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3 パーティ
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「うわあああああーーー!!」
佐藤は叫びながら飛び起きた。
朝日が自分の顔に当たっており、今自分が見ていたのは昔の夢だと気付く。
「夢…か」
後味の悪い夢だった。顔を覆い、ため息をつく。昨日月村と話したからだろうか。久しぶりに昔の夢を見た。悔やんでも悔やんでもとり返しのつかない過去。
「ってうわ、遅刻する…ッ!」
時刻を見て佐藤は慌ててベッドを降りる。ぼんやりしている場合ではない。佐藤は慌ただしく支度をして、急いでマンションから出た。
◆◆◆
「うわ、でっか…」
記載された住所の地図を見ながら、ここか?と佐藤は頭上の建物を見詰める。指定されたホテルは所謂高級ホテルを売りにしている所だった。土曜日の18時。辺りは冬だからか凍えるように冷えており、マフラーが手放せない気温だ。
今日は月村に誘われた『パーティー』の日だ。私服で来い、と言われたがスーツで来なくて良いのだろうかと不安になった。煌びやかな場所は普通のサラリーマンである自分では身分不相応な気がする。
「行くか…」
佐藤は意を決して足を踏み入れた。
「うわぁ」
入った瞬間、煌びやかなシャンデリアが飾ってあった。それに見惚れつつ、いそいそとパーティー会場に向かう。
ここかな?と大きなドアを見つけると、見知った顔がドアの前で立っていた。
「よォ、元気ィ?」
「つ、月村!」
手を振っているのはコートを着ている月村だった。いつも通りの台詞。しかし、いつもと違うのはその姿が私服であることだろうか。高そうな黒のコートは月村のスタイルの良さを引き立たせるもので。自分の姿と比べて無性に恥ずかしくなる。
月村はニヤニヤとしながら佐藤の事をジロジロと上から下まで見る。
「ふぅーん。可愛いコートじゃん」
「は、はぁ?!」
「似合ってるってことだよ」
「―――」
ニッコリと言われてカァーッと顔が熱くなる。何という殺し文句―――!
ただのベージュのコートを褒められても困る。佐藤があわあわとしていると、月村は佐藤の腕を掴む。
「コート預けようぜぇ」
「わっ、ちょっと引っ張んなって…!」
月村の腕は強引だった。佐藤はされるがままホテルマンにコートを預ける。それに月村といると目立つのか様々な所から視線を感じる。それは目立つことが滅多にない佐藤にとってはいたたまれないものだった。月村の私服姿は全身ブランドものではあったが、黒に統一されており、見る人を楽しませるものだった。
うわ、かっこいいなあ―――。
初めて私服姿を見たが、月村はまるで芸能人のようにカッコよかった。
「アハ、お前の格好いいじゃん。こういうのがシュミなんだぁ」
「わ! ジロジロ見るなよ! 普通の私服だろっ」
「そう言うなってぇ。今日の主役さん」
「主役って…」
なんだよ、と思う。佐藤は紺色のカーディガンにスラックスという私服だった。地味な私服を見て笑われると思ったが、月村はどうやら気に入ったらしい。肩を組まれつつ、2人はドアをくぐる。瞬間、キャーッ!と黄色い悲鳴が上がった。
大きな会場にはバイキング形式で様々なご飯が置いてあった。ざっと20人の若い男女が食を楽しんでいる。それが月村の登場により一気に空気が変わった。まるで砂糖に群がる蟻のように男女が月村と佐藤を囲んだ。
「成吾様、来てくれたんだ!」
「今日こそは私を選んでくださいッ!」
「月村様、今日もカッコイイ~!」
月村様、成吾様――――。
様呼びで呼ばれる月村がこの場で一番ヒエラルキーが上なのだろうと思った。月村の両親は地元の地主で、かなりの金持ちだ。だからだろうか、着飾った男女を前にしても一切霞むことはない。それにしても、美男美女しかいない。ドレスを着ている女性もいて、ぎょっとする。
肩を組まれている自分が場違いな気がしてならなかった。
「皆元気だったァ? 今日は、紹介したい人がいます~。はい、佐藤」
自己紹介して?と目で訴えられ、ウッと佐藤は尻込みする。
