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私 個人の感想です
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「結論から言いますと、面白くありませんでした」
初手からバッサリ切り捨てた美花先輩の言葉に、キーボードを打つ指がピクリと止まる。
空気を含んだフワッとした髪に、まるで乙女ゲームの美少女主人公を思わせる物腰柔らかな所作や甘い声色、シックなブレザーの合うオレンジリボンの2年生。 なのだが、このあっけらかんとした表情でそこまで無情な宣告を言い放つとは全くもって想定しておらず、他人事にもかかわらず僕の鼓動までもが速くなってきた。
昨日、隣から聞こえた『あくまでも私個人の感想ですので……』は、こういう意味だったのか。
パソコン教室を借りている軽文部の窓際にて、今まさに一刀両断された男子生徒と机を挟んで相対する先輩は続ける。
「キャラ・ストーリー・オリジナリティ・描写、どれをとっても平均以下で、次があっても読みたいとは思えません」
死体蹴りが過ぎない? 男子生徒が何の応答もリアクションもしてないんですけど?
Webサイトへ自作小説を投稿しており、入学早々掲示板で見付けた軽文部なる活動に何となく入部した僕からすると、衝撃的な駄目出しが真横で行われているっていうのは耳が痛い。
そう思っていそうなのは僕だけではなかったらしく、気が付くと周囲からキーボードを叩く音が少なくなっていた。 聞こえてくるのは奥の方に座る先輩達からだけで、止まっているのは尽く僕と同じ新入部員達である。
昨日までは自信ありげに原稿を手渡していた目前の死体に、先輩のオーバーキルは続く。
「まず展開が在り来り過ぎます。 異世界に転生するシーンにおいて『同級生を庇いストーカーに刺されて。 でも庇い方が悪く同級生の頭部を縁石で強打してしまい、結果的に2人して異世界転生した』というのはオリジナリティと言えなくもありませんが。 人気店のパンケーキに自作したチリソースをかけてオリジナルを主張している位に甘々です。 あと普通に胸糞悪いですね」
胸糞とか言うんだこの人。
いや勝手に乙女ゲームの美少女主人公と重ねていた僕が悪いんだけれど。 蝶よ花よと育てられていそうな雰囲気を纏っているのでつい……
僕の席からは、公開処刑されている提出者の顔が見れないのだけが唯一の救いか。 今どんな気不味い表情してるんだろう。
提出されたホッチキス留のページを捲り、先輩は続ける。
「せめて幼馴染みや恋人で……ならこの気色悪さも緩和できますが。 イジメられっこ陰キャ男子主人公が好きな娘と帰り道が一緒で、偶然包丁を持った不審者を目撃して咄嗟に庇った……は主人公にもストーカー要素があって変なネチャりを感じます。 好きな娘と説明があった後に『毎日、距離を保ちながら後ろを歩いているだけの関係だ』とあったのせいでしょう。
それは勘違いもされますし、次の台詞だって想像しやすいです。
とはいえ主人公的には眺めているだけの手の届かない片想いであり、その後神様と会う空間にて、助けたつもりだった娘から散々泣かれ罵倒され、主人公がそれを受け入れているのは理解できます。
でもそれで別々の異世界にそれぞれ転生し、彼女は平和になった世界で侯爵令嬢に、主人公はチートの種を持たせつつもスラムの子供からの成り上がり冒険、はオリジナリティを捨てています。 死に方に拘っただけの、よくあるチート能力冒険物です。
そこまでしたのならば、せめて侯爵令嬢の従者となって、努力で償いましょう? そして幼少期の頃に実は……みたいなのがあると、恋愛物の導入としては及第点でしょう。 結果的にアレではありましたが、主人公が庇わなくても死んでいたのでしょうし、展開次第では修正可能な関係に思えます。
ここでお別れでは、せっかくのチリソースを拭い捨ててチョコクリームで誤魔化しているような失敗作です。 誤魔化しきれていません。 せめてピザソースと具を沢山乗せてバーナーで炙るくらいしてくれないと納得できません」
グルメ漫画の話しだっけこれ?
