18世紀末ヴェルサイユに似た乙女ゲーム世界に転生した悪役令嬢は、断罪を回避したい

ねこまんまる

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21 王太子からの申し込み

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やがて、王室音楽隊が奏でるファンファーレがひびいた。

トランペットが、澄んだ金属音で鳴る。
そして、ティンパニ(※定音太鼓)が規則的につづいた。
――舞踏会が、始まる。

宮廷儀礼係の声がした。

「上位家門の令嬢より、順にご入場を願います」
 
私の位置は、中央列。

王妃の正面に立つことをゆるされた、
ほんの一握りの令嬢だけが許される場所。

待機室から出ていこうとしたとき、私が着ているドレスのひだを整えていた侍女が、離れる間際まぎわにささやいた。

「お嬢様……どうか、自信を持ってくださいませ」

私はうなずくと、ほんの小さく息を吸った。

大扉の脇、少し暗い柱影に近衛隊士官たちが控えている。
その中に、アランの姿があった。

近衛隊は入場そのものに介入できない。
でも、どの令嬢がどんな表情で入るか、すべてを監視して記録する役目を持つ。

アランはその任務を徹底しているはずなのに——
私を見る灰色の瞳は、わずかに柔らかく揺れていた。

……見守ってくれている。
それだけで、胸の緊張が少しほどけた。

私は、ゆっくりと一歩踏み出す。
ドレスが静かに揺れ、大理石の床に影が広がる。

大広間は、いつ来ても息を呑む美しさだった。

左右の壁に並ぶ巨大な鏡。
天井には、戦功を描いたフレスコ画。
そして、ろうそくの炎が鏡で反射し、何倍にもなって光が降りそそぐ。

まるで光の迷宮を歩いているようだった。

進むごとに、人々の視線が集まる。
王妃の侍女たちは冷静に、貴族たちは興味深そうに、若い紳士たちは期待を込めて。

大広間の中心へ歩みをすすめた私は、王妃が座る予定の高座の正面で立ち止まる。
まだ王や王妃は来ていない。

そうして、参加者たちは次々と呼ばれ、一人ずつ入場していく。
 
私の左隣には公爵家の令嬢、右には侯爵家の娘。
そして、少し離れた位置に――ヒロイン、マリアンナの姿があった。

彼女は今日も完璧だった。
白薔薇を思わせる淡いドレス、謙虚そうに扇子を手にして、長い睫毛をふせている。
けれど、視線がふと上がると鋭い光がのぞく。

あの顔……なにかをたくらんでいる。

やがて全員が入場すると、王室音楽隊が『王のファンファーレ』を鳴らした。

宮廷では、ファンファーレはかなり細かく使い分けられていた。
王のファンファーレは最上位であり、『この場の主は王である』と全員に知らしめる合図のために鳴らされる。
複数本のトランペットを主体とした、力強くて短い旋律だ。

静寂が落ち、全員が一斉に礼をする。

ルイ16世、そして王妃マリー・アントワネット、二人の王太子が姿を現す。

彼らは高い台の上に置かれた椅子に座り、王族と大臣たちが周囲を固めると、ようやく舞踏会の幕が上がる。

あの乙女ゲーム通りなら、このあと悪役令嬢セシルがヒロインに暴言をはくのよね。
そして、彼女は攻略対象者たちに守られ、王太子に第一舞踏を申しこまれる。
 
私は、マリアンナに視線をむけた。

白百合の飾りを胸に、完璧に“善良な令嬢”の顔を作っている。
けれど、その目だけが鋭い。

あなたの思うようには、ならないわ。

私は視線を前へ戻し、背筋をのばす。
アランが壁際からじっと見ているのがわかった。
近衛としての無表情の奥で、わずかな安堵が光ったように見えた。

やがて——
中央列に立つ私に向けて、王太子がゆっくりと歩み寄る。

「ヴァロワ嬢。第一舞踏を、私と踊っていただけますか」

「……光栄に存じます、殿下」

私は規定通りの言葉を返し、手を差し出した。
その瞬間、視界の端でマリアンナの扇子が、かすかに動く。

ゲームではここで、『足を取られて転びそうになったところを王太子に助けられる』イベントが起きる。

私が対応を間違えると、『悪役令嬢の修道院送りEND』に近づいてしまう。
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