ゲーム世界のキャンセラー~不遇なキャンセルスキルが実はあらゆるものをキャンセル出来る万能スキルだった件~

空地大乃

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第38話 依頼に協力

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 討伐依頼を一緒にやらないかと男女2人の冒険者に誘われ、ヒットはメリッサと相談させて欲しいと少し彼らから離れた。

「ゴブリン退治は一度やってるし、ゴブリンシャーマンとホブゴブリンなら問題ないと思うけど」
「そうですね。報酬は分け合うことになりますが、悪い条件ではないかもしれません。それに他の冒険者と協調出来るかどうかもランクを決める判断材料になるので」

 冒険者としてどのように行動するかは人それぞれであり、パーティーを組むものもいれば基本は1人で行動するというものもいる。

 だが、例え基本的にはこうと決めていても、いざとなれば協力し合う必要も出てくるのが冒険者だ。故に、別々のパーティーで協力しあって行動できるかどうかというのも査定される。

 ヒットとメリッサはかなりの早さでE級にまで上がったが、今後D級やそれより上を目指すならこういった経験も必要なようであり、そう考えたらこの申し出は丁度良かったかもしれないとヒットは考えた。メリッサも異論はないようだ。

「わかった。協力しよう」
「いや、それは良かった」
「期待の新星と言われるその腕前期待してるわよ」
「出来るだけ期待に添えるよう尽力する」
「わ、私も頑張ります!」

 話がまとまり4人で受付に向かう。メガネを掛けた黒髪の受付嬢が応対してくれた。ヒットはいつもニャムを目にしていたので少しだけ新鮮な気がした。

「――はい、ゴブリンの巣の駆除ですね。確かこの巣を発見したのもソーンさんでしたね」
「あぁ、ちょっと数が多くて、協力者が欲しくてね」
「なるほど、それでお二人と協力してですか。わかりました。それではそれで受け付けますね」

 仕事の受注はすんなりと終わった。彼女もかなりテキパキとした仕事ぶりであった。わりと余計な話に発展しやすいニャムとは大違いでもある。

「ところで今日はニャムの姿が見えないな」
「はい。ニャム先輩は今は別件ででておりますので」
「先輩? ニャムが先輩なのか?」
「はい。いつも良くしてもらってますよ」

 ニャムに良くしてもらっている様子が全く想像できないヒットだが、他の受付嬢からは頼りにされているそうだ。

「さて、それじゃあそろそろ行こうか」
「そうだな」
「女同士宜しくねメリッサ」
「は、はい! お邪魔にならないように気をつけます!」

 メリッサはローズに対して大分恐縮しているようだった。相手の方が等級が高く、またベテランっぽい雰囲気を醸し出しているのも大きいのだろう。

 とは言え、ここからはお互い協力し合う仲間だ。対等な立場で依頼に挑みたいところである――





◇◆◇

「ふぅ、疲れた」

 ニャムが肩を叩きながら戻ってきた。どことなく疲れた顔をしている。

「お疲れさまです先輩」
「はい、おつかれ~何か変わったことあった?」
「てかニャム、素がでてるわね。語尾もないし」
「別にいいじゃん。今は他に冒険者もいないし。あのキャラ付けも結構しんどいんだから」
「猫耳だとにゃんとつけると喜ぶから始めたんだったわねそういえば」
「実際の獣人でわざわざそんな語尾付ける人いないものね」
「あったりまえよ。にゃんとかわんとかそんな意味ない語尾つけるわけないし。兎なんてぴょんよ? 何よぴょんって。兎がぴょんなんて鳴くところみたことあるのかと小一時間!」
「先輩、抑えて抑えて――」

 眼鏡の後輩受付嬢が先輩であるニャムに駆け寄って両手を上下させた。ニャムも少し落ち着いたようだが。

「あ、そういえばいつも先輩が対応してた期待の新星が来てましたよ」
「ヒットが? 何か依頼を請けていったの?」
「はい。今回はソーンさんとローズさんの2人と組んでゴブリンの巣を駆除しに行くようですよ」
「え? あの2人と?」

 後輩から報告を受けニャムが小さな鼻の頭に皺を寄せた。

「何か問題ありました?」

 すると眼鏡の後輩がニャムの変化に気がついたのか、問いかけるが。

「う~ん、確証はないんだけど、気になる話を耳にしたんだよね。何もなければいいんだけど――」

 そう言って難しい顔を見せるニャムであった。





◇◆◇

「ローズバインド!」
「ギゥ!?」
「三連突!」

 熊ほどの大きさがあるジャイアントモール相手に、ローズの魔法によって伸びた茨がその巨体に巻き付いた。

 その直後、ソーンが間合いを詰め、高速で槍を扱い、魔物の体に風穴が3つ開いた。あっという間の出来事だった。

「流石に連携が取れているな。しかもソーンは見たところ上級職のバルチザンだろう?」
「あぁ、よくわかったね」

 槍を扱うジョブは基本職にランサーがある。そしてその上にあたるのが上級職の1つであるバルチザンだ。

「ちなみに私はローズマージよ。薔薇を扱う魔法が得意なの」

 それはヒットの記憶にはないジョブだった。ただ聞く限りはこれも上級職の1つのようである。

 2人の実力に感嘆しつつ、次に現れた魔物とはヒットとメリッサが相手した。

「ふむ、ヒットのジョブは、ファイターか何かかい?」
「あぁ、まぁそんなところだ」

 見事魔物を退治した2人だが、その戦いを観察していたソーンがヒットに問いかけてきた。それに悪いと思いながらもごまかす形で答えるヒットであり。

「なるほど。意外だな」
「意外?」
「いや、期待の新星だけあって、何か変わったジョブかと思ってね。気を悪くしたなら悪いね」
「いや、大丈夫だ」

 寧ろこれに関しては若干の後ろめたさはある。だがギルマスに言われたようにキャンセラーというジョブのことは例え協力し合う相手であっても無闇に話すべきではないだろうというのがヒットの判断だった。

「メリッサはいい武器を持ってるわね」
「はい。魔法を撃てる弩なんです。私は初級魔法しかつかえないので、少しでも戦力に慣れればと。鑑定だけだと頼りないかもですし」
「あら、そんなことはないわよ。アナライザーの鑑定はパーティーでの任務には大事なんだし」
「そう言ってもらえると嬉しいです」

 見る限りメリッサとローズは上手くやれているようだ。最初は恐縮していたメリッサだが、積極的に話しかけてくるローズのおかげで大分打ち解けたようでもある。

 それはソーンにしても一緒であった。尤もヒットは話しかけられれば答えるが、そこまで距離を近づけてはいない。こういった時にはある程度の距離感は必要と思うのがヒットだからだ。

「そぅそう、1つ大事なことを忘れていたんだけど、実はもう一組パーティーに協力をお願いしているんだ」

 4人はゴブリンの巣に向けて進み続けたが、ふとソーンがそんなことを言い出し、ヒットが、え? と声を発し。

「それはギルドに言わなくても大丈夫なのか?」
「いや、勿論それは前もって言ってあるよ。そのパーティーは他の依頼もあるから先に来ている筈なんだ」

 それがソーンの回答だった。あの受付嬢はもう1つのパーティーには触れていなかったが、わざわざそこまで言う必要もないのかもしれない。

 正直、人数が増えれば当然わけ前は減るが、今の所まだ余裕があるし、敢えて文句を言うこともないかと納得し、目的地に向かったのだが――

「よう、待ちわびたぜ」

 そこにいた冒険者の姿に、ヒットは思わず眉をひそめた――
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