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2巻

2-2

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「それが今回のことと、どういう関係が?」
「ここまで言ってわからぬとは、やはり落ちこぼれは頭の出来も残念なようだな。ここでいう剣とはロイスのことだ。ロイスには将来のため、幼くしてゴブリン事件を解決したという銘――つまりブランドが必要なのだよ。生まれた時から魔力がないゴミのごとき貴様にではなく、な」

 俺に指を突きつけながらそんなことを言った。
 まったくろくでもない男だ。こんなのと血の繋がりがあると思うと、うんざりする。

(マガミ、こらえろよ)
「……ウゥ」

 くちびるをなるべく動かさず、マガミにそう伝えた。
 マガミは賢い狼だから、大叔父が俺に向けて吐き出している言葉の意味をある程度理解している。今はなんとか耐えているが、眼光は鋭い。敵意を隠し切るのはなかなか難しそうだ。

「いいか? お前があげた功績など、せいぜい狭苦しい町の下民をほんの少し喜ばせる程度のものでしかない。だが、これがロイスの功績となればどうなるか? たちまち噂はこの町だけでは留まらなくなる。流石はエイガ家の血統だと、周辺の地にも知れ渡る。王都にだって届くかもしれない。勿論それは私が協力してこそだと思うが、とにかくそこから生み出される利益を考えれば、貴様の功績にしておく意味などまるでないことに気がつくだろう」

 つまりこいつは、兄貴を利用して自分の名も上げたいのだろう。自分の協力が必要だと言っているし、実にわかりやすい。
 兄貴は随分と大叔父を慕っているが、こいつ自身は兄貴を親族としてではなく、駒としてしか見ていない気がする。

「さぁ、わかったら私の言う通りに動くがいい」
「お断りさせていただきます。どちらにせよ、僕の判断だけでどうこうできる話じゃない」
「お前の判断ではない、私の判断だ。勘違いするなよ、落ちこぼれの出来損ないが。所詮しょせん貴様などお情けで生かされているに過ぎないことを忘れるな」

 上から目線で偉そうに語る奴だ。正直相手するのも面倒だな。
 俺としては別に功績なんかに興味はないのでなかったことにされてもいいが、かと言ってこいつの思い通りになるのはしゃくである。
 大叔父の話に辟易へきえきとしていると、スワローが中庭にやってきた。その目つきはどことなく険しい。

「……少々言葉が過ぎるのではありませんか? タラゼド卿」
「何? ……スワローか。言葉が過ぎるとは、この私に対して言っているのか? お前は一体どの立場からそのような物言いをしている?」

 スワローに顔を向け、大叔父が厳しい口調で言う。

「……出すぎた真似をして申し訳ありません。お二人の会話が耳に届いたもので」
「ふん、盗み聞きとは随分としつけの行き届いた執事もいたものだな」

 大叔父がそんな皮肉を口にしたが、スワローはりんとしたたたずまいで言葉を続ける。

「あれだけの大声ならば、ある程度離れていても聞こえてきます。最初から聞いていたわけではありませんが、わずかな内容だけでも大体のことはわかりましたので」
「……ふん。それで、話が聞こえたからなんだというのだ?」
「ジン坊ちゃまのことです。私はロイス坊ちゃまもジン坊ちゃまも幼少の頃より等しく見てきて、兄弟それぞれが違った才能を持ち合わせていると考えております。ロイス坊ちゃまの魔法の才は、確かに非凡なものを感じます。しかし、ジン坊ちゃまも人より優れた才能を持っております」
「このゴミに才能だと? 貴様は見る目がないな」

 大叔父は視線を俺に移し、小馬鹿にしたように鼻で笑った。

「――タラゼド卿、ジン坊ちゃまには類稀たぐいまれなる剣の才能がございます。元騎士の私から見て、それは間違いありません。その上大変な努力家でもあります。才能におぼれる者は数多くいれど、努力を積み重ねられる者は希少です。それは一つの価値と言えませんか?」

 スワローはそういう風に俺のことを思っていてくれたのか。
 俺がこの世界の剣術を練習しているのは単純に興味があったからだけれど、純粋に嬉しい。

「ふん、そんなお遊戯ゆうぎになど、なんの価値もない。この世界で最も信頼されるのは魔法であり、魔法士の力だ。貴様は魔法の才がなく剣一本で成り上がってきたようだからこいつをかばいたくなるのだろうが、忘れるなよ。騎士が活躍できているのも魔法士がいてこそだ」

