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黒曜帝国編
第21話 双子の神様と迫られる選択
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私、神崎あやめ! ステータスを運に極振りした『極運の冒険者』! とうとう邪王を倒し、黒曜帝国の人々の洗脳を解きました!
ラピスラズリ王国の王城では、既にエルドラド王と一緒に双子の神様――ラピス神とラズリ神が待っていた。
「アヤメ・カンザキ、双神の神器をすべて取り戻してくださり、ありがとうございます」
双子の姉のラピス神が深々と頭を下げる。
「ら、ラピス神様、お顔をお上げください!」
私は思わず慌ててしまう。
「そうだぞ姉さん。神が人間にたやすく頭を下げては、神としての権威が損なわれる」
双子の弟、ラズリ神は相変わらず神様らしい不遜な態度であった。
「それでは、神器を回収させてもらう」
ラズリ神がそう言うと、私が持っている双神の鏡、エルモードさんが持っている双神の剣、そして妖王――お妖さんの胸元から双神の宝玉が浮かび上がった。
「あぁん、妾の玩具~」
「貴様のものではない」
お妖さんの言葉に、ラズリ神は冷徹に返す。
やがてふわふわと浮遊した神器は、三つ全て双子の神様に返還された。
「エルモードよ、此度の冒険、大儀であった」
「ありがとうございます、父上」
エルドラド王に労われ、エルモードさんは深々とお辞儀をする。
「――さて、アヤメ・カンザキ。貴様の処遇についてだが」
ラズリ神は無表情を崩さず、私に話しかける。
しょ、処遇? え? 私、なにかした?
私が戸惑っていると、ラピス神は申し訳無さそうに私に言い放つ。
「アヤメ・カンザキ。あなたの極運について、です」
「極運は今回の神器盗難で一時的な処置として召喚されたものである。異世界の住人である貴様は、元の世界に帰らねばならない」
「え」
元の世界、って……あのクソみたいな人生に逆戻り、ってこと?
いや、そもそも。
「あの~……私、あの世界で死んだからここに来たのでは……」
「そうだな、向こうの貴様はとっくに死んでいる」
「いやいやいや、そしたら私、向こうの世界に帰っても幽霊になっちゃうじゃないですか!」
「しかし、その極運を持っていてはこちらの世界のバランスがおかしくなる。本来、極運がありえない状態であることは貴様自身もわかっているはずだ」
そう、運のステータスに極振りするやつなんか普通はいない。もしかしたら、このゲームの世界でデバッグされていない、何らかのバグが発生する可能性だってある。
いや、しかし、でも。
「そんな事言われたって、死にたくないですよ……!」
せっかく言われたとおりに神器を集めたのに、なんで。
「神様まで私の極運を利用したかっただけなんですか……!?」
私の言葉に、ラピス神は痛ましい表情を浮かべる。
「アヤメ・カンザキ……」
「ラピス神様、ラズリ神様。私に提案がございます」
エルモードさんが双神に申し出る。
「要は極運がいると世界のバランスがおかしくなるのであれば、アヤメから極運の力を奪えばよいのでは?」
「!」
私は思わずエルモードさんの顔を見る。
「なるほど、たしかに極運でさえなくなれば、この世界に住まうことは許されるだろう。ゲームでいうNPC的な存在にはなるだろうが」
「で、でも、エルモードさん……いいんですか? 私が極運でなくなれば、もうカジノで大勝ちもできなくなっちゃうし、ドロップアイテムだって――」
私の言葉を遮るように、エルモードさんが私の口に人差し指を押し当てる。
「もとより、僕は君の極運に惹かれて相方になったわけではないんですよ」
「……え?」
「運のステータスなんか関係ない。楽しそうに冒険する、あなたの笑顔が好きだった。あなたと背中合わせに戦うのが好きだった。いつもあなたに助けられてばかりですが――今度は、僕が君を守りたい」
エルモードさんはその場に膝をついて、私の手を取る。
「レディ――アヤメ。相方契約は破棄します。僕と結婚してくださいませんか?」
「――ッ」
気づけば私は、ポロポロと大粒の涙をこぼしていた。
