事故の出会い

詩織

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うそ!!

マジで!?

やってしまった…

車を駐車場に止めようとしてバックするとき、隣の車に当ててしまった。

隣の車は誰もいないし、どこに住んでる人かわからない。

「どうしよう…、とりあえず警察に…」

しばらくしてパトカーがきた。

車にぶつかったことを伝えてるときに

「何かあったんですか?」

と男性がきて

状況をみて

「あっ、それ俺の車です」

!!

「あっ、あの…、すいませんでした」

頭を下げる

「あ、いや、かすった程度のようで怪我は?」

えっ!?いや、私の心配なんか…

「私は大丈夫ですけど、車が…」

「まぁ、当てられたのは仕方ないですが、人の命のが大事ですから」

うっ、優しい方でよかった…

その後保険会社と連絡をするときに、お互いの連絡先が必要ということで交換して、深々と頭を下げて終わった。


私、高見奈津乃たかみなつの、27歳、車通勤。そして仕事に帰ってきて、駐車場に車を止めるときに、隣の車に接触して、やってしまいました…

はぁ~~

最悪。

メモをみると

高谷陸人たかたにりくとと、連絡先、住所が書いてある。

私と同じ年か少し年上の人かな。

このマンションって、最近新築で出来たマンションじゃん。この辺にまったく似つかないデザイナーズマンション的な建物だよね、確か…

夜だったし、ペコペコと頭を下げてたのでよく顔は見てなかったけど、顔は整ってた感じがする。

この辺は、都会ではないので電車も1時間に2本ほど。なので車通勤者が多い。

動けないほどの事故でなくって良かったけど…

ほんとうっかりだった。


翌日に保険会社に電話をして状況を説明。相手の名前、連絡先を教えて電話を切った。

私の車はかすり傷程度だったけど、高谷さんのが傷は結構あったな…

その日も仕事が終わって、また駐車場に車を停止する。

隣をみると、車はなく修理に出したのかな。

そう思って見てみると1台の車が駐車場に入ってきた。

そして隣に止める。

「あっ、昨日はすいませんでした」

「あー、こんばんわ」

「あの…、修理ですけど」

「あー、毎日仕事で使ってるからね、電話したら台車とかもらえるの週末くらいにかかると言われたので、それからかな」

「そうですか…、お手数おかけします」

「まぁ、もう済んだことだし、これから気をつければ」

「…はい」

「じゃ…」

そう言ってその日は別れた。

やっぱり、カッコよかった…じゃなく!! 居づらかった。



そしてまた翌日。

「あっ、こんばんわ!」

またバッタリ…

「よく会いますね」

「そ、そうですね」

もう、いい男なのに会いづらいって悲しいわ

「いつもこの時間なんですか?」

「あっ、はい。だいたいこの時間です」

話が続かない。

「あっ、これ!」

「えっ?」

渡されたのは

温かい缶コーヒーだった。

「寒いもんね」

「あ、あの…」

「じゃ、また」

そう言って私から離れていった。



「今日はFT会社さんが来ますので、挨拶を忘れないで下さい」

朝の朝礼で工場長が1言。

「「えっー」」

ザワザワとざわつく。

FT会社といえば大手の大手!

一流企業の会社。

うちの会社は加工の町工場。高卒でここに入って9年間、ここで務めてた。コンベアの責任長という肩書もあるが、困った人のサポート、フォローするくらいの仕事で長年やってれば、特に問題はない。

3年前からこの会社も偏り始めてた。どっかと合併、買収などそんな話もあり、3年前は100人以上いた従業員も今は70人くらいまでになっていた。

皆口には出してないが、買収ではないか?と思っている。

午後に入った頃にFT会社が来てると聞き、とりあえずいつもやってるように仕事してればいいわけだし…

もし買収とかになったら、私どうなるんだろ…

そんな考えがよぎった。

入口に何人もの人が入ってきた。

工場長が説明していて、5~6人の男性が話を聞いている。


こっちに近寄ってきてきて、後ろの方で説明している。

周りの人達は、挨拶してるので、私も振り向いて挨拶をした。

「あれ?」

えっ?

「ここにお勤めでしたか」

うそ!?高谷さん…

「あっ、こんにちは」

改めて挨拶をする。

「なに?高見さん知り合い?」

工場長に言われて

「ええ、まぁ…」

「そうだったんですか」

と、工場長は上機嫌で言う。

私は気持ちが重いわ!

「じゃ、またね」

そう言って、高谷さん達は行ってしまった。

まさか、あんな大手の会社の人とは…

その後の休憩で、同僚達にあんなイケメンと知り合いだったの?と突っつかれた。


駐車場に車を止めてみてみると、車が変わっていた。

代車かな?とりあえず修理に出したみたいね。

私も高谷さんが落ち着いたら修理出そう。

この車長く乗ってるけど愛着あるもんな。

「こんばんわ」

えっ?

