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エメルナちゃんの成長記録2
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あれから1ヶ月と少し。 冬。
5……4……3……2……1……
(((Happy New Year!!♪)))
ハッピーニューイヤーー!!
1月1日。 新年。
この村の年末を、私は1人、暗い部屋で過ごした。
眠たかったんだよぉ!!
心は楽しみだったのに、瞼が睡魔に抗えなかった。 そんな普段から大人しい私に気を許し、両親は居間で年越しを祝っている。
寝てる赤ちゃんの側で騒ぐわけにはいかないもんね。
おかげで異世界の新年のお祝いを見逃したわけだけれど、気を使われるよりは楽で良い。
それに、お姉ちゃんと姉妹水入らずで過ごせるのは、なにも悪いことじゃない。
デデ~ン♪
「中田、ハイキック」
恐がってもいけないのコーナーで、公衆電話の受話器から聞こえた4度目のハイキックに崩れ落ちる芸人に、お姉ちゃんが抱腹絶倒する。
私達は今、記憶にある最古のシリーズを復元し、夢世界で姉妹揃ってコタツムリになっていた。
年末年始ということで、私の要望により夢授業は一旦お休み。 気晴らしとして、今夜はオススメのバラエティ番組を見ることとなったのだ。
にしてもまさか夢の中だからって、ここまで鮮明に再現出来るとは思わなかった。 いや夢魔なめてたわ。 まだ再現出来てるのはこの1室だけってことだけれど、見たことのある番組しか見れないけれど……充分過ぎて泣きそうになる。
今日までの夢はずっと『イメージ』でしかなかったのに……これこそが本当の『夢の中』だ。
なんでも記憶を夢で再現するには、1度記憶を見て、それらを理解して構築していく必要があるらしい。 今までお姉ちゃんがイメージしかくれなかったのは、お姉ちゃんが私の記憶から見える範囲の前世の世界を、ずっと勉強していたからだ。 テレビとか炬燵とか、どういう用途の何なのか。 日中、私がお母さんと色々している間に私の記憶に入って、そんな風にずっと勉強していたんだとか。
つまり今の私達は、新コンテンツのダウンロードが済んで、漸くこっちの新エリアも遊べるようになった。 的な感じらしい。
私の体はお姉ちゃんが想像した10年後のエメルナになっている。 鏡は無いので、どうなっているかまでは分からない。
そういえば、転生してから鏡見てないな。 以前は10秒も直視してられなかったから、今世でも気にしたことすらなかったんだよね。
まぁ、戸すら引けないから部屋から出られないんだけど。
それはそうと、
((いやぁ、凄いねぇ♪ こんなに笑ったの初めてかも。 お腹痛ぁぃ))
いつも頼れるお姉ちゃんが、隣でこんなに素で爆笑しているのは、ちゃんと姉妹になれたみたいでなんだか嬉しい。
といっても、未だに姿は見れないんだけれどね。 気配みたいなのだけがそこにいる感じなので、幽霊を相手にしている気分だ。 早く姿も実装してほしいわ。
ちなみにこの異世界、正確な時計なんてないので、カウントダウンは番組のタイミングに合わせた。
それはそうと、お姉ちゃんに言わなければいけない事がある。
丁度CMに移ったことだし……炬燵から出て向かいのお姉ちゃんに正座する。
(お姉ちゃん、新年あけましておめでとうございます。 今年も宜しくお願いします♪)
((ぁっ……))
一拍おいて、お姉ちゃんも炬燵から抜け出し、私の向かいに正座した。
(おっ!?)
