36 / 108
第2部 魔王って? 獣王って? 天使って?
第7話 顧問、そしてインドラとルドラ
しおりを挟む「ガイアさんは今後どういった立場に?」
「妾は『顧問』じゃ。これまで何やかやと責任が重かったからな。自由に発言も行動もできる立場を夢見ておったのじゃ」
ああ、それはそうでしょう。なにしろ300年は長かっただろうからねえ。
やっと解放されて良かったですねえ。
でも、そのせいで私はこんな面倒な立場になっちゃってますけど。
しくしく。
「早速、顧問としての初仕事じゃ」
「何でしょう?」
「後進の育成じゃ。妾は弟子を取る事にしたぞ。魔王だった時は、特定の者に親しく魔法を教えるとエコヒイキと言われかねなかったからな。実は『師匠』と呼ばれるのに長いあいだ憧れておったのじゃ。弟子を紹介しよう。参れ」
呼ばれて出て来たのは、あら、なんと銀髪メガネのソフィアさんだった。
「この娘を弟子にすることにしたのじゃ。妾がアスラと戦った時に、この娘が防御障壁を張るのを見たが、ヒト族にしてはなかなかのものじゃった。見所が有りそうなので、一番弟子にして鍛える事にした」
ソフィアさんを弟子,マジ? 本人はそれでいいの?
「これは本人のたっての希望でもある。是非とも妾の弟子になりたいという事で、間違いないな!!」
「あ、はい、まあ」
「何が『まあ』じゃ。この期に及んではっきりせん奴じゃな! さあ、もっと大きな声で!!!」
「ま、ま、間違いありません!」
二人の間に何があったか、なんとなく見えたような気がする。
(哀れな。この娘、五体無事で済めば良いが……)
「では最初の修業じゃ」
「は、はい。それでワタシは何をすれば…」
「街へ出かけるぞ!」
「は?」
「やったあ、街ぶらじゃ! 護衛も御付きの者も無しに街へ出るのは本当に久し振りじゃ。妾がいろいろ案内してしてやるぞ。服屋とか甘いもの屋とか。最近、爪のお洒落をしてくれる、良さげな『ねいる・さろん』とかいうものが開店したと聞く。楽しみじゃあ!」
と喜び叫んで弟子の手を引っ張り、それこそ突風のように部屋を飛び出して行った。呆気にとられている私にゼブルさんが言う。
「ガイア様は、アスラ様と、アスラ様の中に居られるルシフェル様を信じておられるのです」
いやいや、それにしてもハジケ過ぎじゃ?
服とか爪とか、元素転換の魔法で簡単に好きなようにできるでしょうに。
(買物で店を覗いたり、人に爪を綺麗にしてもらうのは、また違うらしいぞ。我には良く理解できぬが)
いやいやいや、元魔王様、現在は顧問が、ちょっとはしゃぎ過ぎじゃね?
最初に会った時と、印象が全然違うんですけど。
威厳も何も、どこかに置き忘れてきてますよね。
(あれが本来の性格なのだ)
親の顔が見たい。
(面目ない……)
それからが長かった。
ゼブルさんが、呼ばれて前に出て来た一人ひとりを紹介して、それに私が、
「わかりました。今後も励んでくれるよう、期待しています」
なんて型通りの言葉をかける。
その簡単な挨拶に対して、例えば、尖った耳に透けるように白い肌、縁なし眼鏡をかけて灰色の髪を七三分けにした、いかにも事務方の責任者っぽいエルフのおじさんが
「ははーっ!」
なんて大仰に平伏したりする。
そうかと思うと、山羊みたいな角を生やして頬の削げた鋭利な面貌、足首まである長い漆黒のマントと黒ずくめの上下、とんでもなく背の高い魔族さんが、私なんかよりよほど魔王らしいその威厳をいきなり崩壊させ、両手で顔を覆って
「うおおーんっ!」
なんて泣き出したりする。芸術家だけあって激情型なんだろう。
こんなんが何十人も続くのには参った。
みんな、300年ぶりの新魔王の誕生に立ち会えたこと、しかもその席で直接に声を掛けられたことに感激してくれてるらしいけど、毎回これだから時間がかかってたまらない。似たようなことの繰り返しなんで、以降の描写は省略 ――――
―――― したいんだけど、親衛隊の隊長さんを紹介された時に、ちょっとした騒ぎが起こった。
この人は純粋なヒト族だそうだ。
国の主だった顔ぶれだけでも、魔族は当然として、獣人やエルフやヒト族まで、あらゆる種族の人材が豊富だ。
「インドラ隊長は、元はヒト族の高名な戦士だったのを、我々が『へっど・はんてぃんぐ』したのです」
ん、インドラ?
