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4月編
第2話 文月栞は学園一のイケメンに興味がない。
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前回までのあらすじ。
主人公・文月栞は銀縁の(伊達)メガネにみつあみの黒髪で地味な文学少女を演じていたが、その実態は暴力の権化であった。
その過去を知る学園一のイケメン・曽根崎逢瀬と、過去を隠し平穏無事な学園生活のために彼女は密約を交わした。というか脅した。
次の日。
「えー、文月さんが?」
「ナイナイ、あんな陰キャが凶暴な暴力女とかありえないって」
クラスの女子の間で、昨日起こったことはすでに情報共有されていた。
(やっべー……そういや昨日女どもに本性見せちまったんだった)
女子学生の情報伝播力は眼を見張るものがある。最近はSNSなんかもあるから、その情報ネットワークの広がりの速さはまさしく迅雷のごとしであろう。
私、文月栞は聞こえないふりをして国語辞書を読んでいるが、内心めちゃくちゃ焦っていた。
「本当なんだって! おい文月、本性見せろよ!」
昨日私に喧嘩を売ってきた女生徒の一人が私の胸ぐらをつかんで凄む。
「え、あ、う……わ、私……」
私は反射でその横っ面を殴りそうになるのを必死に抑え、『地味で気弱な陰キャ女』を演じる。
「ほら~、夢でも見てたんじゃないの~?」
私の本性を知らない女子がそう言って笑う。
「絶対本性暴いてやるからな、猫かぶり暴力女!」
女はそう吐き捨てて私を突き飛ばすように胸ぐらから手を放し、ずかずかと大股で席に戻っていく。
(面倒なことになっちまったな……)
本当に、夢だったと思ってほしい。
これから静かで平和な学園生活を送るために、自分はどうしたらいいのか。
授業を上の空で聞き流しながら、私は思索にふけるのであった。
放課後、図書室。
図書委員――私と曽根崎逢瀬は、今日も並んで貸し出し受付に座っている。
……正直、入学する前は図書委員になるのを楽しみにしていたのだが、この曽根崎と一緒に委員になってからは、図書室にいるのが憂鬱である。
なぜかと言うと――
「逢瀬くん、なんで私のアカウントブロックしたの!?」
「え、アンタも!? アタシもブロックされてるんだけどどういうこと、逢瀬!」
私の隣で、曽根崎が女子と痴話喧嘩を起こしているからである。
しかも話の内容を聞く限り、複数の女の子と親交があるようである。本当にチャラいなコイツ……。
しっかし、うるせーな。痴話喧嘩なら図書室の外でやれよ。
図書室の静寂を守るため、昨日は「るっさいブス」と返されてしまったが、一応注意喚起はしなければ、と私が口を開きかけた時。
「俺、栞ちゃん以外はどうでもいいから」
「え……?」
曽根崎の言葉に、女子たちも私も固まる。
何言っちゃってんの、コイツ?
私は珍獣を見るような目で、隣に座る『学園一のイケメン』とやらを眺める。
「栞ちゃん。俺と、付き合ってください」
曽根崎は私の冷たい視線をものともせず、さらに爆弾をぶっこんでくる。
「図書室では静かにしてください」
「栞ちゃん、返事を聞かせて」
わざと冷たい態度をとっても、曽根崎はさらに私の両手を自分の両手で包み込んで、そのおキレイな面を近づけてくる。
並の女子ならその顔が間近に見られるだけで狂喜乱舞するんだろうが、あいにく私はその手には乗らない。
「興味ないです」
その一言に尽きる。
「ハァァ!? 学園一のイケメンの告白を興味ないとか、アンタどういう神経してるわけ!?」
「私達がどんなに苦労して逢瀬くんのアカウント聞き出したかあなたにはわからないでしょうね!」
外野の女子が口々に騒ぎ立てる。るっせーな、テメェらには関係ねえだろうが。
そう言いたいのを我慢して、
「はい。わかりません。興味ないので。」
淡々と、そう返す。
「この……!」
女生徒のひとりが手を振りかぶる。ビンタの構えである。ここはわざと受けておくべきか。
しかし、
「おっと、いま栞ちゃんのこと叩こうとした?」
曽根崎がその振りかぶった手首を掴んで止める。
「離して逢瀬くん! この女、許せない!」
おーおー、すごい形相。コイツ、ホントに人気あるんだな。チャラいのに。
「――指、折るよ?」
「!?」
