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午後になると、雲一つない青空が広がっていた。
「ミネア、準備はできた?」
「ちょっと待って。……あとはこれをかけなくちゃ。」
ミネアが手にしている小瓶の中には液体がちゃぽんと揺れている。
「……よし!これで完璧ね」
小瓶の中の液体を自分の髪に向けてスプレーすると、ミネアの髪色はみるみるうちに変わっていく。
ツィーピアの特徴的な紫色の髪から、何処にでも居るベージュ色の髪に変わる。
「いつ使っても便利ね、この魔道具。」
「だろ?僕も重宝しているんだ。これが無いと町にはいけないから。」
目の前に映るベルリルも、ツィーピアの特徴である紫の瞳を隠している。
この魔道具を使えば、瞳や髪の色が一瞬で変わる。
ツィーピアの二人にとってはかなり大切な魔道具だ。
この魔道具のおかげで、前のようにフードを被る必要も、人気の無い道を歩く必要も無い。
「でも特注品なんでしょ?やっぱり高いんじゃ……」
「そこは気にしなくていいよ。こう見えても僕、町では人望がある方だから!」
「そういうこと、自分で自慢げに言うかなぁ普通……。」
とはいえ、ベルリルの言っていることは否定出来ない。
町へ赴けば、沢山の人々がベルリルに声をかける。
皆が彼に対して優しく接している姿を見れば、必然とベルリルが町の人達にとってどんな存在かが理解出来るのだ。
とはいえ、ベルリルもミネアと同じツィーピアだ。
この町は王都から少し離れており、人口も少ないとはいえ、いつブィリルに見つかるとも分からない。
そこでベルリルは対策をとった。
——記憶妨害。
この町に着いた時、ベルリルの事を覚えていない人がいたのはツィーピアの力が影響しているからだ。
ベルリルという人間そのものの存在を抹消するのでは無く、極限までベルリルという人間の記憶を薄める。
そうする事で、ベルリルは完全に町に馴染むことが出来た。
「ツィーピアの力は確かに強力だ。でも使い方次第で、自分や町の人達を守る事が出来る。剣が時に盾になり、盾が時に剣になるようにね。」
と、ベルリルはミネアに教える。
今まで自分の願いのせいで誰かを傷つけてしまうのではないかと恐れていたミネアにとって、ベルリルのその言葉は彼女に新しい世界を見出した。
そしてミネアは思う。
自分もいつか、誰かを守る為にこの力を使いたいと。
「ふぅ……やっと着いたー!やっぱり山の麓から町まで歩くのは疲れるね」
「ベルリルは、運動してないからでしょ?もっと筋肉つけなくちゃ!」
町に着くと、いつものように今日も賑わっていた。
小さな商店街には、食料やハンドメイド作品、魔法具などが売られている。
ここは小さい町だけれど、揃っているものはどれも一級品だ。
曰く、この町の領主が最近変わり、それを境に町は活気づいたという。
痩せこけていた町の住人を救ったのもまた、その領主による計らいなのだとか。
ミネアはここで生活するようになって、週に一度だけ外出をする。
一週間分の食料や日用品を買い足しておく為だ。
いくらベルリルによって対策を取っているといっても、いつブィリルに見つかるか分からない。
目立つ行動はできる限り避けて、外出も必要最低限に抑えなくてはならないのだ。
「で、ミネア。今回は何を買うんだい?」
「そうね……もうそろそろ夏用の洋服も買わないといけないし、食材も揃えないと。あとは——」
「なるほど、だから僕を連れてきたって事かあ。」
「だって一人だと沢山持てないもの!頼りにしてるからね、ベルリル!」
そんな事を言いながら、二人は早速買い物を始める。
昼下がりの午後。空高くに登る太陽は、燦々と輝きを放つ。
木々に囲まれているこの町は、空気が美味しい。人々もミネア達に優しく接してくれる、暖かな場所だ。
