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第2話 商品名【FQ:0215】
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昨日の買い物と、新しい携帯のカスタマイズで疲れた私は、試しに新しい携帯で目覚ましをセットしてから、布団に倒れこんでそのまま朝を迎えた。
「……じん……ご主人……」
誰かが私の体を揺さぶって起こそうとしている。なんだよ……もう少し寝かせてよ……。
「ご主人! 六時ですよ! 朝の六時! ご主人が起こせと言った時間ですよ!」
うるっさいなー……ご主人って誰だよ。私か? 私のことか?
だいたい、私は一人暮らしだぞ。お前誰だよ。…………ん?
『誰』?
私は瞬時にガバッと起き上がって、布団をかぶったまま部屋のすみに後ずさった。
「あ、やっと起きましたね」
見知らぬ青年が、床に座ったまま私を見て微笑んだ。
真っ青なスーツに水色のネクタイ、と書くと、ちょっと派手なサラリーマンのようだが、右目の部分に『F』と彫られた銀色の仮面をつけているので、普通の人ではないと分かる。仮面からはヘッドマイクというのか、小型のマイクが生えていて、その青年の口元に沿って曲がっている。前髪は真ん中で分けられていて、長い黒髪を後ろでポニーテールにしている。
なんだ、この人。なんだ、その仮面。
「どうかしましたか?」
男は不思議そうに首をかしげる。いや、なんで私が不思議の対象にされるんだ。
「えーっと、ウチにはお金はありませんが命だけは勘弁して下さい!」
色々と聞きたいことはあったが、とりあえず言うべきことは言った。土下座までした。命は大事。
「え? な、何やってるんですか? 顔を上げてください!」
男はうろたえていた。いや、なんでアンタがうろたえるんだ。
どうやら私を害する危険はないと判断して、恐る恐る質問してみた。
「あの、あなたは誰ですか。どうやって入ってきたんですか。窓もドアも鍵は閉めたはずなんですが」
そう、いくら疲れていても、私は昨日確かに鍵を閉めた。ゴミ捨てに行く時も、どんなに忙しい時でも、鍵をかけるのが習慣になっている。女性の一人暮らしは危ないから。
おまけに、家の中にいるときは鍵をかけた上にチェーンだってつけているのだ。ピッキングで開けたとしても、普通は入れないはずなのだ。まさか、目の前のスマートな体型の男が力ずくでぶち破ったなど考えられない。
「誰……ああ、すいません、申し遅れました。私の名は『FQ:0215』(エフキュー:ゼロニイチゴ)と申します。以後、お見知りおきを」
男はそう言って、正座のままペコリとお辞儀をした。
「え、えふきゅー……?」
なんだ、コードネームか? この人は何らかの秘密組織の一員なのか? その組織は私に何の用なんだ?
私は余計に混乱してきた。
「どうやって入ってきたか、という質問ですが……私はご主人に連れられて入ってきましたよ?」
「連れられて……?」
私は知らない。こんな見た目から不審な人を連れてきた覚えはない。
なんだろう、この人……ストーカー? 少し頭がおかしいんだろうか。顔は良いのにもったいない。
そう、その若い男は格好はともかく、かなりの美形だった。銀色の左目が、じっとこちらを見ている。顔や口調は、とても優しそうな印象だ。
私の不審者を見るような視線に気づいたらしく、そのエフキューなんたらさんは動揺しながらも口を開いた。
「あの……もしかしてご主人は、お店の方からの説明は聞いていらっしゃらない……?」
「店? 何のですか?」
「FQ社直営の携帯ショップです」
昨日、新しい携帯を買いに行った店のことらしい。FQ社……このエフキューなんたらさんも、その会社の関係者なんだろうか。
「説明……聞き流してましたすいません殺さないで」
「あ、いえ! 謝らなくて大丈夫です、取扱説明書にも書いてあるはずなので!」
再び命乞いを始める私を、エフキューなんたらさんは慌てて止めてくれた。
「取扱説明書?」
顔を上げた私は首をかしげた。この男の人と取扱説明書に、一体何の関係があるというのか。
「説明書、お借りしますね。……あ、ありました、二ページ目です」
エフさん(面倒なので略した)は、携帯の説明書を開いて、そのページを私に見せた。
『女性向けケータイ機能』と書かれたページが目に入る。私はページに目を通した。
「えー、『FQシリーズをお買い上げいただき誠にありがとうございます。FQシリーズの女性向けケータイでは、女性に嬉しい機能が満載! なんと、ケータイがイケメンに変身するという、他社のケータイにはない最新機能です!』……」
……理解した。
女性向けってこういうことかああああ……!
「ご主人、説明書もお読みになっていませんでしたか……」
「携帯って大抵どれも操作方法は同じような感じだから、読まなくてもいけると思って……っていうか、機能が最新すぎるだろうよFQ社……!」
携帯電話が人に化けるって、最先端すぎるよ……! それもう妖怪レベルじゃないか……。
「つまり、君は私が昨日買った携帯電話なんだね?」
「はい、お買い上げありがとうございます!」
エフさんは嬉しそうにニコニコ笑っている。
――このとき、私は返品するとは考えていなかった。どうせ開封したものは返品できないし、この人の形をした携帯と一緒にいたら、とても楽しい非日常が待っている気がした。結構見た目はかっこいいし。
「私のことはどう呼んでくださってもかまいませんよ。私はご主人と呼ばせていただきます」
と、エフが言った。
「そうだね、エフキューなんたらは言いづらいし長いから、『エフ』で」
「よろしくお願いします、ご主人」
「うん、よろしく」
――こうして、新しい携帯との奇妙な生活が始まったのであった。
「ところで、朝の六時に起こせと仰せつかったのですが、何か用事でもあったんですか?」
「え? あ! ゴミ捨ての時間過ぎてる!」
〈続く〉
「……じん……ご主人……」
誰かが私の体を揺さぶって起こそうとしている。なんだよ……もう少し寝かせてよ……。
「ご主人! 六時ですよ! 朝の六時! ご主人が起こせと言った時間ですよ!」
うるっさいなー……ご主人って誰だよ。私か? 私のことか?
