俺で妄想するのはやめてくれ!-Another-

元森

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8 共犯者は俺の恋人だった

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「お前も共犯だったのかよっ」
 俺が思わず耳元で叫ぶと栗須は無表情な顔を少し歪めた。あ、この顔は驚いている顔だ。
「…俺は角川が増栄の女装だったら、何がいいって言われてポニーテールって答えたんだけど…」
「それを共犯っていうんだよッ」
 小声で答えられた言葉に「アホッ」と頭を小突く。栗須は少し驚いた顔をした後、なぜか嬉しそうな顔をした。どちらも微々たる顔の変化だったが、傍にいるから分かる。俺はそんな顔を見てしまったら栗須の事を怒るに怒れない。
 というか、角川は栗須の言う事をホイホイ聞きすぎだし、栗須もまた然りだ。どうしてこんなに二人して互いが甘いんだろう。何か過去にあったんだろうか…。そんなどうでもいいことを俺はつい考えてしまう。
 心にモヤモヤとした気持ちが沸き上がる。決して良くない気分だった。
 そんな思考をしていた俺はカシャッ、とカメラの音で俺は我に返る。そして、興奮した声が部屋に響いた。
「おお~仲良しでいいねぇ~」
 女装をカシャカシャと撮られていい気分なわけがない。だが、ここで叫んだらいけない。俺はグッと耐えた。
「増栄のこの拒絶しようとしているのを必死に耐えている感がすごくていいなぁ~」
『分かる……』
 ―――栗須も同意してる場合じゃねえだろ…。はぁ、はぁ…と息を荒く見られ俺は身体をもじもじとさせる。
 俺は頭の中でどうやってこの状況を脱するのか思考していた。でも、いい方法が見つからない。だって俺たちは角川のオモチャになっちゃてるし…。俺は栗須を人質にされ、されるがままになるしかない。逃げようがない、どうしようもない状況なのだ。
 そうこうしているうちに運動不足からか、しゃがんでいる足がプルプルと痙攣を始めている。うう、足がもう…しんどい…。
 俺はおずおずと『ギブアップ』した。
「…あの、運動不足により…これ以上…しゃがむの辛いんで…立っていいですか……」
 俺の言葉に角川は「えーっ!」と叫ぶ。
「もう少し我慢できない?このアングルから撮りたいからさぁ」
「といっても、もう限界…って、うおっ」
「増栄っ」
 少し体勢を変えようとしたら、足に限界がきた。足が揺らぎ、もつれ、お尻から倒れそうになる。あ、ヤバイ―――! 栗須の名前を呼ぶ声が耳朶に響いた瞬間だった。ドサッ…――。
 痛みを覚悟して目を瞑ったが、床じゃない感触が俺の身体全体に伝わった。
「…大丈夫か?」
 そう栗須にいわれて恐る恐る目を開けると、息のかかる距離に栗須の顔面があって驚いた。黒髪がウィッグがサラサラと綺麗に風で流れている。
「わっ!? えっ!」
 俺は思わぬ状況に心臓が高鳴る。ビックリして声を上げ、目を瞬く。
「おいおい、増栄も栗須大丈夫かよ? ってか、栗須、腕…」
 角川の声で、横を見ると栗須の腕があって驚いた。いや…俺が今倒れているのは床じゃなくて、床の上にある栗須の腕だ。どうやら俺は栗須に助けてもらったらしい。栗須に抱かれている状況で、俺は顔を真っ赤にした。って、恥ずかしがってる場合じゃない!
 栗須は無表情だが、絶対に痛かったはずだ。俺の体重を受け止めている腕をどうにかしなければいけない。
 俺は慌てて謝り、すぐにどこうとする。
「ご、ごめんっ、痛かっただろ? すぐどくよ!」
 離れようとするが、栗須に背中を掴まれていて動けない。首を傾げていると、栗須が耳元でささやいた。
「ちょっと待って…増栄、今パンツ丸見えだから……角川に見られないように隠して…」
「!!!」
