毎日!アルスの日常365

星月

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睦月

お餅の回・元日営業(全2話)

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【お餅の回】 ~アルスの日常~

エル「よく噛んで食べてね~」

そう言って卓上に、たくさんのお餅が積んである大皿を置いた。

アルス「多いな」

率直な感想。
もはや語彙力を失うまである。

エル「せっかくみんなが来るっていうんだからはりきっちゃった!」

とは言ったものの、これはさすがに作りすぎでは?
ざっと見て50個はあり、それもまあまあの大きさがある。

近藤「食い切るのに何時間掛かるんだよこれ...」

近藤の顔がひきつる。
おそらく今日一日で食べ切るのは不可能だろう。

テル「のりと醤油ってある?」

用意されていたトッピング(?)には、きなことあんこ、おしるこがあるが、のり巻き用の材料が用意されていなかった。

エル「あ、あるよ!今持ってくるね!」
アルス「俺も欲しいから多めでよろしくな」

エルは「了解!」と言って台所へ駆けていった。

杏姉「結構大きいんですね...」
近藤「そうだな。詰まらせないよう気を付けて食べような。」

想像していたよりも大きいことに驚いているようだ。
どっかで聞いたが、杏姉は食道が狭いらしい。

サトシ「介護かよ」

それは思ったけども。

優奈「でも本当にそう。餅って詰まらせると大変なんだよ。」
アルス「毎年あるよな、餅による事故。お年寄りや幼稚園児とかだけでなく俺らにもありうることだし、甘く見てはいけないな。」

いくら美味しいからと言って、一度にたくさん食べては危険だ。
みんなもお餅を食べるときはよく噛んで食べましょう。

サトシ「そういうてめぇも気を付けろよ、仕草とかいつもじじいみてぇだし。」
アルス「やかましいわ」



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【元日営業】 ~電脳戦士の理~

某所のビルにて。
ビルの責任者、ガスターの孫であるパルムースは、自社の廊下を歩いていた。

このビルには私専用の部屋があり、そこがもはや私の家でまである。
ホテルのような空間で、家具は一式揃っており、設備も充分整っている。

私には、専属の使い人までついており、食事の準備や支度をしてくれる。
ここまで来たら、もはや誰もが不自由ない暮らしだと思うだろう。

だが...

ミヤコ「パルムース様、本日はどういった予定でございましょうか。」

その使い人であるミヤコの存在がもはや不自由の根源だ。

パルムース「ついて来ないでくれ、迷惑だ。」
ミヤコ「そんな!パルムース様、それはあんまりですよ!」

私に寄り添うことが多すぎて、休日であってもまともに動けやしない。
年明けの初日から、こんなにも執拗に付きまとわれるのは幸先が悪い。

こんなことなら、上層部の人間でも連れておけばよかった。
そうすることで、ミヤコは距離を取るわけなんだが。

パルムース「...ん?」

片手でミヤコを払いながら廊下を歩いていると、奥から3人の人影が近付いてきた。

部下A「パルムース様!明けましておめでとうございます!」

真ん中にいた1人が、遠くから声を張って挨拶をする。
それに続けて、両側にいた2人も「明けましておめでとうございます!」と言い、お辞儀をする。

こいつらはこのビルの社員。
なんか勝手に私の部下ということになっている。

パルムース「なぜお前達がここにいる?」

私は速度を変えないまま、3人へと近付く。

今日は元日だというのに、一体なにをしているのだろうか。
まさかとは思うが...

