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第二章 サムジャともふもふ編
第22話 祈りの聖女
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教会に立てられた女神像の前で一人の少女がひざまずき祈りを捧げていた。彼女は最近この教会に配属されていたセイラという少女だった。
「神よ、私はこのままで宜しいのでしょうか?」
そして顔を上げ問いかける。だが明確な答えが返ってくることはなった。
立ち上がり、ふぅ、と嘆息する。その動きにあわせて癖のある金髪が僅かに揺れ動いた。
少女は悩んでいた。この教会に配属されてまだ間もないが既に不満があった。
少女は天職が聖女だった。これは希少とされる天職の一つで教会が重要視する天職の一つだった。
治療魔法を施せる天職には他にも僧侶や神官などがあるが、聖女も系統的にはそれらに近い。
聖女の特徴は自分以外の誰かを守ったり治療する魔法の効果が大きいというところだ。聖女の献身というスキルはまさにその特徴を如実に現していると言える。このスキルのおかげで聖女は他の治療魔法が行使できる天職よりも他者に対してより効果の高い治療が施せる。
ただその分攻撃に関しては不得手だ。僧侶や神官は扱える得物にある程度制限はあるものの自衛可能な程度の戦闘力は併せ持つ。しかし聖女にはそれがない。他者を傷つける行為が苦手なのが聖女という天職でもある。
そんな彼女だが、その破格の力からか配属されたその日の内から治療の業務に追われた。
教会にやってくる怪我人を癒やしてあげるのがその務めた。セイラはそのことに不満はなかった。教会に属することを決めた時から人々のために自分の力を使うことに何ら疑問を持たなかった。
聖女という天職を授かった自分は誰かのためになる生き方を求められているのだろうと自分の運命を悟った。
だが、それは例え相手がだれであっても関係なく分け隔てなく助けてあげたいという強い想いがあったからこそだ。
現状、彼女の思いと実際の業務は大きく乖離していた。
治療を求めてくる患者は確かに多い。多いのだがその誰もが身なりの良い相手ばかりだったからだ。そうセイラが治療を施す相手は貴族や豪商と呼ばれる金持ちばかりだったのである。
そしてセイラの業務を定めた大神官は治療を施した相手から多額の寄付金を受け取っていた。大神官はあくまで相手の善意によるもので強制ではないと言っていたが、セイラとしてはどうしても不信感が募ってしまう。
勿論そういった相手以外にも治療を施す者がやってきていたならまだ納得できただろう。
しかし一度こういうことがあった。ある日まだ幼い子どもを連れた女性が教会にやってきて、子どもが熱を出したから助けてほしいと懇願してきたのだ。
その子は苦しそうにしておりかなりの高熱にうなされていた。セイラは助けるべきだと思い、治療を施そうとしたが大神官によって止められた上、教会は病気には対応できないと冷たく言い放ち追い返してしまった。
確かに僧侶や神官などではそれも正しい。治療魔法の多くは外傷に関しては強いが内側から蝕まれる病気に対応できる魔法を扱えないからだ。
しかしセイラは違った。聖女である彼女は病気を治療できる魔法も扱えるのだ。勿論最初からどんな病気でもと都合よくいかないがあの子どもの状態なら診る余地はあった。
だがこの教会の責任者である大神官はそれを良しとしなかった。何故と問いかけた彼女に、大神官は薬で治る程度の病気まで治していては切りがないと答えた。
その気持ちもわからなくもないが、わざわざ教会を頼ってやってきたのだから多少は融通を利かせたっていいのでは? と思った。それに病気を治すような薬は非常に高額だ。平民では中々手が出せないことも多い。
しかも、彼女にとって信じられなかったのはその後、やってきた貴族の風邪は治してやれと言ってきたことだった。その患者の症状は明らかにあの子どもより軽かった。放っておいても家で安静にしておけば治る程度だ。