一気に佐藤に注目が集まり、汗が噴き出る。佐藤の事を見て鼻で笑う声も聞こえ、目線が泳ぐ。
営業職とはいえこんなに大勢の前で話したことはない。佐藤はカァーッと顔を赤らめて自己紹介をした。
「えっと、佐藤弦って言います。今日はよ、よろしくお願いいたします…」
佐藤の恥じらいは一種の庇護欲を湧かせるものだった。一気に周りがざわつく。
「キャーッ! かわいい! 何歳?!」
「30歳…デス」
「見えない~! 童顔!」
「あはは…」
女子にキャーキャー言われながら質問されるなんていつぶりだろう。口角がピクピクと動く。
「俺のダチだから、変な事すんなよぉ」
アハハ、と笑った月村の声に周りの目が変わる。
「えっ、月村様のお友達なの―――ッ!」
「凄い意外なタイプ―――」
「成吾様に仲良しの男性が居たんだぁ―――」
ざわつく会場内。ジロジロと見られて査定されていく。皆顔に『月村の友達って言うけど普通の奴だな』と書いてある。こういう時営業で培った人の顔を読む力が嫌になる。佐藤のポジションがただの男から『月村のご友人』にランクアップした。
「まぁ、取り敢えず飲んで乾杯しよ? ウーロン茶でいい?」
「あ…うん」
佐藤は月村の声に頷く。ウェイターに渡されたガラスのコップに入ったウーロン茶。
「じゃあ乾杯ー!」
「「乾杯!!」」
月村の声で、会場が1つになった気がした。月村に初めに乾杯されて男女の視線が痛い。『私が初めに乾杯したかった』『あの子何者?!』―――そんな声が聞こえる。どうやら思った以上に月村は大人気のようだ。金持ちで美形で良い所の会社に勤めていてそれなりの役職。誰だって憧れる。
「あれ? ラビは今日いないの?」
「うん。何か用事だって。今度来るらしいよ」
「そうなんだぁ。佐藤の事紹介したかったのにぃ」
綺麗な男性が月村と話している。佐藤の知らない内容。知らない人で盛り上がる会話。
佐藤は何だかいたたまれなくなって「ご飯取ってくる」と言ってその場を後にした。不意に振り返るとあっと言う間に佐藤のいた場所は違う人に変わっていて。周りには沢山の人が群がっていた。
月村の方が主役じゃん―――。
先程の言葉を思い出したら何だかむかむかしてきた。佐藤は切り替えて美味しそうなスパゲッティやら、サラダやら、お肉やらを皿に盛り付ける。しばらく立ってスパゲッティを楽しんでいると、綺麗な女性が話しかけてきた。
「あのぅ、佐藤さんっていうんですよね? 成吾さんのお友達の…」
「あ…はい」
この子はさん呼びなんだ―――。
様よりもフランクな呼び方にどうしてかほっとした。黒髪のロングヘアが綺麗な、美しい人だった。男が見たら守ってやりたいと思うタイプで、細身で白い肌が透き通る程綺麗だ。
「初めまして。私、ミクルって言います。あのぅ、成吾さんからすごくお話を聞いてて…」
「あ…あはは。どんな話だろう…。って、もしかしてあなたが紹介したいって言ってた人かな…」
ミクル、と名乗った女性はもじもじとドレスの裾を掴んでいる。佐藤が目を合わせると顔が赤面した。どうやら恥ずかしがりやのようだ。
「え、成吾さんがそんな事を…?! え、えへへ…なんか恥ずかしい…」
「えっと…ミクルさんは月村とどういう付き合いで?」
「あ、私は成吾さんのお父様と親が仲良くさせて貰ってて…。そんな感じです…」
「そうなんですね。俺は月村と中学の同級生で…。最近仲良くさせて貰ってるんです」
「結構付き合いが長いんですねぇ…」
ミクルがもじもじと話すので、佐藤も何だか話すのが緊張する。
「あの。俺、なんかしました? こっち見てくれないっていうか…」
「エ?! はっ! すいません! すいません!!」
頭を掻きつつ聞くと、ミクルは目に見えて動揺していた。あれ、何か触れちゃいけない事だったのかな―――。
「ご、ごめんなさいっ。キンチョーしちゃって…。だってすごく…佐藤さんカッコよくて…直視出来ないぃ…」
「お、俺が? か、カッコイイ?」
蚊の鳴くような小さい声で「カッコイイ」と言われて佐藤は目を見開く。人にカッコイイと言われたのは初めてのような気がする。佐藤の顔は黒めで二重ではあるがどのパーツも地味で、平凡な顔立ちだ。髪型も普通であり、どこにカッコイイ要素があるのだろうと思う。