 大叔父はどうしても俺を下に見たいようだな。
 スワローは大叔父をしっかりと見据みすえ、凛とした声で言い放つ。

「……どちらがよくてどちらが悪いなど、私ごときが言うことではありません。ですが魔法士と騎士、そのどちらが欠けても駄目なのだと愚考しております」
「……ふん。だが騎士を辞めた貴様は結局、男爵家の執事などという小さな身分に収まっているだけではないか。魔法の才があれば、もっと素晴らしい道を歩めたとは思わぬか?」
「私は十分に満足しております」
「満足か。そうは思えんがな。どうだ? 貴様もいい加減、女としての幸せを考えてみるといい。お前ほどの器量ならば気に入る貴族も多かろう。私が面倒を見てやるぞ?」
「丁重にお断りさせていただきます。私は執事の仕事に誇りを持っておりますので」
「誇りだと? 女の分際で生意気な。貴様は女らしく尻でも振って男にびていれば――ッ!?」

 その時、大叔父がギョッとした顔で俺の方を振り向いた。
 スワローに対する暴言が酷かったのでつい殺気を向けてしまった。案外ばれないかとも思ったが、どうやらそこまでにぶくなかったか――
 すると、マガミが大叔父をにらんで唸り声を上げる。

「グルルルルウゥウゥウウウウ!」
「……狼か。ふん、何が大人しいだ。そこらの野犬と変わらぬ顔をしているではないか。そんなものを放っておくな。鎖にでもつないでおけ!」

 大叔父が怒鳴り散らす。殺気をマガミのものと判断したか。
 それにしても、さっきまで引き取る気でいたくせに、少しでも敵意が向けば掌返しとは。器が知れるというものだ。
 俺は頭を下げて、大叔父に告げる。

「申し訳ありません、大叔父様。マガミは普段は大人しく、唸り声を上げたりしないのですが、どうやら大叔父様にだけは別なようです」
「なんだと?」

 大叔父の眉間に深いしわが刻まれた。俺の皮肉が効いたようだ。
 その時、一人のメイドが中庭にやってきて、顔を強張こわばらせながら大叔父に言う。

「あ、あの、タラゼド卿。だ、旦那様より部屋まで来ていただきたいと言伝ことづてを受けたのですが……」

 声が震えている。俺たちの剣呑けんのんな空気を感じ取ったのだろうか……悪いことをしたかな。

「……わかった。ジン、貴様のことはしっかりあいつと話させてもらうからな」

 そう言い残し、大叔父は俺たちの前から立ち去った。
 よかった、これ以上あいつと話していたら、俺も抑え切れていたかわからない。

「……ジン坊ちゃま、申し訳ありませんでした。差し出がましい真似を」

 大叔父の姿が見えなくなったあと、スワローが頭を下げてきた。彼女に非はないのだから謝罪など不要だろう。

「謝る必要はないさ。スワローは僕を思って言ってくれたんだ。むしろ、こちらこそありがとう」

 そう伝えるとスワローがニコリと微笑ほほえんだ。

「……そう言っていただけると、嬉しく思います」
「スワローは、うちにとってかけがえのない存在だよ。スワローほどの執事は他にいない。あんな奴の言うことなんて気にする必要ないさ」

 俺は本心を伝えた。大叔父なんかの言葉を気にするのは、馬鹿らしいことだ。

「まぁ、あんな奴だなんて。タラゼド卿に聞かれでもしたら、またご面倒なことになりますよ」
「はは、違いないね。ならこれは二人だけの秘密で」

 俺は口の前で人差し指を立ててみせた。

「ふふっ、そうですね」

 スワローも口元に人差し指を添え、おかしそうに笑う。
 そこにマガミの鳴き声が加わった。

「ガウガウ!」
「あ、そうですね。二人ではありませんでした」
「ガウ!」

 マガミが同意するように吠えると、スワローは改めていい笑顔を見せてくれた。
 マガミはスワローと俺の周りを駆け回っている。可愛い奴め。
 しかし、マガミといえば大叔父は気になることを言っていたな……