「こんにちはミネア。おや、今日はベルリルも一緒かい?」
顔見知りの八百屋に行くと、店主が笑顔で顔を覗かせる。
「こんにちは、叔父さん。そうなの、最近ベルリルったら運動も全くしなくて、散歩がてら一緒に来てもらったよ。」
「ははっ、それはいい!ベルリルは男のくせに身体がひよっちぃからなあ!もっと食わせてデカくしてやってくれ!」
「叔父さんもミネアも酷い事言うね……。それに叔父さんみたいになれって話なら無理があるよ。そもそも骨格から違うし」
確かに八百屋の叔父さんは、かなりガタイがいい。
エプロンを身につけていても、筋肉がはっきり見える。
それに比べてひょろひょろのベルリルは、あははと苦そうに笑って誤魔化した。
欲しいものを揃えて、ミネアは会計を済ませようと叔父さんの元へ向かう。
今日はベルリルも一緒だからと、少しだけ安くして貰えた。
「そういえば近頃、王都のお偉いさんがこの町に来るらしいなあ。ミネアは知ってたか?」
会計を終えた時、そんな話を叔父さんはミネアに振った。
「そうなの?私は初耳だけど……ベルリルは?」
「僕も初めて聞いたよ。珍しいね、この町に貴族が来るなんて。」
そういえば町を歩いていた時、少し皆が忙しなかったような気がする。
何かあるのかと思ってはいたが、まさかこんな話だったとは。
何も知らないミネア達に向かって、叔父さんは続けて話す。
「ほら、ここ最近領主が変わっただろ?その領主が顔見知りの貴族を招いて夜会を開くんだとよ。そこで使う食材やら花やらを大量に注文されてなあ。まあ、俺達からしてみれば商売上がったりだけどよ。」
平民はあまり貴族を好かない。
その理由は単純で、貴族が気に入らないからだ。
平民を見下し、金を湯水の如く使う野蛮な貴族。気に入らない事があれば、すぐに暴力を振るい、力でねじ伏せる。
平民から見た貴族は、そんな印象だった。
もちろんこの町も例外では無い。
前領主は、平民にかなりの税金を強要していたようで、町は痩せこけていく一方だった。
町の民は、パンを買うことさえままならず、このままでは奴隷のように働かされて飢え死すると思っていた。
そんな矢先、領主が変わった。
新たに領主になった貴族を、最初は皆嫌っていた。
また前の領主のように平民を搾取するに違いない。
冷ややかな目で誰もが領主を見ていただろう。
けれど町民の予想は裏切られた。
領主は新たな制度を用いて、町の在り方を変えたのだ。
多額の税金を支払う義務は無くなり、それどころか痩せこけた畑や、ボロボロになった建物は領主の金によって修繕された。
兵士達を使い町民一人一人に話を聞き、直して欲しい事や様々な声を聞き入れ、それらを積極的に取り入れるようになった。
そのおかげで町はみるみるうちに以前の活気を取り戻ししたのだ。
いや、以前以上に町は活気づいている。
人々には笑顔が戻り、町は再び息を吹き返したのだ。
だが、町の者は領主の姿を見た事が無い。
昔、一人の若者が何故領主は姿を見せないのかと尋ねると、兵士はこう答えた。
「平民が貴族を嫌っているのは知っている。少しでも民のストレスを減らせるのならば、私は屋敷で皆の生活を見守っていよう。そう仰っておりました。」
その話はすぐに町に広がった。
これまでこんなに平民を思った領主は居ただろうか。
顔も名前も知らないけれど、この領主の元でならばきっとこの町は平和なままで居られる。
町民は初めて、領主の事を認めた。この幸福を与えてくれた領主に、感謝をしたのだ。
「本当、領主には感謝しかないな。今もこうして夜会に使う食材を頼んでくれてんだ。高級な食材じゃなくて、町で作った食材を振る舞いたいんだとよ。」
八百屋の叔父さんは恥ずかしそうに笑いながら鼻を触る。
その姿を見て、ミネアの心は暖かな気持ちで包まれた。
こうして皆を笑顔にしてくれるこの町の領主。