「あけましておめでとう♪ 今年も宜しくお願いします、ね♪」
いきなり、炬燵の向こうにお姉ちゃんが現れた。
肩甲骨辺りまで伸びた滑らかな黒髪の頭には羊型の赤黒い角、背中には畳んだ蝙蝠の翼、先端がトランプでいうスペード似の細長い尻尾。 それらの特徴が、同性でも見惚れそうな大人の美女に揃っている。
淫魔のイメージとは程遠い水色ベースと白の水玉柄パジャマなのに、胸元が開いていてDくらいの谷間が色気を生み出していた。
さすがサキュバス、何気ない所作1つでも魅了してくるとは。
これが……元魔王軍幹部、アリアレス・ヘル・テオブロマ。
そしてエメルナこと、今の私のお姉ちゃん。
(なっ……何て言うか、やっと会えたね)
長い間一緒だったのに、オフ会みたいで気恥ずかしい。 そういうの行ったことないけれど。
お姉ちゃんもそんな感覚らしく、2人揃って恥ずかしそうに照れ笑いする。
「ごめんね。 サキュバスって、容姿で偏見を持たれやすいから、本当のこの姿を見せるのには、少し勇気が足りなくて。 あくまでも、頼れるお姉ちゃんでいたかったの」
でも私の性格を理解して、姿を現してくれたそうだ。
確かに、見た目に反して下ネタは少な目だったもんね。 もっと元男ってのをいじくり回されるかと思ってたもん。
この9ヶ月間、普通に頼れるお姉ちゃんだった。
「サキュバスってね、淫魔のイメージばかりが広まっているけれど、少なくともこっちの世界のサキュバスはそんなことないわ。 皆、心は人間と変わらない女の子だから」
だろうね。 魂を通して伝わるお姉ちゃんは凄く真面目で、責任感もあって、家族や友達の為なら苦労を惜しまない努力家だ。
とても淫乱には見えない。
むしろ婚期遅れそうで心配になるタイプ。
若くして出世した上司みたいな。 あっ、実際に元魔王軍幹部(事務職)だっけ。
(じゃあ、いつかこっちのR18じゃないサキュバスについて色々教えてね)
「あれぇ、今じゃなくて良いの?」
(今はほら、CM明けだし)
「あっ、そうだそうだ。 忘れてた!」
丁度、軟禁されているバニーガール姿の藤藁を探しに校庭へ向かう道のりから再開する。
画面を見ながら炬燵に戻る私達。
バラエティー番組にハマるサキュバスって……平和だなぁ~。
笑ってもいけないホスト48時が終わり、おもしろ宿が始まる前のCMが流れる。
(そう言えば、年越し蕎麦はどうする? ここなら気にする事も無いし、折角だから食べちゃおうか)
((だねぇ。 エビ天も乗せちゃおう!))
お姉ちゃんが両手をパンッと叩き、炬燵に2人前の天ぷら蕎麦が出現する。
便利過ぎる…………
いただきますして食べてみると、懐かしい鰹出汁に平たいタイプの蕎麦が口内を埋め尽くす。 鼻に抜ける香りも良い。
中央に盛られているネギを少し取り、次の蕎麦に巻き込んで食べる。 ネギはあまり好きじゃなかったけれど、この味の変化が今は嬉しい。
前方ではサクッと衣を噛み切るお姉ちゃんが、蕎麦との相性に感動していた。
「にしても、日本って面白い国ねぇ。 1年を通して色んな他国と自国の文化で賑わってて。 こっちじゃ自国の文化を大切にする人はいても、他国や異教の文化をこんなに楽しめる国なんてまず無いわよ」
言われてみれば。
バレンタイン、ハロウィン、クリスマス。 違和感なく普通と思っていたけど、これって意外と凄いこと?
異世界に来て、イベントが少ないと感じたのもそのせいか。
とはいえ、日本は他国の文化を大切にしていると言えるのかな? 最近のハロウィンはコスプレイベント化してきた印象が強いけど……
「カレーやあんパンみたいに、世間に馴染みやすく変化させた、と見る事も出来るんじゃない? あっ! だからエメルナちゃんは、サキュバスの私をすんなり受け入れてくれたのかしら」
多分それは、2次元の影響の方が強いと思う。 馴染みやすくってより、ネタに工夫しただけだ。
日本の2次元業界は宗教以上に多種多様だからね。 メイドするドラゴンやら、社畜魔王様やら、邪神ち〇んなんかもいる始末。
サキュバスだからって人間の敵とは限らない。
結局は個人差。 偏見を無くしたうえで、自分と合うかどうかでしょう?