 小声で言われた言葉に目を剥く。下を見るとスカートがめくれてパンツが丸見えになっていた。
 は、恥ずかしぎる…! …―――それを栗須が角川に見られないように覆いかぶさってくれていたのだった。黒髪ロングでなんとか隠している状況で、俺は慌てて隠そうと手を伸ばすが…。
「あっ」
「お~、パンツ丸見えじゃん。たくし上げるのもいいけど、事故で丸見えなのもいいよなぁ~」
「!」
 しゃがんだ角川に俺の伸ばした手を掴まれ、俺は硬直した。角川の俺より大きくてゴツゴツ角ばった骨のある手は、力強く剥がそうとしても全く剥がれない。その光景を栗須が目を見開き見ていた。
「―――角川」
 目を細め、角川を低い声で呼ぶ栗須。それは明らかに【怒って】いた。それを角川は心底愉しそうに嬉しそうに見つめている。それは異様な光景で、俺は握られている手を何とか離そうと必死になったが、ビクともしない。
「手握られているだけで怒っちゃう栗須可愛い~、でも俺今回はオネダリされたってやめないよ? 栗須も俺の言う事聞いて貰うし。ほら、見て栗須ぅ」
「うわっ」
「―――ッ」
 俺は思わず叫んだ。だって、俺のパンツがずらされて性器が丸出しになっている。薄いパンティだったので、心細かったがないよりマシだ。さっきまでスースーしていたが、さらに無防備になってしまい、俺は慌てた。角川の長い指が俺のモノに絡まる。
「おい、やめろっ」
『イヤだ』
「ッ」
 俺と叫んだと同時に、栗須の心の叫びが頭に響いた。その強い意志に身体全身が揺さぶられた。
『「やめろ。俺がなんでもしてやるから…増栄から離せ」』
 栗須の声と、『声』が重なる。俺は混乱した。頭に響く声と、耳朶に響く声が全く同じだったから。こんなこと滅多にあるわけじゃない。これは栗須の心からの言葉だと言う事の証明だった。
 栗須の言葉に角川はにんやりと笑う。「待ってました」と言いたげだ。俺はぞくっと背筋が凍る。角川はこれを狙って俺のパンツを脱がし、性器に触れたんだろう。それを確信できる表情だった。
 頭の中で栗須の「なんでもしてやる」という言葉が反芻した。
「やめろっ」
 俺は思わず叫んでいた。角川の目的は俺の事より栗須に何でもしてやることだった。それは分かっていたのに、やっぱりイヤだった。
「栗須ぅ、その言葉忘れんなよ? …じゃあ、始めに俺にキスしてもらおうかな」
 俺の言葉を無視して、角川は栗須にそう言った。栗須は少し目を見開かせたが、
「……何で? そんなのしてお前、嬉しいの? まあ、いいけど…」
 と、了承した。その瞬間、俺の掴まれていた角川の手が離れた。栗須はそれを見て嬉しそうにしていた。
『よかった…、増栄の貞操が守れた……』
 栗須の能天気な『声』が頭に響き思わずお前の貞操はどうすんだよ!と叫びそうになった。栗須はほっとしているけど、俺は気が気がじゃなかった。
 二人は、ごく自然に向かい合い、それをするのが普通のように見つめあった。そして栗須は角川の唇に吸い寄せられるように近づいていって…。それは俺の心が揺さぶられるには十分すぎるもので。
「やめろー!!」
 立ち上がった俺は叫び、角川に渾身の力で体当たりしていた。予想外だったらしい角川は軽々しく飛んだ。
「増栄?!」
 栗須の驚いた叫びと角川が床に倒れこんだのはほぼ同時だった。そしてお尻を撫でながら唖然としている角川に俺は「角川、俺と取引しようっ」と叫んでいた。見下ろしている角川と、俺の隣にいる栗須は二人とも同じ顔をして固まった。
 そして俺は畳みかけるようにさらに言った。
「俺の能力教えるから、ここから出てって欲しい!」
 俺のヤケクソぎみな言葉に二人は「信じられない」という顔でしばらくの間固まっていた。
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