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言葉にできない
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色とりどりのチューリップが、爽やかな薫り運ぶ初夏の風にさわさわと揺れる。
すると、看護婦さんが如雨露で撒いたばかりの水滴に日差しが乱反射し、雨上がりのようにキラキラと輝き始めた。
「ほぉわぁ~!♪」
「綺麗だねぇ♪」
私を抱いたお母さんが、気を利かせて手の届きそうな距離にまでしゃがみ込んでくれる。
水々しい白のチューリップに見惚れていると、ここ数日の入院生活で萎びていた心が潤ってきた。
皮膚表面を焼く強い日差しすらも、今の私には気持ち良い。
気を失った次の日。
瞼越しのぼんやりした光に目が覚めると、お母さんが右隣で椅子に座ったまま寝息を立てていた。
早朝独特の清んだ空気を鼻と肌で感じ、窓が半分開けられているのが目に入る。
……酷い悪夢でも見ていただけのような。 自分でも不思議なくらいに、泣くとか、喜ぶとか、お母さんに抱き着くとか、そういう衝動が何一つ湧いてこなくて。
むしろ、ずっと開けっぱなしだったのか、腕とか顔とか冷たいなぁ……くらいで。
((おはよう、エメルナちゃん♪))
(…………おはよう、お姉ちゃん)
先に起きていたお姉ちゃんと挨拶を交わし、ただただ、ホッとした。
色々聞けたのがその後、皆の会話から断片的にだったので、流れを整理してみると。
両親とシア先生が急ぎ帰ってきた時には、私とその周囲が大変な事になっており、軽く目眩がしたらしい。
暗いし、1人だし、布団とかグチャグチャだし、ゲロってるし、水溢してるし、何か抱いて寝てるしで……私の呼吸を確認するまで鳥肌が治まらなかったそうだ。
寝惚けた様子の私に少しずつ水を飲ませ(一度起きたらしいが記憶に無い)、シャワーで体を洗っている間にシア先生とお父さんで掃除。
手術を終えたナースちゃんが駆け込んで来た頃には、病室は『まだもうちょっと胃液臭い……』程度にまで回復していたのだとか。
だから『ごめんなさいなのです……』が口癖みたいになっていたのね。
そんなナースちゃんだが、手術が成功した事・話を耳にした冒険者さん達がシア先生に頭を下げた事もあって、厳重注意と半年間の給料没収で済んだ。
両親が責めていないのと、本人が病みそうなくらいに反省しているからこその措置だ。
ちなみに、厳罰を求めたのはナースちゃん自身で、給料を没収したのはシア先生である。 2人は同居しているので、生活費には困らないだろう。
私としては、そりゃぁ色々辛かったけど自業自得だし、誰1人死ななかったので、ナースちゃんには申し訳ないが正解を選べたと思っている。
それには、お姉ちゃんもほぼ同意見だ。
だって、ねぇ……。
私同様……いやもしかしたら私より死線を彷徨っていた冒険者さん達は、なんと私達の知り合いだった。
この村にガルガッドさんを連れてきてくれたあの姉妹。 茶ショートの姉・キルレさんと、茶ウェーブの妹・クゥさんだったのだ。
両親共々、ベッドで安静にしていた2人も私達を見て、超驚いた。
そして、あの優しそうな方である姉・キルレさんの左膝から下が無くなっていて。 私は、静かに息を呑んだ。
「冒険者なんだから自業自得です、それよりルースさんの娘さんにとんでもない迷惑を……」「いやいや皆さんが謝る事では……」「そんな訳には……」「いやいや……」「いえいえ……」と少しあったものの、結局はキルレさんが押し切られる形で落ち着き、そもそもの原因である『2人に何があったのか』へと話しは流れた。
「暮れ間近、数人の護衛を引き連れた商車が、大型の魔獣に襲われる瞬間と出くわしてしまいまして……」
急ぎ駆け付け、クゥさんが魔獣を森へと誘導。 キルレさんも森へと入ったが、護衛達は商車の安全を優先し逃走、2人だけで対処する羽目になったらしい。
彼等に責任は無い。 この場合、商車(依頼人)の安全こそが最優先されるのだから。
むしろ、こちらも逃げやすくなったと、キルレさんはクゥさんの援護へと走った。
「なんとか片目に攻撃が入って撃退出来たのですが、その際に……目が覚めたら、ベッドの中でした」
片足を失い、妹は背中に大怪我。
当然、2人とも全身傷だらけで、包帯とガーゼが痛々しい。
「その事は、もう伝えました……?」
「はい。 昨日、冒険者ギルドの職員さんが来まして。 私達の無事を確認するまで、次の街に行けないと心配されていたようです」
2人は術後3日半、面会謝絶状態で眠っていたので、ギルドへと報告したのは助けられた商車一行だろう。
やっぱりクズ共ではなかったようで、安心した。
面会が可能になったとは言え、何時までもとはいかない。
そろそろお暇しようと腰を上げた両親に、キルレさんが最後に一言。
「あのっ……ご迷惑おかけしました。 エメルナちゃんが元気そうで、何よりです。 ですので、私達の事はどうか気になさらないでください」
と、有無をも言わさぬ勢いで捲し立てた。
お母さんが「…………もう」と根負けしたように笑む。
「……キルレさん、意外と強情ね」
「冒険者でしたから♪」
病室への帰り廊下。
お母さんに抱っこされながら、私は茶ショートさんから向けられ続けていた暖かな視線や気遣う言葉が頭から離れず、羞恥やら自己嫌悪やらで心中悶え苦しんでいた。
(あぁぁぁぁぁぁ~~~!!!)
