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餓鬼2
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((何で……多すぎるでしょ))
ゴブリンの足跡が発見された森と隣接している畜産地区の牧場は、農業地区の畑と同じくらい広くスペースを取っており、家畜達が厩舎に帰っているこの時間帯であれば攻撃魔法をバカスカ撃とうが何に遮られることもない。 多対多の衝突としては都合が良い。
逆に住宅街は民家が並び、真夏日のような照明の魔法が村の空をカバーしていようが、細い道や曲がり角の先にゴブリンが何体潜んでいるのかは分からない。 奇襲は野生の専売特許だ。
しかしよりにもよって住宅街で戦闘だなんて……強力な魔法なんて勿論使えないし、夜が明けたとしても何処に何体潜んでいるのか分からない以上、数ヶ月間警戒を解けない長期戦は避けられない。
面倒な事を……!
「……レムリアさん!」
忌々しく思っているとシスターちゃんがそう叫んだ。
(えっ!? どこに!?)と窓から外を探す前にシスターちゃんが走りだす。 さっきは見当たらなかったけど……お姉ちゃんに聞いても((見えなかったよ?))と困惑していた。
階段を駆け降り、ギルドのホールに入る。
「消毒持ってきて!」
「ポーション追加来ましたー! 配ってくださーい!」
「呼吸戻りました! しっかりしてください!」
「骨折! 腕1、足1! 添え木と包帯持ってきて!」
「先生来ました!!」
「黄色から診てってもらって! 手術は指示に従ってよ!」
「はい!」
いつの間にかホールは野戦病院と化していた。
(こんなに負傷者がいたなんて……)
室内は熱気と極限の緊張感で蒸し暑く、血と汗と消毒液の臭いで充満している。 所々で食いしばる呻きや、傷口を抉るような悲鳴も聞こえてきた。
「うぅぁっと! ……エレスチャルちゃん?」
放心していると、シスターちゃんの背後に丸メガネさんが包帯の入った木箱を抱えて立っていた。
「エメルナちゃんまで!? ダメですよぉ会議室で待ってなきゃ!」
「あのっ、これって……どこからこんなに怪我人が?」
二階から見た防衛線はそんなに苦戦しているようには見えなかったのに。 つまり被害が大きいのは、
「……えっとね、住宅街の外からも侵入されたらしくて、念のため潜伏していた自警団さん達の奇襲は成功したんだけど、数が多くて乱戦になっちゃったんだって。 ギルマスの魔法で明るくできたから戦いやすくなって、負傷した人達をやっと運び込めたの」
「住宅街…………あの私、レムリアさんを助けに行きたいんです!」
「助けに? ……シエルナさん家でお留守番してるんだったよね? 外に出なければ大丈夫だと思うけ――」
「クラスプさん包帯あったぁ!?」
「――あっ、はい今行きます! ごめんね急いでるからっ。 外に出ちゃ駄目だからね!」
横にどいたシスターちゃんを通り過ぎ、丸メガネさんは受付カウンターへと走っていった。
グッと、私を支える腕に力が入る。
「どうしよ……レムリアさんに何かあったら」
震えるか細い呟きに、胸が締め付けられる思いになった。
駄目だなぁ……私は生まれ変わってもこういうのに弱いらしい。
前世の頃、自分は誰かの役に立ちたかった。
頼られる、誰かを助けられる主人公に憧れた。
でも結局、そのための努力なんて少しもしたことすら無くて、「もし目の前で引ったくりがあったら誰よりも先に動こう」「泣いてる迷子がいたら助けてあげよう」なんて言い訳じみた妄想ばかり。
ずっと役立ずのままで終わってしまった。 油断で親より先に死ぬとか、最低だよな。
今、俺の目の前には不安に押し流されそうな女の子が震えている。
助けになりたい。 心からそう思ったのは彼女のためか、それとも自分のためなのか。
(お姉ちゃん……)
((だっ……駄目だよ! 襲われたらどうするの?!))
(でも、お姉ちゃんだって行きたいんだよね?)