ちょくちょくパンケーキで例えたい衝動にでも駆られているのだろうか。
しかし、聞いている限りだと共感しか出来なかった。
流行りの異世界転生物。 トラックに轢かれてとか、唐突な不審者に刺されてとか、徹夜ゲームで階段から落下とか。 死に方も含め(またか……)という感想が強くなってきた今日この頃。
そういうジャンルに乗っかるってのは悪い事ではないのだが、ならばせめて既視感くらいは無くしてほしい。 今の流れだって、何処かで見た覚えがある。 共に死んで別々の異世界に転生するやつ。 それこそ既視感かもしれないが。
どんなにキャラの設定を変えても、他人の褌でオリジナル作品を主張しているように見えるのがね……僕みたいに自己満足で書いているならまだしも、他人からの評価を求めた以上は酷評されても仕方がない。
そこに加えて自覚の無いストーカー行為はなぁ……言葉の綾だろうか。 『毎日、距離を保ちながら後ろを歩いているだけの関係』ではなく『二人きりなのに、これ以上距離を縮める勇気は無く』とかなら、咄嗟に勇気を振り絞って凶刃から庇ったけど……な展開にも不快感は薄まると思う。
僕個人の感想だけど。
なんて聞き耳を立てながら、僕はもう暫く文字が並ぶ画面とのにらめっこを続行した。
「その後の展開も在り来りなので省略するとして、登場キャラ達も特徴が無いです。 普通ではなく、オリジナリティや魅力が無いです。
殴られて前世の記憶を思い出した5歳の主人公・最初はぞんざいな態度だけど街で唯一の理解者になってくれる武器屋のおっちゃん・序盤で助ける魔犬っぽい仔。 後のフェンリル・奴隷のように子供達を使いつつ魔犬っぽい仔を売ろうとして返り討ちに遭うクズ親父・巡り巡ってクズ親父から魔犬の仔を買い取ろうとした領主家のわがままお坊ちゃま・から逃げるように旅に出た先で助けた姉妹冒険者。
アニメでも、漫画でも、Web小説でも、何度も似たようなこんなキャラ達を見てきました。
名前が違うだけで既視感のある具材では、味は殆ど一緒なのです。 半解凍ベリーや半解凍クリームでは、パーシャルと名付けただけのいつものパンケーキです。 むしろ寒いです。 加えて、チリソースが染み込んだ生地に人気フルーツを盛り付けているのはオリジナリティとは言えません」
パンケーキで例えるのがなんだか適しているような気がして来たのは、先輩の語彙力によるものだろう。
にしてもこの柔らかな声で淡々としたレビューを聞いていると、逆に読んでみたくなってきたな。 彼の心が折れていなければ参考にさせてもらうのも……類似作品がWebに腐る程ありそうだ。
いや、1つだけ気になる。 仔犬持ち5歳がどうやって姉妹冒険者を助けたのか。
「次に描写ですが、アニメ台本としては使えるかもしれませんが、これだけで状況を理解するのは他人に想像力を頼り過ぎです。
アニメと漫画と小説、それぞれに長所短所があり、小説は一番簡単に見えて一番作家個人のセンスが問われる媒体だと、私は認識しています。
大まかに言いますと、アニメは作画・声優・動きで目と耳を魅せれるため、一瞬で得られる情報量が一番多いです。 更には制作においても大人数が関わるため、作業の分担・相談・修正し合う事も可能です。 するかどうかは監督・脚本次第でしょうが。
