特殊な私

詩織

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特殊な私

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 あっ、あの人病気なのかな?来年の今頃には…

 解ってても言えない。

 私には人の先の死がわかる。正確には死が近い人が見えるようだ。

 その人の周りがどんよりと曇ってて、変な色になっている。言葉ではうまく言えないけど。

 通勤時、たまにそういう人に遭遇する。言ったら気持ち悪がられるし、言うこともできない。

 昔学生の時にそれを言ったことで気持ち悪がられた。そしてその人が予想通り死んでしまったことで怖いと避けられてしまったことがある。

 それからは誰にも言わないでいる。

 加能凛かのうりん、32歳。こういう特殊な力があるせいか、なかなか人と仲良くなろうとは思えなかった。

 恋人は過去にはいたが、1人だけ話したことがある。はじめは冗談だとおもわれた。しかし何度か当たるにつれ、彼は私と音信不通になったのだ。

 それからは恋人ができても言わないでいた。

 仕事はなるべく人と関わりたくないのでプログラム開発をしている。

 在宅ワークだが、2週間に1度出勤することが義務付けられ今日がその出勤日になる。


「おはようございます」

 出勤日は交代なので全員ではない。同じ課のメンバーがだいたい同じ日となる。

 パソコンを立ち上げ仕事をすぐはじめる。周りでは雑談をしてる人もいるが私は人となるべく関わることなく、画面に集中した。

「加能さん?」

「あっ、はい」

 振り向くとめっちゃ若い好青年がいた。

「あっ、えっと」

「あっ、先月より中途採用で入りました有賀ありがです」

 あー、確かチャットやグループミーティングのメンバーに追加されてたな。

「そうなんですね。よろしくお願いします」

「加能さんのプログラムを修正してるのですが、とてもみやすく対応しやすくって」

「あっ、そうですか。ありがとうございます」

「直接会ってお話できればと」

 お話って…

「後でも結構ですので、何かコツなど意識してることなどを伺えたらと」

「えっ?そんな…特には」

「そうなんですか…、でもあんなに見やすく…」

 と言ったところで、課長が有賀さんを呼んだ。

「あっ、すいません。失礼します」

 と言って行ってしまった。

 ほんとに特に意識してることないんだけどなー

 人と話すよりプログラムを組んでる方が好きかもしれない。ってところが変わってるのかも

 と、思ってた所なんだが…

「えっ?主任ですか?」

「経験も豊富だし、うちの勤続も長いしね、皆に教えられる立場としてどうかね?」

「いえ、私は…」

 実は過去2回同じように言われたことがある。けど上手く断っていた。

「いや、そろそろいいと思うし、むしろ遅いくらいだから」

「すいません、私は人を教えるとか人と接するのが苦手なんです」

「はじめは皆そうだよ!私もフォローするから」

 翌日の在宅ワークでもチャットで部長、課長からの打診がきていた。

 それでも私は承諾はしなかった。

 社員でやるよりもフリーになろうかなーと淡い考えがあった。

 こんな感じで打診の毎日に少し嫌になり、私は結局退職の道を選んだ。

 フリーの人が登録する斡旋会社で仕事を紹介してもらうことになり、意外にすぐ仕事の話が来た。

 ほぼ在宅ワークなので、沖縄からリモートで仕事してる人もいるという。

 そういうのもありかも…と思っていた。だが、この仕事の契約がいつ終わるか未定、もし終わった場合別の仕事になるから、同じリモートワークとも限らないし…

 そう考えるとフリーというのも先が見えない。でも1ヶ月の収入は2倍近くになる。そのぶん自分で福利厚生など入らないとだから慣れないと面倒。



 週末。

 まだ慣れない仕事で疲れが溜まり整体に行くことにした。

「だいぶ凝ってますね」

「…はい」

 肩がバキバキだと言われ、揉みほぐされた。痛いけど楽になるならと我慢をする。

「はい、お疲れ様でした」

 30分身体中を揉みほぐされ、身体がだるくなった。

 これ、効いてるんだろうな。

 そう思い会計をすませてると

「加能さん?」

 えっ?

