理系女子が16世紀イタリアに似た異世界の貴族令嬢に転生。追放されたので、魔法科学で領地の文明水準を引き上げます

ねこまんまる

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13 水利工学と魔法科学

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「さて」と、私は作業にとりかかる。

「つぎは、私の魔法科学の番ですね」

水車小屋の前――粉挽きに使われる古い水車の横に、私は木の台を置き、青銅の盤と金線で作った回路板を並べた。
 
この魔法装置(青銅盤+金線)は、自然の力(川の流れ)を魔法のエネルギーに変換できる“発電機みたいなもの”だ。
 
水車が回れば、魔力が流れて魔法科学が発動する仕組みとなっていた。

ルカは、そのそばで腕を組み、じっと見ている。

「これが……“魔法科学”ってやつか?」

「はい。これまでの研究を、やっと形にできます」
 
今回の魔法科学は、錬金術や水利工学の理屈を混ぜたもの。
 
水利工学というのは、水の流れを利用した建設・水管理の技術(ダム・水路・水車の設計など)。
16世紀のイタリアには、水利工学という現代的な学問名は存在しない。
 
私は指先で空気に印を描き、祈りにも似た所作で手をかざした。

青白い光がほのかに生まれ、銅線を伝って、水車の回転軸へとすべり込む。

すると、水車が放つ光が水へ流れ、水面が淡く輝いた。

次の瞬間、アルノ川の支流から流れ出る水は、川底が見えるほど、透明にみきってきた。

本来なら、アルノ川は上流の町や工房から出る汚れで濁っているはずだった。
フィレンツェでは染色業や皮革業が盛んで、布を染めた残り水や、獣の血や灰汁、さらには生活排水までもがそのまま川に流される。

秋になれば山からの雨で泥や腐葉土が混じり、水がにごりだすから、いつもなら水底など見えるはずもない。

それなのに今、水車の羽根が触れたあたりから水が浄化されていき、まるで別の川のようにキレイな水質になっていく。

領地の文明水準をあげるには、まずは水と衛生をととのえることが大切だ。
これをすると、文明レベルが一気に上がる。

女たちは壺を抱え、水をすくいながら「聖母の御業だわ!」と十字を切る。
老人は手のひらですくって飲み、涙ぐむ。

「すごい、ちゃんと飲める……! 本当に、川の水が飲めるぞ!」

井戸がない貧しい村や郊外では、川水を飲むこともあったけれど、それは衛生的にかなり危険で、実際に病気をもらうことも多かったのだ。
 
村人たちは、浄化された川の水を桶でみ、畑にまいた。

すると、湿った土の表面がふるえ、踏み荒らされた黒土のあいだから、小さな緑の芽が顔を出し始めた。

本来ならば数日、いや十日以上はかかるはずの麦の芽吹きが、わずかな時間で起こっている。

ルカは、おどろいたように畑を見つめた。

「……これも、魔法科学の力か?」

「ええ。水にきざんだ魔力の配列は、流れ続けるかぎり消えません。その魔力のちからをかりて、芽は季節を待たずに呼吸を始めたのです。だから、この土地はもう簡単には枯れません」

村人たちの感謝の声が、今度はルカにも向けられる。

「イザベラ様、ルカ様、ありがとう!」

ルカは居心地悪そうに眉を寄せた。

「礼なら、あの令嬢だけに言え。俺は……ただ釘を打っただけだ」

私は笑って首を振る。

「でも、あなたの協力がなければ、この領地に水は流れませんでした」

水車から放たれた水は灌漑かんがい用の細い水路を伝い、村の外れへ、果樹園へ、森の小川へと広がっていく。

「この水は、畑だけでなく、人の心も洗います。荒れた土地に“実りを思いださせる力”をあたえる……そんな魔法科学を、私は作りたかったのです」

ルカは芽吹いた畑を見つめながら、静かに息を吸った。

「……いい匂いだな」

「ええ。生きている匂いです」

水車が回る。水が流れ、土が応える。

その小さな循環の音が、確かに未来へとつながっていくような気がした。
 
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