フィーネ・デル・モンド! ― 遥かな未来、終末の世界で失われた美味を求めて冒険を満喫していた少女が、なぜか魔王と戦い、そして……

Evelyn

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第2部 魔王って? 獣王って? 天使って?

第21話 未確認飛行物体襲来(獣王戦やっと決着?)

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「あれがアスラじゃと!?」
「いいえ、確かに姿はそうですが、あの一層の光輝こうきと6対、12枚の翼はルシフェル様でしょう」
「ルシフェルが戻ってきたのか?」
「はい、おそらくは今この時だけでしょうが」

 あーあ、すっかりバレちゃって。
 だいたい、「つい勢いで」とか、なんで翼まで出す必要があるのよ?
 ん? そう言えば

!!)

 私は心の声さん、ん、今は違うか? 
 とにかく、交代して私の身体を使ってるこの人に言った。

(1対1の戦いじゃなかったっけ。別の人が出てくるとマズいんじゃないの?)

 すると、この人はサラッと答えた。

「もう既にそんな次元は越えておる。最初から獣王は事もあろうにヒト族の教会の後押しを得て、自身を改造していたのだからな。。しかも1000人の部下の細胞を取り込んだのだぞ。明らかに1対1の前提も崩壊だ」

(でも、相手がズルしたからって、こっちもしていいって、それはどうよ? 私の勇者としての信条にかかわりますけど!)

「勇者? まあ、一応はそうか。しかし、お前だってセイレーンの力を借りたではないか。今更何を言う」

 あ、そうか。考えてなかった。これはテヘペロだ。

 ええと、説明しておくと、テヘペロっていうのは、失敗した時に照れ隠しの「テヘヘ」と、舌を出して「ペロ」っていう擬音を組み合わせた、旧文明の「二ホン」で「ヘイセイ時代」の一時期、特に「ジョシコーセイ」っていう人種に使われたらしい表現で…
 だから、そんなことはどうでもいい!! はぁ……

「まあ、とにかく我は今、久し振りに解放された気分で至極爽快なのだ。ちょっとの間、黙って見ておれ」

 そうして、この人はとても偉そうに、それはそれは偉そうに獣王に話しかけた。

?」

「「「「「「「「「「何ぃ!」」」」」」」」」」
「ほう、言葉はまだ理解できるようだな」

 あーらら、いつもにも数段増して俺様的態度。
 でも、少し同情的に「獣王には魔族を憎むそれなりの理由がある」みたいなこと言ってたくせに。どういうこと?
 この超絶的な上から目線には何か意図があるのか?
 もしかして、わざと相手を挑発するとか……

「だが、理性の方はどうかな? そもそも愚かなお前などが美しいガイアに求婚など、身の程知らずにも程があったのだ」

 おっ、そう来たか。
 すると

「あら、この世で最高に美しく気高いガイアちゃんだなんて、さすがの妾にもそれは言い過ぎ、恥ずかしい」
「いやガイア様、『ちゃん』だとか、『この世で最高に』とか『気高い』とは、ルシフェル様は言ってはおられませんぞ」
「うるさい! ルシフェルの声を聞くのは300年振りなのだから、少しは妾にも心地良い妄想に浸る時間があっても良いではないか」

 とか何とか言ってる人たちが居ますが。
 でも、自分でも妄想だって承知してるんだね。

「ガイアは、見た目は派手だが」

「ん、見た目は派手じゃと?」

「ああ見えて」

「ああ見えて?」

「実は相手の見てくれなど気にせぬ、賢く心優しい女なのだ」

「あら、この上、『万物の慈母のように賢く心優しい』とか、まあ」
「ガイア様、ふぅ……」

 ふぅ……

「だからこそ、婚姻を通じてガイアはおろか、魔族全てを支配下に置き、いずれは虐待しようという貴様の下卑た心根も狡猾な企みもお見通しよ。そんな事もカバ風情ふぜいには分らぬようだな」
「「「「「「「「「「うぬぬ……」」」」」」」」」」
「そんなガイアに真に相応しい男は、この世にただ一人、このルシフェ…… ぶっ! ごほっごほ!」

 ありゃりゃ、この際、言い切っちゃえばカッコ良かったのに。
 自分で言って、照れて慌てて吹き出すとか、咳き込んじゃうとか、却って恥ずかすぃー。
 でも、「きゃーっ!!!」とか言って喜んでる人も、あそこに居ますけど。
 でもねえ、私の姿と声でそんなこと宣言されても……

「と、とにかく! お前のような心卑しい者は蛇蝎だかつのように嫌うのだ。おおそうか、実際に蛇やさそりであったな。それではガイアに相手にされぬ筈だ」
「「「「「「「「「「貴様ぁ、言うに事かいて、何を惚気のろけておるのだ!」」」」」」」」」」

「いいぞ、ルシフェル。もっと言ってやって、言ってやって!」

「おう、任せておけ。あげくの果てには敵であった筈の教会の禁忌の力に頼り、まともな生物とも言い難い細胞の化物になりおって。自分でも恥ずかしくはないのか? それとも、醜い変身と共に正常な羞恥心は消え失せたか? おまけに自身の部下の多くまで犠牲にするとか、さすがに下等な動物の考える事は善悪の境界も知らず、下衆の極みだな」
「「「「「「「「「「何だとお!」」」」」」」」」」
「うるさい! 汚い大声を張り上げるな。どんなに余裕や威厳を装おうとも、その顔や声音に、心底の貧しさは隠し得ず表出するのだ。お前は、この世の始まりから呪われた、醜悪な生物よ」
「「「「「「「「「「ぐぬう!!!」」」」」」」」」」

 おーっ、霧が更にどす黒く、憤怒の色を強めて変色した。

「ふん、そろそろ充分に怒ったか。では」

 そしてこの人はゆっくりと左手を掲げ、円を描く。
 すると、。これは?