((っ!? …………うん))
私から心は読めないけど、感情は少なからず伝わってくる。 今まで敢えて触れなてこなかったのだが、心根を指摘されるのに慣れていなかったお姉ちゃんが素直に頷く。
私達の間で隠し事は難しい。 特に感情の変化や嘘偽りは。
今、お姉ちゃんは過去の経験から、その時の不安をまだ引きずっている。 経験の内容までは分からないけど、そんな感情だけは伝わってきた。
そして、お姉ちゃんならなんとかできるかもしれない考えを話していないって事も。
((それも伝わっちゃうんだ……絶対行くって言いそうだったもん))
躊躇いと共感に心が揺れる。
心配してくれているのは嬉しいよ? でもここで止めて、一人でいるレムリアさんが手遅れになったら二度と立ち直れない。
やる事は簡単だ、事情を話して誰かに付き添ってもらい、レムリアさんを保護してここに避難すればいい。 いつまで持続しているか知らないけど、外が明るい今なら不可能じゃない筈だ。
私達だけで全てを解決しなければいけないルールなんて無いんだし。
((何で一緒に行く前提なのかなぁ……))
となると問題なのは、どうやってそれをシスターちゃんに伝えるかだけど。
喋れる単語は少ない、更には喃語限定のハンデ付き。 加えて、1歳児が口にする程度の語彙で察してもらわないといけない。
私にやれるか? ……いや、やるしかない。
「どうしよ……私シスターなのに……」
シスターちゃん、責任感と焦りから抜け出せないでいるようだ。 あまり追い詰められ過ぎると独りで行ってしまうかもしれない。
大人に……は難しいか。
目の前にいるのは走り回っているか、負傷者の手当てに付きっきりの人ばかり。 子供が話し掛けられる雰囲気じゃない。
そもそもレムリアさんが、助けに行かないと危険なほどの状態にあるのかも分からない。 丸メガネさんを信じるなら、家に侵入されるとは限らないし、籠っていれば何処よりも安全な可能性だってある。
「助けに行きたい」だけでは、急を要する人に無理を通して着いてきてもらえる程の説得材料にはなりえない。
私まで、無理に動かない方が良いのではと思えてきた。
(でも……レムリアさんの性格からして、隠れているだけなんて出来るかな?)
レムリアさんはシスターだ。
窓の外で血を流した人が倒れていたら?
まさに今、ゴブリンに殺されそうになっている人を見てしまったら?
出ていって助けようとするかもしれない。 だってあの人は、自分を犠牲にするほど心優しいシスターさんなんだから。
シスターちゃんが恐れているのはそれだろう。
だとしたらどうする、その事を伝えさせる? 場に呑まれ畏縮したシスターちゃんに上手く説明できる余裕があるとは思えない。
無理を通して話しても、子供の心配事を真剣に受け取ってくれる人がいるのだろうか。
さっきも考えた通り、外に出なければほぼ安全なのだ。 それを知っていても飛び出す人がいる事を、この状況で伝えるのは難しい。
お母さんがいてくれれば……
(……………………お母さん?)
そうだ!
「にぃに!」
「えっ? ……エメルナちゃん、なにを」
「にぃにぃ~!」
大人に不安があるなら、歳の近い子供に言えばいい。
親の友達としてレムリアさんと面識があるであろう、職員に信頼されている子供が一人だけいる!