駐車場の入口を見ると高谷さんがいた。

「あっ、こんばんわ」

「ちょっといいですか?」

「えっ!?あっ、はい」

「いやー、驚きました。高見さんがいらっしゃるとは」

「あっ…、私もです。FT会社の方だったんですね。凄いですね」

「いやー、俺はまだ下っ端の人間です。高見さんは務めて長いんですか?」

「…そうですね。9年目になります」

「そうなんですか。それは長い」

「いえ、私は何も取柄がないので、あの工場でしか仕事出来ないので」

少し嫌味だったか…

「高見さんって、素直ですよね?」

「えっ?」

「何でも顔に出るっていうか、俺と会うときは凄い困惑してる」

えっ!?うそ!!凄い気をつけてるんだけどな

「そ、そんなこと…、大事な車をキズつけたので」

「もうそれは気にしないでもいいから」

「はい…、じゃ失礼します」

そう言って挨拶をして自宅へ向かおうとしたとき

「高見さん」

「あっ、はい」

「CSSって好きですか?」

CSSは、今ドラマの主題歌とか歌う男性ミュージシャンのバンドでドラマもヒットしたことで、主題歌も凄い人気が出てる。

「あっ、そうですね、よく曲は聞きますね」

「近々ライブあるんですが一緒に行きませんか?」

「えっ!?」

な、なんで?

「私とですか?」

「もしよければ。手元にチケット2枚あって、一緒に行ける人達探してたので」

いや、だったら会社の女の子誘えばいいじゃん!

高谷さんからの誘いなら喜ぶ人多いんじゃない?

なんで私?

「いや、あの、他になんていうか…、」

「嫌い?」

えっ?嫌ってCSSのこと?それとも…

「あ、あの、高谷さんなら誘って喜ぶ女性多いと思いますよ。別に私みたいなのじゃなくっても…」

「自分のこと悲観した言い方だね」

だって、あまりにも立場もそうだし見た目もだし、全てが違う気がする。

「他に誘える方いないんですか?」

「居たら誘ってるよ」



そう言われちゃうと…


「どお?」

こんないい男に誘われてイヤとは…

「私でよければ…」

「じゃ、急だけど週末なんだ。よろしくね」

まさか、事故の被害者が加害者を誘うとは…


その週末、駅前で合う約束をした。

「あっ、すいません。おまたせしました」

「あー、いや全然、まだ時間前だし」

10分前に着いたのにまさか居るとは。

「じゃ、いきましょうか」

会場に近くなればなるほど凄い人。

「ほんと凄いねー、はぐれないようにね」

なるべく近くにいるようにするが、近すぎてもな…

「あ、こっちだって席」

「あっ、はい」

行きたいのに人がもう…

なかなか行けないでいると

グイッ

えっ!?

私の手を掴み引っ張ってくれた。

「あっ、すいません」

「グッズ売場の前だからね、余計に混んでるね。」

と言って自然に手を繋ぐ形になって席まで歩いた。

これって、はぐれないようにとか、私が…トロイからってことだよね?