漫画は絵・文字・コマ割り等で、目だけに頼るため一瞬の情報量としてはアニメに劣りますが、魅せ方次第では化けます。 白黒の1枚絵なのに光っているような光景や、錯覚と言える程にグイングイン動きまわる描写力の作品は、アニメ以上に評価される事だってありますよね。 ただしストーリーは良くてもコマ割りや動きを誤ると途端に読み難くなり、作者のセンスに掛かってきます。 客観視してくれる担当編集さんやアシスタントさんと相談出来るのが心強いですが、結局は人間です。 作者より面白い話が描けるなら自分で描いてます。
そして小説は、挿絵・文字しかありません。 目だけに頼るのは漫画と同じですが、字を読み進めなければならないので、一瞬の情報量としては少ないですね。 感情の動きを丁寧に・描写の言語化・ページ数に制限が少ないなどが魅力です。 つまり作者個人のセンス極振りです。 担当さんによっては修正してくれるでしょうが、赤ペン先生に頼るようでは作者の個性……オリジナリティが出ません。 というより、それ以前として魅力を感じられなければ受賞しません。 発売されても、個性を感じられない『どこかで見たことのある作品』に少ないお小遣いは出したくないです。 無料で読み書きできるWebサイトで楽しむ趣味としてならお好きにしていれば良いですが、本気で作家を志しているのであれば、小説の長所と短所を知ってください。
あっ、知るだけでは駄目です。 ちゃんと学んで活用してくたさい」
「で、その上で具体的な話しなのですが……」と3ページ捲り、男子生徒に分かりやすいよう原稿を差し出して指差す。
「ここでスラムとは書いていますが、目についた物を説明しているだけで、臭いや音、光量すらありません。 状況が理解できないまま殴られたにしても、描写として不足しています。 その後に書き足すのかな?と思っていたのもありませんでした。
似たような点が56ページでもありました。 人目を盗んで森に入ったのに、魔獣やハンターの気配を警戒するだけで森を見ていません。 都会育ちなのに人生初の森で感想2行だけです。 追われてて全力疾走!って訳でもないのに。
寧ろ忍んでます、なのに足元すら気にしてません。 枝踏まないか気になります。
アニメや漫画だとこれら描写が1秒や1枚絵でも表現出来ますが、文章だと無理です。 挿絵を増やすしかありませんけど、それだと漫画になります。
勿論、そういう描写を入れるか抜くか、それは作家のセンス次第です。 センス極振りとはそういう意味なんです。
時と場合によって説明ばっかりだと長いと感じたなら、余計な描写は要りません。 リズム感が大切なので。 壮大なピアノばっかりで全然歌い始めない曲はモヤモヤします」
リズム感に引っ張られたのか例えがパンケーキではなくなった。 パンケーキ限界オタクって訳ではなかったらしい。
「それと、これは私が女性だから感覚が違うのかも知れませんが、5歳児とお風呂に入るのは理解できます。 でもネグリジェ着た姉妹に挟まれて同じ布団は何だか違います。 描写も森より多いですし」
やっぱエロあるのか!
てかそんな作品よく先輩に読ませたなコイツ!!
実はリアクションが薄いだけで、まだまだ死んではいないのかもしれない。
「せめてフェン太君と寝てあげてください。 寝る時フェン太君どこ行ったんですか?」
フェン太君ってのは魔犬の仔かな。 なんだそのネーミングセンス。
てかエロ入れたくて忘れるなよ、可哀想だろフェン太君!
