蛇草-Recollection -

津城志織

文字の大きさ
1 / 2
プロローグ

回想

しおりを挟む
プロローグ

 回想

私たちは二人で寄せては返す波をなんの目的もなく、見ていた。
あの子は私に体を寄せてその波を見つめている
あの子のにあたり素肌が私の肌にあたり体温は私を照らしている日光よりも
暖かく感じられた。
潮の匂いがするあの子の長い髪は海水で湿っている。

「ねえ、海ってさ。なんか懐かしいね。」

海を見ながら彼女は落ち着く声で言った。

「私って今日初めて海に来たはずなのに、そう思ったんだよね。」

彼女は海を見つめている。

「みもりちゃんはさぁ、今日海来てどう思った?」

(しょっぱいかな)

「あは、私は海水は塩辛いと思うな。」

あの子は笑った。

「私ね、昔。海水ってどんな味か気になって、水に食塩混ぜて飲もうとしたの。
 そしたら、すごい甘かったの。塩じゃなくて砂糖を入れてたんだよねー」

「私っておかしいでしょ?」

(うん)

「あはは、否定してよぉー」

私は気になって、なぜ海に来たことがないのか聞いた。

「...わかんないね。15年間も生きてきてなんで一度も来たことないんだろう。」

「なんかおかしいよね、名前の中に海って字が入っているのに一度も海に来たことないなんて。」

「でもさ、今日初めて海に来れたからこの名前を誇りに思えるね」

そう言った後、あの子は私の胸に耳を当てた。

「君の心臓、こんな音だったんだね。」

「好きだよ、落ち着くし」

さらに体を密着させて彼女は私の音を聞いた。
左手は私の腰を囲み、右手は私の肩に置いていた。あの子の体温がより強く感じられて、私の胸の奥は熱くなった。

「妙な音がしてくるね」

そういうとあの子は私の背中をさすった。

「私さ、前にもこんな感じで海を見てた気がする。」

「あんまり覚えてないんだけど、こんな風に誰かの音を聞いていた気がするの。」

今度は抱きしめるように私に体を密着させた。

「君といるとなんか落ち着くなぁ。ずっとこうしていたい」

(私も)と言いたかったが私は何も言えなかった。
私にはあの子がなぜこんな風に接してくるのかわからなかった。私たちは女同士であるのに、こういう風に体が触れ合っても気持ち悪いという感情は湧かなかった。

私はずっと、こうしていたかったけど、なぜか少し罪悪感を感じた。

(ねえ、ちょっと近すぎじゃない?)

「嫌だった?」

私から少し離れ、上目遣いをしてこちらを見ていた。その目を見ると私は思わず息を呑んだ。

(そういうわけじゃないよ)

「ならよかった」

そう言うとあの子は私から海へと視線を移した。

「君はさぁ、私のこと好き?」

私にはその好きということの意味がわからなかった。あの子の何か思い詰めた表情を見て、友達として好きかという意味で私に聞いているとは思えなかった。だから、私はなにも答えられなかった。好きと答えたかったけど、答えたら、自分の中のなにかが壊れそうで答えられなかった。

「そうだよね。答えれないよね」

あの子は弱い声でそう言った

「ごめんね」

間を置いてあの子が発した声は悲哀に満ちていた。それは私が覚えているあの子が発した最後の言葉。あの子は次の日から行方不明になった、部屋からは遺書が見つかった。

一部の人は殺されたとか誘拐されたとか言っていたけれど、私にはあの子が死んだという事自体が信じられなかった。

いや、わかっていたけれども、信じたくなかったたんだ。今でも私は海に行くと思い出すあの子との思い出を。

そのたびに私の心の中の何かが私に穴をあける。私はいつも心の中であの子を探している。あの子は死んでない。

そう信じ続けている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

続・冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。 の続編です。 アンドリューもそこそこ頑張るけど、続編で苦労するのはその息子かな? 辺境から結局建国することになったので、事務処理ハンパねぇー‼ってのを息子に押しつける俺です。楽隠居を決め込むつもりだったのになぁ。

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...