ご迷惑おかけして……なんて言わないで!
私なんかに気を遣わないで!
他者を助けてピンチに陥り、片足を失ったけど冒険者として自業自得だなんて、聖女ですか。
それに比べて私ときたら、お姉ちゃんと希少雌竜を討伐しまくって(夢の中でだけど)、(多分それが原因で)体調崩した挙げ句にビビり過ぎで死にかけるとか!
帰りたい! 最小金レイアチャレンジをしたあの夜に!
医学知識なんて全く無いので、どこまで仮定しようと結局は想像の範疇を超えないのだけど。
あれからお姉ちゃんと話し合った結果、私達は1つのこれとしか言い様のない結論に至っていた。
それは、興奮すると魔力は増幅する、だ。
どういう事かと言うと。 腕が痺れてもう駄目かとなったあの瞬間、お姉ちゃんに名前を呼ばれたのだが……あれは私を心配してなのは勿論、別の意味も含まれていたらしい。
『落ち着いて!』だ。
内側にいたお姉ちゃんは気が付いたのだ。 私の心拍数が上がる毎に魔素流も加速し、魔力量が高まっていた事に。
身の危険に直面すると、体はそれを回避するための準備として、鼓動を早め、血流を促進する(のではないだろうか)。
緊張や恐怖で背筋が凍る人もいるだろうが、心臓はバクバク鳴りまくっててうるさい筈だ。
それは、脳に血を送り感覚や思考をフル活用して状況を脱しようという、一種の防衛本能だろう。
お姉ちゃんの話しによると。 こっちの世界の人達も、魔獣に遭遇した冒険者なんかは自然と魔力回路が活性化し、一瞬で臨戦態勢に入れるらしいし。
んで、自律神経と魔力の関係について、色々と考えていたのと照らし合わせてみると……。
つまり、『心拍数が増える・血圧が上がる』→『交感神経が働く』→『汗をたくさんかく』→『魔力回路も活性化・魔素流の加速』→『魔力増加』なのではと……。
振り返ってみれば、2回目のあの熱が思っていたより早く訪れたのって、負荷が掛かっていたのもあるんだろうけど、胃を焼くような痛みを味わった直後で、気が動転していたから?
つまり私は、入院中に徹夜ゲームで体調を崩し、『死ぬのでは』という恐怖にビビり過ぎて魔力量を増幅させ、勝手に絶望し勝手に死にかけ、皆を心臓が止まりそうな程に青ざめさせた訳だ。
『ごめんなさいなのです……』
『エメルナちゃんが元気そうで、何よりです』
(あぁぁぁぁぁぁ~~~!!!)
私に気を遣わないで!
誰かを責めたり、自分を責めたりなんてしないで!
責めるのは私だけにして!!
(お姉ちゃん、交替して! 一生!!)
((エメルナちゃんも、結構強情だよね……))
さて、そんな人間のクズがどうやって命拾いしたのか、についてだが。
無論あの触れているだけで魔素や魔力を吸い取ってくれるひんやり物体は、今も私の首に着けられているシア先生監修の下両親とフローラお婆ちゃんによって作られたフィウサンスーリープ製ユベール加工白チョーカー、ではなく。
今も病室の枕元で居座っている、ティアラを頭に乗せたオフホワイト・ペンギンのぬいぐるみだった。
実はこのペンギン、シア先生の鑑定によると、なんと魔道具らしい。
『魔動操り人形』と呼ばれる、所有者から吸い上げた魔力で動く操り人形。 の、子供用玩具なのだとか。
子供用と言っても侮るなかれ、なんと内蔵魔石は鶏卵Lサイズ大で、コツさえ掴めば遠隔操作で歩かせられるコードレス仕様。 使用されている生地や綿も、魔力を通しやすい素材だった。
更に、背中のチャックを開ければ綿と魔石を取り出せるため、洗濯可!