「そう考えられる環境が、私を魅了しているのかもね」
結局、満腹になった私達はおもしろ宿を途中で終わらせ、炬燵の中で寝落ちした。
*
それから1ヶ月と少し。
生後11ヶ月目。
新たな歯が上下から2本ずつ生え、離乳食が完了期(幼児食)に進んだ頃。
「ママッ!」
喃語を始めて数週間、ついにお母さんを見上げてママと呼ぶまでに成長した。
お母さんが固まる中、一緒にぬいぐるみ遊びしていたお父さんが興奮しだし、ゆっくりお母さんが動きだす。
「今、ママって言ったの……?」
「? ………マぁマ」
ちょっとわざと首をかしげ、イントネーションをずらしてもう1度。
すると、みるみる瞳が潤み、涙が零れる寸前に抱き付かれた。
視界がお母さんの銀髪でいっぱいになる。
ちょっと締め付けが苦しいけど、暖かい。
耳元で嬉し泣きする母の息遣いを全身で感じながら、私は胸の内でお姉ちゃんと親指をグッ!と立てた。
((サプライズ大成功だね♪))
本当はフローラちゃんより1歩早く言ってあげたかったんだけどね。
結局タイミングがなかなか来ず、4日遅れの夜になってしまった。
お父さんとぬいぐるみ遊びしてる時に横を通りすぎるお母さんを呼び止める……って意外と難しい。
ぬいぐるみ遊びの内容によるからなぁ。 あれから青・赤・黄色の妖精人形も買ってもらい、おままごと紛いの遊びをする事が増えていった。
所謂、飛行機のおもちゃで「ブ~ン」ってやつだ。
フローラちゃんも買ってもらっていたから、赤ちゃん用玩具の定番なのかも。
何故イベントも無いこの時期にしたのかは、特に意味は無い。
「エメルナ~、パパは~?」
あっ。
忘れていた訳じゃないよ、お母さんに抱き付かれたままだったから。
お父さんの目をじっっくり見て……
「ババァ!」
ガクッと項垂れた。
ごめんね、いきなり言っちゃうのも不自然だから、ワンクッション挟ませてもらいます。
幼児食。 1日3食+おやつで充分な栄養を取れるようになり、栄養補給の意味での授乳は必要なくなる。
でも授乳は続けさせてもらっている。 終わると思うと、名残惜しくて……
大人よりは薄味だが、殆ど同じメニューも食べられるようになった。
私だけ少し高めの椅子に座り、スプーンを握って両親と似た食事をとる。 たまに零すのはご愛敬。 演技もあるけど、体がバランスを取りづらいせいだ。
今まで別メニューだったので、タイミングをずらして食べていたから、この家族団欒な食卓が懐かしい。
こうなって初めて知ったこともある。 両親が箸を使っているのだ。
考えてもみれば、戦争や魔獣対策で金属が高価な時代は手掴みか木を加工した物くらいだっただろうし、その文化が残っていても不思議じゃない。
木製のフォークなんて作りづらそうだし、木製のナイフって切れるのか?
((あぁ、それね。 多分偶然誰かが広めたんだと思うよ? 私の故郷じゃ木製のスプーンやヘラみたいなのも主流だったし。 国によっては、手掴みしやすい料理や包み紙が発展したんだって))
(ほぅ、それは楽しみだなぁ。 ライスペーパーやケバブみたいなのがあるかも)
2足歩行はまだ出来ない。 でも私もフローラちゃんも、立ち上がるまでは成功している。 すぐ座るけど。
歩くにはバランスを取るための筋肉が必要なのだ。 最近ではフローラちゃんとぬいぐるみ遊びしながら、壁で伝い歩く練習もしている。
((エメルナちゃんを真似してくるのかわいいよねぇ~♪))
分かる、萌え死にしそうになるもん。
最近では私を「ねね」と呼び、会う度に良い笑顔を魅せてくれる。 エレオノールさんが「エメルナお姉ちゃん」と呼んでいるのを真似たらしい。
にくい事をしてくれる。 いつかお礼しないといけないな。
そんな私は妹をどう略せば良いか以前に、妹という言葉を教わっていないので「フー」と呼んでいる。
私が「フー」と呼び始めて、フローラちゃんが「ねね」と呼び始めた流れだ。
夏もそうだったが、冬も室温は過ごしやすく調整されている。
と言ってもクーラーがあるわけではなく、夏は窓を開けて風を取り入れ、冬は暖炉で暖まっている。
憧れの暖炉に出会えるとは。 庶民なのに随分快適で助かった。
ファンタジー世界で0歳児とか危険過ぎるもんね。
「ねぇねっ!」
羊がワンコに頭突きする。
ヤバッ! 暖炉に見とれてた。
村長さん宅の暖炉、私好みのレトロ風味があってずっと眺めていられるのだ。
負けじとワンコも応戦するが、軽く立ち上がって宙に逃げられた。
飛んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?