「にぃに! にぃにぃ~!」
「…………ぁっ」
うつむいていたシスターちゃんが顔を上げて走り出す。
丸メガネさんに。
「あの! ネロリくんって何処にいますか!」
「ふぇ? 倉庫で消耗した数を記録してるけど……」
「倉庫どこですか!」
丸メガネさんに連れてってもらい、一階奥の倉庫に着く。 そこでは数人の職員が武器防具の洗浄をし、中にはフローラ兄の姿もあった。
「ネロリくん!」
「どうかし……ってエメルナちゃんまで、何でここに」
あんまり意識させないでほしいなぁ。 置いていかれるじゃん。 気配を断ってみようかな……思いっきり目立ってるけど。
そんなことよりと、シスターちゃんが付き添ってもらえるよう説得する。
聞いて、考え込むフローラ兄と、オーバーリアクションな丸メガネさん。
「大変じゃないですか!? 早く助けに行かないと!」
「待ってください、誰が付き添うんですか。 満身創痍で運ばれてきた人ばかりなんですよね?」
そう、それを介抱する職員も含めて人手は空いてない。 動ける者は新しくチームを組んで出ているだろうし。
あとちょっとなのに……
「多分、それなら大丈夫ですよ?」
丸メガネさんに視線が集まる。
「ついさっき診療所の皆さんが到着したので、解毒待ちだった比較的軽傷の方々と、それに付き添っている職員の合計27名が行動出来るようになる頃です。 今なら強力してくれるかもしれません!」
(マジか……なら復帰する前に急がないと)
「行っても良いが、君はここに残るべきだ」
「嫌です、待っていられません!」
やけに強気に食い下がるシスターちゃんに、今しがた治療を終えた自警団の数名が危険を訴える。
実体験なだけに生々しいが、シスターちゃんは一歩も退かなかった。 この子声を掛けるのが苦手なだけで、切っ掛けさえあればグイグイいくのな。
「レムリアさんは私の唯一の家族なんです。 それに皆さんはレムリアさんの顔をご存じないんですよね」
「知らないって訳じゃ……」
歯切れが悪い。 目を泳がせている奴もいる。
(分かるよぉ~……『白いシスター』のイメージが強すぎるんだよね。 あの格好だと髪色も分からないし、今はパジャマ姿だし)
「今のレムリアさんは修道服姿ではない筈です。 もし行き違いになったりしたら、皆さんだけでは誰がレムリアさんか分からないです!」
なんだろう、この説得力……
考えたくないが、道端で倒れている可能性だってありえるからね。 そうなれば彼らだけでの捜索は断念せざるおえない。
倒れている人を放っておくとは思えないけど、最悪の場合はそのまま放置され、私達はいつまでも待ち続けることになる。
最悪の場合じゃなくても、雪の中での真珠色は紛らわしい。 ホッキョクグマみたいに。
結果、「じゃぁ一人ででも行きます!」と言い放った気迫に折れ、私達は自警団に着いていけることとなった。
防寒着を着るために一度机に下ろされ、私にも着せてくれる。
「ちょっと待て、その子も連れていく気か!?」
(あぁ~……さすがにアウトだよね)
潜伏スキルや認識阻害じゃない、ただ黙っていただけなんだから。
お姉ちゃんも半分残念そうだ。
((ここまでね。 大人しく会議室で待――))
「もちろん、連れていきます!」
「「(((えぇぇぇぇぇぇぇ!!??)))」」
私とお姉ちゃん、丸メガネさんにフローラ兄までもがハモった。
良いの!? 両手塞がっちゃうけど。
おじさんも困ってる。
「いくらなんでもその子は……」
「この子、変なんです!」
(んな変な叔父さんみたいに!)
「妙なところで賢いというか……私が動けるようになったのもこの子のおかげなんです。 この子もレムリアさんを心配しています、だから行きます!」
おぉ、ちょっと気になる発言もあったけど、概ね信頼してくれているようで嬉しい。
レムリアさんを心配する気持ちが伝わったのかな。
この子は言っても聞かなそうだ……既に折れていた自警団に、シスターちゃんを納得させる術は持ち合わせておらず。 てか何言われても無視して私を抱え直し「では、お願いします」と無敵状態(脅し)になったシスターちゃんを止められる者はここにはいなかった。
(そうだ!)
良いこと思い付いた。 これなら私でも撃退できるかも。
それが無理でもサポートくらいは可能な筈だ。
……バレないよね?