だが言われたら教会の教徒である以上、従う他ない。この僅かな期間でセイラはそんなことばかりを目にしてきた。故に今も自問自答を繰り返している。
ただ、まだまだ幼い少女には難しい問題でもあり、中々答えにたどり着けずにいる。
祈りを捧げ立ち上がった後、その場を後にしようとした時、出入り口の扉の前で若い神官と何者かが話しているのが聞こえてきた。
どうやら外にいる相手と揉めているようだ。
「だから何度も言っているだろう! 聖女様は貴様のようなどこの馬の骨とも知れん奴とはお会いにならないし、そのような小汚い犬を診たりもしない!」
「そこを何とか話だけでも通してもらえないか? この子はまだ息があるんだ。治療魔法で治るかも知れない」
「しつこいぞ! 衛兵を呼ばれたいのか!」
「一体何事ですか?」
「あ、聖女様!」
話の中で自分の事が呼ばれていたので気になり、セイラが神官の背後から話しかけた。若い神官は驚いていたがすぐに表情を戻し。
「それが、どこの誰ともしらない男があろうことが聖女様に小汚い犬を診てほしいなどと」
「セイラがいるのか? 頼む! この犬を!」
「き、貴様! よりにもよって本人の前でまた聖女様を呼び捨てとは何たる無礼な! いいから消えろそんな小汚い野良犬がくたばろうが知ったことか!」
「何を馬鹿なことを!」
思わずセイラが叫んだ。その怒気のこもった声に若い神官はギョッとする。
「は、はい! 聖女様がお怒りなのはごもっともです。全くよりにもよって犬を診ろなどとはすぐにでも追い返しますので」
「黙りなさい。私が怒っているのは貴方にです!」
「え? わ、私!?」
どうやら若い神官はセイラが怒った理由がわかっていなかったようだ。セイラは人だろうと動物だろうと困っている相手がいれば手を差し伸べたいと思っている。
「どいてください!」
「え、あ、いけません聖女様!」
神官が前に出るのを止めようとするが小柄な体をいかして神官の脇をすり抜けセイラが表に飛び出した。
「おっと」
「あ、ごめんな、え? 貴方は」
無我夢中で飛び出した拍子で出入り口前にいた男性とぶつかってしまう。謝罪の言葉を述べながら相手を見上げるセイラだが、そこでその人物が誰なのかに気がついた。
「おお、良かったやっと会えた」
「シノさん!」
「神よ、私はこのままで宜しいのでしょうか?」
そして顔を上げ問いかける。だが明確な答えが返ってくることはなった。
立ち上がり、ふぅ、と嘆息する。その動きにあわせて癖のある金髪が僅かに揺れ動いた。
少女は悩んでいた。この教会に配属されてまだ間もないが既に不満があった。
少女は天職が聖女だった。これは希少とされる天職の一つで教会が重要視する天職の一つだった。
治療魔法を施せる天職には他にも僧侶や神官などがあるが、聖女も系統的にはそれらに近い。
聖女の特徴は自分以外の誰かを守ったり治療する魔法の効果が大きいというところだ。聖女の献身というスキルはまさにその特徴を如実に現していると言える。このスキルのおかげで聖女は他の治療魔法が行使できる天職よりも他者に対してより効果の高い治療が施せる。
ただその分攻撃に関しては不得手だ。僧侶や神官は扱える得物にある程度制限はあるものの自衛可能な程度の戦闘力は併せ持つ。しかし聖女にはそれがない。他者を傷つける行為が苦手なのが聖女という天職でもある。
そんな彼女だが、その破格の力からか配属されたその日の内から治療の業務に追われた。
教会にやってくる怪我人を癒やしてあげるのがその務めた。セイラはそのことに不満はなかった。教会に属することを決めた時から人々のために自分の力を使うことに何ら疑問を持たなかった。
聖女という天職を授かった自分は誰かのためになる生き方を求められているのだろうと自分の運命を悟った。
だが、それは例え相手がだれであっても関係なく分け隔てなく助けてあげたいという強い想いがあったからこそだ。
現状、彼女の思いと実際の業務は大きく乖離していた。
治療を求めてくる患者は確かに多い。多いのだがその誰もが身なりの良い相手ばかりだったからだ。そうセイラが治療を施す相手は貴族や豪商と呼ばれる金持ちばかりだったのである。
