サキュバスお姉ちゃんとの転性妹成長記

黒月 明

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温泉地へのロードマップ

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 あの日、ファントム男爵とさよならして早数ヶ月。 夢の中で修行したり、新しい女児友が出来たり、自業自得で死にかけたりしている間にも、温泉の工事は着実に進展していた。 ほんと、可愛い女児に転生して元魔王軍幹部なチート(夢限定)お姉ちゃんもいて私なんかが主人公?……なんて、厨二病思考だったね。
 両親の会話からかき集めた情報によると、ファントム男爵の支援によりクォーツ領にある複数の業者に依頼出来たらしく、地元の職人達との合同工事が進められているんだとか。 現在では林道の整備も一段落し、源泉を管理する施設や上下水道管は使えるように。 簡易的な宿、仮設銭湯(銭湯っぽい諸々もろもろ)等はもうちょっと掛かるみたい。
 もうちょっと掛かるとか言いつつとんでもなく早いような気がするのは、ひとえに魔法があるおかげだ。 『前世のような重機が無い』と言うよりは『前世のような重機が要らない』らしい。
 とんでもねぇな。


 工事のあれこれによってにぎわいを見せているのは、なにも現場だけではない。 村に滞在たいざいしなければならない職人さん達はもちろん、建築資材等の運搬やそれらの護衛を請け負ってくれた冒険者さん達が寝泊まりしている宿屋達も、その恩恵にあやかっていた。

 ここハルネも、その一件である。

 夏用の白色灯へと切り替わってなお、木造にしかかもし出せないおもむきある食堂のランチタイムは、宿泊ついでに利用しているお客・地元の常連・特定の料理に胃袋を掴まれたリピーター・昼休憩中にガチ寝し始めちゃった奴、等々で満席だった。
 一通り注文の品を出し終え、緑エプロンに青バンダナの小学生くらいな男の子がカウンターの内側へ戻り、「ふぅ……」と一息つく。
 銀杏いちょポニさんの息子さんで、ロヴェント君だ。 男の子にしては少し長めでクセっ毛、春の暖かみを感じさせる若菜わかな色の髪に加え、どことなくインテリ感漂う顔立ちもあってか、将来はやさメンな店主さんをおがめるのではと、奥様方の間では密かに期待の眼差しを向けられている。
 インテリなメガネとか……似合いそうかも。
 そんなロヴェント君の仕事は、注文を受けたり、注文の料理を運んだり、客がいなくなった机をいて整えたりと、まぁ子供でもお手伝い程度には出来そうな単純作業ばかりである。 とは言え流石と感心させられた程に、彼の手際や客対応は慣れた大人エプロンさん達のそれと同等だった。
 これでまだ8歳とか、娯楽が少ないってだけで子供ってこうまで育つもんなの?

 なんて思いつつロヴェント君を眺めていると、同じくカウンター席に座っている私のお母さんが、銀杏ポニさんまで温泉(仮)へ誘っているのが耳に届いた。

「クレアさんも行ってみない? 馬車無いから歩きになるけど」

 乗り合い馬車は出ない、と言ってもこちらの世界では馬車の速度なんぞ徒歩とさほど変わらないので、違いがあるとするならば足が疲れるくらいか。
 「ん~……」と、銀杏ポニさんがキッチンの方へ視線を向ける。 そこには今の内にと簡単なまかないを作っている旦那さんや、せわしなく洗い物を分担する従業員さん達の姿があって……。

「……洞窟どうくつんとこなんろ?」

 どうやら以前から話には聞いていたらしく、場所は把握済みらしい。 『洞窟んとこ』と言うからには、【洞窟】で通じる程、地元民には知られている場所なのかもしれない。
 呟くような一言に、お母さんは嬉しそうに「うん」と頷いた。

「ゆっくりかりたい時は半日くらいは欲しいかな。 空いてる日言ってくれれば合わせるよ?」
「ならぁ……ぃゃぁ~……………来月の6日、半日やったがん、丸1日休むがんにすっちゃ。 温泉浸かったらもぅ動きたなくなっし、そろそろウチららんでも回るようなっといてくれれば、いつ向こう行ってもつかえんやろぉよ」

 少し悩んだわりにアッサリ搾り出されたシフト変更が、一休み中だった緑エプロンさん達をざわつかせていく。 
 因みに向こうとは、銭湯と併設する予定である宿屋の事だ。 なんと今ここで働いている従業員の約半数が、商業ギルドから派遣されて来たそっち行きの研修生達らしい。 実質ハルネ2号店って話しだ。