「そういえばスワロー。大叔父様がマガミを魔獣と思ったらしくて、従魔契約がどうとか言っていたんだけど……何か知ってる?」
「はい。従魔契約というのは、儀式ぎしきを通して魔物や魔獣と契約を結び、主従関係を築くことをいいます。魔物や魔獣と契約した者は、魔物使いや魔獣使いと呼ばれますね」

 そうなんだ。しかし流石、スワローは物知りだな。

「契約を結ぶと何かいいことがあるの?」
「従魔は主の命令を聞くようになりますから、強力な魔物や魔獣を従魔にすればそれだけでもかなりの利点ですね。さらに、従魔が特殊な力を持つ種の場合、主は従魔の力を使用できるようになります。たとえば火の属性を持つ存在を従魔にすると、契約前には使えなかった火属性の魔法が使えるようになるんです」

 なるほどね。忍法・口寄せに近いけど、相手の力を主が使えるという点が異なるか。

「従魔契約というのはやっぱり難しいのかな?」
「難易度は高いですね。従魔として契約を結ぶには、まず対象に自分の力を認めさせる必要がありますから。また、契約のための儀式にはかなりの魔力を消費します」
「あぁ、それなら僕には無理だね」
「そうですね……魔力という点では難しいかと。ただ――」

 そこまで口にし、スワローは若干の迷いのある表情を見せた。

「どうしたの?」
「いえ、その……魔獣や魔物と心を通わせることで、儀式をせずとも従魔契約を結べた者がいたという逸話が残っているのです。そのため魔力がなくても契約が結べる可能性もないとは言えませんが、信憑性しんぴょうせいに欠ける夢物語のようなものなので」

 なるほど。スワローとしては、俺をがっかりさせたくないと思ってそんなことを教えてくれたのかもしれない。とはいえ、余計な希望を持たせてもよくないとも考えてためらったのだろう。

「ありがとうスワロー。凄く参考になったよ」
「そう言っていただけると嬉しいですが……ただ、ジン坊ちゃまはとても動物に懐かれる体質のようです。坊ちゃまであれば、マガミやエンコウを従魔にできても不思議ではないと私は思います」
「はは、ありがとうねスワロー」
「ガウガウ!」

 俺はマガミをもふもふしながらお礼を言った。マガミは嬉しそうに尻尾しっぽをパタパタさせている。
 しかし、従魔契約か――何かの役には立つかもしれないから心に留めておくとするかな。


 ◇◆◇


【サザン・エイガ視点】

 私はサザン・エイガ。エイガ家の現当主である。
 午前中に我が家へやってきた叔父のタラゼド卿には、エイガ家の治めるエガの町で開く、魔法大会の事前試合についての話を聞いてもらうつもりだった。この事前試合で優勝を収めた者は、タラードの町で行われる大会の予選に出ることができる。
 一方、貴族であれば事前試合に出る必要はなく、身分が高ければ予選も免除される。
 ロイスは叔父に目をかけられているため、予選は免除されるのだろう。だが私は、ロイスのためにも予選からの参加にさせた方が望ましいと思っている。そのことを話すためメイドに叔父を呼びに行かせたが、正直に言って不安だ。叔父は予選から参加させることを恥と思う人間である。
 私の考えを話したらどう受け止められるか――そんなことを思いつつ待っていると、叔父が部屋にやってきた。メイドから話を聞いたのだろう。
 だが、叔父の顔を見て私は不安を覚えた。妙に機嫌の悪そうな顔をしている。

「叔父上、いかがなさいましたか?」
「どの口がそれを言うのか。まったくお前は、執事とあの出来損ないにどんな躾をしているんだ?」

 急にそんなことを言われても困るが、とにかく返答する。

「スワローはよくやってくれています。出来損ないとは……まさかジンのことでしょうか? ジンに関しては、人様に迷惑をかけるような真似はさせていないつもりですが」
「ふん。貴様がそんなことだからつけあがるのだ。まぁいい。まずは私から話がある。今すぐあのろくでなしの功績を撤回しろ。そしてゴブリン事件を解決したのはロイスだったと喧伝けんでんするのだ」
「……仰っている意味が少々わかりかねます」
「やれやれ。貴様までそんなことを抜かすか? まさか貴様、あの屑に肩入れしているわけではあるまいな?」
「そもそも、屑と言われるような者は我が家にはおりません」
「何?」