「次の朝ですが、ギャグとして描きたかったにしても、寝相悪くておっぱいと太ももにサンドイッチされてましたは、窒息死しないか怖いです。 フェン太君が空気です。 今ならまだオシッコできます」
寝起きにそれもキツいけど、まぁエロスに走るか仔犬あるあるを挿むかの違いでしかないだろう。
作品によって、としか言えない。
「そこからの展開は嫌いじゃなかったですが、最後に、領主家のお坊ちゃまに捕まったフェン太君が魔道具で女の子になってから、噛み付いてテントから逃げ出す所。 せっかく仔犬の時より大っきくなったのに、噛みづらい人間の口と短い牙で噛むんですか? 引っ掻いたり蹴ったり、噛み付こうとして空振りしたり、単純に暴れてでも良いです。 逃げ出す時なんて二足歩行で走れるのに。 肉体的獣要素を無くしてから犬みたいな抵抗の仕方は順序が逆です。
そして終わりに、一件落着した後、便利だからって魔道具持ってっちゃうのは駄目です。 お坊ちゃまの目的と、主人公のやってる事そんなに変わっていません。 お坊ちゃまは否定したのに、女の子フェン太君と今後もエロするのは読む気になれませんでした」
それは確かに無いな。
そもそもエロ目的バレバレな人化は嫌われやすい。 エロなら姉妹冒険者で間に合ってるし、何よりそういう作品が多過ぎるからだ。 美少女化ドラゴン然り。
「さて……」と閉じた原稿をスッと男子生徒に返却し、終始一貫した真顔で先輩が締めに入る。
「では、いただいた原稿までを読んだ総評としててすが。 描写不足・オリジナリティ不足で面白くありませんでした。
事前に『入賞したい』『拘りとかは特に無い』と伺っていましたので提案させていただきますが。 不慮の事故とはいえ、死なせてしまった同級生ちゃんと共に転生する令嬢ルートから考え直すか、諦めて次の作品を作りましょう」
全否定である。
嫌いじゃなかった展開も、評価するにはパンケーキに塗ったチリソースを拭き取っていないのが前提であって。
これが何やかんやあった令嬢と拾った仔犬を通して和解するのであれば、オリジナリティとして読めたものを……。 受賞するかは別として。
にしても、とんでもない先輩がいたものだ。 書いた本人を目の前にして、ここまで歯に衣着せず言い切るとは。
……まぁ、愛想笑いされるよりは、マシなのかもしれないけれど。
返却された原稿を受け取る男子生徒。 嘸かし凹んで……いや、もしかすると逆ギレする可能性だって……
そんな不安が徐々に膨れ上がっていると、「では!」と先輩が足元の鞄から新たな紙束を取り出した。
「続いて『死霊の王なりのスローライフ ~ダンジョンの主と呼ばれ始めて300年、まだ誰もその魔道具の製作者が俺とは気付いていない~』の感想に移ります」
2作目?!
楽しそうなウキウキ声の美花先輩は、取り出した原稿のページを捲って開口一番こう言った。
「結論から言いますと、面白くありませんでした」
初手からバッサリ切り捨てた美花先輩の言葉に、キーボードを打つ指がピクリと止まる。
空気を含んだフワッとした髪に、まるで乙女ゲームの美少女主人公を思わせる物腰柔らかな所作や甘い声色、シックなブレザーの合うオレンジリボンの2年生。 なのだが、このあっけらかんとした表情でそこまで無情な宣告を言い放つとは全くもって想定しておらず、他人事にもかかわらず僕の鼓動までもが速くなってきた。
昨日、隣から聞こえた『あくまでも私個人の感想ですので……』は、こういう意味だったのか。
パソコン教室を借りている軽文部の窓際にて、今まさに一刀両断された男子生徒と机を挟んで相対する先輩は続ける。
「キャラ・ストーリー・オリジナリティ・描写、どれをとっても平均以下で、次があっても読みたいとは思えません」
死体蹴りが過ぎない? 男子生徒が何の応答もリアクションもしてないんですけど?
