辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

文字の大きさ
118 / 158
第五章 転生忍者吸血鬼出現編

第三百十三話 変わり果てたもの

しおりを挟む
 こいつらの特徴として、昼間は出歩かないというのがある。このタイプは太陽の光に極端に弱いから。

 純粋な吸血鬼は太陽の下でも平気で動けるみたいだけど、こいつらはそうじゃないらしい。

 だからこそ、太陽が落ちて薄暗くなってから出てきたのだろう。

「……火蜥蜴の息吹サラマンダーブレス!」

 だけど、それがどうした。こいつらはタフだが不死身というわけじゃない。そこがアンデッドとの違い。アンデッドみたいに特別聖なる力に弱いってことではないけど、倒そうと思えば倒せない相手ではない。

「ウグウウウウアアァアア!」

 体が燃え、うめき声を上げた。痛みに強くなっていても燃えると苦しむ。だけど躊躇してはいられない。

 そもそもこの姿になった人はもう助からない。人に戻ることもない。村人が犠牲になったのは傷ましいことだけど、放っておけば無駄に被害者が増えるだけ。

 私が育った村の皆は薬の実験体にされ上で最後、吸血鬼に弄ばれ、彼らみたいに化け物に成り果てて死んでいった。

「……あんなのはもう沢山――」
「ガウガウ!」

 マガミも風を乗せた爪の斬撃でモドキ達を倒していっている。ただ、風の攻撃だと一撃二撃じゃ倒れない。
 
 だから私のサラマンダーの力で援護する。大丈夫この程度なら問題ない。

「あ、あの……」

 モドキにやられていた村人が不安そうにこっちを見ていた。そんなところにいられても邪魔。

「……速く逃げる!」 
「は、はい!」
 
 村人たちが逃げていくのが見えた。それでいい。ここにいられちゃ迷惑。

「ギャッ!」

 だけど、悲鳴が耳に届く。振り返ると、二人の騎士の姿があった。そしてその手には今逃げていった村人の頭。周囲には村人の死体が転がっていた。

 髪の毛を掴みブラブラさせ、そして見せつけるように頭を掲げ首からぼたぼたと流れ落ちる血を開いた口で受け止めた。

 ごくごくと喉が鳴っていた。血で喉を潤すその騎士には見覚えがあった。

「ガ、ガルゥウ……」

 騎士の姿に気がついたマガミの声にも戸惑いが感じられる。

「ふゥ、とてもいイ味ダ。喉ガね。乾イて乾イて、仕方ないンだヨ」

 普通に喋っているようで、途中途中の言葉に独特の濁りを感じた。不協和音が声の中に混じっていた。
 
 私を見る二人の騎士の目は真っ赤だった。そう、吸われたんだそして成り果てた。

「それ二しても、君、どこカで会ったことアるかな?」
「……お前とはない。お前なんて知らない。お前は私が知っているお前じゃない」

 そう告げると、カイエンだった者の口元が歪む。その隣りにいた騎士が急にゲラゲラと笑い出した。

「ギャハハハハハ! 団長ー振られテるじゃないッスかぁ、みっともないなァ、けけッけけ、キェキェキェキェキエキェキェ!」

 笑い声も不快。どうして吸血鬼やそれに属する連中の声は、こんなにも人を苛つかせるのか。

「あハは、酷イなァ、ダルクは、でも、いイかぁ、どうせ、変わラない。君ハ騎士達の餌ダから」
「……達?」

 地面がボコッと盛り上がり、そして私を囲むように四人の騎士が地面から飛び出してきた。

 土の中からわざわざ――

「ガウ!」
「……大丈夫。シルっぴ!」

 振り下ろされた四本の剣、それを全て風の膜で受け止めた。そして風圧で全員吹っ飛ばす。

「へェ、やルね、君」
「なら今度ハ、僕ちャんが、殺っっちャおう、かナぁ!」

 ダルクと呼ばれていた男が飛びかかってくる。

「ガウガウガウ!」
 
 だけど、マガミが躍り出て、剣戟を牙で受け止めた。

「へェ、生意気ナ、狼ダねぇ」
「グルルルウゥウウゥウウ!」
「おわッ!」

 マガミが体を振って、ダルクを投げ飛ばした。

「ガウッ!」
 
 こっちは任せてとでも言ってるようにマガミが吠えてくれた。マガミは頼りになる。

 なら、私はカイエンモドキを狙う。

火蜥蜴の熱球サラマンダーブレイズ

 手から火球を放つ。あいつの体を呑み込むぐらいの大きさがある火球。

「はァあァア!」

 だけど、振られた刃で火球がスパッと割れた。風を纏った魔法剣?

 こいつ、自我が残っているタイプだけに、元の特技も使いこなせてる。その上、吸血鬼に噛まれたことで戦闘力も強化されている。

「今度ハ、私ノ番ダ!」

 次は剣が炎に包まれた。振り下ろされた刃に合わせて地面を炎が伝う。

 だけど、この程度――

「ハッハァーーーー!」
「……え?」

 炎を避けると同時に何かが高速で飛び込んできた。目に片方だけの眼鏡、こいつ――

「フンッ!」
「……ガッ!」

 空中からの回転しながらの蹴り。頭にもろに受けた。まさか、他にいたなんて、気配を消していた? しかもこいつ。

「……お前、あの馬鹿の下にいた」

 地面に倒されたまま見上げる。こいつはあの馬鹿の家令だった奴!

「カカカッ、覚えていてくれて光栄だよ。しかしあの馬鹿ね。まぁ確かにあいつは馬鹿だった。馬鹿でどうしようもなかったが、私が上を目指すための役には立ってくれたよ」
「……何を言って、ぐっ!」

 髪を引っ張られて無理やり起こされ、そのまま首に手が掛かった。くっ、苦しい。

「お前が知る必要もないさ。しかし、驚いたな。今気がついたが、お前、さては混ざりものだな? 全く忌々しい長耳の糞混じりとはな」

 こ、こいつ、私の秘密に気がついた。

「ドルド様、その女ノ血は、私二お譲り頂ケませんか?」
「残念だが駄目だ。別にケチで言ってるんじゃない。こいつがアレの混ざりものなら我々にとっては毒になる」
「……毒?」
 
 ドルドはカイエンモドキの話を一蹴して、わけのわからないことを。こいつの言っている意味がわからなかった。そして手の力が強く――

「どっちにしろ私にとっては貴様など無価値な生き物だ。このまま死――」
『アオォオォオォオオォオオオォオオォオオン!』
「な! ガッ!」

 ドルドの力が更に強まったかと思った、マガミの遠吠えが聞こえた。するとどういうわけか、ドルドが急にうめき出す。

 しめた、力が弱まった!

「……汚い手を、放せ! 精風剣シルフェンソード!」

 怯んでいる隙に、風の精霊の力を剣に変えてドルドの腕を切り飛ばした。

「ぐ、ぐぉぉぉぉぉおおおお!」
「……ざまぁない」

 腕を切られたドルドが悲鳴を上げる。それにしてもこいつが吸血鬼だった……だったら、ここでやられるわけにはいかない――
しおりを挟む
感想 1,746

あなたにおすすめの小説

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。