サキュバスお姉ちゃんとの転性妹成長記

黒月 明

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サプライズ2

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「ま、この問題は今解決できる案もないし、次の用件にうつりましょ。 したい話しはこれだけじゃないんだから」

 しんみりしそうだった空気を、トムねぇが引っ張り上げる。
 皆が聞く姿勢になったのを確認し、満足そうに頷いた。

「移住希望者は今のところ1人もいないわ」
「悪い空気にとどめ刺しそうな話題なんだが……」

 お父さんのジト目にジト目で睨み返す。

「仕方ないじゃない、良い報告の方が少ないんだから」

 てことは、少しはあるのか。
 期待していると、トムねぇは次々とまくし立てた。

「工芸品の売り上げもまちまちね、悪くはないけど望み薄。 農産物関係もライバルが多すぎて目立ってないし、毛皮や布・糸は量産できる状況にさえなれば、少しは需要じゅようがあるんだけど……ね。 木材だってどこにでもあるから安価だし、安定しているのは油脂くらいかしら」

 そこにきての移住希望者0、か。

(あれ? 詰んでね?)

 だって、税収を上げるには村外からの収入が必須となる。 そのために手っ取り早いのは商人相手の売買だ。
 仕事上の取り引きは勿論、宿泊費・食費・馬車の整備・馬の世話等でお金を使ってくれる。
 護衛の冒険者や御者も同様に。 だからこそ、この村では保存食に力を入れてきた。 店の品数と量を見て察しただけだけど。
 懇意こんいになれれば固定客として安定するし、美味しい料理や目玉スポットがあれば、良い評判を広めてもらい、客も増やせる。
 だがそのためには人員が必要不可欠であり、移住者を増やすには、どこにもない、ここだけの魅力が重要視される。
 貧しいから鶏に卵を産んでもらいたいのに、鶏を買う金と餌代と小屋と維持費が無い……って感覚かな。
 どうしようもない。
 お父さんが落胆する。

「良い報告が1つも無かったのだが?」
「私は好きな物は最後に食べる主義なの。 シシリー!」
「はい」

 鞄から数枚の書類を取り出し、トムねぇに手渡す。
 それをフローラ父に差し出した。

「水質調査の結果が出たの。 有害物質は検出されなかったから、これで上水道工事に持っていけるわ」

 「おぉ~!」と4人から喚声が上がる。
 上水道工事?
 魔石と刻印魔法陣で、必要無いんじゃなかったっけ?
 そもそも水質って……池でもあったのだろうか。 農業やってるんだから、溜め池くらいあるだろうけれど。
 それとも、山から美味しい湧き水でも汲めるとか? それなら質によっては地酒に使えるかも。
 もし生息しているならば、蛍なんかも期待できる。 前世じゃぁ田んぼでよく飛び回っていたけれど、年々減っていったからなぁ。
 なんて思いせていたのだが……。
 フローラ父がしみじみと呟く。

「井戸を掘ろうとして、温泉に当たるとは思わなかったですよねぇ」
「なっ……!?」
(温泉!?)

 反射的に吸い込んだ息をゴクリと飲み込む。
 驚きのあまり、つい声に出た。 危ないっ……周囲を見渡し、誰も私を見ていないようでホッとする。
 にしても……
 ここ温泉なんて出るのかよ!
 もう決まりじゃん! 私が考えるまでもなく温泉地にしちゃえば解決じゃん!
 何だったんだ今までのあれこれは! 1年間いろいろ考えてきたのに!
 村興しの楽しみを半分失ってなげしんでいると、お姉ちゃんに(おーい)と耳打ちされた。
 実際にされた訳じゃないのに、こちょがしい。

(っ……なに?)

 ゾクゾクッと身震いする私に、お姉ちゃんが((フフフッ))と頬をゆるめる。

((温泉が出たからって人が集まる訳じゃないわ。 まだまだ課題は山積みよ))
(……確かに)

 言われて落ち着く。
 クールダウンすると、細かい問題点にまで目端がきいた。 源泉管理、宿泊施設、上下水道、人員、維持費。 最低限のこれらだけでも苦しいってのに、経営となればどれだけのトラブルに見舞われるやら。 
 5年で軌道に乗り、村を救えるとは思いがたい。
 それは、大人組も理解しているらしく……。

「で? リキュージャは決まったの?」
「これからです。 ただ、アムレテの建設予定地は確保しておきました」

 トムねぇとフローラ父の会話に着いていけない。
 また知らない単語が出た。 それも続々と。
 いくらお姉ちゃんの授業を毎日受けているからって、こういうのは良くある事だ。

(てな訳で、困った時のお姉ペディア、サモン!)
((ネタが渋滞してるから……。 『アムレテ』は『銭湯』で、『リキュージャ』は……『被験者』って言えば良いのかな? そんな感じ))
(へぇ~、てことは「被験者はまだ」で「銭湯の建設予定地は確保してる」ってことか)

 詳しい科学検査なんて出来ないだろうから、実際に入ってみて効能を調べようって話しね。
 悪くない。
 温泉といえば、やっぱり効能が1番の魅力だろう。 なんの変哲もない風呂のために足を運んでくれる物好きは少ない。
 しかし、浮かれたのも束の間、フローラ父が真剣な面持ちになる。

「問題は、銭湯の維持・管理とそのための人員ですね。 苦心していますが、今の職を離れられる人材は少ないです。 移住者に頼りたかったところですが……」
「結局はそこに行き着くのよねぇ」

 お母さんが溜め息と共に天井を見上げる。
 朗報なのに、現実に足を取られ空気が沈んでしまった。 駄目だな、苦労しすぎてネガティブ路線に入りやすくなってる。 いつまでも手応えが無いと、幸運が舞い込んでも不安になってしまうものだ。
 そんな空気を察してか、エレオノールさんが慌てて身を乗り出した。