Webサイトへ自作小説を投稿しており、入学早々掲示板で見付けた軽文部なる活動に何となく入部した僕からすると、衝撃的な駄目出しが真横で行われているっていうのは耳が痛い。
そう思っていそうなのは僕だけではなかったらしく、気が付くと周囲からキーボードを叩く音が少なくなっていた。 聞こえてくるのは奥の方に座る先輩達からだけで、止まっているのは尽く僕と同じ新入部員達である。
昨日までは自信ありげに原稿を手渡していた目前の死体に、先輩のオーバーキルは続く。
「まず展開が在り来り過ぎます。 異世界に転生するシーンにおいて『同級生を庇いストーカーに刺されて。 でも庇い方が悪く同級生の頭部を縁石で強打してしまい、結果的に2人して異世界転生した』というのはオリジナリティと言えなくもありませんが。 人気店のパンケーキに自作したチリソースをかけてオリジナルを主張している位に甘々です。 あと普通に胸糞悪いですね」
胸糞とか言うんだこの人。
いや勝手に乙女ゲームの美少女主人公と重ねていた僕が悪いんだけれど。 蝶よ花よと育てられていそうな雰囲気を纏っているのでつい……
僕の席からは、公開処刑されている提出者の顔が見れないのだけが唯一の救いか。 今どんな気不味い表情してるんだろう。
提出されたホッチキス留のページを捲り、先輩は続ける。
「せめて幼馴染みや恋人で……ならこの気色悪さも緩和できますが。 イジメられっこ陰キャ男子主人公が好きな娘と帰り道が一緒で、偶然包丁を持った不審者を目撃して咄嗟に庇った……は主人公にもストーカー要素があって変なネチャりを感じます。 好きな娘と説明があった後に『毎日、距離を保ちながら後ろを歩いているだけの関係だ』とあったのせいでしょう。
それは勘違いもされますし、次の台詞だって想像しやすいです。
とはいえ主人公的には眺めているだけの手の届かない片想いであり、その後神様と会う空間にて、助けたつもりだった娘から散々泣かれ罵倒され、主人公がそれを受け入れているのは理解できます。
でもそれで別々の異世界にそれぞれ転生し、彼女は平和になった世界で侯爵令嬢に、主人公はチートの種を持たせつつもスラムの子供からの成り上がり冒険、はオリジナリティを捨てています。 死に方に拘っただけの、よくあるチート能力冒険物です。
そこまでしたのならば、せめて侯爵令嬢の従者となって、努力で償いましょう? そして幼少期の頃に実は……みたいなのがあると、恋愛物の導入としては及第点でしょう。 結果的にアレではありましたが、主人公が庇わなくても死んでいたのでしょうし、展開次第では修正可能な関係に思えます。
ここでお別れでは、せっかくのチリソースを拭い捨ててチョコクリームで誤魔化しているような失敗作です。 誤魔化しきれていません。 せめてピザソースと具を沢山乗せてバーナーで炙るくらいしてくれないと納得できません」
グルメ漫画の話しだっけこれ?
ちょくちょくパンケーキで例えたい衝動にでも駆られているのだろうか。
しかし、聞いている限りだと共感しか出来なかった。
流行りの異世界転生物。 トラックに轢かれてとか、唐突な不審者に刺されてとか、徹夜ゲームで階段から落下とか。 死に方も含め(またか……)という感想が強くなってきた今日この頃。
そういうジャンルに乗っかるってのは悪い事ではないのだが、ならばせめて既視感くらいは無くしてほしい。 今の流れだって、何処かで見た覚えがある。 共に死んで別々の異世界に転生するやつ。 それこそ既視感かもしれないが。
どんなにキャラの設定を変えても、他人の褌でオリジナル作品を主張しているように見えるのがね……僕みたいに自己満足で書いているならまだしも、他人からの評価を求めた以上は酷評されても仕方がない。
そこに加えて自覚の無いストーカー行為はなぁ……言葉の綾だろうか。 『毎日、距離を保ちながら後ろを歩いているだけの関係』ではなく『二人きりなのに、これ以上距離を縮める勇気は無く』とかなら、咄嗟に勇気を振り絞って凶刃から庇ったけど……な展開にも不快感は薄まると思う。
僕個人の感想だけど。
なんて聞き耳を立てながら、僕はもう暫く文字が並ぶ画面とのにらめっこを続行した。
「その後の展開も在り来りなので省略するとして、登場キャラ達も特徴が無いです。 普通ではなく、オリジナリティや魅力が無いです。
殴られて前世の記憶を思い出した5歳の主人公・最初はぞんざいな態度だけど街で唯一の理解者になってくれる武器屋のおっちゃん・序盤で助ける魔犬っぽい仔。 後のフェンリル・奴隷のように子供達を使いつつ魔犬っぽい仔を売ろうとして返り討ちに遭うクズ親父・巡り巡ってクズ親父から魔犬の仔を買い取ろうとした領主家のわがままお坊ちゃま・から逃げるように旅に出た先で助けた姉妹冒険者。