結構お高いのでは……とソワソワしていると、お尻に中古品マークが刺繍されていた。
こっちの中古品にはこのマークを付けるのが義務化されているので、見た目よりはお手軽っぽい。
あれから3日。 騒ぎを聞き駆け付けてくれたエレオノールさんやクーテルさん、キルレさんクゥさんのお見舞いに来たガルガッドさん達にも訪ねてみたのだが、このペンギンを知る人はいなかった。
結局、退院まで持ち主が現れることはなく。 私が四六時中抱き付いていたのと、誰かのお見舞いなら忘れ物扱いは失礼だと判断され、ありがたく受け取る運びとなった。
当然一時的に預かるつもりでなので、名乗り出てくれればちゃんと返す。 そうじゃなくても、命の恩人なのだから将来恩返しする為にも、顔くらいは見せてほしい。
夢の中にまで届いたあの声は、もう記憶に薄い。
入院中、ずっと行きたかった中庭を散歩できて大満足した私達は、そのまま荷物を両手に抱えたお父さんと正面玄関に行き、お世話になりまくったシア先生とナースちゃんに仕事の邪魔にならない軽めのお礼を言ってから、病院を出た。
空気がモワッと暑くなる。
時刻は正午を過ぎた辺りで、積雲の隙間から覗く日が、一番高いところから大通りを容赦なく照り付けている。
そんな、なんでもない何時もの日常すら、今はとてつもなく懐かしくって……。
テング熱と診断されて約1週間。
……長かった。 凄く長かった。
漫画なら1話分、アニメによってはCM後Bパート以内には完治してそうな風邪イベントを、まるで1クール(12話)分使ったような濃厚さだった。
子供の内は新発見が多いから1日1日を長く感じるとか、嫌な事をしていると数分が数時間にも感じてしまうとかよく聞くけれど。 その両方に見舞われ乗り越えた今回は、転生して8日間、病室で寝ているしかなかった頃以上の解放感だ。
やっと、家に帰れる。
やりたいことがいっぱいある。
会いたい人達がたくさんいる――
そんな、胸の内を満たす幾重にも混ざり合った想いは、
……………………やっぱり、言葉にできない。
すると、看護婦さんが如雨露で撒いたばかりの水滴に日差しが乱反射し、雨上がりのようにキラキラと輝き始めた。
「ほぉわぁ~!♪」
「綺麗だねぇ♪」
私を抱いたお母さんが、気を利かせて手の届きそうな距離にまでしゃがみ込んでくれる。
水々しい白のチューリップに見惚れていると、ここ数日の入院生活で萎びていた心が潤ってきた。
皮膚表面を焼く強い日差しすらも、今の私には気持ち良い。
気を失った次の日。
瞼越しのぼんやりした光に目が覚めると、お母さんが右隣で椅子に座ったまま寝息を立てていた。
早朝独特の清んだ空気を鼻と肌で感じ、窓が半分開けられているのが目に入る。
……酷い悪夢でも見ていただけのような。 自分でも不思議なくらいに、泣くとか、喜ぶとか、お母さんに抱き着くとか、そういう衝動が何一つ湧いてこなくて。
むしろ、ずっと開けっぱなしだったのか、腕とか顔とか冷たいなぁ……くらいで。
((おはよう、エメルナちゃん♪))
(…………おはよう、お姉ちゃん)
先に起きていたお姉ちゃんと挨拶を交わし、ただただ、ホッとした。
色々聞けたのがその後、皆の会話から断片的にだったので、流れを整理してみると。
両親とシア先生が急ぎ帰ってきた時には、私とその周囲が大変な事になっており、軽く目眩がしたらしい。
暗いし、1人だし、布団とかグチャグチャだし、ゲロってるし、水溢してるし、何か抱いて寝てるしで……私の呼吸を確認するまで鳥肌が治まらなかったそうだ。
寝惚けた様子の私に少しずつ水を飲ませ(一度起きたらしいが記憶に無い)、シャワーで体を洗っている間にシア先生とお父さんで掃除。
手術を終えたナースちゃんが駆け込んで来た頃には、病室は『まだもうちょっと胃液臭い……』程度にまで回復していたのだとか。
