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3 不思議な子供
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子犬たちと自分のために、今日も私は働いていた。
ここシレジアの開拓村では、冬の日照は短く、働ける時間はわずかだ。
本日の仕事は、村はずれ――共有地の畑を囲む木柵の修理。
雪をかぶった薪小屋の脇には、秋のうちに伐り出したばかりのトネリコの丸太が積まれている。
シレジアは湿地と森林が多く、建材にはオークやトネリコがよく使われた。
私はその一本を肩にかつぎあげる。
「ふんぬっ……!」
水気の抜けきらない生木の丸太は、とにかく重い。
冬の森で伐った木は樹皮の内側に冷気を抱いたまま凍り、持つとずしりと肩へ沈む。
厚手の麻の上着越しでも、樹皮のざらつきと冷たさが肌に刺さるようだった。
吐く息が白く昇り、胸の奥まで冷えが染みる。
この季節のシレジアは、バルト海からの寒風とスデーテン山脈の影響で、昼でも氷点を下回ることがある。
思わず私が声を出したくなるのは、気合いで体温を上げようとする本能だ。
そのとき、背後から少年の声がした。
「アーデルさん、それ重たい? 僕がお手伝いするよ!」
「え?」
振り向くと、五歳くらいの男の子が立っていた。
青みがかった髪は、冬の空の色のようだ。
羊毛を粗く織った深緑のチュニックは、村で取れる樹皮や草木の染料によるものだろう。
12世紀の農村では、派手さはなくても、冬は羊毛の衣が欠かせない。
その子は――知らない子だった。
頭には犬のような耳、おしりにはしっぽ。
獣人などという種族はこの世界に来てからウワサ程度には聞いたけど、実際に見るのは初めてだ。
少年は私の腕から丸太をひょいと奪い取ると、信じられないほど軽々とかつぎ、雪を踏みしめて歩き出した。
「あ、ちょ、ちょっと?!」
あわてて追いかけるうち、村はずれの畑に着く。
畑の周囲を囲む木柵は、冬の積雪で下半分が埋もれ、かたむいた姿をさらしていた。
近づくと、杭の一本がぐらぐらと揺れているのがはっきりわかる。
おそらく、村のポーランド赤牛(※赤褐色の地牛)が、エサを求めて柵に身体をぶつけたのだ。
冬は干し草が不足しがちで、牛が柵を押してしまうのはめずらしくない。
柵は本来、家族単位ではなく村全体の共同管理だ。
壊れたままにしておけば、家畜が畑に入りこみ、貴重な冬越しの食料……麦の越冬苗、干した豆類などを食べてしまう。
「早く直さなきゃ……柵は、ほんとうに村の命だから」
冬のシレジアでは、食糧が足りなくなるだけで村がひとつ消えることさえある。
我が家で待っているはずの子犬たちを思い浮かべながら、私は丸太をかついでいる子供に声をかけた。
「ここまで運んでくれて、ありがとう。きみは、どこの家の子? あとでお礼をしにいくからね」
「僕は、アーデルさんの家の子だよ。名前は、『アオ』!」
「アオ?」
その名前は、私が子犬の1ぴきにつけた名と同じだった。
開拓村では、家畜や子どもに“色”の名をつけることは珍しくない。
羊皮紙も洗礼証明書もない世界では、呼びやすい音がそのまま名前になる。
アオと名乗った子供は、私の腰につるしていた鉄斧(※12世紀中欧で一般的な片刃の手斧)を難なく抜き取ると、丸太を地面に置いて、柵の長さにあわせてけずり始めた。
「この丸太をけずればいいんだよね? このまえ、柵をなおしてるアーデルさんを見ていたから、おぼえてるよ」
鉄の刃が生木を裂くたびに、湿ったトネリコの匂いが立ちのぼり、けずられた木屑が雪の上にぱらぱらと散った。