「では、アヤメ・カンザキ。選んでください。現実世界に戻って死を選ぶか、極運の力を失ってもこの世界に留まるか」
そんなの、選択肢になってない。
私が選ぶ道は、既に決まっていた。
〈続く〉
ラピスラズリ王国の王城では、既にエルドラド王と一緒に双子の神様――ラピス神とラズリ神が待っていた。
「アヤメ・カンザキ、双神の神器をすべて取り戻してくださり、ありがとうございます」
双子の姉のラピス神が深々と頭を下げる。
「ら、ラピス神様、お顔をお上げください!」
私は思わず慌ててしまう。
「そうだぞ姉さん。神が人間にたやすく頭を下げては、神としての権威が損なわれる」
双子の弟、ラズリ神は相変わらず神様らしい不遜な態度であった。
「それでは、神器を回収させてもらう」
ラズリ神がそう言うと、私が持っている双神の鏡、エルモードさんが持っている双神の剣、そして妖王――お妖さんの胸元から双神の宝玉が浮かび上がった。
「あぁん、妾の玩具~」
「貴様のものではない」
お妖さんの言葉に、ラズリ神は冷徹に返す。
やがてふわふわと浮遊した神器は、三つ全て双子の神様に返還された。
「エルモードよ、此度の冒険、大儀であった」
「ありがとうございます、父上」
エルドラド王に労われ、エルモードさんは深々とお辞儀をする。
「――さて、アヤメ・カンザキ。貴様の処遇についてだが」
ラズリ神は無表情を崩さず、私に話しかける。
しょ、処遇? え? 私、なにかした?
私が戸惑っていると、ラピス神は申し訳無さそうに私に言い放つ。
「アヤメ・カンザキ。あなたの極運について、です」
「極運は今回の神器盗難で一時的な処置として召喚されたものである。異世界の住人である貴様は、元の世界に帰らねばならない」
「え」
元の世界、って……あのクソみたいな人生に逆戻り、ってこと?
いや、そもそも。
「あの~……私、あの世界で死んだからここに来たのでは……」
「そうだな、向こうの貴様はとっくに死んでいる」
「いやいやいや、そしたら私、向こうの世界に帰っても幽霊になっちゃうじゃないですか!」
「しかし、その極運を持っていてはこちらの世界のバランスがおかしくなる。本来、極運がありえない状態であることは貴様自身もわかっているはずだ」
そう、運のステータスに極振りするやつなんか普通はいない。もしかしたら、このゲームの世界でデバッグされていない、何らかのバグが発生する可能性だってある。
いや、しかし、でも。
「そんな事言われたって、死にたくないですよ……!」
せっかく言われたとおりに神器を集めたのに、なんで。
「神様まで私の極運を利用したかっただけなんですか……!?」
私の言葉に、ラピス神は痛ましい表情を浮かべる。
「アヤメ・カンザキ……」
「ラピス神様、ラズリ神様。私に提案がございます」
エルモードさんが双神に申し出る。
「要は極運がいると世界のバランスがおかしくなるのであれば、アヤメから極運の力を奪えばよいのでは?」
「!」
私は思わずエルモードさんの顔を見る。
「なるほど、たしかに極運でさえなくなれば、この世界に住まうことは許されるだろう。ゲームでいうNPC的な存在にはなるだろうが」
「で、でも、エルモードさん……いいんですか? 私が極運でなくなれば、もうカジノで大勝ちもできなくなっちゃうし、ドロップアイテムだって――」
私の言葉を遮るように、エルモードさんが私の口に人差し指を押し当てる。
「もとより、僕は君の極運に惹かれて相方になったわけではないんですよ」
「……え?」
「運のステータスなんか関係ない。楽しそうに冒険する、あなたの笑顔が好きだった。あなたと背中合わせに戦うのが好きだった。いつもあなたに助けられてばかりですが――今度は、僕が君を守りたい」
エルモードさんはその場に膝をついて、私の手を取る。
「レディ――アヤメ。相方契約は破棄します。僕と結婚してくださいませんか?」
「――ッ」
気づけば私は、ポロポロと大粒の涙をこぼしていた。
「では、アヤメ・カンザキ。選んでください。現実世界に戻って死を選ぶか、極運の力を失ってもこの世界に留まるか」
そんなの、選択肢になってない。
私が選ぶ道は、既に決まっていた。
〈続く〉
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