「は、はい…。聞いてたより全然…」
「あはは…ありがとうございます。月村の方がよっぽどカッコイイと思うけどな」
「成吾さんは美形って感じじゃないですか…、カッコよさは佐藤サンの方が上ですっ」
「そ、そうかな?」
佐藤は首を傾げる。
2人で不思議な会話をしているといつの間にか隣に影が伸びていた。
「よォ、ミクル。佐藤と会話できて良かったなァ~」
「せ、せいごさんっ」
「月村!」
馴れ馴れしく肩を組んできたのは月村だった。今話題に出て来た人がひょっこりと現れたので佐藤は驚く。月村はキラキラとした笑みで2人を見ていた。
「お、おいっ! 皆さんはどうしたよ!」
「ああ、アイツらぁ? もう会話したし、もういいだろ。飽きたからコッチ来ちゃったわァ。ん? どうだ、ミクル。俺の佐藤はァ」
さらりと捨てたような発言をされ佐藤の心は冷えた。そうだ。月村はこういう奴だった。飽きたら捨てる。そういうことを平然とする人間だと佐藤はすっかり忘れていた。
「き、聞いてないですよぉ! こ、こんな佐藤さんがカッコイイなんて…ッ」
「そうだろそうだろぉ。どうだ? 佐藤。ミクル可愛いだろ? 一発ヤらせてもらえば? コイツお前のためなら何でもする玩具になるよォ」
「げ、下品!」
佐藤はあまりにもな言い方に思わず叫んだ。ミクルは赤面し、もじもじとしている。女の子に何て事言ってんだ―――と思う。しかしミクルはトロンとした顔で佐藤を見詰めた。大きな目が今にも零れ落ちそうで―――。
「あのぅ、私何でもやりますっ。だから…だからっ―――」
「あっ、え、えっと。れ、連絡先! 連絡先を教えてくださいっ!」
「―――、もちろんですっ」
ミクルの言葉を遮って佐藤は思わずスマホを差し出していた。ミクルは嬉しそうに頷く。ミクルとSNSを交換しながら、佐藤は言った。
「男に何でもやりますとか言っちゃ駄目ですよ。もっと自分を大切にしなきゃ…良くないです」
「…っ! そ、そうですね…っ」
ミクルは小さく頷く。そんな2人を見て月村の目が細められる。
「アハ…。なんつー罪な男だなァ」
その声は佐藤とミクルには聞こえる事はなく宙に舞って消えた。
佐藤は叫びながら飛び起きた。
朝日が自分の顔に当たっており、今自分が見ていたのは昔の夢だと気付く。
「夢…か」
後味の悪い夢だった。顔を覆い、ため息をつく。昨日月村と話したからだろうか。久しぶりに昔の夢を見た。悔やんでも悔やんでもとり返しのつかない過去。
「ってうわ、遅刻する…ッ!」
時刻を見て佐藤は慌ててベッドを降りる。ぼんやりしている場合ではない。佐藤は慌ただしく支度をして、急いでマンションから出た。
◆◆◆
「うわ、でっか…」
記載された住所の地図を見ながら、ここか?と佐藤は頭上の建物を見詰める。指定されたホテルは所謂高級ホテルを売りにしている所だった。土曜日の18時。辺りは冬だからか凍えるように冷えており、マフラーが手放せない気温だ。
今日は月村に誘われた『パーティー』の日だ。私服で来い、と言われたがスーツで来なくて良いのだろうかと不安になった。煌びやかな場所は普通のサラリーマンである自分では身分不相応な気がする。
「行くか…」
佐藤は意を決して足を踏み入れた。
「うわぁ」
入った瞬間、煌びやかなシャンデリアが飾ってあった。それに見惚れつつ、いそいそとパーティー会場に向かう。
ここかな?と大きなドアを見つけると、見知った顔がドアの前で立っていた。
「よォ、元気ィ?」
「つ、月村!」
手を振っているのはコートを着ている月村だった。いつも通りの台詞。しかし、いつもと違うのはその姿が私服であることだろうか。高そうな黒のコートは月村のスタイルの良さを引き立たせるもので。自分の姿と比べて無性に恥ずかしくなる。
月村はニヤニヤとしながら佐藤の事をジロジロと上から下まで見る。
「ふぅーん。可愛いコートじゃん」
「は、はぁ?!」
「似合ってるってことだよ」
「―――」
ニッコリと言われてカァーッと顔が熱くなる。何という殺し文句―――!