だから『ごめんなさいなのです……』が口癖みたいになっていたのね。
そんなナースちゃんだが、手術が成功した事・話を耳にした冒険者さん達がシア先生に頭を下げた事もあって、厳重注意と半年間の給料没収で済んだ。
両親が責めていないのと、本人が病みそうなくらいに反省しているからこその措置だ。
ちなみに、厳罰を求めたのはナースちゃん自身で、給料を没収したのはシア先生である。 2人は同居しているので、生活費には困らないだろう。
私としては、そりゃぁ色々辛かったけど自業自得だし、誰1人死ななかったので、ナースちゃんには申し訳ないが正解を選べたと思っている。
それには、お姉ちゃんもほぼ同意見だ。
だって、ねぇ……。
私同様……いやもしかしたら私より死線を彷徨っていた冒険者さん達は、なんと私達の知り合いだった。
この村にガルガッドさんを連れてきてくれたあの姉妹。 茶ショートの姉・キルレさんと、茶ウェーブの妹・クゥさんだったのだ。
両親共々、ベッドで安静にしていた2人も私達を見て、超驚いた。
そして、あの優しそうな方である姉・キルレさんの左膝から下が無くなっていて。 私は、静かに息を呑んだ。
「冒険者なんだから自業自得です、それよりルースさんの娘さんにとんでもない迷惑を……」「いやいや皆さんが謝る事では……」「そんな訳には……」「いやいや……」「いえいえ……」と少しあったものの、結局はキルレさんが押し切られる形で落ち着き、そもそもの原因である『2人に何があったのか』へと話しは流れた。
「暮れ間近、数人の護衛を引き連れた商車が、大型の魔獣に襲われる瞬間と出くわしてしまいまして……」
急ぎ駆け付け、クゥさんが魔獣を森へと誘導。 キルレさんも森へと入ったが、護衛達は商車の安全を優先し逃走、2人だけで対処する羽目になったらしい。
彼等に責任は無い。 この場合、商車(依頼人)の安全こそが最優先されるのだから。
むしろ、こちらも逃げやすくなったと、キルレさんはクゥさんの援護へと走った。
「なんとか片目に攻撃が入って撃退出来たのですが、その際に……目が覚めたら、ベッドの中でした」
片足を失い、妹は背中に大怪我。
当然、2人とも全身傷だらけで、包帯とガーゼが痛々しい。
「その事は、もう伝えました……?」
「はい。 昨日、冒険者ギルドの職員さんが来まして。 私達の無事を確認するまで、次の街に行けないと心配されていたようです」
2人は術後3日半、面会謝絶状態で眠っていたので、ギルドへと報告したのは助けられた商車一行だろう。
やっぱりクズ共ではなかったようで、安心した。
面会が可能になったとは言え、何時までもとはいかない。
そろそろお暇しようと腰を上げた両親に、キルレさんが最後に一言。
「あのっ……ご迷惑おかけしました。 エメルナちゃんが元気そうで、何よりです。 ですので、私達の事はどうか気になさらないでください」
と、有無をも言わさぬ勢いで捲し立てた。
お母さんが「…………もう」と根負けしたように笑む。
「……キルレさん、意外と強情ね」
「冒険者でしたから♪」
病室への帰り廊下。
お母さんに抱っこされながら、私は茶ショートさんから向けられ続けていた暖かな視線や気遣う言葉が頭から離れず、羞恥やら自己嫌悪やらで心中悶え苦しんでいた。
(あぁぁぁぁぁぁ~~~!!!)
ご迷惑おかけして……なんて言わないで!
私なんかに気を遣わないで!
他者を助けてピンチに陥り、片足を失ったけど冒険者として自業自得だなんて、聖女ですか。
それに比べて私ときたら、お姉ちゃんと希少雌竜を討伐しまくって(夢の中でだけど)、(多分それが原因で)体調崩した挙げ句にビビり過ぎで死にかけるとか!
帰りたい! 最小金レイアチャレンジをしたあの夜に!