アニメでも、漫画でも、Web小説でも、何度も似たようなこんなキャラ達を見てきました。
名前が違うだけで既視感のある具材では、味は殆ど一緒なのです。 半解凍ベリーや半解凍クリームでは、パーシャルと名付けただけのいつものパンケーキです。 むしろ寒いです。 加えて、チリソースが染み込んだ生地に人気フルーツを盛り付けているのはオリジナリティとは言えません」
パンケーキで例えるのがなんだか適しているような気がして来たのは、先輩の語彙力によるものだろう。
にしてもこの柔らかな声で淡々としたレビューを聞いていると、逆に読んでみたくなってきたな。 彼の心が折れていなければ参考にさせてもらうのも……類似作品がWebに腐る程ありそうだ。
いや、1つだけ気になる。 仔犬持ち5歳がどうやって姉妹冒険者を助けたのか。
「次に描写ですが、アニメ台本としては使えるかもしれませんが、これだけで状況を理解するのは他人に想像力を頼り過ぎです。
アニメと漫画と小説、それぞれに長所短所があり、小説は一番簡単に見えて一番作家個人のセンスが問われる媒体だと、私は認識しています。
大まかに言いますと、アニメは作画・声優・動きで目と耳を魅せれるため、一瞬で得られる情報量が一番多いです。 更には制作においても大人数が関わるため、作業の分担・相談・修正し合う事も可能です。 するかどうかは監督・脚本次第でしょうが。
漫画は絵・文字・コマ割り等で、目だけに頼るため一瞬の情報量としてはアニメに劣りますが、魅せ方次第では化けます。 白黒の1枚絵なのに光っているような光景や、錯覚と言える程にグイングイン動きまわる描写力の作品は、アニメ以上に評価される事だってありますよね。 ただしストーリーは良くてもコマ割りや動きを誤ると途端に読み難くなり、作者のセンスに掛かってきます。 客観視してくれる担当編集さんやアシスタントさんと相談出来るのが心強いですが、結局は人間です。 作者より面白い話が描けるなら自分で描いてます。
そして小説は、挿絵・文字しかありません。 目だけに頼るのは漫画と同じですが、字を読み進めなければならないので、一瞬の情報量としては少ないですね。 感情の動きを丁寧に・描写の言語化・ページ数に制限が少ないなどが魅力です。 つまり作者個人のセンス極振りです。 担当さんによっては修正してくれるでしょうが、赤ペン先生に頼るようでは作者の個性……オリジナリティが出ません。 というより、それ以前として魅力を感じられなければ受賞しません。 発売されても、個性を感じられない『どこかで見たことのある作品』に少ないお小遣いは出したくないです。 無料で読み書きできるWebサイトで楽しむ趣味としてならお好きにしていれば良いですが、本気で作家を志しているのであれば、小説の長所と短所を知ってください。
あっ、知るだけでは駄目です。 ちゃんと学んで活用してくたさい」
「で、その上で具体的な話しなのですが……」と3ページ捲り、男子生徒に分かりやすいよう原稿を差し出して指差す。
「ここでスラムとは書いていますが、目についた物を説明しているだけで、臭いや音、光量すらありません。 状況が理解できないまま殴られたにしても、描写として不足しています。 その後に書き足すのかな?と思っていたのもありませんでした。
似たような点が56ページでもありました。 人目を盗んで森に入ったのに、魔獣やハンターの気配を警戒するだけで森を見ていません。 都会育ちなのに人生初の森で感想2行だけです。 追われてて全力疾走!って訳でもないのに。
寧ろ忍んでます、なのに足元すら気にしてません。 枝踏まないか気になります。
アニメや漫画だとこれら描写が1秒や1枚絵でも表現出来ますが、文章だと無理です。 挿絵を増やすしかありませんけど、それだと漫画になります。
勿論、そういう描写を入れるか抜くか、それは作家のセンス次第です。 センス極振りとはそういう意味なんです。
時と場合によって説明ばっかりだと長いと感じたなら、余計な描写は要りません。 リズム感が大切なので。 壮大なピアノばっかりで全然歌い始めない曲はモヤモヤします」
リズム感に引っ張られたのか例えがパンケーキではなくなった。 パンケーキ限界オタクって訳ではなかったらしい。
「それと、これは私が女性だから感覚が違うのかも知れませんが、5歳児とお風呂に入るのは理解できます。 でもネグリジェ着た姉妹に挟まれて同じ布団は何だか違います。 描写も森より多いですし」
やっぱエロあるのか!