だいたい、私は一人暮らしだぞ。お前誰だよ。…………ん?
『誰』?
私は瞬時にガバッと起き上がって、布団をかぶったまま部屋のすみに後ずさった。
「あ、やっと起きましたね」
見知らぬ青年が、床に座ったまま私を見て微笑んだ。
真っ青なスーツに水色のネクタイ、と書くと、ちょっと派手なサラリーマンのようだが、右目の部分に『F』と彫られた銀色の仮面をつけているので、普通の人ではないと分かる。仮面からはヘッドマイクというのか、小型のマイクが生えていて、その青年の口元に沿って曲がっている。前髪は真ん中で分けられていて、長い黒髪を後ろでポニーテールにしている。
なんだ、この人。なんだ、その仮面。
「どうかしましたか?」
男は不思議そうに首をかしげる。いや、なんで私が不思議の対象にされるんだ。
「えーっと、ウチにはお金はありませんが命だけは勘弁して下さい!」
色々と聞きたいことはあったが、とりあえず言うべきことは言った。土下座までした。命は大事。
「え? な、何やってるんですか? 顔を上げてください!」
男はうろたえていた。いや、なんでアンタがうろたえるんだ。
どうやら私を害する危険はないと判断して、恐る恐る質問してみた。
「あの、あなたは誰ですか。どうやって入ってきたんですか。窓もドアも鍵は閉めたはずなんですが」
そう、いくら疲れていても、私は昨日確かに鍵を閉めた。ゴミ捨てに行く時も、どんなに忙しい時でも、鍵をかけるのが習慣になっている。女性の一人暮らしは危ないから。
おまけに、家の中にいるときは鍵をかけた上にチェーンだってつけているのだ。ピッキングで開けたとしても、普通は入れないはずなのだ。まさか、目の前のスマートな体型の男が力ずくでぶち破ったなど考えられない。
「誰……ああ、すいません、申し遅れました。私の名は『FQ:0215』(エフキュー:ゼロニイチゴ)と申します。以後、お見知りおきを」
男はそう言って、正座のままペコリとお辞儀をした。
「え、えふきゅー……?」
なんだ、コードネームか? この人は何らかの秘密組織の一員なのか? その組織は私に何の用なんだ?
私は余計に混乱してきた。
「どうやって入ってきたか、という質問ですが……私はご主人に連れられて入ってきましたよ?」
「連れられて……?」
私は知らない。こんな見た目から不審な人を連れてきた覚えはない。
なんだろう、この人……ストーカー? 少し頭がおかしいんだろうか。顔は良いのにもったいない。
そう、その若い男は格好はともかく、かなりの美形だった。銀色の左目が、じっとこちらを見ている。顔や口調は、とても優しそうな印象だ。
私の不審者を見るような視線に気づいたらしく、そのエフキューなんたらさんは動揺しながらも口を開いた。
「あの……もしかしてご主人は、お店の方からの説明は聞いていらっしゃらない……?」
「店? 何のですか?」
「FQ社直営の携帯ショップです」
昨日、新しい携帯を買いに行った店のことらしい。FQ社……このエフキューなんたらさんも、その会社の関係者なんだろうか。
「説明……聞き流してましたすいません殺さないで」
「あ、いえ! 謝らなくて大丈夫です、取扱説明書にも書いてあるはずなので!」
再び命乞いを始める私を、エフキューなんたらさんは慌てて止めてくれた。
「取扱説明書?」
顔を上げた私は首をかしげた。この男の人と取扱説明書に、一体何の関係があるというのか。
「説明書、お借りしますね。……あ、ありました、二ページ目です」
エフさん(面倒なので略した)は、携帯の説明書を開いて、そのページを私に見せた。
『女性向けケータイ機能』と書かれたページが目に入る。私はページに目を通した。
「えー、『FQシリーズをお買い上げいただき誠にありがとうございます。FQシリーズの女性向けケータイでは、女性に嬉しい機能が満載! なんと、ケータイがイケメンに変身するという、他社のケータイにはない最新機能です!』……」
……理解した。
女性向けってこういうことかああああ……!
「ご主人、説明書もお読みになっていませんでしたか……」
「携帯って大抵どれも操作方法は同じような感じだから、読まなくてもいけると思って……っていうか、機能が最新すぎるだろうよFQ社……!」
携帯電話が人に化けるって、最先端すぎるよ……! それもう妖怪レベルじゃないか……。
「つまり、君は私が昨日買った携帯電話なんだね?」
「はい、お買い上げありがとうございます!」
エフさんは嬉しそうにニコニコ笑っている。
――このとき、私は返品するとは考えていなかった。どうせ開封したものは返品できないし、この人の形をした携帯と一緒にいたら、とても楽しい非日常が待っている気がした。結構見た目はかっこいいし。
「私のことはどう呼んでくださってもかまいませんよ。私はご主人と呼ばせていただきます」
と、エフが言った。
「そうだね、エフキューなんたらは言いづらいし長いから、『エフ』で」
「よろしくお願いします、ご主人」
「うん、よろしく」
――こうして、新しい携帯との奇妙な生活が始まったのであった。
「ところで、朝の六時に起こせと仰せつかったのですが、何か用事でもあったんですか?」
「え? あ! ゴミ捨ての時間過ぎてる!」
〈続く〉
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