きっと会うことは無いけれど、とても優しく美しい心を持っているのだろう。
「きっと、貴族の方も美味しいと言ってくれるわ。叔父さんの野菜はどれも絶品だもの。」
「あんがとよ、ミネア。他の貴族がそう言ってくれるなら、俺の人生も救われるってもんよ!」
ミネアの言葉に、叔父さんはニカッと笑って見せた。
その笑顔を見て、この町に住むことが出来て良かったと、心の底から思う。
ささやかで小さなこの幸せを、ミネアは大切にしたいと思った。
「にしても、王都からわざわざこの町になんか何の用なんだかね。夜会なんて言ってはいるが、それだけの為に王都から来るもんなのかねえ。」
確かに叔父さんの言う通りだ。
小さな町といえど、民にまで知られている程の夜会。
おそらくは盛大な夜会になるのだろう。王都で開かれるのならばまだ理解も出来るが、わざわざこの小さな町でそれほど大きな夜会を開くものなのだろうか。
王都の方が品揃えもいいし、人が多い分パーティーも開きやすい。
だと言うのにこの町で開くのには、何か相当な理由があるのかもしれない。
「ああ、でも確か貴族の中でもかなりのお偉いさんが来るとか使いのもんが言ってたなあ。名前は確か……」
「?」
叔父さんは何かを思い出したかのように口を開く。
その刹那、ミネアは全てを悟った。
なぜこの町にこだわるのか。なぜミネアの暮らす町で夜会が開かれるのか。
嫌でも思い出す。自分が何者なのか。自分がどんな使命を背負っているのか。
普通の人間のように振舞っていても、普通にはなれない。
現実を強く突きつけられる。心臓を矢で貫かれるような、酷い痛み。
この半年間、ずっと見ていた同じ夢。
ミネアの名前を呼ぶ甘い声が頭から離れなかった。
その名前を忘れた事なんて、一度たりとも無い。
「——グレーラビス公爵。」
物語は終わらない。
運命には逆らえない。
誰かがミネアの耳元でそう囁いたような気がした。
「ミネア、準備はできた?」
「ちょっと待って。……あとはこれをかけなくちゃ。」
ミネアが手にしている小瓶の中には液体がちゃぽんと揺れている。
「……よし!これで完璧ね」
小瓶の中の液体を自分の髪に向けてスプレーすると、ミネアの髪色はみるみるうちに変わっていく。
ツィーピアの特徴的な紫色の髪から、何処にでも居るベージュ色の髪に変わる。
「いつ使っても便利ね、この魔道具。」
「だろ?僕も重宝しているんだ。これが無いと町にはいけないから。」
目の前に映るベルリルも、ツィーピアの特徴である紫の瞳を隠している。
この魔道具を使えば、瞳や髪の色が一瞬で変わる。
ツィーピアの二人にとってはかなり大切な魔道具だ。
この魔道具のおかげで、前のようにフードを被る必要も、人気の無い道を歩く必要も無い。
「でも特注品なんでしょ?やっぱり高いんじゃ……」
「そこは気にしなくていいよ。こう見えても僕、町では人望がある方だから!」
「そういうこと、自分で自慢げに言うかなぁ普通……。」
とはいえ、ベルリルの言っていることは否定出来ない。
町へ赴けば、沢山の人々がベルリルに声をかける。
皆が彼に対して優しく接している姿を見れば、必然とベルリルが町の人達にとってどんな存在かが理解出来るのだ。
とはいえ、ベルリルもミネアと同じツィーピアだ。
この町は王都から少し離れており、人口も少ないとはいえ、いつブィリルに見つかるとも分からない。
そこでベルリルは対策をとった。
——記憶妨害。
この町に着いた時、ベルリルの事を覚えていない人がいたのはツィーピアの力が影響しているからだ。
ベルリルという人間そのものの存在を抹消するのでは無く、極限までベルリルという人間の記憶を薄める。
そうする事で、ベルリルは完全に町に馴染むことが出来た。
「ツィーピアの力は確かに強力だ。でも使い方次第で、自分や町の人達を守る事が出来る。剣が時に盾になり、盾が時に剣になるようにね。」