 後ろから声がして振り向くと

「あっ」

 確か

「有賀さん…でしたよね?」

「はい!こんなところでお会いできるなんて…、会社辞めたと聞いて驚きましたよ」

「あっ、ええ。」

「あっ、俺も今終わったところです」

 と言って会計を済ませてた。

「あ、あのこの後お時間ありますか?」

「えっ?」

「よければお茶でもどうですか?」

「あっ、いえ、私は…」

「俺有賀さんみたいに仕事が出来るようになるのが理想なんです!少しお話できませんか?」

「…」


 結局好青年の押しに負け、カフェに来てしまった。

「実は、プログラムの組み方でどうしても詰まってしまうところがあって」

 と言って話し始めた。

 あーなるほど。それは確かに慣れてない罠にハマって抜け出せない人多いな。

「アドバイスになるかわからないけど」

 と言って、話し始めた。すると

「そっかぁー、そう考えればいいんですね!ありがとうございます」

 と、笑顔で返された。

 ドキッとするも

「いえ、みんなだいたい詰まることろだと思いますから」

 と答えた。

「これからもまだまだわからないことだらけだなー、加能さんが居てくれれば助かるのに」

「いえ、私なんて」

「誰もが対応できなかったプログラムを加能さんがやりきったというのを聞きました。格好いいなーとお会いする前から思ってたんです」

 こんな若くてカッコいい人から言われたら悪い気はしない。けど…

「会社にもそういう人いっぱいいると思いますよ」

「いえ、加能さんだけでよ!どんなに知識があっても偉そうにしない所とか、でしゃばらない所とか…、みんな技術者としてプライドあるから、加能さんみたいな方凄いと思います」

 なんかベタ褒めなんだけど…

「あ、あのですね、私は知識も高くないし、プライドもないし、適当にうまくやってお金貰えればいいなーくらいにしか思ってないから。」

 在職してたとき、会ったのはあのときの1度だけ。あとはオンライン会議とかで会うことはあったけど、個人的に話したことはないし。

 会議でもそこまで私は話さなかったはずだし、どこが気に入られる要素があったんだろう?と考えてしまう。

 そして、翌週末も整体に行くと有賀さんがいた。

 その時間はお昼に近い時間だったので、ランチに誘われなんか断れず…

 そして翌週も、その次の翌週は会わなかったけど結構な確率で会うことが多かった。その度にお茶したり食事をしたりとなんとなく流れになっていた。

「あっ、加能さん、こんにちは!」

 先週、先々週と有賀さんには会ってなかったので久しぶりだなーと思ってしまった。

「ちょっ!!」

 こ、これは…

「…えっ?どうしました?」

 これって…

「有賀さん、ちょっと…」

 整体が終わった後、有賀さんの腕を引っ張り、人が少ないところまで移動した。

「こ、これから…、どこか行きます?」

「えっ?」

「旅行とか、えっと」

「あー、そうなんです。有給がたまってたんで、連休で休みをとって北海道に行こうかと」

「そ、それって、飛行機?」

「いえ、自分の車で行こうと思ってるのでフェリーで行きます」

 た、多分間違いない!

「それやめて!!」

「えっ!?」

「お願いします!行かないで!」

「?加能さん?」

 やばい!つい勢いで…、だって有賀さんがこのままだと死んじゃう!

 ハッキリ見える有賀さんの周り。くろっぽいモヤがあってそれは死を意味する。

「お願いします!旅行は取り止めてください」

「…いや、まぁ…ひとり旅だから別に止めても問題ありませんが」

「本当ですか?絶対に行かないでください!」

「でもどうしてか知りたいです。折角休暇とって旅行行く気満々でしたから」

「あっ、えーと…」

 勢いで言ったけど、まさか本当のこと言えないし

「あ、あの…、わ、私と一緒に居てほしいかなーって」

「!?」

 っ、何言ってるのよ!!私!

「そ、それって」

「あっ、あのえっと、気にしないで!えっとそういう意味じゃ」

 やばい!テンパりすぎ

「あ、あのですね、そ、そそ、プログラムのことについて一緒に…」

 と言うと近寄って軽く抱き締められた

「ちょっ!」

「俺はいつでもOKですよ!むしろいつか言いたいと思ってました」

 な、な、な!!!