 叔父がギロリと睨みをかせてきた。
 確かにジンの魔力はゼロだ。魔法が全てであるエイガ家においては、落ちこぼれと呼ばれても仕方なくもある。
 だが、それでも屑呼ばわりを許すわけにはいかない。相手がたとえ叔父であっても――

「魔力のない者を屑と呼んで何が悪い? あんなエイガ家の恥晒しの名など、呼ぶだけで気持ちが悪くなる。口が腐るというものだ。とにかく、あんなゴミのおかげだなどという噂が立っても、百害あって一利なしだ。とっとと取り消してロイスの功績にしろ」
「……あれがジンのやったことではないとは、本人も言っています。しかし、ゴブリンロードを退治した大猿がジンに懐いていたのは事実。そのことは町でも知られており、結果的にジンの力と見ている人間がいるという話なのですよ。それを今更取り消すというのは無茶な話かと」
「……ゴブリンロード? それに大猿だと? なんだそれは、聞いてないぞ」

 叔父が怪訝けげんそうに眉を寄せた。
 聞いてない、か。そもそも私はこの件について話していないが、一体誰から聞いたのか。
 私はゴブリン事件のあらましを叔父に話した。

「……つまり、大猿がゴブリンロードを倒し、結果的に騒ぎが沈静化したということか。それで、その大猿はなんだ? まさか魔獣か?」
「――それは定かではありません」
「は? 何を呑気のんきなことを。早急さっきゅうに調べ上げ、魔獣であればとっとと捕らえるべきだろう!」
「今もお話ししましたが、大猿のエンコウは非常にジンに懐いており、他の猿も現在は人々の助けになっております。捕まえる理由がありません」
「そんな悠長ゆうちょうなことを言って、もし何かあったらどう責任を取るつもりだ!」
「その時は領主としての務めを果たします。とにかく、これはエイガ男爵領内の問題ですので」

 そこははっきりと言わせてもらった。いくら叔父が伯爵と言えど、他家の領地についてとやかく指図する資格はない。

「……生意気な口をたたきおって。とにかく、どんな手を使ってもいい。ゴブリンロードを倒したのはロイスということにしろ。その方が外聞がいぶんがいいし、ロイスが魔法大会でいい成績を残して魔法学園に入ったあと、ゴブリンロードを倒したという名声があれば何かと有利になるしな」
「……お言葉を返すようですが、そのような真似をしてもロイスのためになるとは思えません」
「ロイスのため? お前は馬鹿か? ロイスではなく、エイガ家のためになるのだ」
「それならなおさらです。ロイスには確かに才能があります。しかし、まだまだ未熟でゴブリンロードを倒せるほどの腕はなく、功績に見合った器にもなっていない。むしろそのような名声は、ロイスにとって悪影響になります」
「ふん、だからなんだ? 器なんてものは私の方でどうとでも偽装できる。今は力が足りなくてもそれなりに体裁ていさいを整えれば十分だ。あとはこっちでなんとかしよう」

 ――叔父は、確かにエイガ家の繁栄に一役買ってくれた人ではある。だが、そのやり方を私はあまり好ましく思っていなかった。その考えは今、彼の話を聞いて確かなものになっている。

「……とにかく、その話はお断りいたします。それとロイスの件ですが、今も言ったようにまだまだあの子は未熟。ゆえに大会についても予選からの参加とさせていただきたく思います。私が叔父上をお呼びしたのはそのことをお伝えするためでしたので」
「何?」