 お母さんが開いていた手帳に、嬉々として聞いた日にちを書き加えていく。

「6日っと……それじゃぁ、9時にここ集合で良い?」
「いいよ~。 ロンもいいやろ?」

 ロンと呼ばれたロヴェント君が、「え?」と目を丸くして顔を上げた。 そもそも直前まで接客していたし、自分とは無関係とでも聞き流していたのだろう。

「いや、ん~……」

 急だったせいか、少し困った様子で視線を足元へ彷徨さまよわせると、(……うん、やっぱり)といった表情でもう一度顔を上げて。

「せっかくなら普通に休みたいから、やめとく」

 まるで慰安旅行を断りたい疲れきった社畜みたいな返しに、「「あぁ……うん」」と2人の母親と私の思考はシンクロしたのだった。

 その後すぐ、賄いを持ってきた旦那さんにまで「ごめん、釣りしたい」と断られ、結局いつものママ友+幼女という、もう何かただの女子会のようなメンバーに収まった。
 お父さん達? ……私で良いなら、男湯行こうか?

・・・

 ハルネで軽い昼食を済ませ、そのままヨチヨチ歩きな私の手を引くお母さんが次に向かったのは、キルレ・クゥ冒険者姉妹が入院している町の診療所だった。
 にしてもデッカいなぁ……。 幼女の背丈で近くから建物を見上げると、質量感というか重量感というかがふもとから見上げた山のようだわ。 今までと違ってお母さんに抱っこされていないのは勿論として、自分の足で立っているからこその実感がフツフツと沸き上がってくる。 違う意味での異世界。 なのにどこか懐かしくもあるのは、この低い視点に覚えがあるからなのだろう。
 まぁ、この町ではあまり見かけない二階建ての建物+馬車を停める駐車場みたいなスペース+とんがり帽子のような屋根の尖端に目印らしき、白地の中央に赤い花が描かれた旗、と、ここだけ異国風味な外観なせいでもあるんだけどね。

 受け付けのお姉さんに用件を伝え、こちらの世界でも老人率の高い待合室をスルーしつつ到着した、見慣れた病室の扉をノックする。 中から「はい、どうぞ」と癒し系なお姉さんの声が返ってきて、お母さんが扉を開け、中へ覗き込むように挨拶した。

「こんにちは~。 調子いかがですか~」

 お母さんに連れられ私も「こんっちはっ」と入室すると、姉妹はやはりいつも通り、それぞれベッドに寝転がった体制でそこにいた。

 あの一件以来、私とお母さんは頻繁にキルレ・クゥ姉妹のお見舞いに足を運び、2人の話し相手となっている。 最初は私の経過観察のついでだったのが、2人のお見舞いに来ているのがおやっさん(ガルガッドさん)や弟子のあんちゃん(あの茶クリーム髪の、トラブルメーカーぽい人)、おやっさんの奥さんと息子さんくらいと聞き……ついでに、ついでにと通う内に、何となく話し相手となっていったという経緯けいいだ。
 にしてもコミュりょく高けぇな、うちのお母さんってば。 あんなグイグイ行けるのも職業柄だったりするのだろうか?

 なんてことをふと考えている内に、ベッドわきにある椅子へと腰を下ろし、私をももに座らせたお母さんと仰向けから上体だけ起こしたキルレさんによる談笑が始まった。
 妹のクゥさんは……相変わらずのうつぶせで。 どうせまた聞き耳立ててんだろうなぁ、これ。


「……でね、許可貰えたら一緒にどうかな? と思いまして」

 『冒険で巡った地方のグルメ話③』やら、『冒険者ギルドからの退会手続きが一段落着いた』件、『リハビリでコケた時、咄嗟とっさの受け身でシア先生に褒められた』等、取り留めのないトークが暫く続いた後、流れそのまま、お母さんは今日の本題である温泉(仮)へのお誘いを入院中である2人にも提案したのだった。

 色々あったからね、少しでも癒やされてほしい。

 そんな提案に、キルレさんも満更ではない表情……だったのだが。

「でも……良いんでしょうか、お邪魔して。 私も妹も、人のいない時間帯で充分ですよ?」

 返ってきたのは、どこか躊躇ためらいがちな遠慮の言葉だった。
 平常心ですよ風な笑みを作ってはいるものの、無意識の仕草か、左手が太腿辺りのブランケットを僅かにさすって、ピクリと止まる。 そんな様子が目に留まり、言葉にならない切なさで胸が痛む。