そしてセイラの業務を定めた大神官は治療を施した相手から多額の寄付金を受け取っていた。大神官はあくまで相手の善意によるもので強制ではないと言っていたが、セイラとしてはどうしても不信感が募ってしまう。
勿論そういった相手以外にも治療を施す者がやってきていたならまだ納得できただろう。
しかし一度こういうことがあった。ある日まだ幼い子どもを連れた女性が教会にやってきて、子どもが熱を出したから助けてほしいと懇願してきたのだ。
その子は苦しそうにしておりかなりの高熱にうなされていた。セイラは助けるべきだと思い、治療を施そうとしたが大神官によって止められた上、教会は病気には対応できないと冷たく言い放ち追い返してしまった。
確かに僧侶や神官などではそれも正しい。治療魔法の多くは外傷に関しては強いが内側から蝕まれる病気に対応できる魔法を扱えないからだ。
しかしセイラは違った。聖女である彼女は病気を治療できる魔法も扱えるのだ。勿論最初からどんな病気でもと都合よくいかないがあの子どもの状態なら診る余地はあった。
だがこの教会の責任者である大神官はそれを良しとしなかった。何故と問いかけた彼女に、大神官は薬で治る程度の病気まで治していては切りがないと答えた。
その気持ちもわからなくもないが、わざわざ教会を頼ってやってきたのだから多少は融通を利かせたっていいのでは? と思った。それに病気を治すような薬は非常に高額だ。平民では中々手が出せないことも多い。
しかも、彼女にとって信じられなかったのはその後、やってきた貴族の風邪は治してやれと言ってきたことだった。その患者の症状は明らかにあの子どもより軽かった。放っておいても家で安静にしておけば治る程度だ。
だが言われたら教会の教徒である以上、従う他ない。この僅かな期間でセイラはそんなことばかりを目にしてきた。故に今も自問自答を繰り返している。
ただ、まだまだ幼い少女には難しい問題でもあり、中々答えにたどり着けずにいる。
祈りを捧げ立ち上がった後、その場を後にしようとした時、出入り口の扉の前で若い神官と何者かが話しているのが聞こえてきた。
どうやら外にいる相手と揉めているようだ。
「だから何度も言っているだろう! 聖女様は貴様のようなどこの馬の骨とも知れん奴とはお会いにならないし、そのような小汚い犬を診たりもしない!」
「そこを何とか話だけでも通してもらえないか? この子はまだ息があるんだ。治療魔法で治るかも知れない」
「しつこいぞ! 衛兵を呼ばれたいのか!」
「一体何事ですか?」
「あ、聖女様!」
話の中で自分の事が呼ばれていたので気になり、セイラが神官の背後から話しかけた。若い神官は驚いていたがすぐに表情を戻し。
「それが、どこの誰ともしらない男があろうことが聖女様に小汚い犬を診てほしいなどと」
「セイラがいるのか? 頼む! この犬を!」
「き、貴様! よりにもよって本人の前でまた聖女様を呼び捨てとは何たる無礼な! いいから消えろそんな小汚い野良犬がくたばろうが知ったことか!」
「何を馬鹿なことを!」
思わずセイラが叫んだ。その怒気のこもった声に若い神官はギョッとする。
「は、はい! 聖女様がお怒りなのはごもっともです。全くよりにもよって犬を診ろなどとはすぐにでも追い返しますので」
「黙りなさい。私が怒っているのは貴方にです!」
「え? わ、私!?」
どうやら若い神官はセイラが怒った理由がわかっていなかったようだ。セイラは人だろうと動物だろうと困っている相手がいれば手を差し伸べたいと思っている。
「どいてください!」
「え、あ、いけません聖女様!」
神官が前に出るのを止めようとするが小柄な体をいかして神官の脇をすり抜けセイラが表に飛び出した。
「おっと」
「あ、ごめんな、え? 貴方は」
無我夢中で飛び出した拍子で出入り口前にいた男性とぶつかってしまう。謝罪の言葉を述べながら相手を見上げるセイラだが、そこでその人物が誰なのかに気がついた。
「おお、良かったやっと会えた」
「シノさん!」
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