 叔父の威圧が高まった。私を見る目に力がこもっている。

「この私の話を勝手に打ち切って自分の用件だけを一方的に伝えるとは、あの泣き虫のお前が随分と偉くなったものだな」
「くっ!」

 空気がビリビリとざわめきだし、部屋の家具が震えた。
 これは威圧に魔力を込めた、魔圧――

「そういえば、お前もエイガ家の中では決して出来がよくなかったな。だからお前は男爵止まりだった」

 叔父は魔圧をまとわせたまま、話を続ける。

「エイガの家名しか持たぬものには二種類いる。一つは王宮や有力貴族につかえる魔法士となった優秀な人間。もう一つはエイガ家の始まりの地であるこの男爵領に居残り続ける弱者。先祖代々の土地を守り続けると言えば格好はつくが、要は外に出ることもできなかった脆弱ぜいじゃくな魔法士の流刑地るけいちみたいなものだろう、ここは?」
「そのような考えをお持ちなのは、あなただけです。私は領地を守る責務に誇りを持っている!」
「ほう、一丁前な口を聞くようになったじゃないか。それで、今のお前の魔力はいくつだ?」
「……五百」
「五百か! それは大したもんだ。生まれた時は五十だったか? 平民からすればそれなりに高いが、エイガ家では及第点とはとても言えないものだった。ロイスは誕生時点で百五十だったな。お前みたいのから生まれたにしてはいい出来だ」

 叔父はニヤリと笑った。

「なぁに、五百は本当に大したもんさ。私の持つ魔力の程度もあるのだからな」
「…………」

 魔圧が高まり、私は返す言葉を失う。
 すると、叔父の背中から鋼鉄の腕が伸び、私の頭に鉄の掌が置かれた。
『鉄血の魔導師』――その力はいまだ健在ということか……
 だが、ここまであからさまに恫喝どうかつめいた行為に訴えてくるとは……

「さて、お前にもう一度だけ聞いてやる。ゴブリンの件は、ロイスの功績にしろ。わかったな?」

 私は断ろうとしたが、言葉が出てこなかった。
 圧倒的な魔力の差は、こうまで人の気持ちを折るものなのか? あまりに自分が不甲斐ふがいない――

「恐れ入ります。失礼してよろしいでしょうか?」
「……スワローか?」

 だがそこに、扉をノックする音と私が信頼を置く執事の声。

「駄目だ。今は私がこいつと話をしている」

 叔父がそう扉の向こうに返事したが――

「だからこそです。タラゼド卿にも関係することゆえ、どうか入室を許可いただけませんか?」

 返ってきたスワローの声に、叔父は怪訝な顔を見せながらも頷いた。
 それを見て、私は言う。

「許可する。入りなさい」
「失礼します」

 スワローが入ってくると、叔父の視線が私から彼女に移った。

「それで、なんの話だ?」

 叔父の主導で話が振られた。
 スワローは一旦瞑目めいもくする。叔父の背中からは腕が伸びたままだ。それにもかかわらず、まったく動揺を見せない。大した胆力たんりょくだ。大の男ですら、この魔法と魔圧には恐れおののくというのに。
 スワローは目を開き、叔父に視線を合わせ語りだした。

「タラゼド卿はどうやら、ゴブリンロードを倒したことをロイス坊ちゃまの功績としたいようですが、それはやめた方がよろしいのではとご忠告に上がりました」

 すると、叔父は不機嫌そうに顔をしかめる。

「またそれか。貴様といいサザンといい、そろいも揃ってそんなにもあの出来損ないの肩を持ちたいのか? それに一体なんの意味がある」
「私は出来損ないなどと思いませんが、それは一旦置いておくとしましょう。問題は、ロイス坊ちゃまにはそれだけの力がないということです」
「そんなのはここにいるサザンからも聞いた。だがそれがどうした? そんなもの――」
「兵が見ております」
「何? 兵だと?」

 叔父の表情に変化が見られた。いぶかしげに目を細めている。

「ロイス坊ちゃまはゴブリン討伐作戦において、補助の役割を与えられて同行しておりました。そのため、当家の兵たちもロイス坊ちゃまの戦いぶりを見ております。ゆえに、ゴブリンロードを倒せるだけの実力が備わっていないことは、兵たちがよくわかっています」
「……チッ。ロイスめ、そのことも黙っていたか。だが、そんなものは兵に口止めでもなんでもしておけばいいことだろう」
「それは正直難しいかと」
「何故だ!」
「ロイス坊ちゃまは作戦においてミスを犯しており、兵からの心証があまりよくありません。そんな中でロイス坊ちゃまがゴブリンロードを倒したという話がまかり通ってしまえば、兵たちの間に不満がつのり余計な反発を生みます。エイガ家にとってもロイス坊ちゃまにとっても、よい影響を与えられるとはとても思えません」
「……」

 叔父が顎に手を添え、黙考している。


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