((う~ん……ゆっくり少しずつなら、1回分くらいは作れるかな))
お姉ちゃんのお墨付きも貰い、丸メガネさんとフローラ兄にお母さん達への言い訳を託し、私達は商業ギルドを出立した。
よし、歩きながら作るか。
ゴブリンの足跡が発見された森と隣接している畜産地区の牧場は、農業地区の畑と同じくらい広くスペースを取っており、家畜達が厩舎に帰っているこの時間帯であれば攻撃魔法をバカスカ撃とうが何に遮られることもない。 多対多の衝突としては都合が良い。
逆に住宅街は民家が並び、真夏日のような照明の魔法が村の空をカバーしていようが、細い道や曲がり角の先にゴブリンが何体潜んでいるのかは分からない。 奇襲は野生の専売特許だ。
しかしよりにもよって住宅街で戦闘だなんて……強力な魔法なんて勿論使えないし、夜が明けたとしても何処に何体潜んでいるのか分からない以上、数ヶ月間警戒を解けない長期戦は避けられない。
面倒な事を……!
「……レムリアさん!」
忌々しく思っているとシスターちゃんがそう叫んだ。
(えっ!? どこに!?)と窓から外を探す前にシスターちゃんが走りだす。 さっきは見当たらなかったけど……お姉ちゃんに聞いても((見えなかったよ?))と困惑していた。
階段を駆け降り、ギルドのホールに入る。
「消毒持ってきて!」
「ポーション追加来ましたー! 配ってくださーい!」
「呼吸戻りました! しっかりしてください!」
「骨折! 腕1、足1! 添え木と包帯持ってきて!」
「先生来ました!!」
「黄色から診てってもらって! 手術は指示に従ってよ!」
「はい!」
いつの間にかホールは野戦病院と化していた。
(こんなに負傷者がいたなんて……)
室内は熱気と極限の緊張感で蒸し暑く、血と汗と消毒液の臭いで充満している。 所々で食いしばる呻きや、傷口を抉るような悲鳴も聞こえてきた。
「うぅぁっと! ……エレスチャルちゃん?」
放心していると、シスターちゃんの背後に丸メガネさんが包帯の入った木箱を抱えて立っていた。
「エメルナちゃんまで!? ダメですよぉ会議室で待ってなきゃ!」
「あのっ、これって……どこからこんなに怪我人が?」
二階から見た防衛線はそんなに苦戦しているようには見えなかったのに。 つまり被害が大きいのは、
「……えっとね、住宅街の外からも侵入されたらしくて、念のため潜伏していた自警団さん達の奇襲は成功したんだけど、数が多くて乱戦になっちゃったんだって。 ギルマスの魔法で明るくできたから戦いやすくなって、負傷した人達をやっと運び込めたの」
「住宅街…………あの私、レムリアさんを助けに行きたいんです!」
「助けに? ……シエルナさん家でお留守番してるんだったよね? 外に出なければ大丈夫だと思うけ――」
「クラスプさん包帯あったぁ!?」
「――あっ、はい今行きます! ごめんね急いでるからっ。 外に出ちゃ駄目だからね!」
横にどいたシスターちゃんを通り過ぎ、丸メガネさんは受付カウンターへと走っていった。
グッと、私を支える腕に力が入る。
「どうしよ……レムリアさんに何かあったら」
震えるか細い呟きに、胸が締め付けられる思いになった。
駄目だなぁ……私は生まれ変わってもこういうのに弱いらしい。
前世の頃、自分は誰かの役に立ちたかった。
頼られる、誰かを助けられる主人公に憧れた。
でも結局、そのための努力なんて少しもしたことすら無くて、「もし目の前で引ったくりがあったら誰よりも先に動こう」「泣いてる迷子がいたら助けてあげよう」なんて言い訳じみた妄想ばかり。
ずっと役立ずのままで終わってしまった。 油断で親より先に死ぬとか、最低だよな。
今、俺の目の前には不安に押し流されそうな女の子が震えている。
助けになりたい。 心からそう思ったのは彼女のためか、それとも自分のためなのか。
(お姉ちゃん……)
((だっ……駄目だよ! 襲われたらどうするの?!))
(でも、お姉ちゃんだって行きたいんだよね?)