寒冷地の冬は水分が抜けにくいため、生木は重く、刃離れも悪い。
ここシレジアの開拓村では、冬の日照は短く、働ける時間はわずかだ。
本日の仕事は、村はずれ――共有地の畑を囲む木柵の修理。
雪をかぶった薪小屋の脇には、秋のうちに伐り出したばかりのトネリコの丸太が積まれている。
シレジアは湿地と森林が多く、建材にはオークやトネリコがよく使われた。
私はその一本を肩にかつぎあげる。
「ふんぬっ……!」
水気の抜けきらない生木の丸太は、とにかく重い。
冬の森で伐った木は樹皮の内側に冷気を抱いたまま凍り、持つとずしりと肩へ沈む。
厚手の麻の上着越しでも、樹皮のざらつきと冷たさが肌に刺さるようだった。
吐く息が白く昇り、胸の奥まで冷えが染みる。
この季節のシレジアは、バルト海からの寒風とスデーテン山脈の影響で、昼でも氷点を下回ることがある。
思わず私が声を出したくなるのは、気合いで体温を上げようとする本能だ。
そのとき、背後から少年の声がした。
「アーデルさん、それ重たい? 僕がお手伝いするよ!」
「え?」
振り向くと、五歳くらいの男の子が立っていた。
青みがかった髪は、冬の空の色のようだ。
羊毛を粗く織った深緑のチュニックは、村で取れる樹皮や草木の染料によるものだろう。
12世紀の農村では、派手さはなくても、冬は羊毛の衣が欠かせない。
その子は――知らない子だった。
頭には犬のような耳、おしりにはしっぽ。
獣人などという種族はこの世界に来てからウワサ程度には聞いたけど、実際に見るのは初めてだ。
少年は私の腕から丸太をひょいと奪い取ると、信じられないほど軽々とかつぎ、雪を踏みしめて歩き出した。
「あ、ちょ、ちょっと?!」
あわてて追いかけるうち、村はずれの畑に着く。
畑の周囲を囲む木柵は、冬の積雪で下半分が埋もれ、かたむいた姿をさらしていた。
近づくと、杭の一本がぐらぐらと揺れているのがはっきりわかる。
おそらく、村のポーランド赤牛(※赤褐色の地牛)が、エサを求めて柵に身体をぶつけたのだ。
冬は干し草が不足しがちで、牛が柵を押してしまうのはめずらしくない。
柵は本来、家族単位ではなく村全体の共同管理だ。
壊れたままにしておけば、家畜が畑に入りこみ、貴重な冬越しの食料……麦の越冬苗、干した豆類などを食べてしまう。
「早く直さなきゃ……柵は、ほんとうに村の命だから」
冬のシレジアでは、食糧が足りなくなるだけで村がひとつ消えることさえある。
我が家で待っているはずの子犬たちを思い浮かべながら、私は丸太をかついでいる子供に声をかけた。
「ここまで運んでくれて、ありがとう。きみは、どこの家の子? あとでお礼をしにいくからね」
「僕は、アーデルさんの家の子だよ。名前は、『アオ』!」
「アオ?」
その名前は、私が子犬の1ぴきにつけた名と同じだった。
開拓村では、家畜や子どもに“色”の名をつけることは珍しくない。
羊皮紙も洗礼証明書もない世界では、呼びやすい音がそのまま名前になる。
アオと名乗った子供は、私の腰につるしていた鉄斧(※12世紀中欧で一般的な片刃の手斧)を難なく抜き取ると、丸太を地面に置いて、柵の長さにあわせてけずり始めた。
「この丸太をけずればいいんだよね? このまえ、柵をなおしてるアーデルさんを見ていたから、おぼえてるよ」
鉄の刃が生木を裂くたびに、湿ったトネリコの匂いが立ちのぼり、けずられた木屑が雪の上にぱらぱらと散った。
寒冷地の冬は水分が抜けにくいため、生木は重く、刃離れも悪い。
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