医学知識なんて全く無いので、どこまで仮定しようと結局は想像の範疇を超えないのだけど。
あれからお姉ちゃんと話し合った結果、私達は1つのこれとしか言い様のない結論に至っていた。
それは、興奮すると魔力は増幅する、だ。
どういう事かと言うと。 腕が痺れてもう駄目かとなったあの瞬間、お姉ちゃんに名前を呼ばれたのだが……あれは私を心配してなのは勿論、別の意味も含まれていたらしい。
『落ち着いて!』だ。
内側にいたお姉ちゃんは気が付いたのだ。 私の心拍数が上がる毎に魔素流も加速し、魔力量が高まっていた事に。
身の危険に直面すると、体はそれを回避するための準備として、鼓動を早め、血流を促進する(のではないだろうか)。
緊張や恐怖で背筋が凍る人もいるだろうが、心臓はバクバク鳴りまくっててうるさい筈だ。
それは、脳に血を送り感覚や思考をフル活用して状況を脱しようという、一種の防衛本能だろう。
お姉ちゃんの話しによると。 こっちの世界の人達も、魔獣に遭遇した冒険者なんかは自然と魔力回路が活性化し、一瞬で臨戦態勢に入れるらしいし。
んで、自律神経と魔力の関係について、色々と考えていたのと照らし合わせてみると……。
つまり、『心拍数が増える・血圧が上がる』→『交感神経が働く』→『汗をたくさんかく』→『魔力回路も活性化・魔素流の加速』→『魔力増加』なのではと……。
振り返ってみれば、2回目のあの熱が思っていたより早く訪れたのって、負荷が掛かっていたのもあるんだろうけど、胃を焼くような痛みを味わった直後で、気が動転していたから?
つまり私は、入院中に徹夜ゲームで体調を崩し、『死ぬのでは』という恐怖にビビり過ぎて魔力量を増幅させ、勝手に絶望し勝手に死にかけ、皆を心臓が止まりそうな程に青ざめさせた訳だ。
『ごめんなさいなのです……』
『エメルナちゃんが元気そうで、何よりです』
(あぁぁぁぁぁぁ~~~!!!)
私に気を遣わないで!
誰かを責めたり、自分を責めたりなんてしないで!
責めるのは私だけにして!!
(お姉ちゃん、交替して! 一生!!)
((エメルナちゃんも、結構強情だよね……))
さて、そんな人間のクズがどうやって命拾いしたのか、についてだが。
無論あの触れているだけで魔素や魔力を吸い取ってくれるひんやり物体は、今も私の首に着けられているシア先生監修の下両親とフローラお婆ちゃんによって作られたフィウサンスーリープ製ユベール加工白チョーカー、ではなく。
今も病室の枕元で居座っている、ティアラを頭に乗せたオフホワイト・ペンギンのぬいぐるみだった。
実はこのペンギン、シア先生の鑑定によると、なんと魔道具らしい。
『魔動操り人形』と呼ばれる、所有者から吸い上げた魔力で動く操り人形。 の、子供用玩具なのだとか。
子供用と言っても侮るなかれ、なんと内蔵魔石は鶏卵Lサイズ大で、コツさえ掴めば遠隔操作で歩かせられるコードレス仕様。 使用されている生地や綿も、魔力を通しやすい素材だった。
更に、背中のチャックを開ければ綿と魔石を取り出せるため、洗濯可!
結構お高いのでは……とソワソワしていると、お尻に中古品マークが刺繍されていた。
こっちの中古品にはこのマークを付けるのが義務化されているので、見た目よりはお手軽っぽい。
あれから3日。 騒ぎを聞き駆け付けてくれたエレオノールさんやクーテルさん、キルレさんクゥさんのお見舞いに来たガルガッドさん達にも訪ねてみたのだが、このペンギンを知る人はいなかった。
結局、退院まで持ち主が現れることはなく。 私が四六時中抱き付いていたのと、誰かのお見舞いなら忘れ物扱いは失礼だと判断され、ありがたく受け取る運びとなった。
当然一時的に預かるつもりでなので、名乗り出てくれればちゃんと返す。 そうじゃなくても、命の恩人なのだから将来恩返しする為にも、顔くらいは見せてほしい。
夢の中にまで届いたあの声は、もう記憶に薄い。
入院中、ずっと行きたかった中庭を散歩できて大満足した私達は、そのまま荷物を両手に抱えたお父さんと正面玄関に行き、お世話になりまくったシア先生とナースちゃんに仕事の邪魔にならない軽めのお礼を言ってから、病院を出た。
空気がモワッと暑くなる。
時刻は正午を過ぎた辺りで、積雲の隙間から覗く日が、一番高いところから大通りを容赦なく照り付けている。
そんな、なんでもない何時もの日常すら、今はとてつもなく懐かしくって……。
テング熱と診断されて約1週間。
……長かった。 凄く長かった。
漫画なら1話分、アニメによってはCM後Bパート以内には完治してそうな風邪イベントを、まるで1クール(12話)分使ったような濃厚さだった。
子供の内は新発見が多いから1日1日を長く感じるとか、嫌な事をしていると数分が数時間にも感じてしまうとかよく聞くけれど。 その両方に見舞われ乗り越えた今回は、転生して8日間、病室で寝ているしかなかった頃以上の解放感だ。
やっと、家に帰れる。
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