理系女子が16世紀イタリアに似た異世界の貴族令嬢に転生。追放されたので、魔法科学で領地の文明水準を引き上げます

ねこまんまる

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16 できることは?

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その日、私は屋敷の居間にいて、石の壁にもたれながら窓の外を眺めていた。
厚いガラス越しに見えるのは、霧に沈んだ畑と、その向こうの低い丘。
刈り込まれたブドウ棚が、冬の空の下で規則正しく並んでいる。

足元では、火鉢の炭が小さく音を立てていた。
それでも石造りの屋敷は底冷えがする。

いま私が考えていることは、じゃがいもを作るべきかどうか。

じゃがいもは、中世ヨーロッパには存在しない食べ物だ。
原産は南米アンデスで、ヨーロッパに伝わるのは、ずっと後……十六世紀の終わりから十七世紀にかけてのことになる。

中世ヨーロッパでは、気候や土壌によって、育つ野菜も、日々食べられている野菜もちがう。
それは、品種改良が未発達で、温室栽培もなく、化学肥料も存在しない時代だからだ。

地中海性気候のイタリア、トスカーナ地方では、夏は乾き、冬は比較的温暖だ。
そのため、黒キャベツやリーキ(西洋ねぎ)、玉ねぎ、カブといった野菜が、冬でも畑に残る。

「うーん……」

魔法科学を使えば、じゃがいもを作ること自体はできるはず。
地下で栄養を集め、塊になるよう成長を調整すればいい。

けれど、作ったところで売れるとは思えなかった。
領地の村人たちも、口にするだろうか。

この時代の感覚では、見たことのない食べ物は怪しくて不気味で、ときに魔術的に見えてしまう。
それは善悪ではなく、価値観の違いだ。
いくら現代的な感覚でおいしいものを作っても、この時代の人たちはよろこんで食べてくれない可能性は高い。
 
それに、じゃがいもは花や実に毒があり、生では食べられない。
正しい調理法を知らなければ、死人が出る可能性すらある。

「……やっぱり、やめておこうかな」

魔法科学でじゃがいもは作れる。
けれど、それは世界を変えてしまう。

私は窓から視線を戻し、ため息をついた。

「じゃあ……ほかに、なにができるかしら」

マヨネーズでも作ってみる?
いや、この時代の生卵は、現代のように洗浄・消毒されてないから衛生面に問題がある。
卵の管理状況が悪く、サルモネラ菌でお腹を壊す確率がすごく高いから、生はNGだ。

魔法科学で卵がたくさん取れるようにするのはどうだろう?
卵は貴重な栄養源だし、たくさんあればみんなが助かるはず。
 
いや、でもそれをすると、生き物を直接いじる魔法を使うことになる。
生物改変は、神の領域侵犯となり、宗教的にかなり危険だ。
 
それに、あまったたまごを大量に売ると、市場価格が下がり、商人・村人の反感を買う。
 
魔法科学でなにかをするのは、なかなかむずかしい……。

そのとき、扉が軽く叩かれた。

「考えごとか?」

入ってきたのはルカだった。

「悩みごとがあれば、相談にのるぞ?」
 
「……じつは」

私は、さっきまで考えていたことをかいつまんで話した。
じゃがいものこと。
作れるけれど、作らないと決めたこと。

ルカは黙って聞き、やがて窓の外に目を向けた。

「新しいものを無理に増やさなくてもいいんじゃないか?」

「……というと?」

「今あるものを、生かすほうがいい。
この土地で育つものを助けてやるんだ。
戦でも同じだ。
補給が足りないのに、新しい武器を欲しがるやつは、真っ先に死ぬ」

ルカはそう言って、窓の外の畑に視線をむける。
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