buddy ~絆の物語~

空風 羽海

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中学生編

15. 海水浴へGO!

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 夏休みも終わりかけのとある日。6人は元木が運転するワンボックスカーに乗って、風見市から2時間ほどの海に海水浴に来ていた。
 なぜ、元木が一緒なのか。こうなった訳は2週間ほど前に遡る。

 レッスン日の休憩時間中、6人で海水浴の相談をしていた。場所は自分たちの自転車でも行ける、風見市の海水浴場だ。

 そんな話をやいやいとしていたら、それを聞きつけた元木が、

「保護者がいないとダメだ」

 と言い出した結果、元木の運転でさらに遠い海に行くことになった。
 しかも元木は、明日香と深尋の水着に細かく注文をつけたのだ。

「いいか2人とも。腕、足、お腹の出る水着はダメだ。わかった?」
「それって、もう水着とはいえないんじゃ⋯⋯」
「えぇーっ! 私、元木さんに可愛いビキニ姿見てもらおうと思ってたのにー」
「深尋、ビキニはもっと大人になってからね」

 深尋はこの調子でずっと元木にアピールしているのだが、元木には全く相手にされていない。3人が水着のことで揉めていると、隼斗が割って入ってきた。

「明日香、元木さんの言う通りだぞ。海には変な輩も多いんだから、ビキニなんて露出の多いものはもってのほかだ」

 まるでお父さんのように言う。

「でも、隼斗の部屋に際どい水着のお姉さんが載っている雑誌置いてあったじゃん。ああいうのが好きなんじゃないの?」
「隼斗さいてー」

 明日香が爆弾を投下すると、深尋は軽蔑のまなざしで隼斗を見た。

「ばっ⋯! バカかお前っ、あ、あれは誠のだしっ! それに写真の姉ちゃんとお前は違うだろっ!」
「ひでぇー隼斗。あれは俺たちの共有の財産なのに⋯このシスコン野郎」

 なぜか巻き添えを食らった誠がぼやく。

「誠、これは姉弟として心配しているだけだ。シスコンじゃねぇ」

 こうしてまたいつも通り話が脱線する。僚と竣亮は、自分たちに飛び火しないように祈るばかりだった。しかしその願いはあっさりと砕かれた。

「僚と竣亮はどう思う?」

 明日香が2人に聞く。僚と竣亮は、まさか自分たちに話を振ってくるとは思わず、ドギマギしてしまった。それから少し冷静に考えて、一つ咳払いをした僚が答える。

「まぁ、隼斗の言っていることもわかるよ。変な奴に目を付けられて、明日香と深尋に嫌な思いをしてほしくないし。それに日差しがきついから、紫外線から肌を守ることを考えた方がいいと思うよ」

 非常に優等生の僚らしい答えだ。一方竣亮は、

「うーーん、僕は明日香と深尋が可愛かったらなんでもいいよ」

 などと小悪魔的な返事をする。

 そんな水着騒動がありながらも、6人と元木は計画通り海水浴へ行くこととなった。

 更衣室で着替えた6人は、元木が待っているパラソルの下で合流する。
 結局、明日香と深尋は、お腹が隠れるタンクトップビキニにすることで落ち着いた。上はラッシュガードのパーカーにタンクトップ、下は黒のラッシュガードのタイツにショートパンツという元木の注文通りの出で立ちだ。

 正直、可愛さや色気などは皆無であった。あえていうなら、明日香はポニーテール、深尋はお団子ヘアにしていることで見えている『うなじ』くらいだろうか。男子4人は普通にハーフパンツの水着を着ていた。

「おっ明日香、深尋、ちゃんと僕の希望通りの水着だね。エライ、エライ」

 元木にはご満足いただけたようだ。
 しかし深尋は、横目で元木を見ながら大きなため息を吐く。

「早く大人になって、元木さんがドキッとするような、セクシーなビキニが着たーい」
「うん、うん、そうだね、着れるといいね」

 またも、簡単にあしらわれる。

 それから6人はレンタルした浮き輪やシャチのフロートなどで、思いっきり遊んだ。元木は海に入らず、パラソルの下で荷物番をしながら本を読んでいる。

 しばらくすると、6人が海から戻ってきた。

「あーおなかすいたー」

 深尋がそう言いながら、ちゃっかり元木の横に座る。

「あ、もうお昼だね。みんなご飯食べに行こうか」

 それから皆で海の家に行き、昼食をとることになった。
 焼きそば、カレー、から揚げなど、食べ盛り育ち盛りの中学生たちは、ガツガツとよく食べる。
 特に男子4人の食欲はすごく、元木は見ているだけでお腹がいっぱいになる。それに引き換え、明日香と深尋は、カレーライスとから揚げ2個で満足していた。