妖精の動きで8の字に飛翔するモコモコ。 バトルしてたのかなぁ……? ほのぼの戯れてたつもりなのに。
合わせないと!
同じく立ち上がり飛翔するワンコ。 すると羊はワンコに向かって「めー!」と鳴き、地に降りるとお腹を見せて引っくり返った。
……えっと?
服従ですか?
そんなクリッとした眼差しで見つめられましても……
もしかして、私の番?
「わん!」と一吠え、地に降りて引っくり返る。
「ねぇね、めーぇ!」
何か違ったらしい。
えっと……。 再び立ち上がり、めーと鳴いて地に寝転ぶ。
「キャウワァ!♪」
満足したようだ。
笑顔が眩しい!
遠くからママ友の会話が聞こえる。
「あれ何やってるの?」
「あぁ、パパが教えた遊びなんです。 いろんな動きを真似させて、歩いたり言葉を覚えられればって、思い付いたそうですよ」
あっ、そういうことね。
だとしたらフローラちゃん、ワンコはワンッで合ってるんだよ!
だけどそれを伝えられないもどかしさ!! 確かに犬に見えないワンコだけど!
お母さんヘルプ!
私のワンコがハゲ羊にされちゃった!
5……4……3……2……1……
(((Happy New Year!!♪)))
ハッピーニューイヤーー!!
1月1日。 新年。
この村の年末を、私は1人、暗い部屋で過ごした。
眠たかったんだよぉ!!
心は楽しみだったのに、瞼が睡魔に抗えなかった。 そんな普段から大人しい私に気を許し、両親は居間で年越しを祝っている。
寝てる赤ちゃんの側で騒ぐわけにはいかないもんね。
おかげで異世界の新年のお祝いを見逃したわけだけれど、気を使われるよりは楽で良い。
それに、お姉ちゃんと姉妹水入らずで過ごせるのは、なにも悪いことじゃない。
デデ~ン♪
「中田、ハイキック」
恐がってもいけないのコーナーで、公衆電話の受話器から聞こえた4度目のハイキックに崩れ落ちる芸人に、お姉ちゃんが抱腹絶倒する。
私達は今、記憶にある最古のシリーズを復元し、夢世界で姉妹揃ってコタツムリになっていた。
年末年始ということで、私の要望により夢授業は一旦お休み。 気晴らしとして、今夜はオススメのバラエティ番組を見ることとなったのだ。
にしてもまさか夢の中だからって、ここまで鮮明に再現出来るとは思わなかった。 いや夢魔なめてたわ。 まだ再現出来てるのはこの1室だけってことだけれど、見たことのある番組しか見れないけれど……充分過ぎて泣きそうになる。
今日までの夢はずっと『イメージ』でしかなかったのに……これこそが本当の『夢の中』だ。
なんでも記憶を夢で再現するには、1度記憶を見て、それらを理解して構築していく必要があるらしい。 今までお姉ちゃんがイメージしかくれなかったのは、お姉ちゃんが私の記憶から見える範囲の前世の世界を、ずっと勉強していたからだ。 テレビとか炬燵とか、どういう用途の何なのか。 日中、私がお母さんと色々している間に私の記憶に入って、そんな風にずっと勉強していたんだとか。
つまり今の私達は、新コンテンツのダウンロードが済んで、漸くこっちの新エリアも遊べるようになった。 的な感じらしい。
私の体はお姉ちゃんが想像した10年後のエメルナになっている。 鏡は無いので、どうなっているかまでは分からない。
そういえば、転生してから鏡見てないな。 以前は10秒も直視してられなかったから、今世でも気にしたことすらなかったんだよね。