ただのベージュのコートを褒められても困る。佐藤があわあわとしていると、月村は佐藤の腕を掴む。
「コート預けようぜぇ」
「わっ、ちょっと引っ張んなって…!」
月村の腕は強引だった。佐藤はされるがままホテルマンにコートを預ける。それに月村といると目立つのか様々な所から視線を感じる。それは目立つことが滅多にない佐藤にとってはいたたまれないものだった。月村の私服姿は全身ブランドものではあったが、黒に統一されており、見る人を楽しませるものだった。
うわ、かっこいいなあ―――。
初めて私服姿を見たが、月村はまるで芸能人のようにカッコよかった。
「アハ、お前の格好いいじゃん。こういうのがシュミなんだぁ」
「わ! ジロジロ見るなよ! 普通の私服だろっ」
「そう言うなってぇ。今日の主役さん」
「主役って…」
なんだよ、と思う。佐藤は紺色のカーディガンにスラックスという私服だった。地味な私服を見て笑われると思ったが、月村はどうやら気に入ったらしい。肩を組まれつつ、2人はドアをくぐる。瞬間、キャーッ!と黄色い悲鳴が上がった。
大きな会場にはバイキング形式で様々なご飯が置いてあった。ざっと20人の若い男女が食を楽しんでいる。それが月村の登場により一気に空気が変わった。まるで砂糖に群がる蟻のように男女が月村と佐藤を囲んだ。
「成吾様、来てくれたんだ!」
「今日こそは私を選んでくださいッ!」
「月村様、今日もカッコイイ~!」
月村様、成吾様――――。
様呼びで呼ばれる月村がこの場で一番ヒエラルキーが上なのだろうと思った。月村の両親は地元の地主で、かなりの金持ちだ。だからだろうか、着飾った男女を前にしても一切霞むことはない。それにしても、美男美女しかいない。ドレスを着ている女性もいて、ぎょっとする。
肩を組まれている自分が場違いな気がしてならなかった。
「皆元気だったァ? 今日は、紹介したい人がいます~。はい、佐藤」
自己紹介して?と目で訴えられ、ウッと佐藤は尻込みする。
一気に佐藤に注目が集まり、汗が噴き出る。佐藤の事を見て鼻で笑う声も聞こえ、目線が泳ぐ。
営業職とはいえこんなに大勢の前で話したことはない。佐藤はカァーッと顔を赤らめて自己紹介をした。
「えっと、佐藤弦って言います。今日はよ、よろしくお願いいたします…」
佐藤の恥じらいは一種の庇護欲を湧かせるものだった。一気に周りがざわつく。
「キャーッ! かわいい! 何歳?!」
「30歳…デス」
「見えない~! 童顔!」
「あはは…」
女子にキャーキャー言われながら質問されるなんていつぶりだろう。口角がピクピクと動く。
「俺のダチだから、変な事すんなよぉ」
アハハ、と笑った月村の声に周りの目が変わる。
「えっ、月村様のお友達なの―――ッ!」
「凄い意外なタイプ―――」
「成吾様に仲良しの男性が居たんだぁ―――」
ざわつく会場内。ジロジロと見られて査定されていく。皆顔に『月村の友達って言うけど普通の奴だな』と書いてある。こういう時営業で培った人の顔を読む力が嫌になる。佐藤のポジションがただの男から『月村のご友人』にランクアップした。
「まぁ、取り敢えず飲んで乾杯しよ? ウーロン茶でいい?」
「あ…うん」
佐藤は月村の声に頷く。ウェイターに渡されたガラスのコップに入ったウーロン茶。
「じゃあ乾杯ー!」
「「乾杯!!」」
月村の声で、会場が1つになった気がした。月村に初めに乾杯されて男女の視線が痛い。『私が初めに乾杯したかった』『あの子何者?!』―――そんな声が聞こえる。どうやら思った以上に月村は大人気のようだ。金持ちで美形で良い所の会社に勤めていてそれなりの役職。誰だって憧れる。
「あれ? ラビは今日いないの?」
「うん。何か用事だって。今度来るらしいよ」
「そうなんだぁ。佐藤の事紹介したかったのにぃ」
綺麗な男性が月村と話している。佐藤の知らない内容。知らない人で盛り上がる会話。
佐藤は何だかいたたまれなくなって「ご飯取ってくる」と言ってその場を後にした。不意に振り返るとあっと言う間に佐藤のいた場所は違う人に変わっていて。周りには沢山の人が群がっていた。
月村の方が主役じゃん―――。
