学園一のイケメンにつきまとわれています。

永久保セツナ

文字の大きさ
13 / 35
7月編

第13話 文月栞は七夕まつりで本性を晒す。

しおりを挟む
今日は七月七日、七夕の日である。
おみくじ町・末吉高校の独自の行事として、『七夕まつり』というものがある。
大きな笹と短冊を学校の玄関近くに飾り、末吉高校の生徒はもちろん、他校の生徒や外部の人間も敷地内に入って短冊を書き、笹に吊るすことが出来る、というものである。
ちなみに笹は毎年末吉高校の男性教員が山まで取りに行くらしい。苦労が窺い知れる。
私――文月栞と恋人の中島猫春は今、その笹を二人並んで見上げている。
「大きいですね……」
「先生も、よくこんなの学校まで持って帰れますよね……」
もちろん取りに行く教員は一人ではないのだろうが、トラックでも用意しないと持って帰れないほど巨大な笹だ。
「とりあえず短冊でも書きますか――」
「おうおう、カップルかあ? 俺達の目の前でいちゃつくなんていい度胸してんなあコラ」
「ん?」
どうやら他校の男子生徒が笹を見に来たカップルたちにいちゃもんをつけているらしい。三人の学ランを着た強面の男たちに、末吉高校の生徒たちはビビり散らかしている。
肩で風を切りながら生徒たちを押しのけて笹に近づく男たちは、やがて私たちにも目をつけた。
「おっ、地味なカップルはっけーん」
「みつあみにメガネって古典的すぎるだろ」
「姉ちゃん、一緒に学校回ろうぜ?」
私のことを何も知らない男たちは私の手首を掴み、
「オラッ、邪魔だメガネ!」
と、あろうことか猫春を突き飛ばした。猫春が尻餅をつく。
私の中で、何かがプツンと切れる音がした。
私は銀縁の伊達メガネを外し、男たちを睨めつける。
「お? なんだその目は」
これから起こる出来事を予想する脳みそすらない男たちは、自分たちを睨みつける文学少女をバカにするように笑う。
――金的。鳩尾。顎の下。
人体にはいくつかの急所がある。
それらを鍛えることは難しく、ゆえにそこを攻撃すれば、女性でも比較的簡単に相手を沈められる。
まず一人の股間を蹴る。
「ギャッ!」
次にその隣の男の鳩尾をえぐるように殴る。
「オエ……ッ」
最後の男に天駆ける龍の如く、顎にアッパーを食らわせる。
「グプッ」
私はまたたく間に三人の男たちを沈めた。
「アタシに喧嘩を売ったのが間違いだったな、ボンクラども」
地に額をつけた男たちの頭を踏む。
「ま、まさかこの女……!」
私の顔を見た男は恐怖に顔を歪めながら怯える。
「仏滅中学の鬼女番長スケバン、文月栞……!?」
「アァ? その黒歴史まだ残ってんのかよ。じゃあお前らごとキレイに記憶を消去しなきゃなあ……?」
私の歪んだ笑顔はまさしく鬼のごとし、だったのだろう。
「ヒィィッ! 助けてぇ!」
「殺されるぅ!」
三人の強面の男たちは尻尾を巻いて逃げ出した。
その様子を見ていた末吉高校の生徒たちはざわめく。
「えっ、文月さんって……」
「そんな怖い人だったの……?」
女子生徒たちがひそひそと話すのが聞こえる。
――あああああ、やってしまった。しかも決定的なやつ。
いくら猫春が突き飛ばされて頭に血が上ったとはいえ、全校生徒の前でその狂犬ぶりを晒してしまった。
「…………猫春くん、大丈夫ですか?」
私は何事もなかったように、なるべく優しい声音で猫春に話しかけるが、
「ヒッ、ッ、」
猫春は尻餅をついた状態のまま、青ざめた顔であとずさりして、なんとかよろけながら立ったかと思うと、逃走してしまった。
「……」
猫春に、逃げられた。
私はひそひそと話しながらチラチラ見てくる生徒たちを怒鳴りつける元気もなく、とりあえずひと気のないところに行こうと歩き出す。
校舎裏までフラフラ歩いて、コンクリートブロックの上に腰を下ろし、体育座りをした。そのまま顔を膝に埋める。
「……は~ぁ、これもうダメなやつだ……」
全校生徒に本性を見られ、彼氏には逃げられ、もう学園で目立たない空気になるなんて不可能だ。
なにより猫春の私を見る怯えた顔が一番私の心を抉った。
アレはもうダメだ。もう元の関係には戻れない。猫春と本についての話や知識の共有はできなくなる。
私はひとり静かにしょんぼりと落ち込んでいた。
そこへ、
「あれ? こんなところでどうしたの、栞ちゃん。中島は?」
偶然居合わせたかのように、平然とした顔で曽根崎逢瀬がやってくる。
「……お前、ずっと見てただろ。白々しいんだよ」
「あは、バレてた? 隣、座るね」
力なく睨みつける私に、曽根崎は無邪気に笑う。コイツ、サイコパスか?
「……アタシ、やっぱり本性を見せたら猫春に受け入れてもらえなかった。猫春にアタシなんて釣り合わなかったんだ」
「それは逆だよ。猫春なんかに栞ちゃんはもったいなかったんだ」
体育座りする私の横で、自分の部屋でくつろぐようにあぐらをかく曽根崎。普段なら腹立たしく思うのだろうが、今は自然体で自分に接してくれる曽根崎に、ちょっと救われる気持ちだった。
「……曽根崎。曽根崎は、アタシが恐くねえのか?」
「恐くなんかない。俺を助けてくれたあの日から、強くてかっこいい栞ちゃんはずっと俺のヒーローなんだから」
私の常日頃からの疑問に、曽根崎は即答する。胸がふわっと温かくなると同時に、鼻の奥がツンとした。
「……そこはヒロインって言ってくれよ、せめて」
「あ、そこ、こだわる?」
「アタシだって、一応女だからな」
「知ってる。俺にとって、誰よりも大切な女の子だよ」
「曽根崎……」
ほだされているのは知っていた。曽根崎は私の心の隙間につけ込んでいるだけだ。
でも、もうダメだった。私の心は限界だった。こんなクソストーカー野郎でも、落ち込んでいるときに、こんなに優しい言葉をかけられてしまったら。
涙腺ももうもたなかった。ダムが決壊するように、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「泣いていいよ、栞ちゃん。中島の代わりが務まるかはわからないけど、ずっとこうしてるから」
曽根崎が優しく抱きしめてくれる。曽根崎のシャツが、私の涙で濡れてもお構いなしだった。
「……ありがと」
私はしばらく曽根崎の胸で泣いていた。

〈続く〉
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

処理中です...