「そうだな、名付けて『封邪滅殺光輪聖陣』とでもしておこうか」

 そのまんまじゃん!
 漢字ばっか並べて、何のヒネリもないじゃん。
 「封」と「滅殺」って矛盾してるじゃん。

 しょして…… じゃない。「そして」だ! 狼狽うろたえるな私!
 そして、その輪から輝く光の粒子が静かに一帯に降り注いだ。
 まるで白金色の霧雨だ。
 悲しい、限りなく優しい輝き。

 

 光の粒子が、それに触れた獣王の細胞を全て消滅させる

「「「「「「「おぉぉ……………………………………………………」」」」」」」

 え、えっ!? どす黒かった霧が赤紫色になって、白く薄くなり、その体積も減っていく。
 あれだけの怨念と害意に満ちていた獣王の細胞が、あっさりと、憤怒の言葉も発さず消えていく! これは、むしろ喜んでいるのか?

「有難うよ。汝が自らの細胞を更に強い敵意で満たしたおかげで、やり易くなった。安らかに滅せよ」

 もう、何がなんだか……

「それにしても教会め、細胞兵器とは下劣な真似をしおって。ふん、しかしこんなもの、我にとってはチャチな玩具よ。これで良し。では交代だ」

 そして霧は、ついに全て消滅してしまった。
 そして私たちも元に戻った。
 私の翼も、光も消えた。
 でね、心の声さんがこうおっしゃいましたよ。

(ふう、やはりこの方が落ち着くな。我は本来、目立つのが嫌いな恥ずかしがりの性格だからな。傍観者の立場であれこれ無責任なことを言っているのが楽だし、好きなのだ)

 いやいや、あなたの発言の後半には全力で同意しますけど、逆に前半に対しては巨大な疑問が湧きますが……
 勢いとか何とか言って、光る翼まで12枚も出しちゃって目立ちまくってたし。
 おまけに獣王に対しては、とんでもなく上から目線の俺様的発言連発だったじゃないですか。

(あれは故意にそうしたのだ)

 あ、やっぱり?

(当然だ。お前との戦いで既に充分とは思ったが、念のため更に確実を期したのだ。奴を怒らせ、敵意に満ちさせるほど、我の光に触れた時の反応が強くなるからな。その証拠に、これといって怨念や害意のない周りの者には全く被害が無かったであろう)

 うん、それは確かに。

(そして案の定、奴の憤怒が頂点に達し、効果は最大になった。だからこそ全ての細胞が瞬時に消滅したのだ。でなければ反応は若干とはいえど鈍く、時間がかかり、何分の一かの細胞には逃げられただろう。そうすると面倒な事になるからな)

 ふーん、じゃあ翼を出したのは?

(勢いとは言ったが、あれは嘘だ。我本来の姿にならねば、あの光の輪の能力は使えぬ。気分爽快とか解放されたとか言ったのも同じ理由よ。全て、余裕を見せて獣王を挑発するための演技だ。どうだ、我は本当は考え深く慎み深い性格だという事が、これで納得いったであろう?)

 うー、なーんかまだ釈然としませんが。
 上手いこと言いくるめられてるような気がするような。

(意外と疑い深い奴だな。そんな事よりも、腹が減っているのではないか? これでようやく昼食にできるぞ)

 おお、そうでした! そして、思い出すと同時に

 

 と、盛大にお腹が鳴ってしまった。
 でも、最後にひとつだけ、「封邪滅殺光輪聖陣」っていう名前について聞いてみると

(どうだ! とりあえず考えたにしてはカッコいいであろう! やはり必殺技には名前が有った方が良いからな)

 だそうだ。嬉しそうに。
 もう、どうでもいいや。はぁ。
 とにかく、これでやっとパンケーキ…… とか思いながら飛翔魔法を解除して地上に降り、放り投げた剣と鞘を拾う。
 咄嗟の判断だったけど、両方とも無事だ。良かった。
 また聖剣をダメにするのはゴメンだからねえ。でも今回は熱で融解とかさせずに済んだぞ。

 すると

(おい、気付いているだろうな)

 うん。
 でも、爆発物とかそんなんじゃあなくて、これはきっと生物だよ。

 そして飛行体はすさまじい轟音と振動を発して地面に突っ込んだ。

 その寸前にいきなり突風が吹いて、辺りの兵士や捕虜を吹き飛ばしたのだが、ちらっと見るとゼブルさんが横を向いて露骨に知らん顔をしていた。
 芝居が下手だなあ。私は確信した。ふーん、やっぱり。
 でも今はそれはいい。

 土煙が収まって大穴から

「あいたた」

 とか言いながら這い出して来たのは、地味ぃーな灰色のスーツにネクタイの小柄な人物。

 はあ?

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