学園一のイケメンにつきまとわれています。

永久保セツナ

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8月編(夏休み編)

第21話 文月栞、デート勝負に巻き込まれる。最終日【中島編】

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夏休みの五日間をかけて行われた、男五人によるデート勝負も、いよいよ最終日である。
くじ引きによって決められた順番。最終日はしくも私――文月栞の元恋人、中島猫春であった。
……元恋人って響き、悲しいものがあるな。
「えっと……僕、お金もないし、デートプランなんて大したもの用意できないんですけど……」
元恋人と二人きりにされ、おどおどと挙動不審な猫春を見ていると、余計悲しくなってくる。
はじめに出会ったときは、彼は慎ましやかではあったけれど、こんなに怯えてはいなかった。
こうなってしまった原因は、イケメン四人に囲まれている私を自分とは別世界の人間だと考えるようになったのもあるが、――なにより、私が本性を晒した自業自得である。
「じゃあ、私がデートプランを提案してもいいですか?」
私は自分の気持ちを隠し、無理に笑顔を作って猫春に話しかける。
――私、笑えてるよな?
「えっ、それはアリなんですか?」
「特にルールには抵触してないのでアリです」
思いがけない提案に驚く猫春に、私はしれっと答える。
そもそもこのデート勝負に明確なルールなどは設けられておらず、猫春以外の男四人が勝手に盛り上がっているだけである。多分テンション上がりすぎてルールなんて考えてなかったのだろう。
だから、その穴を突く。
「私が自らデートプランを提案してはいけない」などというルールはなかったのでセーフ。そういう論理である。
「それでは、行きましょうか」
私はそう言って、猫春の手に指を絡める。
恋人繋ぎ。
猫春と付き合っていた頃は出来なかったこと。
猫春はいきなり指を絡められたことにビクリと反応したが、特に抵抗はしなかったので、そのまま手を引いて連れて行く。
「ここは……」
猫春がつぶやく。
やってきた場所は、図書館だった。
「あの……」
「いいからいいから」
何かを言いかける猫春を遮って、私たちは図書館の中へと入っていく。
図書館内のカフェに入って、私たちは二人がけのテーブルに向かい合って座った。
「あの、栞さ……ん」
『栞様』と言いかけて途中で留まった猫春、えらい。
「どういうことですか? これって、デート……なんですよね?」
「はい、デートですよ?」
戸惑う猫春に、私はなるべく優しく微笑みかけようと努める。
「私は、猫春くんと本の話をしたいんです。一日かけて」
「それは、デートになるんですか……?」
「お互いに満足できるなら、それでいいんじゃないでしょうか。……猫春くんは、嫌ですか?」
「い、嫌じゃない、ですけど……」
私が猫春の目を見つめると、猫春は真っ赤になって目を泳がせる。どうやら、好意は失われていないらしいことに安堵する。
「……私は、以前のように、こうして猫春くんと本の話をしたかったんです、ずっと」
「で、でも、僕は顔も良くないし、お金もないし、運動もできないし……栞さんを幸せにできないと思うんです」
猫春は申し訳無さそうにうつむく。
自信を喪失しても仕方のないことではある。私の周りの男どもがハイスペックすぎるせいだ。
「……私は猫春くんとこうしてお話してるだけで幸せですよ」
私は注文したホットココアで両手で包みながら目を伏せる。図書館内は想定以上に冷房がきいていて、ココアはすぐに冷めていくだろう。
「……っ」
猫春は今にも泣き出しそうに顔をクシャッと歪める。
文月栞は自分を求めている。しかし、自分には文月栞の周りの男より優れた要素など無い。そんな自分が文月栞に選ばれていいのか。
――おそらくは、そんなことを考えているのだろう。
「何かあったら、七夕のときみたいに守ってあげますよ! ……あ、男の子が守られっぱなしは、やっぱり嫌ですか?」
私はわざと明るく笑う。七夕のときのことなんて、猫春に逃げられたことなんて、私はもう気にしていない。そう伝わればいいと思う。
「まあ……情けない話ではありますね」
猫春はやっと笑ってくれた。苦笑いだけど。
「じゃあ、私と一緒に格闘技でも習いますか? 私も我流の喧嘩殺法では限界を感じますし」
「……栞さんを守れるようになるなら、それもいいですね」
猫春の表情筋はだんだん柔らかくなり、あの癒やされるふにゃっとした笑顔がまた見られた。それだけでもう満足だ。
そのあとは、初めて図書館で出会ったときのように、本の話で盛り上がった。ココアを飲むのもパンケーキを食べるのも忘れて、すっかり冷めてしまっていた。
猫春も私も、きっと幸せな笑顔を浮かべていたと思う。気づけば空は夕暮れの朱に染まっていた。
「そろそろ帰りましょうか。僕、家までお送りします」
「ありがとうございます」
図書館を出て、今度は猫春のほうから恋人繋ぎをしてくれた。
「――僕、やっと決心がつきました。僕は栞さんとずっと一緒にいたい。あの美形な方々と肩を並べるなんておこがましいかもしれませんけど……あの……がんばります!」
猫春の必死な想いを受けて、私は思わずクスッと笑ってしまう。
「猫春くん、ありがとう。もうパシリとか舎弟とかはナシですよ?」
「はい! ――『僕はあなたの運命の人になりたい』」
そのフレーズは、二人で共通して読んでいた本の一節である。
もはやプロポーズのようなその言葉に、二人してクスクス笑う。
「『月が綺麗ですね』」
私はあまりにベタな返事を返してしまった。
「あ、本当に月、出てますね」
猫春の言葉に空を見上げると、夕日と月が共存している光景がそこにはあった。
家の前について、猫春は名残惜しそうにそっと手を離した。
私も手の喪失感がなんだか寂しかった。
「じゃあ、また――」
「猫春くん、まつ毛にゴミがついてますよ」
「え? どこですか?」
猫春がゴミを取ってもらおうと顔を近づけた隙を狙って、頬に口づけた。
「……? ……――!?」
猫春は一瞬脳内処理が追いつかず、数秒遅れて顔を真赤にした。
「お、おやすみなさい!」
私も多分顔が真っ赤になっている。流石に曽根崎みたいに口にキスするのはやりすぎだと思って頬にしたけど、アイツよく恥ずかしげもなく人にキスできるよな。
私はササッと家に入ってバタンと玄関のドアを閉めた。

『――というわけで、猫春くんは文句なし、十点満点です』
『異議あり! 異議あり!』
トークルーム内は大騒ぎであった。
『おかしい……こんなの絶対おかしい……』
曽根崎は不満たらたらで未練がましい。
『図書館のカフェでお喋りしてただけで高評価って不平等を感じるんですが』
神楽坂先輩もかなり不満そうなのがメッセージの文面から伝わる。
『もともと好感度が違うんですから補正がかかるのは当たり前じゃないですか』
私はしれっとそう返す。
『無効試合だこんなの~!』
『結局ここでも自分は二番の男か……』
『このデート勝負はなかったことにいたしましょう。ええ、そのほうがきっといい』
『緋月様の思うままに』
こうして五日かけて行われたデート勝負は無効となり、私の貴重な夏休みの五日間は無駄に浪費されて終わったのであった。

ちなみに整理すると、
一位:中島猫春(十点)
二位:二ノ宮銀城(八点)
三位:桐生京介(七点)
四位:神楽坂緋月(五点)
五位:曽根崎逢瀬(一点)
である。

やはりデートに点数や優劣なんてつけるべきではない。

〈続く〉
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