「私、ちょっとお手洗い行ってくるね」
「1人で大丈夫?」
「大丈夫だよ」

 深尋にそう告げて、明日香は席を立つ。
 明日香が手を洗ってトイレから出てくると、僚が腕を組んで立っていた。

「あれ、僚もお手洗い?」
「いや、お前を待ってた」
「え⋯⋯なんで?」

 待ち伏せされる心当たりがなく、ちょっと不安になる。

「かき氷、奢る約束だっただろ。ここの海、マンゴーはないけどイチゴはあるみたいだし、どうするかと思って⋯⋯」

 そういえばそんな約束をしていたなと、言われて思い出した。
 真面目で律儀な僚は、マンゴーがなくてイチゴがあることをわざわざ調べていたようだ。

(なるほど、僚がモテるのわかるわ⋯)

 明日香は今までこれが普通だったので、特別なこととは思わなかったが、他の女の子がこんなことをされると一瞬で落ちるなと納得した。

 しかも本人は意図してそういう振る舞いをしているのではなく、男子にも女子にも常に平等に接している。それをわかっているからこそ、僚をあそこまで怒らせたあの松井という女の子は、ある意味すごいのでは、などと思ってしまった。

「明日香?」
「ん? ああ、ごめん。イチゴでもいいよ! 食べたい!」
「じゃあ、売店行こうか」
「みんなは?」
「食べ終わってまた海に行った。俺が明日香を連れてくるって言ってあるし」

 そうして2人はイチゴのかき氷を買いに売店へと向かう。

 イチゴのかき氷と言っても、氷にイチゴのシロップがかかっているだけのものではなく、まあるい形に成形された氷の上に、イチゴをシロップに漬けた果肉がごろごろのっている、見た目にも豪華なかき氷だった。

「これって、ここで食べなきゃいけないっぽいね」
「そうだな」

 売店の横にはイートインスペースがあり、そこでカップルや女性客が同じようなかき氷を食べていた。しかも、当初希望していたマンゴーのかき氷よりも少し高い。

「僚、やっぱり⋯」

 いいよ、と遠慮しようとしたが、僚が、

「明日香、席取っといて。俺買ってくるし」

 明日香の話を聞かないまま、僚は売店のレジへ行ってしまった。
 明日香はちょっと悪いことをしたなと思いながら、海の見えるカウンターの席に腰かける。
 しばらくすると僚が、顔が隠れるほど大きい、イチゴのかき氷が乗ったトレーを持ってきた。

「お待たせ」
「うわー⋯ありがとう。でも、1人では食べきれないよ」
「うん、そうだろうと思って、スプーン2つもらってきた」

 僚はニカッと笑って、明日香にスプーンを見せる。

「じゃあ、2人で食べよっ。いただきまーす」
「どうぞ」

 明日香はイチゴのシロップがたっぷりかかった氷を、パクっと一口頬張る。

「つめたーい! あまーい! おいしー!」

 明日香が今日一番の笑顔を見せた。

「良かったな」
「僚も食べてよ」
「うん。いただきます」

 それから2人でイチゴのかき氷を、美味しい、美味しいと言いながら食べる。

 かき氷を食べ終わった僚と明日香が、元木のいるパラソルへと戻ると、

「遅かったね。デート楽しかった?」

 とからかうように聞いてきた。

「かき氷を食べてただけだよ」
「デートだなんて、そんな恐ろしいこと言わないで」

 2人からは淡白な言葉しか返ってこない。

「お前たちさぁ、それが思春期真っ只中の中学生の言うことかね。普通そんなこと言われたら顔を赤らめるとかさ、ドキドキするとかさ、ないの?」
「「⋯⋯⋯⋯?」」

 この2人というか6人とも、幼馴染で付き合いも長いせいか、お互いに恋愛感情というものを持ち合わせていない。それとも、ただ鈍感なだけなのか、今は誰にもわからない。

(まあ、これから大事な時期だし、あまり刺激しないでおくか)

 元木はこの6人を大事に育てる覚悟をしてから、常に傍で見守ってきた。出会った頃よりも成長し、大人に近づいてきている6人のことを、時に父親のように、時に兄貴のようなそんな気持ちでいつも見守っている。
 その気持ちは、これからも変わることのないものだと心に誓った。

 こうして夕方近くまで海で遊んだ6人は、帰りの車の中では全員仲良く、夢の中へ行ってしまった。

 中学生最後の夏休みはこうして終わりを告げた。
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