まぁ、戸すら引けないから部屋から出られないんだけど。
それはそうと、
((いやぁ、凄いねぇ♪ こんなに笑ったの初めてかも。 お腹痛ぁぃ))
いつも頼れるお姉ちゃんが、隣でこんなに素で爆笑しているのは、ちゃんと姉妹になれたみたいでなんだか嬉しい。
といっても、未だに姿は見れないんだけれどね。 気配みたいなのだけがそこにいる感じなので、幽霊を相手にしている気分だ。 早く姿も実装してほしいわ。
ちなみにこの異世界、正確な時計なんてないので、カウントダウンは番組のタイミングに合わせた。
それはそうと、お姉ちゃんに言わなければいけない事がある。
丁度CMに移ったことだし……炬燵から出て向かいのお姉ちゃんに正座する。
(お姉ちゃん、新年あけましておめでとうございます。 今年も宜しくお願いします♪)
((ぁっ……))
一拍おいて、お姉ちゃんも炬燵から抜け出し、私の向かいに正座した。
(おっ!?)
「あけましておめでとう♪ 今年も宜しくお願いします、ね♪」
いきなり、炬燵の向こうにお姉ちゃんが現れた。
肩甲骨辺りまで伸びた滑らかな黒髪の頭には羊型の赤黒い角、背中には畳んだ蝙蝠の翼、先端がトランプでいうスペード似の細長い尻尾。 それらの特徴が、同性でも見惚れそうな大人の美女に揃っている。
淫魔のイメージとは程遠い水色ベースと白の水玉柄パジャマなのに、胸元が開いていてDくらいの谷間が色気を生み出していた。
さすがサキュバス、何気ない所作1つでも魅了してくるとは。
これが……元魔王軍幹部、アリアレス・ヘル・テオブロマ。
そしてエメルナこと、今の私のお姉ちゃん。
(なっ……何て言うか、やっと会えたね)
長い間一緒だったのに、オフ会みたいで気恥ずかしい。 そういうの行ったことないけれど。
お姉ちゃんもそんな感覚らしく、2人揃って恥ずかしそうに照れ笑いする。
「ごめんね。 サキュバスって、容姿で偏見を持たれやすいから、本当のこの姿を見せるのには、少し勇気が足りなくて。 あくまでも、頼れるお姉ちゃんでいたかったの」
でも私の性格を理解して、姿を現してくれたそうだ。
確かに、見た目に反して下ネタは少な目だったもんね。 もっと元男ってのをいじくり回されるかと思ってたもん。
この9ヶ月間、普通に頼れるお姉ちゃんだった。
「サキュバスってね、淫魔のイメージばかりが広まっているけれど、少なくともこっちの世界のサキュバスはそんなことないわ。 皆、心は人間と変わらない女の子だから」
だろうね。 魂を通して伝わるお姉ちゃんは凄く真面目で、責任感もあって、家族や友達の為なら苦労を惜しまない努力家だ。
とても淫乱には見えない。
むしろ婚期遅れそうで心配になるタイプ。
若くして出世した上司みたいな。 あっ、実際に元魔王軍幹部(事務職)だっけ。
(じゃあ、いつかこっちのR18じゃないサキュバスについて色々教えてね)
「あれぇ、今じゃなくて良いの?」
(今はほら、CM明けだし)
「あっ、そうだそうだ。 忘れてた!」
丁度、軟禁されているバニーガール姿の藤藁を探しに校庭へ向かう道のりから再開する。
画面を見ながら炬燵に戻る私達。
バラエティー番組にハマるサキュバスって……平和だなぁ~。
笑ってもいけないホスト48時が終わり、おもしろ宿が始まる前のCMが流れる。
(そう言えば、年越し蕎麦はどうする? ここなら気にする事も無いし、折角だから食べちゃおうか)
((だねぇ。 エビ天も乗せちゃおう!))
