは恐らく〝徹底的に処分しよう〟と考えた何者かがいたということだろう。


「(……なぜ、だろう)」
「お嬢様?」

 ふと立ち止まり、空を見上げる。
 灰色の空は、ただ見ているだけ胸が不安で満ちる。

「……」
「え、あれ……?」

 その時、アリヤが不意に困惑したような声を出す。
 なんだろう、とアリヤの視線の先へと目を向ける。

「けい、さつ……?」

 学校の校門、その前で警察が立ち封鎖をしていた。

「何? なんで入れないの?」
「なんかテロリストだって……それで今、教室で監禁されてるみたい」
「なんで朝なんだよ、午後とかでいいだろ……」

 学校がテロリストに占拠される、そんな状況にアラカは「やっぱり…」と呟く。

「神秘の失われた現代の……ノストラダムス現象、か……」

 大預言者ノストラダムスは彗星を眺め、世界が滅びると予言をした。
 恐怖の大魔王が現れる、と。

「敵対者の、時代……に…」

 しかし大魔王が実際に現れることもなく、彗星は姿を消した。

「弟子を騙る、詐欺師の時代……」

 ああ、だがしかし。
 その予言に狂した人間は、多くいた。

「————末期の、同時多発テロ、か」

 これはその予兆である、と嘆息を吐いた。
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