曽根崎が氷のように冷たい声音でそう言い放つと、女生徒は目を見開いて青ざめる。
「俺は栞ちゃんが好きだ。絶対俺のものにする。栞ちゃんを傷つけたら俺が許さないから」
「勝手にモノ扱いしないでください」
曽根崎はかっこよくキメたつもりなんだろうけど、なんか腹が立つ。
「ほら、もう用がないなら帰って」
動揺と困惑の表情を浮かべる女生徒たちの背中を押して、曽根崎は図書室の外へと追いやった。
「……ハッ、テメェも大変だな曽根崎。女には困らねえってわけか」
受付に戻った曽根崎に、私はわざと下卑た笑いを浮かべる。運良く図書室に人はまばらで、私も小声で話すように努めている。
「逢瀬、って呼んでほしいな。これで、君も本性を出さずに済むだろう?」
曽根崎はそう言って、ニッコリと微笑む。
私が本性を見せても、まったく動じない。変な男だ。
「ま、そのへんは感謝してるぜ? それと付き合うかどうかは別問題だがな」
「手厳しいね……。でも、絶対に振り向かせてみせるからね」
「はいはい」
私はひらひらと手を振った。
「ところでさ、俺のアカウント知りたくない?」
「あー、アタシSNSとかやらねえんだよ」
「嘘でしょ……今どきの女子高生にそんな子がいるなんて……」
「悪かったな。その珍獣を見るような目をやめろ」
今度は私が珍獣になる番だった。
「――ふふ」
「何がおかしいんだよ」
「いや? 『学園一のイケメン』なんて呼ばれてる俺に興味持たないの、栞ちゃんくらいだなって思って」
「自意識過剰は足元すくわれるぞ」
「は~、栞ちゃんのドライな態度、落ち着く……。俺、本当に栞ちゃんのこと大好きだよ」
「マゾなのか?」
真顔で訊ねる私に、曽根崎はまた可笑しそうに笑みを返すのであった。
〈続く〉
主人公・文月栞は銀縁の(伊達)メガネにみつあみの黒髪で地味な文学少女を演じていたが、その実態は暴力の権化であった。
その過去を知る学園一のイケメン・曽根崎逢瀬と、過去を隠し平穏無事な学園生活のために彼女は密約を交わした。というか脅した。
次の日。
「えー、文月さんが?」
「ナイナイ、あんな陰キャが凶暴な暴力女とかありえないって」
クラスの女子の間で、昨日起こったことはすでに情報共有されていた。
(やっべー……そういや昨日女どもに本性見せちまったんだった)
女子学生の情報伝播力は眼を見張るものがある。最近はSNSなんかもあるから、その情報ネットワークの広がりの速さはまさしく迅雷のごとしであろう。
私、文月栞は聞こえないふりをして国語辞書を読んでいるが、内心めちゃくちゃ焦っていた。
「本当なんだって! おい文月、本性見せろよ!」
昨日私に喧嘩を売ってきた女生徒の一人が私の胸ぐらをつかんで凄む。
「え、あ、う……わ、私……」
私は反射でその横っ面を殴りそうになるのを必死に抑え、『地味で気弱な陰キャ女』を演じる。
「ほら~、夢でも見てたんじゃないの~?」
私の本性を知らない女子がそう言って笑う。
「絶対本性暴いてやるからな、猫かぶり暴力女!」
女はそう吐き捨てて私を突き飛ばすように胸ぐらから手を放し、ずかずかと大股で席に戻っていく。
(面倒なことになっちまったな……)
本当に、夢だったと思ってほしい。
これから静かで平和な学園生活を送るために、自分はどうしたらいいのか。
授業を上の空で聞き流しながら、私は思索にふけるのであった。
放課後、図書室。
図書委員――私と曽根崎逢瀬は、今日も並んで貸し出し受付に座っている。
……正直、入学する前は図書委員になるのを楽しみにしていたのだが、この曽根崎と一緒に委員になってからは、図書室にいるのが憂鬱である。
なぜかと言うと――
「逢瀬くん、なんで私のアカウントブロックしたの!?」
「え、アンタも!? アタシもブロックされてるんだけどどういうこと、逢瀬!」
私の隣で、曽根崎が女子と痴話喧嘩を起こしているからである。
しかも話の内容を聞く限り、複数の女の子と親交があるようである。本当にチャラいなコイツ……。
しっかし、うるせーな。痴話喧嘩なら図書室の外でやれよ。
図書室の静寂を守るため、昨日は「るっさいブス」と返されてしまったが、一応注意喚起はしなければ、と私が口を開きかけた時。
「俺、栞ちゃん以外はどうでもいいから」
「え……?」
曽根崎の言葉に、女子たちも私も固まる。
何言っちゃってんの、コイツ?