お姉ちゃんが両手をパンッと叩き、炬燵に2人前の天ぷら蕎麦が出現する。
便利過ぎる…………
いただきますして食べてみると、懐かしい鰹出汁に平たいタイプの蕎麦が口内を埋め尽くす。 鼻に抜ける香りも良い。
中央に盛られているネギを少し取り、次の蕎麦に巻き込んで食べる。 ネギはあまり好きじゃなかったけれど、この味の変化が今は嬉しい。
前方ではサクッと衣を噛み切るお姉ちゃんが、蕎麦との相性に感動していた。
「にしても、日本って面白い国ねぇ。 1年を通して色んな他国と自国の文化で賑わってて。 こっちじゃ自国の文化を大切にする人はいても、他国や異教の文化をこんなに楽しめる国なんてまず無いわよ」
言われてみれば。
バレンタイン、ハロウィン、クリスマス。 違和感なく普通と思っていたけど、これって意外と凄いこと?
異世界に来て、イベントが少ないと感じたのもそのせいか。
とはいえ、日本は他国の文化を大切にしていると言えるのかな? 最近のハロウィンはコスプレイベント化してきた印象が強いけど……
「カレーやあんパンみたいに、世間に馴染みやすく変化させた、と見る事も出来るんじゃない? あっ! だからエメルナちゃんは、サキュバスの私をすんなり受け入れてくれたのかしら」
多分それは、2次元の影響の方が強いと思う。 馴染みやすくってより、ネタに工夫しただけだ。
日本の2次元業界は宗教以上に多種多様だからね。 メイドするドラゴンやら、社畜魔王様やら、邪神ち〇んなんかもいる始末。
サキュバスだからって人間の敵とは限らない。
結局は個人差。 偏見を無くしたうえで、自分と合うかどうかでしょう?
「そう考えられる環境が、私を魅了しているのかもね」
結局、満腹になった私達はおもしろ宿を途中で終わらせ、炬燵の中で寝落ちした。
*
それから1ヶ月と少し。
生後11ヶ月目。
新たな歯が上下から2本ずつ生え、離乳食が完了期(幼児食)に進んだ頃。
「ママッ!」
喃語を始めて数週間、ついにお母さんを見上げてママと呼ぶまでに成長した。
お母さんが固まる中、一緒にぬいぐるみ遊びしていたお父さんが興奮しだし、ゆっくりお母さんが動きだす。
「今、ママって言ったの……?」
「? ………マぁマ」
ちょっとわざと首をかしげ、イントネーションをずらしてもう1度。
すると、みるみる瞳が潤み、涙が零れる寸前に抱き付かれた。
視界がお母さんの銀髪でいっぱいになる。
ちょっと締め付けが苦しいけど、暖かい。
耳元で嬉し泣きする母の息遣いを全身で感じながら、私は胸の内でお姉ちゃんと親指をグッ!と立てた。
((サプライズ大成功だね♪))
本当はフローラちゃんより1歩早く言ってあげたかったんだけどね。
結局タイミングがなかなか来ず、4日遅れの夜になってしまった。
お父さんとぬいぐるみ遊びしてる時に横を通りすぎるお母さんを呼び止める……って意外と難しい。
ぬいぐるみ遊びの内容によるからなぁ。 あれから青・赤・黄色の妖精人形も買ってもらい、おままごと紛いの遊びをする事が増えていった。
所謂、飛行機のおもちゃで「ブ~ン」ってやつだ。
フローラちゃんも買ってもらっていたから、赤ちゃん用玩具の定番なのかも。
何故イベントも無いこの時期にしたのかは、特に意味は無い。
「エメルナ~、パパは~?」
あっ。
忘れていた訳じゃないよ、お母さんに抱き付かれたままだったから。
お父さんの目をじっっくり見て……
「ババァ!」
ガクッと項垂れた。
ごめんね、いきなり言っちゃうのも不自然だから、ワンクッション挟ませてもらいます。
幼児食。 1日3食+おやつで充分な栄養を取れるようになり、栄養補給の意味での授乳は必要なくなる。
でも授乳は続けさせてもらっている。 終わると思うと、名残惜しくて……
大人よりは薄味だが、殆ど同じメニューも食べられるようになった。
私だけ少し高めの椅子に座り、スプーンを握って両親と似た食事をとる。 たまに零すのはご愛敬。 演技もあるけど、体がバランスを取りづらいせいだ。
今まで別メニューだったので、タイミングをずらして食べていたから、この家族団欒な食卓が懐かしい。
こうなって初めて知ったこともある。 両親が箸を使っているのだ。
考えてもみれば、戦争や魔獣対策で金属が高価な時代は手掴みか木を加工した物くらいだっただろうし、その文化が残っていても不思議じゃない。
木製のフォークなんて作りづらそうだし、木製のナイフって切れるのか?