((っ!? …………うん))
私から心は読めないけど、感情は少なからず伝わってくる。 今まで敢えて触れなてこなかったのだが、心根を指摘されるのに慣れていなかったお姉ちゃんが素直に頷く。
私達の間で隠し事は難しい。 特に感情の変化や嘘偽りは。
今、お姉ちゃんは過去の経験から、その時の不安をまだ引きずっている。 経験の内容までは分からないけど、そんな感情だけは伝わってきた。
そして、お姉ちゃんならなんとかできるかもしれない考えを話していないって事も。
((それも伝わっちゃうんだ……絶対行くって言いそうだったもん))
躊躇いと共感に心が揺れる。
心配してくれているのは嬉しいよ? でもここで止めて、一人でいるレムリアさんが手遅れになったら二度と立ち直れない。
やる事は簡単だ、事情を話して誰かに付き添ってもらい、レムリアさんを保護してここに避難すればいい。 いつまで持続しているか知らないけど、外が明るい今なら不可能じゃない筈だ。
私達だけで全てを解決しなければいけないルールなんて無いんだし。
((何で一緒に行く前提なのかなぁ……))
となると問題なのは、どうやってそれをシスターちゃんに伝えるかだけど。
喋れる単語は少ない、更には喃語限定のハンデ付き。 加えて、1歳児が口にする程度の語彙で察してもらわないといけない。
私にやれるか? ……いや、やるしかない。
「どうしよ……私シスターなのに……」
シスターちゃん、責任感と焦りから抜け出せないでいるようだ。 あまり追い詰められ過ぎると独りで行ってしまうかもしれない。
大人に……は難しいか。
目の前にいるのは走り回っているか、負傷者の手当てに付きっきりの人ばかり。 子供が話し掛けられる雰囲気じゃない。
そもそもレムリアさんが、助けに行かないと危険なほどの状態にあるのかも分からない。 丸メガネさんを信じるなら、家に侵入されるとは限らないし、籠っていれば何処よりも安全な可能性だってある。
「助けに行きたい」だけでは、急を要する人に無理を通して着いてきてもらえる程の説得材料にはなりえない。
私まで、無理に動かない方が良いのではと思えてきた。
(でも……レムリアさんの性格からして、隠れているだけなんて出来るかな?)
レムリアさんはシスターだ。
窓の外で血を流した人が倒れていたら?
まさに今、ゴブリンに殺されそうになっている人を見てしまったら?
出ていって助けようとするかもしれない。 だってあの人は、自分を犠牲にするほど心優しいシスターさんなんだから。
シスターちゃんが恐れているのはそれだろう。
だとしたらどうする、その事を伝えさせる? 場に呑まれ畏縮したシスターちゃんに上手く説明できる余裕があるとは思えない。
無理を通して話しても、子供の心配事を真剣に受け取ってくれる人がいるのだろうか。
さっきも考えた通り、外に出なければほぼ安全なのだ。 それを知っていても飛び出す人がいる事を、この状況で伝えるのは難しい。
お母さんがいてくれれば……
(……………………お母さん?)
そうだ!
「にぃに!」
「えっ? ……エメルナちゃん、なにを」
「にぃにぃ~!」
大人に不安があるなら、歳の近い子供に言えばいい。
親の友達としてレムリアさんと面識があるであろう、職員に信頼されている子供が一人だけいる!