「あのっ! 保留にされている魔王国からの移住者の件は、どうなったんでしょうか」

 ピクッと、お姉ちゃんが反応する。
 私も、産まれて初めて聞ける魔王国関連の話題に、自然と意識が前のめりになった。 お姉ちゃんからは戦後70年が経ち、周辺諸国との和平に邁進まいしんしていると、授業で教わったが。
 移住者の話しとかあったのか。 何で保留されたの?
 聞かれたトムねぇが、険しい顔で首を振るう。

「残念だけど、再開の目処めどはたっていないわ。 魔王は無事一命を取り留めたけど、だからって許せるほど浅い亀裂じゃない」

 何やら……物騒な発言が飛び出したな。
 対して、お姉ちゃんはホッと一息、人心地ついていた。 まるで憑き物でも落ちたように。 何か知っているのかも……。
 勝手に解決してるところ尋ねたいんだけれど、そうこうして聞き逃したくない。 渋々、大人組へと意識を戻す。


「経緯はどうであれ、腹心の1人を失ったのも痛いわね。 よりにもよって交換留学を主導していた、融和派の心臓よ? 戦争が再開してもおかしくなかったんだから」
(マジか……)

 私は随分と運が良かったようだ。
 しかし、戦端が開かれなかったからといって手放しで喜ぶ気にはなれない。 だって、その亡くなった融和派の心臓って……。

((……そう、私))

 自嘲じちょう気味の笑顔がいたわしい。 瀬無せない思いに言葉が詰まる。
 そんな空気では黙っていられないお姉ちゃんが内心焦って取りつくろおうとする。

((えっと……ほら、前に「やりたいことがあるなら手伝いたい」って言ってくれたでしょ? 気持ちは嬉しかったけど、でも私のしたい事って全部魔王国側に置いてきちゃったから、どうしようもなかったのよね))

 ((ハハハハ……))と乾いた笑いに、咄嗟に返す言葉が思いつかない。
 私とは違い、魔王国に行ければ未練を解消できるのならば力になりたい。 ……ただそれだけのつもりだったけれど、最低でも十数年後になると考えると、今打ち明けた所で心労が増えるだけだろう。

((なにより、私には優秀な後輩達がいるもの。 きっと引き継いでくれてるから、心配いらないわ♪))

 話している内に、自然な笑顔を取り戻すお姉ちゃん。
 遠慮のない本音だってのは伝わった。 けど、だからって軽々しく「なら良かった」なんて言えない。
 死んだのだから。
 やりたい事だって、やらなきゃいけない事だって、沢山あった筈だ。 今もこうして死んだことで止まってしまった案件がある。
 上手くいっていれば、この村の危機だって簡単に救えたのかもしれないのに。 魔王国との間に、修復しようのない亀裂が生じる事も無かっただろう。
 せっかく戦争が終わったというのに、危うく逆戻りするところだった。
 幹部が死ぬってのは、そういう事だ。 責任とリスクを常に背負う。
 つまりそれだけ、一般人とは違う重さの命であるということなのだ。

 それを魔王国は、お姉ちゃんは失った。

 真面目で責任感の強いお姉ちゃんがどんなにやんだか、この1年、どんなに帰りたかったか、そのもどかしさは異世界に転生した私には分からない。
 それなのに、気にするなって言われても、簡単に割り切ることなんて出来ないよ。
 でも、だからって、どうするのが正解なの? ……分からない。
 こういう時、何て声をかければ良いの? ……分からない。
 私に、何ができるんだろう……。
 
 と、お姉ちゃんに背後から抱き着かれる。 優しく包むように、腕が肩の上を通って胸あたりで組まれた。

((自分の事のように悩んでくれるのって、こんなに嬉しいものなんだね。 大丈夫だよ。 こうして生き返ったんだから、悲観しないで。 エメルナちゃんが哀しんでると、私まで悲しくなっちゃう))

 暖かい体温と思いが伝わる。 り固まった心が、少しずつ溶けていくようだ。

(……そうだ……そうだよね)

 お姉ちゃんが前を向いているってのに、私が「でもでも」って足を引っ張ってちゃ、駄目だよね。
 ネガティブ路線に入りやすくなっているのは、私も同じだった。
 そうだ、出来ることから無理なくやろうって決めたんだった。 協力するにも、それが出来るだけの力が要る。
 あの爆発で学んだことじゃないか。
 まずはお姉ちゃんを、お姉ちゃんが信じる人を信じよう。 そして、私は私を磨いていこう。
 全てはそこから始まるんだから。
 
 パンッ!
 両手を打ち合わせたトムねぇに、皆の視線が集まる。
 私も、つい考え込んでいたようだ。 あぁぁ……やらかしたぁ。
 これ以上はやめよう。 きりがない。

「いい加減、暗い話しはこれくらいにしましょう。 せっかく遊びに来たんだから、もうちょっねぎらってちょうだいな」

 言いながら眉間の皺を指で揉みつつ、おかきに手を伸ばす。
 ほんと、ここだけ見ると親戚のおばさんみたいな人だ。
 なんか、団欒だんらんっぽくてホッとする。
 実際に団欒なんだけど。
 お母さんが肩の力を抜く。

「…………フフッ、だねぇ♪ ごめんごめん、つい考え込んじゃうのよ、こういうの」
「知ってる♪」

 お互いに、和らいだ表情を見合って笑いが込み上げる。
 私とお姉ちゃんも、心の中で笑いあった。
 ホント、馬鹿みたい。 こっ恥ずかしくなってきた。

 それから、友達のノリに戻った大人組は、たわいもない近況や懐かしい話しで盛り上がっていった。
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