理系女子が16世紀イタリアに似た異世界の貴族令嬢に転生。追放されたので、魔法科学で領地の文明水準を引き上げます

ねこまんまる

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18 家畜市

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そのうちの一羽のにわとりが、私の足もとに近寄ってきた。

赤茶の羽に、白い斑が少し。
体は小ぶりだけど丸く、脚がしっかりしている。
そのにわとりは柵のそばまで来ると、首をかしげ、黒い目でじっと私を見上げた。
 
「……この子」
 
思わず声が漏れる。
にわとりは、逃げないし騒がない。
地面を踏みしめながら私の足元まで寄ってきて、小さく鳴いた。
 
それを見て、ルカが笑う。
 
「どうやら、そのにわとりに気に入られたようだな」

売り手の女が「人に寄るにわとりは、庭でも手がかからないよ」と、こちらを見て声をかけてきた。
 
「いい目をしてるでしょ? その雌は去年の春生まれだ。卵ももう産んでる」
 
「でも、少し小さいわ」
 
「若いからね。その分、長く飼える」
 
「うーん」
 
私はにわとりを抱き上げ、体の重みを確かめる。
羽の下は思ったより温かい。

胸骨はしっかりしているけれど、太りすぎてはいない。
羽のつやも悪くない。

にわとりの腹を、ちらりと見る。
肛門のまわりは乾いていて清潔だ。
病気の兆しはなさそうだった。

少し悩んだすえに、私は決断した。

「決めました。この子にします。いくらですか?」
 
「六ソルディ」
 
女は即答した。
ソルディというのは、16世紀のイタリアで日常的に使われていた小額の通貨単位。
市場でパンや卵、にわとりを買うために使われる、庶民のための小さな銅貨だ。

私は思わず眉をひそめる。
 
「それは高いわ。ここでは三か四が相場でしょう?」

「その値段は、よくないにわとりだよ。このメスは人慣れしてるから」
 
私はもう一度、腕のなかでおとなしくしているにわとりを見る。
首を伸ばし、私の腕を軽くつつくような仕草をしていた。
 
するとルカが前にでて、売り手の女と交渉する。
 
「にわとりは、本来なら現金で買う“商品”ではないはずだ。
卵を産み、増え、返せる――生活を回すための資産だ」

「そうかもしれないけどね、金がいるんだよ」

私は「オリーブで支払います」と、売り手の女性に申し出る。

「どうでしょうか。今年の実です。
収穫のあと、実なら1かご
油にするなら、小壺ひとつ。冬に入るまえに、おわたしします」

オリーブは、この土地では確かな価値を持つ。
食用にも、灯火にも、保存にも使える。
銀貨よりも、よほど信用される約束だった。

売り手の女は、私の顔を一度、じっと見た。
身なり、声、ためらいのなさ。
それらを見て、支払い能力をだいたい測っているのだ。

やがて、彼女はうなずいた。

「いいよ」

そう言って、女はにわとりの足にむすばれていた逃走防止のひもをほどき、にわとりを私の籠へ移した。

取引は、それで終わりだ。
現代のような、証文も領収書もない。

わらの籠に入れられると、にわとりは少しだけ羽をばたつかせたけれど、すぐに落ち着いた。
私は、満足しながらほほえんだ。
 
「いい買い物をしました。この子が、うちに来たがっていた気がするんです」
 
籠の中で、にわとりが小さく鳴く。
ルカが、私に問いかけてくる。
 
「名前は、つけてやるのか?」
 
16世紀トスカーナでは、にわとりに名前をつけることはほとんどない。
にわとりは家畜であり、当時の価値観としては、道具に近い存在だからだ。
でも私は、領地を復興させるための仲間として、このにわとりをむかえいれたかった。

私は「名前は、体に白いはんがあるので、マッキアにします」と決めた。
イタリア語で、斑点はんてんという意味だ。
 
「いい名前だ」とルカが笑う。
 

にわとりを買ったあと、そのままプラートの城内へ入ると、城門の内側の広場いっぱいに市が広がっていた。
 
屋台というほど整ったものではなく、布を敷いた台や木箱を並べただけの露店が多い。
 
行き交う人々の肩が触れ合い、籠と籠がぶつかる音が絶えなかった。
並んでいるのは、干しイチジクの山、麻袋に入った豆、皮のように固く焼かれた黒パン。
 
黒パンは刃を入れなければ割れず、買い手は指で叩いて焼き具合を確かめている。
果物は季節外れのものは少なく、干されたものか、保存のきくものが中心だった。
 
市を抜けると、町の空気が少し変わる。
 
羊毛商の倉庫が並ぶ道では、木の扉が半ば開き、内側に積まれた梱包布の山がのぞいていた。
湿った羊毛と油脂の匂いが、石壁にこもる。
 
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