「にぃに! にぃにぃ~!」
「…………ぁっ」
うつむいていたシスターちゃんが顔を上げて走り出す。
丸メガネさんに。
「あの! ネロリくんって何処にいますか!」
「ふぇ? 倉庫で消耗した数を記録してるけど……」
「倉庫どこですか!」
丸メガネさんに連れてってもらい、一階奥の倉庫に着く。 そこでは数人の職員が武器防具の洗浄をし、中にはフローラ兄の姿もあった。
「ネロリくん!」
「どうかし……ってエメルナちゃんまで、何でここに」
あんまり意識させないでほしいなぁ。 置いていかれるじゃん。 気配を断ってみようかな……思いっきり目立ってるけど。
そんなことよりと、シスターちゃんが付き添ってもらえるよう説得する。
聞いて、考え込むフローラ兄と、オーバーリアクションな丸メガネさん。
「大変じゃないですか!? 早く助けに行かないと!」
「待ってください、誰が付き添うんですか。 満身創痍で運ばれてきた人ばかりなんですよね?」
そう、それを介抱する職員も含めて人手は空いてない。 動ける者は新しくチームを組んで出ているだろうし。
あとちょっとなのに……
「多分、それなら大丈夫ですよ?」
丸メガネさんに視線が集まる。
「ついさっき診療所の皆さんが到着したので、解毒待ちだった比較的軽傷の方々と、それに付き添っている職員の合計27名が行動出来るようになる頃です。 今なら強力してくれるかもしれません!」
(マジか……なら復帰する前に急がないと)
「行っても良いが、君はここに残るべきだ」
「嫌です、待っていられません!」
やけに強気に食い下がるシスターちゃんに、今しがた治療を終えた自警団の数名が危険を訴える。
実体験なだけに生々しいが、シスターちゃんは一歩も退かなかった。 この子声を掛けるのが苦手なだけで、切っ掛けさえあればグイグイいくのな。
「レムリアさんは私の唯一の家族なんです。 それに皆さんはレムリアさんの顔をご存じないんですよね」
「知らないって訳じゃ……」
歯切れが悪い。 目を泳がせている奴もいる。
(分かるよぉ~……『白いシスター』のイメージが強すぎるんだよね。 あの格好だと髪色も分からないし、今はパジャマ姿だし)
「今のレムリアさんは修道服姿ではない筈です。 もし行き違いになったりしたら、皆さんだけでは誰がレムリアさんか分からないです!」
なんだろう、この説得力……
考えたくないが、道端で倒れている可能性だってありえるからね。 そうなれば彼らだけでの捜索は断念せざるおえない。
倒れている人を放っておくとは思えないけど、最悪の場合はそのまま放置され、私達はいつまでも待ち続けることになる。
最悪の場合じゃなくても、雪の中での真珠色は紛らわしい。 ホッキョクグマみたいに。
結果、「じゃぁ一人ででも行きます!」と言い放った気迫に折れ、私達は自警団に着いていけることとなった。
防寒着を着るために一度机に下ろされ、私にも着せてくれる。
「ちょっと待て、その子も連れていく気か!?」
(あぁ~……さすがにアウトだよね)
潜伏スキルや認識阻害じゃない、ただ黙っていただけなんだから。
お姉ちゃんも半分残念そうだ。
((ここまでね。 大人しく会議室で待――))
「もちろん、連れていきます!」
「「(((えぇぇぇぇぇぇぇ!!??)))」」
私とお姉ちゃん、丸メガネさんにフローラ兄までもがハモった。
良いの!? 両手塞がっちゃうけど。
おじさんも困ってる。
「いくらなんでもその子は……」
「この子、変なんです!」
(んな変な叔父さんみたいに!)
「妙なところで賢いというか……私が動けるようになったのもこの子のおかげなんです。 この子もレムリアさんを心配しています、だから行きます!」
おぉ、ちょっと気になる発言もあったけど、概ね信頼してくれているようで嬉しい。
レムリアさんを心配する気持ちが伝わったのかな。
この子は言っても聞かなそうだ……既に折れていた自警団に、シスターちゃんを納得させる術は持ち合わせておらず。 てか何言われても無視して私を抱え直し「では、お願いします」と無敵状態(脅し)になったシスターちゃんを止められる者はここにはいなかった。
(そうだ!)
良いこと思い付いた。 これなら私でも撃退できるかも。
それが無理でもサポートくらいは可能な筈だ。
……バレないよね?
((う~ん……ゆっくり少しずつなら、1回分くらいは作れるかな))
お姉ちゃんのお墨付きも貰い、丸メガネさんとフローラ兄にお母さん達への言い訳を託し、私達は商業ギルドを出立した。
よし、歩きながら作るか。
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