と、ベルリルはミネアに教える。
今まで自分の願いのせいで誰かを傷つけてしまうのではないかと恐れていたミネアにとって、ベルリルのその言葉は彼女に新しい世界を見出した。
そしてミネアは思う。
自分もいつか、誰かを守る為にこの力を使いたいと。
「ふぅ……やっと着いたー!やっぱり山の麓から町まで歩くのは疲れるね」
「ベルリルは、運動してないからでしょ?もっと筋肉つけなくちゃ!」
町に着くと、いつものように今日も賑わっていた。
小さな商店街には、食料やハンドメイド作品、魔法具などが売られている。
ここは小さい町だけれど、揃っているものはどれも一級品だ。
曰く、この町の領主が最近変わり、それを境に町は活気づいたという。
痩せこけていた町の住人を救ったのもまた、その領主による計らいなのだとか。
ミネアはここで生活するようになって、週に一度だけ外出をする。
一週間分の食料や日用品を買い足しておく為だ。
いくらベルリルによって対策を取っているといっても、いつブィリルに見つかるか分からない。
目立つ行動はできる限り避けて、外出も必要最低限に抑えなくてはならないのだ。
「で、ミネア。今回は何を買うんだい?」
「そうね……もうそろそろ夏用の洋服も買わないといけないし、食材も揃えないと。あとは——」
「なるほど、だから僕を連れてきたって事かあ。」
「だって一人だと沢山持てないもの!頼りにしてるからね、ベルリル!」
そんな事を言いながら、二人は早速買い物を始める。
昼下がりの午後。空高くに登る太陽は、燦々と輝きを放つ。
木々に囲まれているこの町は、空気が美味しい。人々もミネア達に優しく接してくれる、暖かな場所だ。
「こんにちはミネア。おや、今日はベルリルも一緒かい?」
顔見知りの八百屋に行くと、店主が笑顔で顔を覗かせる。
「こんにちは、叔父さん。そうなの、最近ベルリルったら運動も全くしなくて、散歩がてら一緒に来てもらったよ。」
「ははっ、それはいい!ベルリルは男のくせに身体がひよっちぃからなあ!もっと食わせてデカくしてやってくれ!」
「叔父さんもミネアも酷い事言うね……。それに叔父さんみたいになれって話なら無理があるよ。そもそも骨格から違うし」
確かに八百屋の叔父さんは、かなりガタイがいい。
エプロンを身につけていても、筋肉がはっきり見える。
それに比べてひょろひょろのベルリルは、あははと苦そうに笑って誤魔化した。
欲しいものを揃えて、ミネアは会計を済ませようと叔父さんの元へ向かう。
今日はベルリルも一緒だからと、少しだけ安くして貰えた。
「そういえば近頃、王都のお偉いさんがこの町に来るらしいなあ。ミネアは知ってたか?」
会計を終えた時、そんな話を叔父さんはミネアに振った。
「そうなの?私は初耳だけど……ベルリルは?」
「僕も初めて聞いたよ。珍しいね、この町に貴族が来るなんて。」
そういえば町を歩いていた時、少し皆が忙しなかったような気がする。
何かあるのかと思ってはいたが、まさかこんな話だったとは。
何も知らないミネア達に向かって、叔父さんは続けて話す。
「ほら、ここ最近領主が変わっただろ?その領主が顔見知りの貴族を招いて夜会を開くんだとよ。そこで使う食材やら花やらを大量に注文されてなあ。まあ、俺達からしてみれば商売上がったりだけどよ。」
平民はあまり貴族を好かない。
その理由は単純で、貴族が気に入らないからだ。
平民を見下し、金を湯水の如く使う野蛮な貴族。気に入らない事があれば、すぐに暴力を振るい、力でねじ伏せる。
平民から見た貴族は、そんな印象だった。
もちろんこの町も例外では無い。
前領主は、平民にかなりの税金を強要していたようで、町は痩せこけていく一方だった。