そうはわかってても、ドキドキする。

高谷さんをみると別に変わらずだし、自分だけ意識してることに恥ずかしくなってしまった。

席に着いたと同時に手は離れて

「若い人だけかと思ったら家族連れとか年配の方もいるね」

「ああ、確かに。やっぱりドラマの影響もあるんでしょうね」

ペアで、友達でとほんと様々。

色んな年代から指示されるアーティストってそんな多くないから、今回来れてよかったな。

しばらくして、ライブが始まり立ったり座ったり、そしてMCでは笑える話などして、飽きることない時間を過ごした。

最後のアンコールは総立ちして、私も一緒に叫んでしまった。

ライブって凄いなー

そしてライブが終わり、よかったぁーと思っていると

「満足したようだね」

と、高谷さんに言われた。

やばい!夢中になっちゃって叫んでたりしてた。

「あっ、はい。楽しかったです」

「よかった」

と笑顔で言われてドキッとする。

会場を出て

「ご飯でもどお?」

と聞かれたので

「あっ、えーと…」

「あれだけ声出してたら腹も減るでしょう」

「…」

そのまま夕飯を食べに店に入った。

「女性に聞くの失礼だけど、高見さんは何歳?」

「27です」

とりあえずビールを注文して乾杯した。

「そうなんだ。俺は29、年近いね。ここの人なの?」

「はい。実家はもう少し山奥にあるんですが、通勤とか大変で」

「なるほど、俺は本社から転勤でここに来てるんだ。期間限定だから、まだこっち来て間もないしね、近くに友達もいないし」

都会ぽい雰囲気あるなそういえば。

「でもよかったよ。俺といつも会うときは難しそうな顔してたけど、今日は凄い嬉しそうな顔見れて」

「あっ…」

急に恥ずかしくなる。

その後もたわいもない会話をして

「それじゃ、また」

「今日はありがとうございました。あのこれ…」

と言って茶封筒を渡す

「え?」

「チケット代です。遅くなりましたが」

「え?いいよ」

「そういうわけには…、先程の食事もだして頂いたのに、何から何まで」

そういうと笑顔で

「デートのときは、男のカオを立ててほしいな」

「えっ?」

デート!?

「こっちから誘っんだし、問題ないよ。その代わりお願いがあるんだけど」

「お願いですか?」

「またご飯一緒に食べに行きたい」

!?

「会社の人にご飯は連れてってもらえるけど、美味しいラーメン屋さんとかそういうのなかなか行けなくって。もし美味しいところあるなら教えてほしいなっと」

「ああ、そういうことでしたら…、私が美味しいと思うことろでよければ」

「じゃ、連絡先聞いていい?」

「あっはい」

連絡先を交換して

「じゃ、空いたときよろしくね」

そう言って別れた。


デートか…

そんなの久々すぎて記憶にあったかな。

それに都会的でイケメン。

しかもまた会う約束しちゃったし。

こっちに友達とかいないから私と…なんだと思うけど、加害者の私からしたら複雑ではあるけど。

その数日後、高谷さんからチャットがきてラーメンさん、お蕎麦屋さん、スパゲティ屋さん、人気の回転寿司など、色々美味しい店があることを伝え、連れてってと返事が来た。

まずはラーメン屋さん。

「さっぱり系がメインですが、こってり系もあります。別の店でこってり系で美味しい店もあるので、もし行きたかったらまた…」

「うん、わかった。とりあえずそのオススメ食べてみる」

そう言って私が勧めたラーメンを食べた

「魚介のあっさりした味がいいね、これは美味しい」

口に合ったみたい。よかった。

「美味しかった。やっぱり地元の人に聞くのが1番いいね」

満足して店にでた。

その後、他の日も一緒に美味しいお店にいく食べ友?みたいな感じになっていった。


既に美味しいお店をアチコチ回って7回くらい行ったとき

「来月、本社に戻ることになって」

えっ?

「そうなんですか?」

「元々半年ちょっとの話などだったからね。先月で半年になったんでそろそろ話はあるかなと思ったんだけど」

「そうですか…、またこちらに来ることあったらご連絡下さい」

お店を出て家に向かって歩きながら話す。

そっかぁー、こうやってご飯食べるの少し楽しみだったんだけどな。まぁ仕方ないか

「…」



どうしたんだろ?急に無口になった。

「それって、こっちに用ないと連絡出来ない?」

「えっ?」

「こっちに用がなくっても連絡したいんだけど」

「高谷さん?」

「むしろ、毎日連絡したい」

急に止まって私の顔をみる。

まさか…、いやそれはない!私の勝手な勘違い。そんなことあるわけない。友達としてだよね

「あっ、はい。いつでも…、私でよければ」

「…それって、意味解ってる?」

え?意味って…

腕を引っ張られて抱き締められた

「た、高谷さん!?」

「嫌?」

そんな、どうしよう…

頭の中は混乱してる。

私が逃げないことが解ったのか、更にきつく抱き締めた。

「…彼女…になってくれませんか?」

「えっ?」

「付き合ってくれませんか?」

「えっ!!?」

今度は大声で返してしまった。

「ダメ?」

ダメってそんな…

「で、でも、来月には本社ですよね?東京に戻れば素敵な女性いっぱいいるし、無理に私じゃなくても」

「なんか前にも悲観的な言い方きいたけど、なんでそういうの?」

「なんでって…、私だから?」

「何それ?」

「見てわかるじゃないですか!特に美人とかでも可愛くもないし、何か取柄があるわけでも…、田舎臭いこんな私に」

「それって俺振られてる?」

少し離して顔を見られて

「そ、そんな…」

「優しいし、思いやりあるし、一生懸命で、それに何より可愛い」

「!?」

「手放したくないんだけど」

やばい、身体が…、もう全身に汗が…、こんな告白されたことないからどうしていいか

「大事にするから、付き合ってください」

本当に私でいいのかな?

「…本当に私でいいんですか?」

「お願いします」

「…私でよければ」

そう言うと嬉しそな顔をして、優しくキスをした。

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