なんだか私の身近に似たような名前の人がおられたような。
この面立ちも、年齢こそ違うけど、どこかでお見かけしたような。
おまけに、どちらも金髪で、こっちはソフトモヒカン……
その時、天井に何かを叩き付ける衝撃音が響いて、
「親父ぃー! 覚悟ぉーっ!!」
開けた大穴から、もう一人の金髪モヒカンが飛び出していらっしゃった。
あーあ、やっちゃった。天井画が台無しだよ。
ソフトモヒカン(体格大)さんはさすがに慌てず騒がず、振り下ろされた大剣の刃を人差し指と親指で摘まんで止めてしまった。そうするともう、モヒカン(体格小)がどれだけ力を入れても、刃はびくとも動かない。
おー、ありがちな達人の反応だけど、実際に見たのは初めて。感激!
「魔王様には誠に失礼致しました。こ奴、ルドラは拙者の不詳の息子であります」
これも感激! 自分のこと「拙者」とか言う人、本当にいるんだ。えっ、息子?
「拙者は10年ほど以前、ある王国の師範をしておりまして、その時に、武術に不真面目な馬鹿王子を瀕死にまでボコった事があり、処刑を逃れて出奔したのです」
ん、バカ王子をボコって出奔?
どこかで似たような話を聞いたような。誰だったかなー。
ここでモヒカン(大)さんは剣から手を離した。
で、モヒカン(小)が
「貴様ーっ! うりゃーっ!」
とか何とか叫びながら滅多やたらに振り下ろす剣を、表情も変えず、「すいすい」と避けながら話を続ける。
「最初は家族と共に国を抜け出したのですが」(すいすいすい)
「狙われていたのは主に拙者でしたので」(すいすい)
「二人を安全な隠れ里に残し、拙者はゼブル殿から誘いがあったのを機会に、一人で魔族の国に参ったのです。いわゆる単身赴任であります」(すいすいすいすい)
あらあら、息子さんの方は、もう肩で息してますけど。
「見苦しい。この位で息を荒げおって。鍛え方が足らぬぞ」
「え、偉そうに! はあはあ…… お、お前のせいで母は苦労を重ね、ついには」
「妻に何があった!?」
「別の男と再婚した」
それはそれは、おめでとうございます。
どうぞお幸せに。
「しかし、はあはあ…… この俺は、母の再婚相手と上手くいかず、はあはあ…… 家を飛び出す羽目になったのだ。そ、それもこれも貴様と魔族のせいだ!」
ああ、それで魔族を特に嫌ってた訳ね。そういうのを逆恨み、逆切れと言う。
で、親父さんと魔族に恨みを晴らそうと、戦士になって魔族の国に。
ところが親父さんの方は「再婚」の言葉を聞いて一瞬で表情が変わった。
無言のまま茫然。えっ、もしかして知らなかったの? ショックだった?
「隙ありーっ!!」
ま、こうなるよね。
でも親父さんは、悲しみにもめげず(?)、裏拳でモヒカン(小)の大剣の横腹を鋭く一発叩く。
それなりの業物、名剣の筈だけど、このたった一撃で大剣は折れてしまった。
裏拳かあ。さすが親子だけあって、技も似てるなあ。
「な!?」
「馬鹿者!」
の声と共に、頬に強烈なグーパンチ。
結局、一度も腰の剣は抜かず、息子を気絶させてしまった。
それから静かに私に一礼し、息子の首根っこをつかまえて引き摺っていった。親父さんの目が心なしか潤んでたのは見なかったことにしよう。
ゼブルさんは、この一部始終、嫌に落ち着いてた。天井裏に誰か潜んでるっていうのは感知の能力で重々わかってたらしい。でも
「ルドラさんの気配でしたから。インドラ隊長との関係も知っておりましたし」
だそうだ。
あれやこれやで、やっと全員の謁見も終わった、その時 ――――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