「まっ、待って!有賀さんって20代前半?」

「25です」

「だ、だめよ!こんな歳の離れたおばさんと」

「女性に年齢を聞くとか失礼だと思って聞いてませんでしたが、いくつです?」

「32…でも、すぐ33になる。8歳も離れてるなんて…」

「全く問題ないじゃないですか!」

「あるって!!」

「でも、俺はもう受け入れましたから」

 抱き締められて鼓動が…

 こんな誤解から私達は付き合いだした。

 けど…

 消えない。

 旅行は止めたはずなのに消えない。

 あの時、遠くで居なくなるって思った。だから北海道って聞いたときそれだと思ったのに。

 他に理由がある?

 なんだろ?このどんよりしたオーラを消さなければ。

 旅行の事故でない?となると、なんだろ…?病死は多分ない。健康診断で問題ないと先月言われたらしい。

 翌週、初めてデートをすることになった。私も結局有賀さんに好意はあったのかれないなー、断り切れないんだから。

 指定の場所で車に迎えにきてくれた。

「今日はベターですが、水族館でもいいですか?」

「あ、ええ」

「そういえば、これからは敬語とか止めたいんだけど」

「あ、えっと、そうだね」

「これからは凛って呼びたい」

 そう呼ばれてドキッとする。

「いい?」

「あっ、ええ、うん」

「俺のことも名前で呼んで」

な、名前で?緊張するわ!

「え、えっと…、柊《しゅう》…」

そういうと嬉しそうな笑顔をしている。ヤバいでしょう!もう!!

それにしても、なんで消えないんだろ?

ここの水族館は初めて来たので、思ってた以上におおきくって驚いてる。

「少し休憩しよっか」

カフェスペースがあったのでちょっと休憩。

「ペンギン可愛かったね」

「あっ、うん。いっぱいいて驚いた」

「あっ、番号よばれた!とってくるわ!」

そういって飲み物を受け取りにいった。


「そーなんだよねー、最近車の調子が悪くって」

「えー!先週買ったばかりじゃん!」

「だから、ディーラーところ行ってくるかなー」

隣の席のペアがそんな話をしてるのが聞こえた。


車…

まさか!!