部下C「実は、本日新たな年を迎えたと言うことで、心機一転し仕事に取りかかろうとしていたのですが...」

やはり仕事目的か。
どれだけやる気があるんだこの人達。

いったい過去に、どんな恩を受けたと言うのだろう。

部下A「ガスター様に、仕事より親族との時間を大切にしなさいと、お叱りを受けてしまいまして...」

この3人の部下達のみならず、本来年明け数日間は全社員に休暇が与えられている。

そうであってもなお出社するとは、一体なんのための休みだと言うつもりだ。

パルムース「そりゃそうだ」
部下B「はは...まあ、そういうわけなので、これから私達は帰るところなのですよ。」

ここだけ聞いたら、夜勤明けの台詞になる。
どうでもいいけど。

パルムース「...お前達の、仕事へ対する威勢は認める。ただ、ガスターの言うとおりもっと血族との時間についてを考えたらどうだ。」

トーンを低くして、私からも助言する。

パルムース「家庭よりも仕事ばかり優先してたら、後回しにされた人達もいずれ、あなたのことを見なくなる。」

壁一面に張られたガラス窓の前に立ち、街を見下ろしながら話を続ける。

パルムース「そうなったら、誰も幸せにはなれない。せめて、この休業期間だけは血族と向き合ったらどうなんだい。」

私の助言を、3人とも真摯に受け止める。
3人は深々と頭を下げた後、1階へ繋がるエレベーターへと歩いていった。

パルムース「本当にあの3人は仕事脳なんだから困るよ」

私はため息をついた。

ミヤコ「しかし珍しいですね。パルムース様とガスター様の意見が合うのは。」

意外だという目で、ミヤコは私を見てきた。

パルムース「別にそんな事ないと思うし、誰だってあの3人の思考はおかしいと思うはずよ。」

相も変わらず、愛想なく交わす。

ミヤコ「ということは、パルムース様は本日出社している訳ではないのですか?」
パルムース「そもそも私は社員じゃないっての」

失礼しましたと頭を下げるミヤコと、その誠意を示されている私の元へ、今度は別の人物が現れた。

ガスター「お前さん達、こんなところでなにをしているのだね。」
ミヤコ「ガスター様!」

このビルの責任者、ガスターだった。

ミヤコはガスターに、お辞儀をした。
ああ、そうだった。ミヤコは恩をもらっているんだっけ。

顔を合わせる度、このように敬意を示している。
私はというと、部下や知人と会話をする時のよう...普段通りでいる。

パルムース「別に。ただ散策してるだけだよ。」

ガスターは、そんな私の態度を気にすることはなかった。

ガスター「そうか。ここ数日間は特にすることはないんだから、部屋でゆっくりしていればいいんだがの。」

ほう、しっかり休めと言うことかね。
ここで、ガスターの想いを少し利用してみよう。

パルムース「私よりもミヤコよ。今日くらいはせめて休んだらどうなんだい。ほぼ毎日寄り添って疲れないの?」

間接的に、私から引き離そうとしてみた。
私から休めと言えば、彼女だってそれに従うはず...

ミヤコ「私はパルムース様と一緒がいいのです!」

やめてくれよ。
そこまでハッキリと意思を表明されては余計に困る。

パルムース「なんとかならないかなぁ...」

ぐいぐいと来るミヤコに、パルムースは参っている。
そんな私達を見ていたガスターが、なにかを思い出したような動作を見せた。

ガスター「そうだそうだ。実はお前さん達にお年玉とやらを用意しているんじゃよ。」

お年玉...
たしか、大人が子供へと現金を受け渡す...というようなものだった気がする。

ミヤコ「えっ!!本当ですか!?」

ミヤコは目を輝かせた。

ガスター「ああ。まだまだ若いからのう、このお年玉で今日は街へ買い物をしにでも行ったらどうかの?息抜きにもなるだろう。」

そう言って、小さめの封筒のようなものを、私達に1封ずつ渡してきた。

ミヤコ「わーい!ありがとうございます!」
パルムース「ど、どうも...。」

それを受け取ったミヤコは、私の手を引いた。

ミヤコ「パルムース様!早速お出掛けに参りましょう!」
パルムース「ちょ、まだ私は行くと決めた訳じゃ...」

特に買う物は無いし、外に出る予定もなかった。

パルムース「ガスターも。ついさっき部屋で休めと言ったばかりじゃないか。」
ガスター「はて、そんなこと言ったかの?」

悪ノリすんな。

ミヤコ「さあパルムース様!そうと決まれば支度を始めますよ!」

彼女にここまで押されると、もう逃れられない。
...仕方がない。
気分は乗らないが、同行してやるか。

ガスター「パルムース」

その場を後にしようとした私を、ガスターが呼び止める。
私は後ろへ振り向いた。

ガスター「よいお年をな」
パルムース「それ年末に言うんだよ」
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