((あぁ、それね。 多分偶然誰かが広めたんだと思うよ? 私の故郷じゃ木製のスプーンやヘラみたいなのも主流だったし。 国によっては、手掴みしやすい料理や包み紙が発展したんだって))
(ほぅ、それは楽しみだなぁ。 ライスペーパーやケバブみたいなのがあるかも)
2足歩行はまだ出来ない。 でも私もフローラちゃんも、立ち上がるまでは成功している。 すぐ座るけど。
歩くにはバランスを取るための筋肉が必要なのだ。 最近ではフローラちゃんとぬいぐるみ遊びしながら、壁で伝い歩く練習もしている。
((エメルナちゃんを真似してくるのかわいいよねぇ~♪))
分かる、萌え死にしそうになるもん。
最近では私を「ねね」と呼び、会う度に良い笑顔を魅せてくれる。 エレオノールさんが「エメルナお姉ちゃん」と呼んでいるのを真似たらしい。
にくい事をしてくれる。 いつかお礼しないといけないな。
そんな私は妹をどう略せば良いか以前に、妹という言葉を教わっていないので「フー」と呼んでいる。
私が「フー」と呼び始めて、フローラちゃんが「ねね」と呼び始めた流れだ。
夏もそうだったが、冬も室温は過ごしやすく調整されている。
と言ってもクーラーがあるわけではなく、夏は窓を開けて風を取り入れ、冬は暖炉で暖まっている。
憧れの暖炉に出会えるとは。 庶民なのに随分快適で助かった。
ファンタジー世界で0歳児とか危険過ぎるもんね。
「ねぇねっ!」
羊がワンコに頭突きする。
ヤバッ! 暖炉に見とれてた。
村長さん宅の暖炉、私好みのレトロ風味があってずっと眺めていられるのだ。
負けじとワンコも応戦するが、軽く立ち上がって宙に逃げられた。
飛んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?
妖精の動きで8の字に飛翔するモコモコ。 バトルしてたのかなぁ……? ほのぼの戯れてたつもりなのに。
合わせないと!
同じく立ち上がり飛翔するワンコ。 すると羊はワンコに向かって「めー!」と鳴き、地に降りるとお腹を見せて引っくり返った。
……えっと?
服従ですか?
そんなクリッとした眼差しで見つめられましても……
もしかして、私の番?
「わん!」と一吠え、地に降りて引っくり返る。
「ねぇね、めーぇ!」
何か違ったらしい。
えっと……。 再び立ち上がり、めーと鳴いて地に寝転ぶ。
「キャウワァ!♪」
満足したようだ。
笑顔が眩しい!
遠くからママ友の会話が聞こえる。
「あれ何やってるの?」
「あぁ、パパが教えた遊びなんです。 いろんな動きを真似させて、歩いたり言葉を覚えられればって、思い付いたそうですよ」
あっ、そういうことね。
だとしたらフローラちゃん、ワンコはワンッで合ってるんだよ!
だけどそれを伝えられないもどかしさ!! 確かに犬に見えないワンコだけど!
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