 傷はナースちゃんの処置と治癒魔法で完全に塞り、包帯すら巻いていない状態だけど……やっぱり精神面や人目にまで使える魔法なんて物は存在しないのだろう。

 と重く受け止めてしまいそうになっている私の頭上から、お母さんのあっけらかんとした「あぁ、私達なら気にするだけ無駄ですからね?」という明るい声が聞こえてきた。

「え?」
「だって、足やら腕やら片眼やら失くして引退した元冒険者なんて、宿屋やギルドじゃ珍しくもないですし。 それに何より、私だって下心も無しに善意だけで誘った訳じゃないんですもん」 

 そう。 この姉妹を誘ったのは、単なる偶然や同情や思い付き等ではない。
 それは、お母さんがこの数年間を育児に追われ仕事に飢えた【仕事脳】ゆえである。

「実はこのあとシア先生も誘って、障害者や病人・怪我人・老人・亜人を想定した利用上の注意点とか、手摺てすりやスロープみたいにあったら便利な設備・備品案とか、他にも色々と聞いて、参考にしようと思ってたんですよ。 なので是非ぜひキルレさん達にも参加してもらって、色んな感想をお聞きしたいんですよねぇ」

 赤裸々なぶっちゃけに、毒気にでも当てられたようなキルレさんがポカン顔で言葉を失う。
 するとお母さんは、今度は私の頭頂部を手櫛てぐしき始めた。 ソフトタッチなのがショワショワしてこそばゆい。

「エメルナを連れて行くのだって、実際に行ってみて分かる親子連れの問題とか、幼児でも安全にくつろげる何かを思いつけるかなぁ?って打算的な理由もあるんですよ」

 え? 何それ初耳。

「なので、私達に遠慮する必要なんかありません。 むしろリハビリで転んでるようなのを人のいない水場に行かせる方が心臓に悪いですからね」
「ぁ……ぅぅ……」

 まだ慣れていないため失念していたのか、うつむき耳の端が赤くなっていくキルレさん。 そんな姉の姿に、お母さんの背後からクゥさんの噴き出すような笑いが聞こえてきた。

「姉ちゃん、いい加減潮時しおどきだと思って世話んなろぉぜ。 貴族じゃねぇんだから、気にし過ぎなんだよ」
「体型を気にしてしぶっているのではありませんっ……ぁっ!」

 いつもこんな調子なのか……勢い良く顔を上げた先にいた母と目が合った瞬間、キルレさんの顔が真っ赤に茹で上がった。

「ぁ…あの、単純に……その、他人の裸が目に入るのも見られるのも、どうにも心恥うらはずかしくなってしまうだけでして……」

 若干早口になりながら、もじもじと両手の指を交差揉みしつつ、おもむろにお母さんから視線を外してうつむいていく。 そんな羞恥に震える姿に、私は高校の修学旅行がフラッシュバックした程、深い共感を覚えた。
 まぁ私は色白いデブだったのもあるけど。

「あぁ~……目のやり場に困るなら、転ばないよう足元注視してたり、小さい子と遊んであげると気が紛れると思うんだけど……、エメルナ貸そうか?」

 レンタル幼女? 

 視界を狭め、意識を一点に集中させるという案は、なるほど効果的だろうな流石は一児の母と感服しかけたがチョット待った。
 キルレさんも(なるほど……)みたいな表情で顔を上げてくれた所悪いんだけれどさ、それだと私がヤバいんだわ!

 想像する間もなく予見可能な顛末てんまつに、誰にも知られる事なく1人、身の毛がよだつ。

 同性異性関係無く裸に羞恥しているのは、なにもキルレさんだけではない。 私だってそうなんですよ!
 しかも私ってば生物学的には正真正銘【女児】だけど、中身はまだ【男】なんだが!? 目のやり場に困るどころじゃないんですが!?
 ラッキースケベ? 馬鹿言うな、もし中身が童貞ってバレたらどうすんだ死ぞ。
 それ以前に倫理りんり的にアウトでしかない。
 身近に同性愛者でもいれば誤魔化せそうだが、娘(1歳児)の性癖で将来性を不安にさせたくないんだわ!
 無論、お母さん達と温泉に入るって話が出たあの夜から、視線はお母さんかフローラちゃんか床に固定するで可決したけど、キルレさんと遊ぶとなれば確実に対面する。 流れで抱かれたりなんかしちゃったら、あらわになっている胸部や下半身と強く密着する事態は避けられない訳で……

 薄っすらとまだ赤い頬を軽く両手でで揉み、平常心を取り戻しつつあるキルレさんがお母さんと向き合う。

「それな……でしたら、喜んで妹もろとも、お世話になります」
「こちらこそ、エメルナの事よろしくね」

 ほがらかな笑顔で交わされる約束。
 この村の未来を変えるかもしれない一大イベントへの第一歩に、誰もが心を踊らせていた。
 私を除いて。
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