先程の言葉を思い出したら何だかむかむかしてきた。佐藤は切り替えて美味しそうなスパゲッティやら、サラダやら、お肉やらを皿に盛り付ける。しばらく立ってスパゲッティを楽しんでいると、綺麗な女性が話しかけてきた。
「あのぅ、佐藤さんっていうんですよね? 成吾さんのお友達の…」
「あ…はい」
この子はさん呼びなんだ―――。
様よりもフランクな呼び方にどうしてかほっとした。黒髪のロングヘアが綺麗な、美しい人だった。男が見たら守ってやりたいと思うタイプで、細身で白い肌が透き通る程綺麗だ。
「初めまして。私、ミクルって言います。あのぅ、成吾さんからすごくお話を聞いてて…」
「あ…あはは。どんな話だろう…。って、もしかしてあなたが紹介したいって言ってた人かな…」
ミクル、と名乗った女性はもじもじとドレスの裾を掴んでいる。佐藤が目を合わせると顔が赤面した。どうやら恥ずかしがりやのようだ。
「え、成吾さんがそんな事を…?! え、えへへ…なんか恥ずかしい…」
「えっと…ミクルさんは月村とどういう付き合いで?」
「あ、私は成吾さんのお父様と親が仲良くさせて貰ってて…。そんな感じです…」
「そうなんですね。俺は月村と中学の同級生で…。最近仲良くさせて貰ってるんです」
「結構付き合いが長いんですねぇ…」
ミクルがもじもじと話すので、佐藤も何だか話すのが緊張する。
「あの。俺、なんかしました? こっち見てくれないっていうか…」
「エ?! はっ! すいません! すいません!!」
頭を掻きつつ聞くと、ミクルは目に見えて動揺していた。あれ、何か触れちゃいけない事だったのかな―――。
「ご、ごめんなさいっ。キンチョーしちゃって…。だってすごく…佐藤さんカッコよくて…直視出来ないぃ…」
「お、俺が? か、カッコイイ?」
蚊の鳴くような小さい声で「カッコイイ」と言われて佐藤は目を見開く。人にカッコイイと言われたのは初めてのような気がする。佐藤の顔は黒めで二重ではあるがどのパーツも地味で、平凡な顔立ちだ。髪型も普通であり、どこにカッコイイ要素があるのだろうと思う。
「は、はい…。聞いてたより全然…」
「あはは…ありがとうございます。月村の方がよっぽどカッコイイと思うけどな」
「成吾さんは美形って感じじゃないですか…、カッコよさは佐藤サンの方が上ですっ」
「そ、そうかな?」
佐藤は首を傾げる。
2人で不思議な会話をしているといつの間にか隣に影が伸びていた。
「よォ、ミクル。佐藤と会話できて良かったなァ~」
「せ、せいごさんっ」
「月村!」
馴れ馴れしく肩を組んできたのは月村だった。今話題に出て来た人がひょっこりと現れたので佐藤は驚く。月村はキラキラとした笑みで2人を見ていた。
「お、おいっ! 皆さんはどうしたよ!」
「ああ、アイツらぁ? もう会話したし、もういいだろ。飽きたからコッチ来ちゃったわァ。ん? どうだ、ミクル。俺の佐藤はァ」
さらりと捨てたような発言をされ佐藤の心は冷えた。そうだ。月村はこういう奴だった。飽きたら捨てる。そういうことを平然とする人間だと佐藤はすっかり忘れていた。
「き、聞いてないですよぉ! こ、こんな佐藤さんがカッコイイなんて…ッ」
「そうだろそうだろぉ。どうだ? 佐藤。ミクル可愛いだろ? 一発ヤらせてもらえば? コイツお前のためなら何でもする玩具になるよォ」
「げ、下品!」
佐藤はあまりにもな言い方に思わず叫んだ。ミクルは赤面し、もじもじとしている。女の子に何て事言ってんだ―――と思う。しかしミクルはトロンとした顔で佐藤を見詰めた。大きな目が今にも零れ落ちそうで―――。
「あのぅ、私何でもやりますっ。だから…だからっ―――」
「あっ、え、えっと。れ、連絡先! 連絡先を教えてくださいっ!」
「―――、もちろんですっ」
ミクルの言葉を遮って佐藤は思わずスマホを差し出していた。ミクルは嬉しそうに頷く。ミクルとSNSを交換しながら、佐藤は言った。
「男に何でもやりますとか言っちゃ駄目ですよ。もっと自分を大切にしなきゃ…良くないです」
「…っ! そ、そうですね…っ」
ミクルは小さく頷く。そんな2人を見て月村の目が細められる。
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