町の民は、パンを買うことさえままならず、このままでは奴隷のように働かされて飢え死すると思っていた。
そんな矢先、領主が変わった。
新たに領主になった貴族を、最初は皆嫌っていた。
また前の領主のように平民を搾取するに違いない。
冷ややかな目で誰もが領主を見ていただろう。
けれど町民の予想は裏切られた。
領主は新たな制度を用いて、町の在り方を変えたのだ。
多額の税金を支払う義務は無くなり、それどころか痩せこけた畑や、ボロボロになった建物は領主の金によって修繕された。
兵士達を使い町民一人一人に話を聞き、直して欲しい事や様々な声を聞き入れ、それらを積極的に取り入れるようになった。
そのおかげで町はみるみるうちに以前の活気を取り戻ししたのだ。
いや、以前以上に町は活気づいている。
人々には笑顔が戻り、町は再び息を吹き返したのだ。
だが、町の者は領主の姿を見た事が無い。
昔、一人の若者が何故領主は姿を見せないのかと尋ねると、兵士はこう答えた。
「平民が貴族を嫌っているのは知っている。少しでも民のストレスを減らせるのならば、私は屋敷で皆の生活を見守っていよう。そう仰っておりました。」
その話はすぐに町に広がった。
これまでこんなに平民を思った領主は居ただろうか。
顔も名前も知らないけれど、この領主の元でならばきっとこの町は平和なままで居られる。
町民は初めて、領主の事を認めた。この幸福を与えてくれた領主に、感謝をしたのだ。
「本当、領主には感謝しかないな。今もこうして夜会に使う食材を頼んでくれてんだ。高級な食材じゃなくて、町で作った食材を振る舞いたいんだとよ。」
八百屋の叔父さんは恥ずかしそうに笑いながら鼻を触る。
その姿を見て、ミネアの心は暖かな気持ちで包まれた。
こうして皆を笑顔にしてくれるこの町の領主。
きっと会うことは無いけれど、とても優しく美しい心を持っているのだろう。
「きっと、貴族の方も美味しいと言ってくれるわ。叔父さんの野菜はどれも絶品だもの。」
「あんがとよ、ミネア。他の貴族がそう言ってくれるなら、俺の人生も救われるってもんよ!」
ミネアの言葉に、叔父さんはニカッと笑って見せた。
その笑顔を見て、この町に住むことが出来て良かったと、心の底から思う。
ささやかで小さなこの幸せを、ミネアは大切にしたいと思った。
「にしても、王都からわざわざこの町になんか何の用なんだかね。夜会なんて言ってはいるが、それだけの為に王都から来るもんなのかねえ。」
確かに叔父さんの言う通りだ。
小さな町といえど、民にまで知られている程の夜会。
おそらくは盛大な夜会になるのだろう。王都で開かれるのならばまだ理解も出来るが、わざわざこの小さな町でそれほど大きな夜会を開くものなのだろうか。
王都の方が品揃えもいいし、人が多い分パーティーも開きやすい。
だと言うのにこの町で開くのには、何か相当な理由があるのかもしれない。
「ああ、でも確か貴族の中でもかなりのお偉いさんが来るとか使いのもんが言ってたなあ。名前は確か……」
「?」
叔父さんは何かを思い出したかのように口を開く。
その刹那、ミネアは全てを悟った。
なぜこの町にこだわるのか。なぜミネアの暮らす町で夜会が開かれるのか。
嫌でも思い出す。自分が何者なのか。自分がどんな使命を背負っているのか。
普通の人間のように振舞っていても、普通にはなれない。
現実を強く突きつけられる。心臓を矢で貫かれるような、酷い痛み。
この半年間、ずっと見ていた同じ夢。
ミネアの名前を呼ぶ甘い声が頭から離れなかった。
その名前を忘れた事なんて、一度たりとも無い。
「——グレーラビス公爵。」
物語は終わらない。
運命には逆らえない。
誰かがミネアの耳元でそう囁いたような気がした。
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