理系女子が16世紀イタリアに似た異世界の貴族令嬢に転生。追放されたので、魔法科学で領地の文明水準を引き上げます

ねこまんまる

文字の大きさ
9 / 30

9 家族の行方は

しおりを挟む
私は、ドメニコに謝罪した。
  
「ごめんなさい。すべて、私のせいだわ」
  
「いえ、表向きは、お嬢様が政敵の貴族令嬢の杯に毒を落とした、という話になっていますが……本当は、旦那様が政治で敗れたのです」
 
「そうだったの?」
  
「旦那様は、フィレンツェでメディチ家に反対する評議会派に属しておられました。ですが政争に敗れ、家は解体され、旦那様は処刑をまぬがれるかわりに、ローマへ“幽閉”という形で送られたのです」
  
16世紀のフィレンツェでは、派閥争いは珍しくなかった。
父はその中で「負けた側」に属していたようだ。
 
直接の罪がなくても、敗者は追放・財産没収・人質としての送致(※ローマや他都市への移送)を受けるのが常だった。
 
ドメニコが、静かに頭を下げる。
 
「わたしは、せめてこの門だけでも閉じておこうと思いましてな。この屋敷に残らせていただいたのです」
  
「……ごめんなさい、ひとりで守らせてしまって」
  
「謝られることではありません。お嬢様がいつか戻ると信じておりました」
  
「――お父様を領地に戻すには、資金が必要ね。教皇への赦免の嘆願、枢機卿への献金、それからフィレンツェ評議会への和解金……銀貨100枚、いえ、200はいるわ。でなければ、帰る場所は作れない」
  
父は罪人として捕えられたのではなく、政治に敗れ、“ローマの教皇庁の監視下”に置かれている。

つまり――ただ迎えに行けばいいという話ではない。
 
母を修道院から戻すにしても、兄が傭兵生活をやめて帰るにしても、結局は『金』が要る。
 
さらに、彼らの帰る場所――屋敷や畑、食料を整えねばならない。
  
考え込む私のそばで、ルカが低く言った。
  
「俺は、この屋敷を立て直す。ドメニコ、手を貸してくれるか」
  
「もちろんですとも。今度こそ、灯りが消えぬように……。ところで、あなたさまは?」
  
「ルカ・ベラルディ。かつて傭兵団の隊長だったが、今は刻印も身分証も剥がされている。しばらくは、この屋敷の守りを引き受ける」
  
「傭兵隊長……?」
  
ドメニコの白い眉が、わずかに揺れた。
  
「つまり、戦の専門の方でございますな。ですが、なぜお嬢様と一緒にいるのです?」
  
「イザベラが“罪人”として裁かれたとき、俺もその場にいた。あの理不尽な裁きを、黙って見送ることができなかった。それだけだ」
  
老執事は黙り、やがて細く息を吐いた。
  
「世は乱れております。正しき者ほど早く処され、黙って従う者ほど長く生きる……」
  
16世紀前半のフィレンツェは、ルネサンスの華やかさの裏で、権力闘争と粛清が渦巻いていた。

メディチ家が政権を握ると、反対派は“平和を乱す者”として追放・没収・処刑された。
「正義」や「共和国」を掲げた者ほど、先に消されていったのだ。
  
石壁に触れながら、ルカがつぶやく。
  
「この家も、そうして沈められたのだろう」
  
「はい。それでも……お嬢様が戻られた今、再び仕える家がある。それが、わたしの最後の務めでございます」
  
「ならば、おまえと俺は同じだ。俺も、イザベラに救われた。ここを守ることが、今の俺の戦場だ」
  
「……なるほど、戦場、ですか。では私は、厨房と倉庫を守りましょう。食が尽きれば、どんな英雄も倒れますからな」
  
その言葉を聞いたルカが、わずかに笑う。
  
「頼もしい言葉だ。じゃあ俺は屋根と門から修理していこう。見たところ、役人や兵士どもに派手に壊されたままだ。雨を防げなければ、戦にもならん」
  
二人の間に、静かな共闘の気配が灯った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

婚約破棄されましたが、お兄様がいるので大丈夫です

榎夜
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」 あらまぁ...別に良いんですよ だって、貴方と婚約なんてしたくなかったですし。

悪役令嬢だけど、私としては推しが見れたら十分なんですが?

榎夜
恋愛
私は『花の王子様』という乙女ゲームに転生した しかも、悪役令嬢に。 いや、私の推しってさ、隠しキャラなのよね。 だから勝手にイチャついてて欲しいんだけど...... ※題名変えました。なんか話と合ってないよねってずっと思ってて

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤

凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。 幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。 でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです! ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?

処理中です...