私は珍獣を見るような目で、隣に座る『学園一のイケメン』とやらを眺める。
「栞ちゃん。俺と、付き合ってください」
曽根崎は私の冷たい視線をものともせず、さらに爆弾をぶっこんでくる。
「図書室では静かにしてください」
「栞ちゃん、返事を聞かせて」
わざと冷たい態度をとっても、曽根崎はさらに私の両手を自分の両手で包み込んで、そのおキレイな面を近づけてくる。
並の女子ならその顔が間近に見られるだけで狂喜乱舞するんだろうが、あいにく私はその手には乗らない。
「興味ないです」
その一言に尽きる。
「ハァァ!? 学園一のイケメンの告白を興味ないとか、アンタどういう神経してるわけ!?」
「私達がどんなに苦労して逢瀬くんのアカウント聞き出したかあなたにはわからないでしょうね!」
外野の女子が口々に騒ぎ立てる。るっせーな、テメェらには関係ねえだろうが。
そう言いたいのを我慢して、
「はい。わかりません。興味ないので。」
淡々と、そう返す。
「この……!」
女生徒のひとりが手を振りかぶる。ビンタの構えである。ここはわざと受けておくべきか。
しかし、
「おっと、いま栞ちゃんのこと叩こうとした?」
曽根崎がその振りかぶった手首を掴んで止める。
「離して逢瀬くん! この女、許せない!」
おーおー、すごい形相。コイツ、ホントに人気あるんだな。チャラいのに。
「――指、折るよ?」
「!?」
曽根崎が氷のように冷たい声音でそう言い放つと、女生徒は目を見開いて青ざめる。
「俺は栞ちゃんが好きだ。絶対俺のものにする。栞ちゃんを傷つけたら俺が許さないから」
「勝手にモノ扱いしないでください」
曽根崎はかっこよくキメたつもりなんだろうけど、なんか腹が立つ。
「ほら、もう用がないなら帰って」
動揺と困惑の表情を浮かべる女生徒たちの背中を押して、曽根崎は図書室の外へと追いやった。
「……ハッ、テメェも大変だな曽根崎。女には困らねえってわけか」
受付に戻った曽根崎に、私はわざと下卑た笑いを浮かべる。運良く図書室に人はまばらで、私も小声で話すように努めている。
「逢瀬、って呼んでほしいな。これで、君も本性を出さずに済むだろう?」
曽根崎はそう言って、ニッコリと微笑む。
私が本性を見せても、まったく動じない。変な男だ。
「ま、そのへんは感謝してるぜ? それと付き合うかどうかは別問題だがな」
「手厳しいね……。でも、絶対に振り向かせてみせるからね」
「はいはい」
私はひらひらと手を振った。
「ところでさ、俺のアカウント知りたくない?」
「あー、アタシSNSとかやらねえんだよ」
「嘘でしょ……今どきの女子高生にそんな子がいるなんて……」
「悪かったな。その珍獣を見るような目をやめろ」
今度は私が珍獣になる番だった。
「――ふふ」
「何がおかしいんだよ」
「いや? 『学園一のイケメン』なんて呼ばれてる俺に興味持たないの、栞ちゃんくらいだなって思って」
「自意識過剰は足元すくわれるぞ」
「は~、栞ちゃんのドライな態度、落ち着く……。俺、本当に栞ちゃんのこと大好きだよ」
「マゾなのか?」
真顔で訊ねる私に、曽根崎はまた可笑しそうに笑みを返すのであった。
〈続く〉
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