「はい!おまたせ!」

「あ、あのさ、車っていつ買ったの?」

「えっ?車?去年かな。中古だけどねー」

「調子悪いとかない?」

「うーん、特には…何かあったの?」

「え、うん。別に」

その時は調べる術がなかったので、そこまでにした。

水族館をその後も楽しんで食事をして自宅のマンションまで送ってくれた。

「もし…、よかったらあがっていく?」

そう言うと笑顔になって、車をコインパーキングに止めて来てくれた。

「珈琲でもだすね」

夕飯も食べてきたので飲み物だけ用意した。

「ちょっと、調べたいことあるんだけど待っててくれるかな?」

「えっ?あっ、うん」

少し驚いた顔をされたが、気にせずパソコンを立ち上げて調べはじめた。

「…やっぱり」

数分して色々出てきた。

「これ、見てくれない?」

と柊に画面を見せた。

「これ…」

「うん。同じ車種で最近事故多いよね。これってもしかしてリコールになるんじゃ」

「えっ?」

「車なんて買い換えるの大変だと思うけど、気になって」

「そっかぁー、気づかなかったな。凛はどうしたい?」

「買い換えてほしい!事故にあってからじゃ…」

「凛がそういうなら買い換えるよ!まぁかなりの出費だけど、凛と車選ぼう」

もしこれも違ってたら…、でも、旅行も止めたのに消えないってことは…、きっとこれな気が…

その後は、柊が近くによってきて抱き締めてくれて

「凛…、我慢できない」

そういってキスが始まった。

全てをを受け入れて、身体も心も充実していた。

でも、こんな若い子と…

私で満足できたのかな?なんて思ってしまった。

それから2週間後、柊は車を買い換えると言って付き合っていた。

「えっ?」

「まぁ、見栄はってみた」

来たところはディーラーだった。

まさか新車を買うとは…

「!?」

その時、よどんでた黒いオーラが薄くなってきてた

「っ!!」

私はほっとして涙を流してしまい

「凛どうしての?」

「…よかった。本当によかった」

と言って安堵した。

車はいくつか厳選し、検討することになった。

柊のマンションに着いて

「どっちがいい?」

「えー!柊の車なんだし」

「でも、凛もいっぱい乗ると思うよ!」

「!!」

所々ドキドキさせられる。

「それよりも、凛」

「?」

「俺に何か隠してることあるよね?」

「えっ?」

「変だよ、凛。車のことだって。それに旅行だって俺と居たいから止めるってやっぱりおかしいよ」

「…」

「何隠してるの?教えて」

「何も隠してなんか!」

もし、言ったら絶対終わってしまう。

「凛!!」

強い目でみられ

「俺は凛が考えてることを知りたいんだ。だから教えて」

「…何も隠してない」

「俺が信じられない?」

「ち、違う!!」

「じゃ、何があったの?教えて!」

「…でも、言ったら、気持ち悪いよ」

「そんなことないよ!凛のこともっと知りたい」

「…」

「凛」







「…私、負のオーラが見えるの」

「えっ?」

「負のオーラ。解りやすく言えばこの先亡くなる人が解るっていうか、その人の周りにもやが出るの」

「!?」

「それを言って避けられるようになったこともあって…、だから誰にも言いたくなかった。」

「…凛」

「人とも接することもなくなりたいし、誰かと仲良くなっても、こんな私じゃ…、だから」

「俺に…それが見えたわけ?」

「…うん。でも今は薄れてる。どんどん消えていってる。」

「だから、あの時旅行に…、車で行くはずだったから…」

「でも、旅行を止めれば大丈夫だと思ってたの!でも止めても消えなくって…、それで」

「そか、原因を考えてくれてたんだ」

「…うん。信じられないよね?気持ち悪いよね?」

「…」

柊は何も言わなかった。

「やっぱり私…、帰るよ!」

やっぱり、言うべきじゃなかった。

「待って!」

ガシッと腕を捕まれて

「確かにびっくりしてるし、驚いてるよ!でも俺が気になるのは…、旅行を止めてって言ったとき、理由は俺と居たいからって言ったけど、あれはこなのことがばれないようにするための嘘?俺のこと想ってなかった?」

!?

そ、それは…

「あの時は、必死に旅行を止めてもらきたかったから…、うん。ごめん」

「…そか。おれのショックはそこかな」

「…えっ?」

「俺は凛に好意をもってもらえてたと思ったからすげー嬉しかった。でも本当は違った?」

「あ、いや、あの」

「俺だけだった?好きだったのは」

「ち、違うの!こんなんだから誰とも恋愛なんかしたいと思わなかった!だから、好意なんてあっても仕方ないと思ってた。わ、わたし、気づかないうちに柊が好きになってた。その時は止めるのに必死だったから気づかなかったけど、でも…」

「…凛」

「!!」

「初めて聞いた。凛から好きって」

「あっ」

「俺は、凛とずっと居たいから死なない。そしてこれからも俺には言っていいから」

「…気持ち悪くないの?」

「なんで?むしろすげーじゃん!誰もない能力あるって」

「柊…」

本当にこの人を好きになってよかった。と心から思った。


そして新しい車の納車の日。2人で行くと

「こちらの車、先に下取りの金額決まってよかっですね。先ほどリコールの情報がきました」

!?

「かなり危険だったようで…、ブレーキが効かないことがあると。確かに事故は多発してたようですね」

それを聞いて柊と目を合わせた。

新車に乗り、ディーラーを後にする。

「凛は命の恩人だな」

「えっ?」

「あのままなら死んでたな。凛のお陰で助かった」

「…柊」

「これからは俺には心を開いて!全部うけとめるから」

「うん!」

年下の彼は優しくって私よりもしっかりしてて、こんな私のことを好きと言ってくれる。

そんな人に出会えたことに心から感謝。

「柊、大好き」


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