てかそんな作品よく先輩に読ませたなコイツ!!
実はリアクションが薄いだけで、まだまだ死んではいないのかもしれない。
「せめてフェン太君と寝てあげてください。 寝る時フェン太君どこ行ったんですか?」
フェン太君ってのは魔犬の仔かな。 なんだそのネーミングセンス。
てかエロ入れたくて忘れるなよ、可哀想だろフェン太君!
「次の朝ですが、ギャグとして描きたかったにしても、寝相悪くておっぱいと太ももにサンドイッチされてましたは、窒息死しないか怖いです。 フェン太君が空気です。 今ならまだオシッコできます」
寝起きにそれもキツいけど、まぁエロスに走るか仔犬あるあるを挿むかの違いでしかないだろう。
作品によって、としか言えない。
「そこからの展開は嫌いじゃなかったですが、最後に、領主家のお坊ちゃまに捕まったフェン太君が魔道具で女の子になってから、噛み付いてテントから逃げ出す所。 せっかく仔犬の時より大っきくなったのに、噛みづらい人間の口と短い牙で噛むんですか? 引っ掻いたり蹴ったり、噛み付こうとして空振りしたり、単純に暴れてでも良いです。 逃げ出す時なんて二足歩行で走れるのに。 肉体的獣要素を無くしてから犬みたいな抵抗の仕方は順序が逆です。
そして終わりに、一件落着した後、便利だからって魔道具持ってっちゃうのは駄目です。 お坊ちゃまの目的と、主人公のやってる事そんなに変わっていません。 お坊ちゃまは否定したのに、女の子フェン太君と今後もエロするのは読む気になれませんでした」
それは確かに無いな。
そもそもエロ目的バレバレな人化は嫌われやすい。 エロなら姉妹冒険者で間に合ってるし、何よりそういう作品が多過ぎるからだ。 美少女化ドラゴン然り。
「さて……」と閉じた原稿をスッと男子生徒に返却し、終始一貫した真顔で先輩が締めに入る。
「では、いただいた原稿までを読んだ総評としててすが。 描写不足・オリジナリティ不足で面白くありませんでした。
事前に『入賞したい』『拘りとかは特に無い』と伺っていましたので提案させていただきますが。 不慮の事故とはいえ、死なせてしまった同級生ちゃんと共に転生する令嬢ルートから考え直すか、諦めて次の作品を作りましょう」
全否定である。
嫌いじゃなかった展開も、評価するにはパンケーキに塗ったチリソースを拭き取っていないのが前提であって。
これが何やかんやあった令嬢と拾った仔犬を通して和解するのであれば、オリジナリティとして読めたものを……。 受賞するかは別として。
にしても、とんでもない先輩がいたものだ。 書いた本人を目の前にして、ここまで歯に衣着せず言い切るとは。
……まぁ、愛想笑いされるよりは、マシなのかもしれないけれど。
返却された原稿を受け取る男子生徒。 嘸かし凹んで……いや、もしかすると逆ギレする可能性だって……
そんな不安が徐々に膨れ上がっていると、「では!」と先輩が足元の鞄から新たな紙束を取り出した。
「続いて『死霊の王なりのスローライフ ~ダンジョンの主と呼ばれ始めて300年、まだ誰もその魔道具の製作者が俺とは気付いていない~』の感想に移ります」
2作目?!
楽しそうなウキウキ声の美花先輩は、取り出した原稿のページを捲って開口一番こう言った。
「結論から言いますと、面白くありませんでした」
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これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
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