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12 修理完了
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水車にはいくつかの造りがあり、川の速さや地形、水門の形によって使い分けられる。
この領地で使われていたのは、川の流れをそのまま下から受ける“下掛け水車”だ。
アルノ川の支流は、山のような落差がなく、なだらかな平地を流れるため、この方式がもっとも一般的だった。
老いた粉挽き職人が、焼けた歯車と鉄の軸を見て、苦い顔で唸った。
「ルカ様、こいつは軸が曲がってます。鍛冶屋を呼ばにゃ直りません」
「呼んでる暇はない。炉を起こせ。焼いて叩き直すんだ。手順は俺が教える」
ルカは薪と炭を組んで火を起こし、鉄を赤くなるまで熱した。
私は革の手袋を借りて、火のそばで水桶を抱え、冷やす役目を待つ。
真っ赤な鉄を水に浸すと、川辺に白い蒸気が立ち、焦げた木と熱い鉄の匂いが鼻を刺した。
若者たちが感心したような声を上げる。
そうして、最後の楔が水車に打ち込まれたとき、軸がわずかにきしみを上げる。
「……水を流せ!」
ルカの声に、堰の板を押さえていた農民が、一気に水門を引き上げた。
たまっていた水が怒涛のように流れ込み、壊れかけた水車の羽根板を叩く。
一度、二度……重いきしみののち、長く沈黙していた水車の大輪が、ゆっくりと回り始めた。
「回った……!」
歓声が村人たちの間から湧いた。
水しぶきが太陽の光を反射し、こげた跡を洗っていく。
冷たく濁った水音が、再び村の鼓動のようにひびいた。
ルカは濡れた額を拭い、静かに息を吐く。
「……これでようやく、この領地も安心して息ができるようになる」
すると、老職人が涙をぬぐいながら言った。
「あんたのような隊長は初めて見た。神さまが見てたら、きっと祝福をくれますよ」
ルカの頬には土と汗が乾いて一筋ついていた。
私はそっと近づき、袖口でその汚れを拭う。
「そのままだと風邪をひきます」
「おい、そんなことをする必要は……」
「あなたがいてくれなければ、この村は立ち上がれなかった。せめて、これくらいはさせてください」
ルカはわずかに目を伏せ、照れたように笑った。
「貴族の女に、こんなことされるのは初めてだ」
「今の私は、貴族ではなく、ただのイザベラですから」
本来なら、貴族の女がこんなことをするのは階級的なタブーだけど、私は追放された身だから、ゆるされるだろう。
水車は回り続けた。
歯車に差し込む陽光が、にごった川面を金色に染め、こげた木の匂いの代わりに、新しい水の匂いが領地を満たす。
「……これで、灌漑も、水脈も安定しますね」
私は手を胸の前で組み、静かに笑んだ。
「水車に、魔法科学の回路をほどこします。川の水流の力をたくわえ、夜の照明や畑の水に回せるはずです」
ルカは木槌を腰に下げ直し、小さく笑った。
「……そうか。それは、よかったな」
「はい!」
私は言ってから、深く息を吸い込んだ。
澄んだ水音の向こうで、村の子どもたちが走り出し、粉の挽ける音を待っている。
風が私たち二人のあいだを通り抜け、修復された水車の羽根が、一定のリズムで音を立てた。
川の音が、またひとつ、強くなった。
水車の輪は絶え間なく回り続け、その回転の音が、ふたりの間の沈黙をやさしく包み込んでいた。
この領地で使われていたのは、川の流れをそのまま下から受ける“下掛け水車”だ。
アルノ川の支流は、山のような落差がなく、なだらかな平地を流れるため、この方式がもっとも一般的だった。
老いた粉挽き職人が、焼けた歯車と鉄の軸を見て、苦い顔で唸った。
「ルカ様、こいつは軸が曲がってます。鍛冶屋を呼ばにゃ直りません」
「呼んでる暇はない。炉を起こせ。焼いて叩き直すんだ。手順は俺が教える」
ルカは薪と炭を組んで火を起こし、鉄を赤くなるまで熱した。
私は革の手袋を借りて、火のそばで水桶を抱え、冷やす役目を待つ。
真っ赤な鉄を水に浸すと、川辺に白い蒸気が立ち、焦げた木と熱い鉄の匂いが鼻を刺した。
若者たちが感心したような声を上げる。
そうして、最後の楔が水車に打ち込まれたとき、軸がわずかにきしみを上げる。
「……水を流せ!」
ルカの声に、堰の板を押さえていた農民が、一気に水門を引き上げた。
たまっていた水が怒涛のように流れ込み、壊れかけた水車の羽根板を叩く。
一度、二度……重いきしみののち、長く沈黙していた水車の大輪が、ゆっくりと回り始めた。
「回った……!」
歓声が村人たちの間から湧いた。
水しぶきが太陽の光を反射し、こげた跡を洗っていく。
冷たく濁った水音が、再び村の鼓動のようにひびいた。
ルカは濡れた額を拭い、静かに息を吐く。
「……これでようやく、この領地も安心して息ができるようになる」
すると、老職人が涙をぬぐいながら言った。
「あんたのような隊長は初めて見た。神さまが見てたら、きっと祝福をくれますよ」
ルカの頬には土と汗が乾いて一筋ついていた。
私はそっと近づき、袖口でその汚れを拭う。
「そのままだと風邪をひきます」
「おい、そんなことをする必要は……」
「あなたがいてくれなければ、この村は立ち上がれなかった。せめて、これくらいはさせてください」
ルカはわずかに目を伏せ、照れたように笑った。
「貴族の女に、こんなことされるのは初めてだ」
「今の私は、貴族ではなく、ただのイザベラですから」
本来なら、貴族の女がこんなことをするのは階級的なタブーだけど、私は追放された身だから、ゆるされるだろう。
水車は回り続けた。
歯車に差し込む陽光が、にごった川面を金色に染め、こげた木の匂いの代わりに、新しい水の匂いが領地を満たす。
「……これで、灌漑も、水脈も安定しますね」
私は手を胸の前で組み、静かに笑んだ。
「水車に、魔法科学の回路をほどこします。川の水流の力をたくわえ、夜の照明や畑の水に回せるはずです」
ルカは木槌を腰に下げ直し、小さく笑った。
「……そうか。それは、よかったな」
「はい!」
私は言ってから、深く息を吸い込んだ。
澄んだ水音の向こうで、村の子どもたちが走り出し、粉の挽ける音を待っている。
風が私たち二人のあいだを通り抜け、修復された水車の羽根が、一定のリズムで音を立てた。
川の音が、またひとつ、強くなった。
水車の輪は絶え間なく回り続け、その回転の音が、ふたりの間の沈黙をやさしく包み込んでいた。
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